戦国小町苦労譚
一五八〇年 一月下旬
一月中旬過後,多數人已從新年氣氛中抽離,回到例行工作。
一月も半ばを過ぎれば、多くの者は正月気分が抜けて定常の業務へと戻っていた。
仍留戀新年氛圍的人們一邊惋惜已逝的日子,一邊努力工作。
未だ正月を引きずる者たちは、過ぎ去った日々を惜しみながらも仕事に励んでいる。
靜子也一邊處理每日送來的大量報告書,一邊致力於情報蒐集與分析。
静子も日々齎(もたら)される多くの報告書を捌きつつ、情報収集と分析に勤めていた。
此時收到報告,稱奧州(陸奧國的別稱,現今大致包括青森、秋田、岩手、宮城、福島等廣闊地區)那裡的戰事已中斷。
そんな折に、奥州(おうしゅう)(陸奥(むつ)国の別称であり、現在の青森、秋田、岩手、宮城、福島と非常に広い範囲を指す)でのいくさが中断しているとの報告が届く。
若是最上家提出停戰尚可理解,然而由於自始至終都佔優勢的伊達家竟然接受停戰,令人難以理解。
最上家が停戦を申し出たという話であれば理解もできようが、終始いくさを優位に進めていた伊達家がこれに応じたというのが不可解であった。
下令即便是瑣碎情報也要回報,半月近來才終於得知造成停戰協定成立的理由。
些細な情報であっても報告するよう命じたところ、半月近く経ってようやく停戦合意が為された理由を知ることとなる。
「寒冷已達極限,無法繼續作戰了嗎……」
「寒さが限界に達し、いくさを継続できなくなったのか……」
根本原因在於冬季的嚴寒。
根本的な原因は冬季の厳寒にあった。
若只是往年般的寒冷,原本可採取足夠對策,卻遭逢罕見的暴風與豪雪,連外出都變得困難。
例年通りの寒さであったならば十分に対策を講じていたのだが、稀にみる暴風と豪雪に見舞われ外出すら困難な状況に陥った。
橫掃而來的烈風無情奪去體溫,紛飛的雪與強風捲起的積雪化為暴風雪,使視野變得一片雪白。
横殴りに吹き付ける烈風が容赦なく体温を奪い、降りしきる雪と強風によって巻き上げられた積雪が吹雪となって視界は真っ白に染まるのだ。
情況嚴重到從安全建築走出幾步就可能遭遇險境,即便是奧州人也明白不適合繼續作戰。
安全な建物から数歩進むだけでも遭難の可能性があるほどの事態に、流石の奥州人とていくさをしている状況ではないと悟った。
即便想暫時停戰,也因需得到對方同意,事非易事。
一時的に停戦しようにも相手あってのことだけに容易には運ばない。
尤其是處於劣勢的最上方提出也難以被接受,為避免雙方無謂消耗,反而由伊達一方派出和睦使者。
特に劣勢な最上側が申し出たところで受け入れられるとは考えられず、双方の徒(いたずら)な消耗を避けるためにも伊達側から和睦の使者を派遣した。
對最上而言此乃夢寐以求的提議,雖然戒備但仍表示贊同,並同意停戰至春雪融為止。
最上からすれば願ってもない申し出だけに警戒しつつも賛同し、春になって雪解けを迎えるまでの期間停戦することで合意する。
這場和睦有如向敵方送鹽,但對伊達家而言,也有不願讓對方知曉的危機悄然到來。
敵に塩を送る形となった和睦だが、伊達家にとっても相手に隠しておきたい危難が訪れていた。
原因源自把在尾張購得的鐵錠運回國內,並加工成伊達家引以為傲的大身槍的槍頭、火繩槍的火蓋與扳機等機關部件。
それは尾張で買い付けた鉄の延べ棒を国許へと持ち帰り、伊達家自慢の大身槍(おおみやり)の穂先や火縄銃の火蓋や引き金などの機関部品へと加工したことに起因する。
以尾張鋼鐵製成的槍尖鋒利,原本擁有卓越切削力,但在遠低於冰點的酷寒下情況大變。
尾張の鉄鋼で作られた穂先は鋭く、素晴らしい切れ味を誇っていたのだが、氷点下を大きく下回る酷寒の状況になって様子が一変した。
撤退回來的將兵在暴風雪中保養武具時,當輕敲那冰凍的槍尖的瞬間——
吹雪に見舞われ撤退してきた将兵たちが、武具の手入れをしようと凍り付いた槍の穂先を軽く叩いた瞬間だった。
發出如敲擊玻璃般清脆的高音,原本應很堅韌的槍尖不是折斷,而是像陶器般裂開碎裂。
キンというガラスを叩いたかのような高く澄んだ音を立てて、強靭なはずの穂先が折れたというより割れてしまった。
雖然原因不明,但同期打造的所有武具都出現這種異常劣化,令伊達家也希望停戰。
原因は分からないものの、同時期に製作された武具の全てにおいて、この異常な劣化が見られたこともあって伊達家としても停戦を望んでいたのだ。
後來查明,尾張為實現大量生產向各地購買鐵礦石,恰巧伊達家購得的鋼材含有大量磷。
これは後に判明することだが、尾張の製鉄では大量生産を実現すべく様々な土地から鉄鉱石を買い付けており、偶然にも伊達家が買い求めた鉄鋼は燐(りん)を多く含んでいた。
含磷較多的鐵製品具有「冷間脆性」等物理特性,鐵本應在強烈衝擊下韌性彎曲,但在低溫下會無法彎曲,反而像陶器般破裂粉碎。
燐を多く含む鉄製品には冷間脆性(れいかんぜいせい)と呼ばれる物理特性があり、本来鉄は強い衝撃を受けるとしなやかに曲がるのだが、低温下に晒されると曲がることなく陶器のように割れ砕けてしまうのだ。
既有的鐵製武具以砂鐵為原料,採用鑪(たたら)製鐵鍛造,因為雨水與地下水的侵蝕使風化成砂鐵,硫磺與磷會先於鐵溶出,從而意外達成脫磷。
既存の鉄製武具は砂鉄を原料とし、たたら製鉄で鍛えられた鉄を用いており、こちらは雨水や地下水による浸食を受けて風化し砂鉄となるため、硫黄や燐が鉄に先駆けて溶け出すことから期せずして脱燐を実現していた。
「停戰的理由已明白。然而,對方向我方回報遲延令人無法接受。請對報告延誤提出抗議。」
「停戦した理由は判りました。しかし、こちらへの報告が遅れたのは頂けない。報告の遅れに対して抗議して下さい」
「承知了」
「承知いたしました」
兩家的戰事是雙方間的爭端,非靜子應直接插手之事。
両家のいくさについては双方だけで争っているため、静子が直接口を挟むことではない。
然而,創造出僅由兩家對峙之場的是靜子,且此事能成立全賴織田家的全面協助,不可忘記。
しかし、両家のみが対峙(たいじ)する場を作り上げたのは静子であり、織田家の全面協力あってこそ成り立っていることを忘れてはならない。
因此即便是事後承諾的形式,靜子認為在她詢問之前就該先報告,對於遲報亦需提出抱怨。
故にたとえ事後承諾という形であったとしても、静子が問い合わせをする前に報告すべきであり、遅きに失したことに対して苦情を申し入れる必要があると静子は判断した。
對方或許也有非常事態的情況,但那不足以成為疏忽回報的理由。
先方にも非常事態という事情もあるだろうが、それは報告を疎かにして良い理由にはなり得ない。
若放任此怠慢,再加上距離上的因素,甚至可能導致對織田家的輕視。
仮にこの怠慢を見逃せば距離的な都合も相まって、織田家に対する軽視へと繋がる可能性すらあった。
那等同於對信長統治的背叛,若任其發展,恐怕又會招致戰亂。
それは信長の統治に対する反逆であり、長ずれば再び戦乱を招くことになりかねない。
基於此等經過,靜子以頗為強硬的追問方式擬定了書信給伊達家。
こうした経緯から静子は伊達家に対してかなり強く詰問する形で文を認(したた)めた。
「伊達家方面就此罷了吧。雖然這次停戰可能會讓最上家有起色,但既然已包含在協議中也無可奈何了。」
「伊達家についてはこれで良しと。この停戦を機に最上家が盛り返す可能性が出てきたけれど、それも含めて合意したのだから仕方ないよね」
靜子這麼低聲說完,蓋上朱印,作為關東管領的正式文書以朱印狀交付小姓。
そう呟いた静子は朱印を捺(お)し、関東管領からの正式な文書たる朱印状として小姓に託した。
結束文書工作後,靜子一邊整理文案桌,一邊命人召靜之與慶次。
書類仕事を切り上げた静子は、文机を片付けつつ静之と慶次を呼ぶように命じる。
因未接獲慶次外出的通知,召喚他理應無礙,但未事先告知待命,可能正喝了酒。
慶次については外出する旨の連絡が無かったことから呼び出しても問題ないのだが、事前に待機を伝えていない為に酒が入っている可能性があった。
預定向二人提出有關靜之的複雜請求,乃攸關嗣子未來的嚴肅話題,若他們酒酣耳熱則須改期。
彼らには静之に関する込み入った頼み事を予定しており、世継ぎの将来を左右し得る真剣な話題であるだけに、酔いが回った状態ならば日を改める必要がある。
若能,希望就在現在空閒之時好好抽出時間詳談。
出来る事ならば手が空いている今、しっかりと時間をとって話し合いたいと考えていた。
「啊……三位大人,您在呼喚?」
「は……三位様、お呼びでしょうか」
靜之差點脫口稱呼為母上,發覺慶次也同被正式召集後便改口重說。
思わず母上と口から漏れそうになった静之だが、慶次ともども公式に招集されていることに気付いて言い直す。
在靜子宅內,嚴格說來並非公開場合,但日常的習性往往在非常時刻顯露無遺,因此靜之努力在心中劃清公私界限。
静子邸内でのことであり厳密には公の場ではないとはいえ、日頃の癖と言うのは非常時にこそ出てしまうため、公私の区別をつけるよう静之は心がけていた。
在公開場合的靜子是織田家的重臣,亦為東國管領那等高高在上的人物。
公の場に於ける静子は織田家の重鎮であり、東国管領という雲上人である。
即便已經元服,僅為五位的靜之依然是個連輕率搭話都令人忌憚的存在。
元服を済ませたとはいえ、五位に過ぎない静之が迂闊(うかつ)に声を掛けることすら憚(はばか)られる存在なのだ。
在可以容許失誤的靜子宅中,必須把分明公私的習慣刻入骨髓,直到能在無意識中做到為止。
失敗が許される静子邸に於いて、無意識に区別できるようになるまで骨身に叩き込む必要があった。
「慶次先生還沒來,既然應了召喚,遲早會到。首先,靜之,我想把這項工作交給你。慶次先生我打算讓他協助這件事。」
「慶次さんがまだ来られませんが、呼び出しに応じたからにはその内着くでしょう。まずは静之、貴方に仕事を任せたいと思います。慶次さんにはその補助について貰おうと考えています」
「明白了。我可以請教一件事嗎?」
「承知いたしました。一つお伺いしても宜しいでしょうか?」
「什麼事?」
「なんでしょう?」
「把側衆(馬廻衆的幹部)前田殿從三位大人的警護中撤下,是像那樣的職務嗎?」
「側衆(馬廻衆の幹部)である前田殿を三位様の警護から外す程のお役目なのでしょうか?」
「與其說是職務,不如說是你的監視者更為恰當。他看似不被規格束縛、行事自由奔放,正因為慶次先生不會偏離真正重要的核心,才覺得他適合監督你這位『從學校出來的優等生』。」
「お役目というより、貴方の目付役というのが正しいでしょう。規格に染まらず自由奔放に振る舞っているように見えて、本当に重要な芯を外さない慶次さんだからこそ『学校上がりの優等生』たる貴方を監督するに相応しいと思ってのことです」
靜子認為靜之最主要的弱點是「人際關係」。
静子は静之の最たる弱点として「対人関係」があると考えていた。
靜之或許因為不幸的出身,對建立與他人的關係感到不擅長。
静之は不幸な生い立ちからか、他者との関係性を構築することを苦手としている。
更何況成為靜子的養子後,因為身分關係也無法締結對等的交友關係。
更には静子の養子となってからも、立場上対等な交友関係を結ぶことが出来なかった。
然而若想成為為政者,與人往來是無法迴避的義務。
しかし為政者たらんと欲するならば、人との関りは避けて通れない。
但要命令剛開始獨立的靜之一切靠自己完成,實在顯得過於苛刻。
さりとて独り立ちを始めたばかりの静之に、全てを独力でやり遂げよと命じるのは流石に無体に思えた。
因此作為「防止跌倒的拐杖」,選中了既溫柔又嚴厲、能看顧他的先輩慶次。
そこで『転ばぬ先の杖』として、優しくも厳しく見守ってくれる先達(せんだつ)たる慶次に白羽の矢が立つ。
「慶次先生懂得真正的溫柔。他不會因你的身分而退縮,甚至不畏被討厭而給予必要的忠告。你要努力盡量不要依賴他。」
「慶次さんは本当の優しさを心得ている方です。貴方の立場に気後れせず、嫌われることすら厭(いと)わず必要な助言をしてくれるでしょう。貴方は彼にできる限り頼らないよう励みなさい」
「是!」
「はっ!」
「之後會有苦難,也會有想說的話,也會有想哭的時候,正是在那時依靠慶次先生。或許有些事對身為女性的我難以說出口,他會成為能推心置腹談心的顧問。你所煩惱的許多事,慶次先生也曾走過……嗯,或許常常借酒助興。」
「これから苦しいこともあるでしょう、言いたいこともあるでしょう、泣きたいこともあるでしょう、そうした時こそ慶次さんを頼りなさい。女である私には言えないこともあるでしょうから、腹を割って話せる相談役になってくれるでしょう。貴方が思い悩む多くの物事は、慶次さんもかつて乗り越えてきた道なのですから……まあ、お酒の力を借りることが多いかも知れませんね」
「喂喂靜醬,這說法也太容易讓人誤會了。我像是整天都想喝酒一樣嗎?」
「おいおい静っち、そいつぁ流石に人聞きが悪いってもんだ。俺が年がら年中酒を飲みたがっているようじゃないか?」
不知何時開始聽到對話,慶次帶著苦笑走進房間回應靜子的話。
いつから会話を聞いていたのか、静子の言葉に苦笑を浮かべながら慶次が部屋へと入ってきた。
靜之對於直到有人開口才察覺不到任何氣息感到驚訝,但靜子習以為常,面不改色。
声を掛けられるまで全く気配を感じられなかったことに静之は驚くが、静子といえば慣れたもので表情一つ動かさない。
「如果你不想喝酒,原本準備作為托付靜之的進貢酒肴就要送回倉庫嗎?」
「お酒を欲していないのなら、静之をお願いする付け届けとして準備していた酒と肴は蔵に戻すことにしましょうか?」
「這下被你占了一個便宜。靜醬特地的禮遇,我便領情接受。男人之間的對話少不了酒啊!」
「これは一本取られたな。静っちの折角の心付けだ、ありがたく頂戴するとしよう。男同士の会話には酒がつきものだからな!」
被戳中要害的慶次一邊啪地拍自己的額頭一邊開玩笑回話。
痛い処を突かれた慶次は、己の額をぴしゃりと叩きながら軽口を返す。
「大致情況我想你應該知道,但我還是要正式請慶次先生監督靜之。我不會提出細部要求,方法與判斷也全權委託。必要時就算出拳也無妨。」
「凡(およ)その事情は把握していると思いますが、改めて慶次さんに静之の監督をお願いしたいのです。細かい要望は出しません、方法や判断についても全て一任します。必要とあれば拳が飛んだとて構いません」
「那倒沒問題,但如果從一到十事事包辦,不就剝奪了小子的成長機會嗎?」
「それは構わないが、流石に一から十まで世話を焼いたんでは、コイツが成長する機会を奪うんじゃないかね?」
「我並不是要你手把手照顧他。你若看他做得好就稱讚,做得不好就懲處,這樣便沒問題。慶次先生,最壞的情況只是請你在靜之做出致命錯誤之前制止他,這樣就足夠了。」
「手取り足取り面倒を見ろなんて言いませんよ。慶次さんから見て良いことを成せば褒め、悪いことをすれば罰して頂ければ問題ありません。慶次さんは、最悪静之が致命的な失敗をする前に止めてさえ頂ければ十分です」
「既然如此我就應承了。」
「そういうことなら承ろう」
「就算是我,也不會在他一元服就馬上把他推開不管的。」
「いくら私だって彼が元服した途端に突き放すような真似はしませんよ?」
「說到底你對家人縱容,我原以為你會更過度保護,但沒想到這麼果斷地放手,讓我驚訝。」
「なんだかんだと身内に甘い静っちのことだからもっと過保護になるのかと思っていたが、随分と割り切ったもんだと驚いてるんだ」
慶次心中所想的靜子形象,是會為了不讓靜之犯錯而先行鋪路,然後在暗處既擔憂又看著他沿路前行。
慶次の思い描く静子像は、静之が失敗しないように先回りして道を整備し、彼がその道を歩いてゆく姿をはらはらしながら陰から見守るというものだった。
然而眼前的靜子似乎明白若自己過度干涉會流露出溺愛之態,於是反而將靜之託付給信賴的慶次。
ところが目の前の静子といえば、おそらく己が干渉したのでは甘さが出てしまうことを悟り、あえて信頼のおける慶次に静之を託すというのだ。
「若我能藉由過度保護促進靜之的成長,我會不斷伸出援手,但那樣只會為了自己的滿足而剝奪孩子成長機會,無異於虐待。」
「私が過保護になることで静之の成長を促せるのならば、いくらでも手を差し伸べますが、それでは自分の自己満足の為に子の成長機会を奪う虐待にしかなりません」
「既然你有那樣的覺悟,我也不會手下留情。但先說清楚,不保證他會如你所期望那樣。」
「そこまでの覚悟があるなら俺も手加減はしねえ。それでも期待通りになるとは限らないってことだけは断っておくぜ」
「嗯,那取決於他本人我心知肚明。至少祈禱運氣能站在他這邊吧。」
「ええ、それは彼次第ですから心得ています。せめて運が味方してくれることを祈っておきましょう」
表面上雖然裝作嚴厲的為政者,但緊握得發白的拳頭出賣了她不安的內心。
表面上は厳格な為政者を取り繕っているものの、白くなる程に握りしめられた拳が彼女の穏やかならぬ内心を物語っていた。
接著靜子將目光投向從慶次身後退後一步的靜之。
その上で静子は慶次から一歩後ろに控える静之に視線を送る。
雖然這關乎他前途命運,他仍被置於局外,卻依然保持沉默不插話,靜子從中感受到他的成長。
己の行く末を左右する内容だというのに蚊帳の外であり、それでも口を挟まず沈黙を保っている姿に静子は彼の成長を感じていた。
在公事場合靜之處於最下位,依上位者下達命令的原則,他不得插嘴。
公的な場において静之が最も下位の立場にあり、上意下達の原則に鑑(かんが)みれば彼が口を挟むことは許されない。
面對將至的處境既驚恐又努力忍耐的靜之,靜子再次向他示以關懷並試探性地開口。
自分が迎える境遇に戦々恐々としながらも我慢を続けている静之に対し、静子は改めて水を向けた。
「靜之,你要去一個由各種出身的人一起工作的部門受訓。能力上應該不用擔心,但期望你能拓展見識。」
「静之、貴方には様々な生い立ちの人々が一緒に働く部署へ研修に行って貰います。能力的な心配は要らないでしょうが、見識が広がることを期待していますよ」
「是!」
「はっ」
在靜之的同意下會談結束,兩人一同離去。
静之の了承を以て会談は終わり、二人は連れ立って立ち去って行った。
獨自留在房間的靜子輕輕嘆了口氣,自語道。
一人部屋に残された静子は、小さく息を吐いて呟く。
「成為大人之後才是真正的本番喔,靜之」
「大人となってからが本番ですよ、静之」
靜之的研修一開始,情況談不上順利。
静之の研修は、およそ順調とは呼べない状況で始まった。
他在靜子經營的學校與年齡與性別各異的同學交往,但他深刻體會到,那都是建立在所有人擁有最低教育基礎之上的結果。
静子が運営する学校に於いて、年齢や性別の異なる級友たちと交流をしていた彼だが、それは全員が最低限の教育を素地として持っていたからこそ成り立っていたのだと痛感する。
自稱「日ノ本最高學府」的學校,聚集了在較為富裕環境中成長的子弟;說得好聽,是優良品質的學生共同學習的環境。
日ノ本最高学府と銘打っていただけに、比較的裕福な環境で育った子女があつまっていた学校では、良く言えば粒ぞろいの生徒が共に学ぶ環境であった。
然而靜之被分配到的部門,與他的常識相距甚遠。
しかし静之が配属された部署は、あまりにも彼の常識からかけ離れてしまっている。
隸屬者的出生與成長背景各不相同,他視為常識的事在那裡根本行不通。
所属する人間は皆、生まれも育ちもバラバラであり、彼が常識と認識していた事柄が全く通用しなかった。
靜之被分配為主計局下屬組織──總務方的研修生。
静之は主計(かずえ)局の下部組織に当たる総務方(そうむがた)に研修生として配属されることとなる。
主計局負責靜子軍的後勤部隊之會計及補給業務,而總務方則承擔食料、衣物、金錢出納、設施維護等工作。
静子軍の兵站(へいたん)部隊に対する経理及び補給業務を担う主計局に対し、総務方は食料、衣服、金銭の出納(すいとう)、施設の維持管理などを請け負う部署となった。
說法雖不好聽,但要說就是什麼都做的萬能部門,而負責整頓此部門的組頭格外異類。
言い方は悪いが要するになんでも屋であり、この部署を取りまとめる組頭(くみがしら)が異質過ぎた。
那名男子叫杉下作左衛門。
男の名は杉下(すぎもと)作左衛門(さくざえもん)。
他出身尾張一個破敗孤村的農家,且為家中第八子,境遇可想而知。
尾張のうらぶれた孤村出身の百姓であり、それも八男(やおとこ)だというのだからその境遇は察するに余りある。
他雖掛有姓氏,但那是就任組頭時得到的姓;在他故鄉,杉木巨樹被奉為神木,故得此名。
苗字を名乗ってはいるが、組頭就任に際して賜った姓であり、彼の故郷では杉の巨木がご神木として祀ら(まつ)られていたことから名付けられていた。
若非靜子實行農業改革,他大概會被當作減口而遭淘汰,或離家在外餓死。
彼は静子が農業改革を行っていなければ口減らしに間引かれるか、家を出て何処(いずこ)かで野垂れ死ぬ運命にあった男だった。
(工作怎麼還能運作?把出身差異如此懸殊的人湊在一起,意見衝突不是理所當然嗎?組頭到底怎麼整合他們?)
(どうして仕事が回っている? これほどまでに身の上が異なる者を寄せ集めれば、意見の対立が起きても不思議ではないはずだ。どうやって組頭は取りまとめているのだろう?)
一邊完成分配的工作,靜之一邊感到困惑。
割り振られた仕事をこなしながら静之は混乱していた。
主計局處理帳面上的數字,而總務方處理實際的物資。
主計局が帳簿上の数字を扱うのに対し、総務方では実際の物資を扱っている。
上班時靜之被大家簡短介紹,之後便跟著組頭四處奔走,從事每次交付的工作。
始業の挨拶にて静之は皆に軽く紹介され、その後は組頭について回りながら都度振られる仕事に従事していた。
慶次在視線邊緣守望著,目睹他明顯困惑卻默默工作的模樣。
明らかに困惑しながらも、黙々と作業を行う彼の姿を慶次はギリギリ視界に入る範囲で見守っている。
(不過靜子也不留情啊。靜之人際經驗淺,難以拿捏與人的距離,無法主動搭話,這樣的環境對他應該很辛苦)
(しかし静っちも容赦がないな。静之は人付き合いの経験が浅いうえ、他人との距離を測りかねて積極的に話しかけられずにいる。こうした環境はしんどいだろう)
慶次把靜之視為自己的弟弟般,希望他能成為一個有擔當的人。
慶次は静之を己の弟であるかのように思っており、一廉(ひとかど)の男として身を立ててほしいのだ。
因此,除非靜之主動求助,否則他不會伸出援手。
それ故に、静之から求められない限りは助け船を出すつもりはない。
總務方的人們也在苦惱應該如何對待這位看起來出身高貴的靜之。
対する総務方の面々も、明らかに高貴な育ちと見える静之をどのように扱ったものかと思い悩んでいた。
「靜之雖是我的繼承人,但現階段沒有任何實績。因此請以一般新人的標準對待他。若利用地位或權力為所欲為,便儘管斥責。」
「静之は私の後継者ではあるが、現時点では何の実績もない。ゆえに通常の新人が入った際と同じ扱いをしてほしい。己の地位や権力を笠に着るようならば、遠慮なく叱責するように」
靜子如此交代,崇拜她的作左衛門便如字面般對待靜之。
静子からはそのように伝えられているため、彼女を崇拝している作左衛門は言葉通りに静之を遇した。
他出身貧窮農家,是家中末子,天資雖好卻曾被埋沒,後來被教他讀寫的寺廟僧侶發掘其才能。
貧しい百姓の末子であり、持って生まれた地頭の良さを腐らせていた彼は、読み書きを教えてくれた寺の僧侶によってその才能を見出される。
這種在農務上不見得實用的能力,因靜子懸賞尋才而被主計局察覺,遂在教育與現場磨練下被培育出來。
百姓仕事に於いては大した役に立たない能力だが、静子がこうした才を持つ者を拾い上げるべく報奨金を出していたため主計局の者に目に止まり、教育を施しながら現場で叩き上げられた。
對於靜子願以私財為埋沒的人才開路,他不禁心生崇敬。
在野に埋もれた才能を拾い上げる道筋をつけることに私財を投じた静子の姿勢に、彼は崇敬の念を抱かずにはいられない。
他深感慶幸能日後嶄露頭角並成為總務方之長,並以忠勤回報曾養育他直到能成家立業的周遭。
やがて頭角を現して総務方の長にまでなれたことに彼は甚(いた)く感謝しており、所帯を持つまでに育ててくれた周囲に恩を返すべく忠勤に励んでいた。
(好白好纖細的手指,幾乎像女子一般……)
(なんと白く繊細な指だ、まるで女子(おなご)のようではないか……)
作左衛門把自己滿是老繭又粗糙的粗壯指尖與之相比,不禁嘆息。
作左衛門は自分のタコだらけで節くれだった野太い指先と見比べて、思わず嘆息してしまう。
(三位大人叮嚀我要一如既往地對待,但這位外表優雅的人居然聽從一個出身農家的我指示而不露半點不快,實在了不起)
(三位様からは常と変わらぬ対応をしろとのお達しだが、品の良い見た目とは裏腹に百姓出の俺から作業を命じられて、嫌な顔一つしないとは大したものだ)
直到今晨看到和慶次一同出現在職場的靜之之前,作左衛門一直擔心會來個多麼傲慢難相處的廢人。
今朝慶次と共に職場に表れた静之を目にするまで、作左衛門はどれほど傲慢で鼻持ちならない穀潰(ごくつぶ)しがやってくるのかと不安に駆られていた。
結果一看,卻是個身形小巧、體態纖細、看起來斯文的青年,舉止溫和不驕。
蓋を開けてみれば、小柄で線の細い上品そうな青年であり、物腰も柔らかく偉ぶった様子もない。
即便如此,生活水準的差距仍難克服,常常無法順利對話。
それでも生活水準の差と言うのは如何ともし難く、うまく会話が嚙み合わないことが多々あった。
靜之自己似乎也察覺到這點,漸漸少言寡語,對話很快便中斷。
静之自身もそれを自覚しているのか徐々に口数が少なくなり、すぐに会話が途切れてしまうのだ。
(他是想要融入職場,但大概不知道該怎麼做吧)
(職場に馴染もうとはしてくれているが、どうして良いのか判らないのだろう)
靜之的存在並沒有在職場帶來不和,但顯然只有他周圍被不自然的沉默支配,形成令人窒息的空間。
静之の存在は職場に不和を齎すわけではないのだが、明らかに彼の周囲だけ不自然な沈黙が支配する息苦しい空間となっていた。
因為監督的慶次一直不肯介入,作左衛門只得以決死之意博上一把。
お目付け役の慶次が一向に介入しようとしないため、作左衛門自身が決死の覚悟で博打に出る。
「各位,先停一下手,聽我說」
「皆、少し手を止めて聞いてくれ」
他想到最快速讓大家打開心胸的辦法──辦一場宴會。
彼は皆が打ち解けるための手っ取り早い解決策として、宴会を思いついた。
靜之實在太聰明,理性強烈,似乎極度害怕把內心向他人攤開。
どうにも静之は頭が良い為に理性が強く、己の内面を他者に晒すことを酷く恐れているように見える。
若是喝了酒理性便會瓦解,他那阻隔他人的高牆或許也能稍微軟化。
酒が入れば理性も崩れ、彼が他人を寄せ付けないよう築いた壁も少しは和らぐことだろう。
不過,這是個危險的賭注。
とはいえ、これは危険な賭けとなる。
就算得到了靜子背書,若被解讀為企圖拉攏繼承人靜之以形成派系,便可能輕易招致滅亡。
静子からお墨付きを与えられているとは言え、後継者である静之を取り込んで派閥を形成しようとしていると受け取られれば、容易に破滅を招くからだ。
儘管如此,組頭還是做了決定。
それでも組頭は決断した。
「今天就早點收工,為長門(ながと)(靜之的字)殿辦個歡迎會吧」
「今日は早めに仕事を切り上げて、長門(ながと)(静之の字(あざな))殿の歓迎会をしよう」
一瞬沉默之後,眾人齊聲歡呼。
一瞬の沈黙が流れるが、どっと皆が一斉に歓声を上げた。
就連下層的人遇到喜慶日子也會品酒一番。
下々の者とてハレの日には酒を嗜(たしな)む。
如同有句話說『御神酒上がらぬ神はなし』,連神明都喜愛酒,人非神明自不待言。
『御神酒(おみき)上がらぬ神はなし』という言葉があるように、神様でさえお酒を好まれるのだから、神ならぬ人は言うに及ばない。
「當然,作的頭會請客吧?」
「当然、作(さく)の頭が奢(おご)って下さるんですよね?」
職場上的滑稽之人這麼攪和,組頭作為自然也只能點頭,無法拒絕。
職場のお調子者がそう混ぜっ返すと、組頭としては否とは言えずに頷くほかない。
「當然帳我買單!」
「勿論勘定は俺持ちだ!」
為了面子裝腔作勢,但他的錢包其實沒那麼寬裕。
皆の手前恰好をつけて見せたが、彼の懐事情はそれほど暖かくはない。
年末年初各種開銷接連不斷,對那已經寂寞的錢包來說是沉重一擊。
年末年始に何かと物入りが続いてしまい、寂しくなっていた財布にとって大打撃であった。
因為能享受組頭請客大家興致高昂,但只有靜之面露困惑。
組頭の奢りで飲み食いできるとあって盛り上がる面々だが、静之だけは困惑顔になっている。
原因很明白,他自己察覺到無法融入這種場合。
理由は明確であり、彼自身が場に馴染めていないことを自覚しているからだ。
似乎看穿了靜之的掙扎,慶次用力拍了他的頭。
そんな静之の葛藤を見抜いてか、慶次が彼の頭を思いきり張った。
「喂喂,好不容易有喝酒的場合,可別擺那副悶悶不樂的臉啊」
「おいおい、せっかくの飲みの席だってのにしけたツラしてるなよ」
突如其來的行為讓周遭空氣瞬間凝固。
突然の暴挙に周囲の空気が即座に凍り付いた。
大家屏住呼吸,因為居然有人拍了聞名天下的尾張三位大人的兒子的頭,衝擊性十足。
天下に聞こえた尾張三位様のご子息の頭を叩くという衝撃の後継に皆が息を飲む。
「哎呀…… 別突然打我嘛。既然特地被邀請了,我會很高興參加的」
「いたた…… 急に叩かないでくださいよ。せっかくお誘い頂いたのですから、喜んで参加させて頂きます」
那纖細外表難以想像的壯實身軀,以及輕快卻堅定的答話,使得氣氛緩和下來。
繊細な容姿からは想像できない程に頑丈な体と、軽妙かつしっかりとした受け答えに空気が緩んだ。
慶次以身作則示範到此程度也能被接受的明確標準,使得他與靜之之間的界線大為降低了吧。
ここまで踏み込んでも許されるという判り易い基準を慶次が身を以て示したことで、静之との間にあった垣根は随分と低くなったことだろう。
「那麼,就由我帶大家去熟識的店吧!」
「それじゃあ、俺が馴染みの店に向かうとするか!」
「等等!」
「ちょっと待った!」
正當事情快要成形時,慶次插了話。
話が纏(まと)まりかけたところへ、慶次が口を挟む。
被打亂了節奏的組頭露出不悅,但慶次稍微低頭道歉後說明了情況。
出鼻を挫かれた形となった組頭は鼻白むが、慶次は軽く頭を下げて詫びながら告げた。
「喝酒沒問題,但把這傢伙帶到城下町就有點難了」
「飲みの席は良いんだが、こいつを城下町に連れ出すのは少々難しいんだ」
聽了慶次的話,眾人再次想起靜之的立場。
慶次の言葉に皆が再び静之の立場を思い出す。
「所以就在這裡喝吧!」
「だからここで飲もうぜ!」
慶次立刻提出了出乎意料的建議。
間髪入れずに慶次が予想外の提案をした。
「欸!? 不不,畢竟不能在工作場合喝吧……」
「え!? いやいや、流石に仕事場で飲むわけにはいかねえ……」
「沒問題啦,那種程度沒有人會小題大作的」
「大丈夫だって。その程度で目くじら立てる奴なんていねえさ」
「那只是因為是前田大人所以才通融──」
「それは前田様ゆえに罷(まか)り通っているだけで――」
「沒關係,只要不被發現就沒問題」
「大丈夫、バレなきゃ問題無い」
「說真的,要是把酒菜搬進來還是會很顯眼的」
「流石に酒と食い物を運びこんだら目立ちますよ」
當那個愛湊熱鬧的人開口時,慶次一拍手,彷彿想到好主意似的。
例のお調子者が声を上げると、名案が浮かんだとばかりに慶次が手を打った。
「那乾脆換個地方吧!那邊就沒人會抱怨了」
「ならいっそ場所も変えちまうか! あそこなら文句を言う奴はいねえ」
說完這話,慶次就把手搭在靜之和那個愛湊熱鬧的人肩上,迅速走了起來。
そう言うや否や、慶次は静之とお調子者の肩に腕を載せてさっさと歩き始める。
大家也只好跟著他走,但隨著目的地逐漸明朗,作左衛門不禁發抖。
仕方なく皆も彼に続くのだが、その向かう先が明らかになるにつれて作左衛門は震えあがった。
「……那所以,要我怎麼做呢?」
「……それで、私にどうしろと?」
當他們知道要去的宴會場是靜子宅的大廣間,臉色全都煞白,紛紛拉住慶次。
目指す宴会場が静子邸の大広間であると知った彼らは、顔を真っ青にして慶次を引き留める。
而慶次不顧他人反應一意孤行,竟然直接去跟靜子本人談判,其他人因為敬畏而不敢抬頭。
そんな様子を我関せずと突き進み、あろうことか静子本人と交渉を始める始末に皆は畏れ多くて顔を上げられない。
靜子聽到慶次的要求雖有些無言,但察覺到他是為了靜之費心,於是同意了。
慶次の要望を耳にした静子はやや呆れたものの、彼が静之の為に骨を折ってくれたことを察して了承する。
在後方的才藏臉色沉鬱,但他也沒多說什麼,慶次便乘機不斷推進各項事務。
後ろに控える才蔵が渋い表情を浮かべていたが、それでも彼が何かを口にすることはなく、慶次もそれを良いことにどんどん物事を進めていった。
「我已拜託廚師們準備宴席了,所以酒不要喝太多喔」
「料理人たちに宴会の準備をするようお願いしたから、お酒は程々にしてね」
「果然是靜醬,懂事!」
「流石は静っち、話が分かる!」
慶次向靜子道謝後,便帶著大家前往大廣間前方。
慶次は静子に礼を告げると、そのまま皆を連れて大広前へと案内した。
不久熱鬧的宴會聲響傳到靜子那裡。
やがて宴会が盛り上がっている様子が静子の許まで届いてくる。
「果然很難啊。作為旁觀者守護成長的立場真是……」
「やはり難しいものですね。成長を見守る立場というのは……」
他一邊祈禱靜之能融入大家,一邊傾聽那未關起的襖縫中傳來的喧囂。
静之が皆に馴染めることを祈りながら、あえて閉めずにおいた襖から聞こえる喧噪に耳を傾けるのだった。