戦国小町苦労譚
一五七九年 十一月中旬
剛結束元服式與具足始的那份安心感,瞬間被吹散了。
元服式と具足始めを終えた安堵感など、瞬く間に消し飛んでいた。
接下來的祝宴席,對靜之而言才是真正的戰場。
続く祝宴の席こそが、静之にとって真の戦場であったからだ。
大廳裡充斥的是酒與下酒菜的氣味,以及令人窒息的野心與嫉妒的熱氣。
広間に充満するのは酒と肴の匂い、そしてむせ返るような野心と嫉妬の熱気。
上座坐著信長、信忠,以及靜子等人,正接受諸侯的拜賀。
上座には信長や信忠、そして静子らが鎮座し、諸侯の挨拶を受けている。
但圍繞在被迫在末席附近致意巡迴的靜之周圍的氣氛,絕非友好。
だが、末席に近い場所で挨拶回りを強いられている静之を取り巻く空気は、決して友好的なものではなかった。
「那就是傳聞中的『靜之』殿嗎。聽說是上樣的私生子,真是瘦弱憔悴的書生模樣!」
「あれが、噂の『静之』殿か。上様のご落胤(らくいん)とも聞くが、なんとまあ、線の細いうらなりではないか!」
「哼,終究不過是『被拋棄的孩子』罷了。即便上樣插手,也是眾多子嗣之一,連合格的乳母都沒有,據說啜著泥水長大。」
「ふん、所詮は『捨て置かれた子』よ。上様のお手がついたとはいえ、数多おる子種の一つ。まともな乳母もつけられず、泥水を啜(すす)って育ったそうな」
露骨地邊斟酒邊嘲笑的,是最近才歸附於織田軍門的新來者們。
杯を傾けながら露骨に嘲笑を浮かべるのは、近頃織田の軍門に降ったばかりの新参者たちであった。
對他們來說,靜子軍不過是後方運送物資的「商人敗類」,而其養子曾被信長遺棄(內情不論,外面就是那樣看來),近乎被育兒放棄的待遇正好成為嘲笑的把柄。
彼らにとって静子軍とは、後方で物資を運んでいるだけの「商人崩れ」であり、その養子が、かつて信長から捨て置かれ(内情はどうあれ、対外的にはそのように見えている)、育児放棄(ネグレクト)に近い扱いを受けていたという事実は、格好の笑い種であった。
在戰國時代,嫡男才是唯一無二的繼承人,其他孩子頂多只是萬一發生意外時的備胎,這是常識。
戦国の世では嫡男こそが唯一無二の世継ぎであり、それ以降の子供は所詮、世継ぎに万が一があった際の予備に過ぎないというのは常識だ。
隨著靜子的名聲傳開,作為其後繼者的靜之那極為悲慘的幼年被挖出,成了被揶揄的對象。
そして静子の名声が広まるにつれ、その後継ぎたる静之のあまりにも惨めな幼少期が掘り返され、揶揄(やゆ)されるようになっている。
「聽說他幼時衣不蔽體又骯髒,還和妹妹相依為命地睡在一起?」
「聞いたか? 幼き頃は着の身着のままで薄汚れ、妹と身を寄せ合って寝ておったとか」
「真可憐。若非被靜子大人撿到,現在早就和妹妹一起死在路邊了吧。」
「哀れなものよ。静子殿に拾われねば、今ごろは妹もろとも野垂れ死んでおったものを」
「連做為侍的教育都沒受過的野狗,竟還厚顏披著直垂……」
「侍として教育も受けて居らぬ野良犬が、一丁前に直垂(ひたたれ)など身に纏いおって……」
故意用只有靜之能聽到的音量放出的陰語,深深刺痛了他的心。
敢えて静之のみに聞こえるような声量で放たれる陰口が彼の心を深く抉(えぐ)った。
靜之幼年的創傷復甦,拼命忍住快要大吐的感覺,臉上貼著如能面般的笑容繼續為人斟酒。
静之は幼少期のトラウマが蘇(よみがえ)り、盛大に嘔吐しそうになるのを必至に堪え、能面のような笑顔を貼りつかせたまま酒を注いで回る。
(沒錯……若非被母親收留,我恐怕早就連同器物因饑寒而亡了)
(その通りだ……母上に拾われねば、私は器ともども飢えと寒さで疾(と)うにこの世を去っていただろうさ)
他拼命壓抑著悔恨,但能感覺到心底有一團暗火在搖曳。
悔しさを必死に押し殺してはいるが、心の奥底に暗い炎が揺らめいているのが判る。
然而若任由怒火在此處發作,那反而會成為他們所謂『被丟棄的狗』的證明。
だが、怒りに任せてここで暴れたのでは、それこそ彼らの言う「捨て犬」の証明となってしまう。
他反覆咀嚼著慶次囑咐的「不要撒嬌」這句話,在臍下聚起力氣堅持住。
慶次から受けた「甘えるな」という言葉を反芻(はんすう)し、臍(へそ)の下に力を込めて踏みとどまっていた。
然而,一個如巖石般的巨體站在靜之面前,將這份忍耐斷定為『怯懦』。
しかし、その忍耐すらを「怯懦(きょうだ)」と断じる巌の如き巨体が、静之の前に立ちはだかる。
「喂,年輕人!」
「おい、若造!」
隨著從腹部到脊椎似被震撼的重低音巨響,一道巨大的影子俯視著靜之。
ズン、と腹から背骨に掛けて揺さぶられるような重低音と共に、巨大な影が静之を見下ろしていた。
周遭那些新來者展露的嘲笑瞬間僵住。
周囲の新参者らが見せていた嘲笑が瞬時に凍り付く。
出現在那裡的正是織田家首席家老柴田勝家本人。
そこに居たのは織田家筆頭家老である柴田勝家その人であった。
他那如同從巨岩上雕出的嚴峻面容,眼中帶著歷經無數目光洗禮的老將銳利。
巨岩を削り出したかのような厳めしい顔貌(がんぼう)に、幾多の視線を潜り抜けてきた古強者(ふるつわもの)の眼光が宿っている。
勝家無言地擋在靜之面前,端出滿溢著酒的大杯。
勝家は静之を前に無言で立ち塞がり、なみなみと酒の注がれた大杯を突き出した。
「喝吧」
「飲め」
那是不容置疑的要求。在諸將列席之中,無法拒絕由壓倒性上位者所勸的酒。
有無を言わさぬ要求であった。諸将が居並ぶ中、圧倒的上位者から勧められた酒を断れる道理がない。
「……領受了,柴田大人。」
「……頂戴いたします、柴田様」
靜之用顫抖的手欲接杯時,勝家發出一聲鼻音。
静之が震える手で杯を受け取ろうとすると、勝家は鼻を鳴らす。
「手在發抖。這就是所謂『瘦狗』膽子不大的原因。」
「手が震えておるわ。これだから『痩せ犬』は肝が据わらぬと言われるのだ」
勝家的話語中帶著明顯的刺。
勝家の言葉には、明確な棘があった。
他承認靜子締造了自己無法達成的偉業,建立了織田家的興盛。
彼は己では決して成し得ぬ大功を立て続け、織田家の隆盛を築いた静子の存在を認めてはいる。
然而,對擁有古老武人性情的勝家而言,靜子帶來的異質技術及隨之而來的急速變革,和那承襲信長武家血統卻以算盤見長、勝過武藝的靜之,實在難以接受。
しかし、古き良き武人の気質を持つ勝家にとって、静子が齎(もたら)した異質な技術とそれに伴う急激な変革、信長という武家の血統を引継ぎながらも武芸より算盤(そろばん)働きを得意とする静之の在り方は、どうにも受け入れ難いものであった。
「靜子大人以出色的手腕改變了亂世。那麼你呢?雖有上樣之血,內裡卻仍是飢餓的童子不是嗎!」
「静子殿は見事な手腕を以て乱世を変えて見せた。然るに貴様はどうだ? 上様の血を引いてはいるものの、中身は飢えた童(わっぱ)のままではないか!」
勝家的銳利目光射穿了靜之。
勝家の鋭い眼光が静之を射抜く。
這不只是單純的欺凌,更是用以試探是否有著信長血統者在經歷地獄般童年後仍未喪失『牙』的一種無情試金石。
これは単なるいじめではなく、信長の血を引く者が、地獄のような幼少期を経てなお『牙』を失わずにいるかを見極める、非情なる試金石でもあった。
「回答!你能為織田的天下做些什麼?既不會當槍手,也未曾取過首級的你,誰會願意將性命託付給你?」
「答えよ! 貴様は織田の世の為に何が出来る? 槍働きも出来ず、首級を挙げたことすらない貴様に誰が命を預けたがると思っておる」
周圍的新來者們露出彷彿稱心如意的惡笑。
周囲の新参者たちは我が意を得たりと言わんばかりに嫌な笑みを浮かべている。
靜之緊咬著嘴唇,直到血滲出來。
静之は血が滲むほどに唇を噛みしめていた。
嘴裡帶著鐵腥的味道。
鉄の味がする。
他的視野因為怒火、羞恥與懊悔而染成一片赤紅。
彼の視界は怒りと恥ずかしさ、悔しさから真っ赤に染まっていた。
兒時記得為了活命,連正常的食物都吃不到,只能滾在泥裡吮飲雨水。
幼き頃、満足な食事すら与えられないまま生きる為に泥にまみれて雨水を啜った記憶。
那段經歷驅使他猛然動了起來。
その経験が彼を猛然と突き動かした。
靜之下定決心後,手的顫抖自然而然地平息了。
静之が覚悟を決めると自然と手の震えは収まった。
他雙手從勝家接過大杯,一仰脖子一飲而盡,吞嚥聲響亮。
彼は大杯を勝家から両手で受け取り、それを呷(あお)ると喉を鳴らして一気に飲み干していく。
他粗重地吐著氣,因為酒意上頭,雙眼充血,朝織田家數一數二的猛將回以瞪視。
荒い息を吐きながら、酒精が回ったことにより充血した酔眼で織田家屈指の猛将を睨(にら)み返す
「我在泥土中飢餓長大,正如各位所見身材孱弱,論槍術遠遠比不上柴田大人!」
「私は泥の中で飢えて育ちました故、御覧の通り体格がふるわず槍働きでは柴田様に遠く及びませぬ!」
「哦,要硬起來嗎?」
「ほう、開き直るか?」
勝家似乎覺得靜之的豪氣有趣,便回問道。
そんな静之の気炎を面白がるように勝家が聞き返した。
「不。我並非如此。只是,塗滿泥土之人有種不顧形象的戰法。槍舞不開就以智取勝,我要向織田帶來比任何人更多的利益!那便是從把本該死去的我撿起的母親那裡承繼下來的我的『牙』!」
「いいえ。ですが、泥に塗(まみ)れた者にはなりふりを構わぬ戦い方がございます。槍が振えぬのならば知で働き、誰よりも多くの利を織田に齎して見せましょうぞ! それが死すべき運命(さだめ)にあった私を拾い上げて下さった母より受け継いだ私の『牙』に御座います!」
短暫的沉默之後。
一瞬の沈黙の後。
勝家不悅地哼了一聲,但其目光中的輕蔑之色已消。
勝家は不愉快そうに鼻を鳴らすが、その瞳からは侮蔑の色が消えていた。
他奪回空杯,粗暴地再斟滿酒,竟以一隻手豪飲而盡以示。
彼は空になった杯を奪い返すと乱暴に酒を注ぎ、なんと片手でそれを呷って飲み干して見せた。
「……我本以為是隻飢餓的犬,看來倒是養成了一匹瘦狼啊。」
「……飢えた犬かと思うたが、どうやら痩せ狼ぐらいには育ったようだな」
他像吐出話語般留下一句便離去了。
吐き捨てるように言い残すと、彼はその場を立ち去った。
勝家如同一場風暴般過去後,靜之拼命忍住,差點從膝蓋軟下來。
勝家という嵐が過ぎ去った後、静之は膝から崩れ落ちそうになるのを必死で耐える。
端坐上座、手持扇子於陰影中緊張注視那情形的靜子,滿意地點了點頭。
遠く上座から、その様子を手にした扇子の陰に隠れながら固唾を飲んで見守っていた静子は、満足げに頷いていた。
次晨,靜之清晨便以冰冷的井水洗臉。
翌朝、静之は早朝から冷たい井戸水で顔を洗っていた。
昨夜宴席的疲累尚存,卻奇怪地沒有不適感。
昨夜の祝宴の疲労は残っているが、不思議と気分は悪くなかった。
因為他已決意直面自身出身與悲慘過去,並把那當作武器。
己の出生、そして惨めな過去と向き合い、それを武器にすると腹を括ったからだ。
「看來已經醒了,準備好要出發了嗎?」
「起きているようですね。支度(したく)は出来ていますか?」
被身後傳來的聲音喚到,靜之立刻回身、整了整儀容。
背後から掛けられた声に、静之は即座に振り返り姿勢を正す。
那裡是已整妥行裝的靜子。
そこには旅支度を整えた静子の姿があった。
從今天起,靜之將隨信忠前往大阪方向視察的軍隊同行,之後再回尾張。
今日より静之は、大坂方面の視察に向かう信忠の軍に同行し、その後は尾張へと戻る手筈となっている。
「母上,謝謝您來送行。」
「母上、お見送り感謝致します」
「問候之詞待會再說。出發前有件事必須給你看,跟我來。」
「挨拶は後です。出発の前に、貴方に見せておかなければならないものがあります。ついて来なさい」
靜子的語氣帶有不容拒絕的威嚴。
静子の口調には拒否を許さぬ響きがあった。
並肩騎馬,馳騁在清晨的路上。靜子目視前方,開口道。
共に並んで馬に乗り、早朝の道を駆ける。静子が前を見据えたまま口を開いた。
「昨晚似乎受了不少折磨呢。」
「昨晩は随分と揉まれたようですね」
「……失禮地令耳朵不堪入耳。然事實即事實。往後以槍術我也無法成為織田家首屈一指的人,那麼我便走一條能讓我成為第一的路。」
「……お耳汚しを致しました。ですが、事実は事実。私は今後も槍働きでは織田家随一にはなれませぬ、それならば私は私が一番になれる道を歩みまする」
「是的。你雖有上樣的血統,卻也了解世間最底層。因此你能察覺他人的痛苦與辛酸,隱含成為能支配太平世道的獨一無二統治者的可能性。溫室裡長大的公達(一般指貴族子弟,指的是除靜之外獲得五位的諸將)無法駕馭現在將要給你看的『怪物』。」
「ええ。貴方は上様の血を引きながらも、世の底辺を知る者です。それ故に他者の痛みや苦しみに気付き、泰平の世を動かす唯一無二の為政者となれる可能性を秘めています。温室育ちの公達(きんだち)(一般には貴族の子弟を意味し、静之以外の五位を賜った諸将を指している)には、今から見せる『怪物』は扱えませんから」
前往的地方是離靜子城下町遙遠的山間谷地。
向かった先は、静子の城下町から遠く離れた山間の谷であった。
因四周被樹木覆蓋,只有到場才注意到那異樣的景象。
周囲を木々が覆っているため、現場に着いて初めてその異様な光景に気が付いた。
在曾經流經谷間而現已乾涸的河床上,整平美化的地面上整齊地排列著枕木。
かつては谷間を流れていたであろう川が干上がった跡に、美しく均して造成された地面の上に、規則正しく枕木が並べられている。
在其上彷彿有巨大的蟒蛇橫臥,兩條粗大的金屬軌道伸往遠方。
その上に巨大な蟒蛇(うわばみ)が横たわっているかのように二本の太い金属製の軌条が遥か彼方まで伸びていた。
靜之近旁,一塊黑亮的巨大鐵塊正噴出蒸氣。
そして静之の間近には黒光りする巨大な鉄(くろがね)の塊が蒸気を噴き上げている。
那龐然巨體猛烈地吐出白煙,彷彿寒冬清晨馬兒從鼻端冒出白氣般,持續發出直達腹腔的低沈音,令靜之深感震撼。
まるで寒い冬の早朝、馬たちが鼻から蒸気を立ち上らせるかのように盛んに白煙を吐き出し、腹の底まで響くような低音を奏で続けている巨体に静之は圧倒された。
「這……是什麼?」
「これは……何ですか?」
「這是我的鬼札!也就是鋼鐵之馬──蒸汽機車。它將成為支撐未來織田家,乃至日之本的心臟。」
「これが私の鬼札! 鋼鉄の馬こと、蒸気機関車です。これからの織田家を、そして日ノ本を支えるための心臓です」
靜子一示意,周遭守候的技術人員便齊聲動了起來。
静子が合図を出すと、周囲に控えていた技術者たちが一斉に動き出す。
他們拆除了為防止機車意外啟動而嵌上的枷鎖般的車輪止,並指示在機車火室就位的男子添煤加燃料。
彼らは万が一にも機関車が走り出さないよう嵌められて枷(かせ)である車輪止めを外し、機関車の火室(かしつ)に陣取る男に燃料をくべるよう指示した。
同時,他們扯掉蓋在機車即將行駛的軌道上、遮蔽某物的布罩。
その傍ら、彼らは機関車が走るであろう線路上に置かれていた物体を覆い隠している布を引きはがす。
露出的是被譽為戰國最強的當世具足,而且與靜之昨日所獲相同,並列著使用最新素材的特級品。
そこに現れたのは戦国最強と謳(うた)われる当世具足であり、しかも静之が昨日賜った物と同様に最新素材を用いた特級品が並んでいた。
這些是為製作靜之當世具足的試作品,雖然最終未能落到他手中,卻是性能遠勝其他家當世具足的絕品。
これは静之の当世具足を作るための試作品であり、最終的には彼の手許に届かなかったとは言え他家の当世具足とは隔絶した性能を誇る逸品だ。
它擁有能使新式火槍也無法貫穿的裝甲,戰國時代普及的火繩槍頂多在表面留下污跡;箭矢、長槍、刀刃只會在表面的層壓裝甲上滑過,頂多如此。
それは新式銃であろうとも貫通させない装甲を有し、戦国時代に普及している火縄銃程度では表面に汚れを残すのがやっとであり、矢や槍、刀では表面の積層装甲を滑るのが関の山だろう。
「可、可以嗎?那麼頂級的器物……」
「よ、よろしいのですか? あれほどの業物を……」
「好好看清楚。這就是時代的變化。血統、武勇、過去的榮光,都會在一瞬間同樣變得無意義。」
「良く見ておきなさい。これが時代の変化です。血筋も、武勇も、過去の栄光も、すべて等しく無意味となる瞬間です」
鍋爐的壓力達到極限,高亢的汽笛聲撕裂了寂靜的谷間。
ボイラーの圧力が限界に達し、甲高い汽笛が静寂の谷間を切り裂いた。
發出嘎吱聲並開始轉動的車輪一旦運轉,鋼鐵的巨獸便開始把身軀往前推擠。
軋(きし)みをあげながら動き出した車輪が回りだすと、鋼鉄の巨獣はその体を前へと押し出し始める。
起初緩慢的動作瞬間加速,終於達到了甚至超越馬匹的速度。
最初は緩慢だった動きが瞬く間に加速し、やがて馬をも凌駕する速度へと達した。
被牽引的車輛除機車外僅有一節,連同載燃料與水的炭水車在內,接近兩百噸的龐大質量衝向鐵軌上的甲冑。
牽引している車両は機関車を除くと一両のみであり、炭水車(燃料と水を積載した車両)を含めて二百トンに迫ろうかと言う巨大質量が、線路上の鎧へと突き進む。
靜之連站穩防備的暇都沒有。
静之が身構える暇すら無かった。
伴隨著驚人的金屬撞擊聲,最先進的甲冑像糖藝般被壓扁、粉碎成碎片。
凄まじい金属音と共に、最新鋭の甲冑は飴細工のようにひしゃげ、粉砕されて砕け散る。
與已完全喪失原形的當世具足形成對照,列車看似毫髮無傷,彷彿連薄紙都能被它輕易刺破般疾馳而去。
最早原型を留めていない当世具足と対称的に、傷一つないように見える列車は薄紙でも突き破ったかと言わんばかりに走り去っていった。
如此毀滅性的景象,讓靜之不禁戰慄。
あまりの破壊的な光景に、静之は戦慄を禁じ得ない。
若那是人的隊列,即便是披掛重甲的騎馬武者,其命運也將相同,這一點易於想像。
あれがもし人の隊列であったならば、たとえ重装備を纏った騎馬武者であったとしても辿る運命は同じだろうと容易に想像できた。
無論出身多麼高貴,無論劍術多麼高超,在這壓倒性的質量與速度交織出的暴力面前,皆同樣無力。
どのような高貴な生まれであろうと、どれほどに剣の腕が立とうとも、この圧倒的な質量と速度が織り成す暴力の前には等しく無力にすぎない。
「這、這是……兵器,嗎?」
「こ、これは……兵器、ですか?」
「不,僅是貨車。用來運送人或物的工具罷了。但你現在明白了吧,反抗這個『物流』的人會遭遇什麼?」
「いいえ、ただの荷車です。人や物を運ぶためのね。ですが、この『物流』に逆らう者がどうなるか、理解出来ましたか?」
面色發青的靜之,靜子冷酷地接著說。
青ざめる静之に対し、静子は冷徹に続ける。
「對於妨害這條鐵道的行為,即便是一顆擺放的石頭,也視同與偽造貨幣等同的『國家反逆罪』。犯人連同一族郎黨一律處刑,也就是族滅。」
「この鉄道に対する妨害行為は、置き石一つであっても通貨偽造と同等の『国家反逆罪』とみなします。犯人は一族郎党すべて処刑、つまり族滅です」
「族、族滅……真的要如此嚴厲嗎?」
「ぞ、族滅……そこまで厳しくなされるのですか」
「因為這條鐵道擁有如此的價值與力量。」
「それだけの価値と力が、この鉄道にはあるからです」
靜子從懷中取出一張圖面,遞給靜之看。
静子は懐から一枚の図面を取り出し、静之に見せた。
上面記載著以尾張為中心,向西至安土、向東經德川領地直達關東的宏偉路線計畫。
そこには尾張を中心とし、西は安土、東は徳川領を経て関東へと伸びる壮大な路線計画が記されている。
「母上,如此大規模的事業,靠我們自己能管理得了嗎?需要龐大的金錢與人力。」
「母上、これほどの事業、我々だけで管理しきれるのでしょうか。莫大な金と人が必要になりまする」
「因此要採用所謂的『株式』制度。將這項事業的權利細分並分配出去。」
「そこで『株式』という仕組みを用います。この事業の権利を細分化し、配分するのです」
靜子邊用手指點數邊說明。
静子は指を折りながら説明する。
靜之不曾從事港灣事業,雖不知情,但株式在織田家的勢力範圍內,於推進大型事業時已被多次運用。
港湾事業に携わって来なかった静之は知らぬことながら、既に株式は織田家の勢力圏に於いて大きな事業を推進する際に何度も運用されてきた。
信長、信忠父子,還有靜子。這三方決定持有整體六成的股份。
信長、信忠親子、そして静子。この三者で全体の六割を保持することが決まっている。
如此一來經營主導權穩固無搖;但令靜之在意的是剩下的分配。
これで経営の主導権は揺るがない。だが静之が気になったのは、残りの配分だった。
「要給德川殿一成,給德川家臣團一成……總共要把兩成給德川家嗎?」
「徳川殿に一割、徳川家臣団に一割……合計二割も徳川家に渡すのですか?」
「是的。德川大人是個精明之人,會立刻領會這層含義。」
「ええ。徳川様は賢いお方です。この意味を即座にご理解されるでしょう」
靜子微微勾起嘴角,帶著頑皮的笑意。
静子は口元を緩め、悪戯っぽく笑った。
鐵道會產生龐大的利益。但其維護管理——夏日的除草、冬日的除雪、軌道的警備——需耗費巨大的勞力。
鉄道は莫大な利益を生む。だが、その維持管理――夏場の草刈り、冬の雪掻き、線路の警備――には膨大な労力を要する。
這些「泥濘的實務」,連同股票的配息這甜美的蜜汁,一併轉嫁給沿線的德川家承擔。
その「泥臭い実務」を、株の配当という甘い蜜と共に沿線の徳川家に負わせるのだ。
再者,這也是將來把德川家轉封到關東時的布石,將他們束縛在織田的經濟圈中的「黃金鎖鍊」。
さらに、これは将来的に徳川家を関東へ転封させる際の布石であり、彼らを織田の経済圏に縛り付ける『黄金の鎖』でもあった。
「給予利益,使其成為共犯,讓他們無處可逃。這就是此事業的真諦。靜之,你將要學的不是揮劍之法,而是這『利權的分配方式』。」
「利益を与え、共犯者にし、逃げられなくする。それがこの事業の真髄です。静之、貴方がこれから学ぶべきは、剣の振り方ではなく、この『利権の振り方』ですよ」
「……是,我會銘記於心!」
「……はい! 肝に銘じます」
那是壓倒性的力量,以及駕馭它的政治智慧。
圧倒的な力と、それを操る政治的知略。
靜之用顫抖的手握緊拳頭,深深低下頭。
静之は震える手で拳を握りしめ、深く頭を下げた。
那一刻,他徹底理解到自己要繼承的並不只是家督,而是馴服怪物的韁繩,徹入骨髓。
自分が継ごうとしているものが、単なる家督ではなく、化け物を御する手綱なのだということを、骨の髄まで理解した瞬間だった。
之後,靜之為了會合信忠的軍隊,向街道走去。
その後、静之は信忠の軍に合流すべく、街道へと向かった。
軍列前方,是織田家的嫡男——信忠,名副其實被視為下一任天下人。
軍列の先頭には、織田家の嫡男であり、名実ともに次期天下人と目される信忠の姿がある。
他看到靜之後朝他招手,神情親切,但帶著身為統治者的銳利。
彼は静之を見つけると、親し気に、しかし為政者としての鋭さを伴って手招きした。
「來得真慢啊,四六。……不,現在是長門嗎?」
「遅かったな、四六。……いや、今は長門であったか」
「是,讓您久等了,少將大人」
「はっ、お待たせ致しました、少将様」
此時信忠被朝廷敘任為從四位上,賜予左近衛少將的官職。
この時信忠は朝廷より従四位上に叙され、左近衛少将(さこんえのしょうしょう)の官職を賜っていた。
坊間稱他『岐阜少將』,信忠本人對這等堂皇的官職感到厭煩。
巷では『岐阜少将』と呼ばれており、信忠自身は御大層な官職に辟易(へきえき)している。
「拘謹的寒暄免了。這趟旅行,你要在我身旁好好觀察世情。……看過靜子小姐的『新玩具』了嗎?」
「堅苦しい挨拶は良い。此度(こたび)の旅、お前には私の側でしっかりと世を見てもらう。……静子の『新しい玩具』は見たか?」
對於信忠的詢問,靜之咽了口唾沫點頭。
信忠の問いに、静之は唾を飲み込みながら頷いた。
「是的。那東西有……改變人世的力量。」
「はい。あれには……人の世を変える力にございます」
「正是。那東西將在父上平定天下之後,成為統一國家的鎹。我會從台面上統治天下,而你則在暗中承擔馴服那個化物的任務。」
「左様。あれは父上が天下を平らげた後、この国を束ねる鎹(かすがい)となろう。私は表から天下を統べるが、お前にはその裏で、あの化け物を飼いならす役目を担って貰う」
信忠直視著靜之的眼睛。
信忠は、静之の目を真っ直ぐに見つめる。
他的眼中沒有曾經『被拋棄的弟弟』的憐憫,而是視為共支織田天下的『同志』的信賴。
そこには、かつて『捨て置かれた弟』を見る哀れみなどなく、共に織田の天下を支える『同志』を見る信頼があった。
信忠作為正當繼承者在光中行走,靜之則在陰影裡吸吮泥濘而活。
正当な後継者として光の中を歩んできた信忠と、影の中で泥を啜って生きてきた静之。
兩個出身與成長皆不同的兄弟,現在正透過鐵道這條未來之路試圖結合。
生まれも育ちも違う二人の兄弟が、今、鉄の道という未来を通じて結びつこうとしていた。
「努力吧。你若不支撐,織田的根基會動搖。」
「励めよ。お前が支えねば、織田の屋台骨は揺らぐぞ」
「……遵命。我願以身命相賭。」
「……御意。この身命を賭しまする」
靜之深深地低下了頭。
静之は深く頭を下げた。
他的背上明顯承受著與昨日不同的『重量』。
その背中は、昨日までとは明らかに異なる『重み』が圧し掛かっていた。
時間稍微倒轉,當靜子與靜之親眼目睹機關車的猛威時,在遠處樹蔭有一人目擊此實驗。
時を少々遡り、静子と静之が機関車の猛威を目の当たりにしている頃、遠く離れた木陰からこの実験を目撃している者がいた。
他是一名為免招疑而以煤炭弄髒身軀、偽裝成燒炭人的宣教師,掩飾異人特有的髮色。
怪しまれぬように炭で体を汚し、異人特有の髪の色を誤魔化して炭焼き人に変装した宣教師である。
他被恐懼折磨到牙根發顫,無意識地在胸前畫十字。
彼は歯の根が合わぬ程の恐怖に苛(さいな)まれながら、無意識に胸元で十字を切っていた。
「喔,天啊!!這是什麼惡魔般的所作……」
「オー、デウス!! なんという悪魔の所業か……」
連他們的祖國也未曾見過的鋼鐵之馬。
彼らの国許ですら見たことのない鋼鉄の馬。
那壓倒性的威容,加上以馬匹無法比擬的速度奔馳的姿態,對他而言帶來動搖人生根基的衝擊。
その圧倒的な威容に加えて、馬など比較にもならない速度で爆走する姿は、彼が今まで歩んできた人生を根底から揺るがす程の衝撃を与えた。
在他看來,火槍與大炮等猶如兒戲。
マスケット銃や大砲など児戯(じぎ)に等しい。
技術力與產業的層次本質上完全不同。
技術力と産業の次元そのものが異なっていた。
要在此地傳播主的教義、最終成為殖民地?那等虛妄的幻想瞬間化為灰燼。
この地に主の教えを広め、ゆくゆくは植民地とする? そんな虚しい絵空事は一瞬で灰燼(かいじん)に帰した。
若刺激這頭沉睡的獅子,祖國可能會被這東方一個渺小的島國整個吞噬。
この眠れる獅子を刺激すれば、東洋のちっぽけな島国に祖国が丸呑みされるかもしれない。
他回想起自己曾強加於未開化原住民的種種惡行,恐懼於可能自己落到那種地位,令他雙腿發軟。
自分たちが未開の原住民に押し付けてきた仕打ちを振り返り、己がその立場になるかもしれないという恐怖が彼の脚を竦(すく)ませてしまった。
在更遠的暗處,有一雙眼睛注視著那位宣教師的模樣。
そんな宣教師の様子を更に離れた物陰から見つめる一対の目があった。
(正如靜子大人的企圖,這份威脅看來也會正確傳達給南蠻人。不知彼人心中所想如何,但被掌控的毛唐們令人憐惜。)
(静子様の思惑通り、南蛮人にも正しくこの脅威が伝わりそうだ。かのお方が何をお考えかは判らぬが、掌で転がされる毛唐どもが哀れでならぬ)
說完這句自言自語後,真田正幸所派的間者斷絕了氣息。
そう一人言(ご)ちると、真田正幸が放った間者は気配を断った。
而在安土城,信長翻閱著從京來的報告書,滿意地哼了聲。
そして安土城では、信長が京からの報告書に目を通し、満足げに鼻を鳴らしていた。
「看來朝廷也懂得適可而止啊。」
「案外、朝廷も引き際を心得ているようだな」
自從靜之離開京城之後,朝廷便完全沒有任何接觸。
静之が京を離れて以降、朝廷からの接触は一切ない。
他們所渴求的是名為「靜子軍」的武力。
彼らが欲していたのは『静子軍』という武力だ。
他們大概判斷,沒有指揮權的靜之個人尚無利用價值。
指揮権を持たぬ静之個人には、まだ利用価値がないと判断したのだろう。
「尾張三位大人來信,說鐵道的試運轉已經成功。」
「尾張三位様より、鉄道の試運転が成功したと文が届いております」
「哼,那塊鐵塊啊。家康一定會一臉困惑,但也會高興地接受那股份吧。」
「ふん、あの鉄の塊か。家康もさぞ困惑した顔で、それでも喜んで株を受け取るであろうよ」
信長盯著窗外東方的天空。
信長は窓の外、東の空を睨む。
天下統一已不過是個過渡點。
天下統一はもはや通過点に過ぎない。
當鐵道覆蓋日之本時,這個國家將轉變成前所未有的強大帝國。
鉄の道が日ノ本を覆い尽くした時、この国はかつてない強大な帝国へと変貌する。
「原本只是稍微扶持的孩子,竟然長成了頭號的怪物。靜子啊,居然給了她這種多餘的玩具。」
「手を掛けてやれなんだ子が、まさか一番の化け物に育つとはな。静子め、余計な玩具を与えおって」
嘴上雖說著討人厭的話,聲音卻帶著興奮。
口では憎まれ口を叩きながらも、その声は弾んでいた。
充滿愉悅的信長笑聲在安土天守中回蕩。
愉悦に満ちた信長の笑い声が、安土の天守に響き渡った。