戦国小町苦労譚
酒鬼的習性
靜子宅邸的一角,排列著數間酒藏,位處通風良好且容易成陰的地方。
静子邸の一角、風通しが良くて日陰になりやすい場所に酒蔵が並んでいる。
不知為何常有賓客造訪,因此宴饗之席上需用的酒類不可或缺。
何故か頻繁に賓客(ひんきゃく)が訪れる為、饗応(きょうおう)の席に供される酒類は欠かすことができない。
靜子本人經營酒藏,並積極向自己領內公開釀造技術,因此連大量被獻上的酒也被收存於此。
静子自身が酒蔵を運営しており、また積極的に自領内へと技術開示を行っていることから献上される大量の酒までもが納められていた。
她並非完全不能喝酒,但因為酒性極差,被信長親自下了禁酒令,靜子幾乎不會消耗這些酒。
彼女自身は酒を飲めないことも無いのだが、極めて酒癖が悪いため信長より直々に禁酒令を出されており、静子がこれらを消費することはまずない。
若說存放在酒藏的酒都被閒置不用,則並非如此。
となれば酒蔵に仕舞われた酒たちが死蔵されているのかと言えば否である。
在靜子宅內起居的人中有極為嗜酒者,那些酒鬼偶爾會從酒藏裡借取酒來喝。
静子邸に起居する者の中には無類の酒好きがおり、そんな飲兵衛(のんべえ)達は時折酒蔵から酒を拝借するのだった。
「今晚喝什麼酒好呢」
「今宵の酒は何にしよう」
其中一位酒鬼慶次手提燈籠在藏內搜尋著。
そんな飲兵衛の一人、慶次が提灯(ちょうちん)片手に蔵内を物色している。
「慶次殿,這個如何?」
「慶次殿、これなぞ如何(いかが)か?」
第二位酒鬼兼續指著一個酒桶。那桶在他指尖處,對於身材魁梧的慶次也超過一圈之寬,且高度達膝上,十分雄偉。
飲兵衛の二人目である兼続(かねつぐ)が一つの酒樽を指さす。その指先にある樽は大柄な慶次をして一抱え以上もあり、高さも膝上に達する堂々とした物だ。
那是稱為四斗樽的大酒桶,其容量如名即為四斗(一斗為十八公升,本例即七十二公升)。
それは四斗(と)樽(たる)と呼ばれる大きな酒樽であり、その容量は名前の通り四斗(一斗は十八リットルであり、この場合七十二リットル)に達する。
若換算成我們常見的一升瓶,大約等於四十瓶,可想其龐大。
我々が普段目にすることの多い一升瓶換算で四十本分と言えば、その大きさが想像できるだろう。
靜子宅的酒藏大致按尺寸排列四種酒桶,從小到大為五升樽、一斗樽、二斗樽、四斗樽。
静子邸の酒蔵には概ね四種類の酒樽がサイズごとに並べられており、小さい方から五升(しょう)樽、一斗樽、二斗樽、四斗樽となる。
為了振興釀酒產業與釀造研究,靜子也購買了許多酒,藏內存有相當數量的清酒與濁酒。
酒造産業振興及び醸造研究のため、静子は多くの酒を買い求めてもおり、この蔵内には相当数の清酒及び濁り酒が納められていた。
「『七郎坊』嗎……那個上週喝過了,今天想喝清酒,不想喝濁酒。」
「『七郎坊(しちろぼう)』か……それは先週飲んだし、今日は濁り酒じゃなくて清酒が飲みたいな」
「那麼『鬼之枕』或是『飛驒之滴』之類應該比較合適吧」
「それなら『鬼の枕(まくら)』か、それとも『飛騨(ひだ)の雫(しずく)』あたりが手頃だろう」
響應慶次的話,兼續開始列舉想到的清酒牌子。
慶次の言葉を受けて兼続が思いつく清酒の銘柄を挙げていく。
『七郎坊』是這麼來的:為了釀酒尋找名水而深入深山的蔵元(酒藏的主人)遇難,險些喪命時,救了他的天狗所自報姓名,蔵元因此感謝而取名為七郎坊。
七郎坊とは酒造りの為に名水を求めて深山へと分け入った蔵元(くらもと)(酒蔵のオーナー)が遭難し、あわや命を落としかけた際に彼を救った天狗に感謝をして付けた名前である。
因為那位天狗分給飢餓且脫水到等死的蔵元水和食物,並告知清水湧出的地方還護送他下山,這位親切天狗自報的名字便是七郎坊,因此由來如此。
空腹と脱水症状で死を待つばかりだった蔵元に水と食料を分け与え、清水が湧き出る場所を教えた上に里まで送ってくれた親切な天狗が名乗った名前が七郎坊だったことに由来する。
當時天狗用山鳥和山菜做了一鍋令人難忘的絕品鍋物,香氣撲鼻、辛辣到讓人汗流但仍停不下來;因此『七郎坊』的酒瓶據說被染成鍋的顏色——黃色。
その折に山鳥と山菜とで作り、振る舞ってくれたこの世の物とは思えないほど香(かぐわ)しく、辛くて汗をかきながらも食べ続けてしまった絶品の鍋が忘れられなかったことから『七郎坊』の徳利(とっくり)は鍋の色である黄色に染められているという。
順帶一提,『鬼之枕』也有逸話:在開藏會時受邀的長可大為喜愛,痛飲後枕著空桶睡著,於是被稱為鬼武蔵所枕的名酒,蔵元見狀心情大好便取了此名。
余談だが『鬼の枕』にも逸話があり、蔵開きの際に招かれた長可(ながよし)が甚(いた)く気に入って痛飲し、空き樽を枕に眠りこけてしまったことから鬼武蔵が枕にした銘酒として知られるようになり、それに気を良くした蔵元が付けた名前となる。
至於飛驒之滴並無那種傳說,它是因蔵元希望清酒能廣為庶民所飲而壓低價格製造的牌子。
飛騨の雫に関してはそういった由来などは無いのだが、清酒を広く庶民でも飲めるようにしたいという蔵元の意思によって価格を安く抑えて作られた銘柄である。
精米步合(去除玄米表層後保留下來的米的比例,數字越少雜味越少但拋棄部分越多因此昂貴)高達七成,因此略顯粗糙但價格便宜,成為廣受庶民喜愛的清酒。
精米歩合(ぶあい)(玄米から表層部を削って残った米の割合、数字が少ないほど雑味が少なくなる代わりに捨てる部分が多いため高価になる)が七割と高いため、やや粗削りだが安価であり広く庶民から愛される清酒となっている。
「不過靜子自己不喝,卻還是收集了這麼多酒啊。」
「しかし静っちは自分じゃ飲まないのに、良くもこれだけ酒を集めるもんだな」
慶次在『鬼之枕』的酒桶前喃喃自語。
『鬼の枕』の酒樽を前に慶次が呟く。
靜子的酒藏裡應有盡有,甚至還藏有曾進貢於當朝天子的名酒。
静子の酒蔵には実に多種多様な酒が揃っており、果ては時の帝に献上したほどの銘酒も眠っている。
「哎哎!竟然連據說在天覽品評會中獲最優秀並被賜五位(可昇殿的冠位)的獻上酒『靜譽』也有。真想喝一口,但一旦打開就完了啊……」
「おいおい! 天覧品評会(天皇ご臨席での品評会)で最優秀を獲って五位(昇殿を許される冠位)を賜ったとされる献上酒の『静誉(しずかほまれ)』まであるぞ。一口飲んでみたいが、開けたら最後だな……」
「沒錯。我有信心把桶喝空。」
「違いない。樽が空っぽになるまで飲む自信がある」
自尾張開始釀造清酒以來,曾舉辦過多次酒類品評會,而去年舉行的品評會更有天子親臨。
尾張で清酒造りが始まって以来、幾度も酒の品評会が行われてきたが、昨年は帝のご臨席があっての品評会が開催されたのだ。
在那次品評會中獲最優秀的清酒被命名為『靜』。
その品評会で最優秀を獲得した清酒はその名を『静(しずか)』と号していた。
此名由來是因為在靜子所管理的酒藏中,杜氏(釀酒職人的首領)自負為過去最上之作,向主人敬得一字以名之為『靜』。
これは静子が蔵元を務める酒蔵にて、杜氏(とうじ)(酒蔵で酒造りをする人たちの長)が過去一番の出来だと自負し、主人の名を一文字拝領して『静』としたという経緯がある。
那種如同清澈空氣、寂靜的冬晨般透明感的端麗辛口風味,據說令評審與自願試飲的天子都讚嘆不已,堪稱逸品。
空気が澄み渡り、シンと静まりかえった冬の早朝を思わせるような透明感のある端麗かつ辛口な口当たりには審査員を始め、味見を買って出た帝すらをも唸らせたという逸品だ。
因為全場一致評為最優秀且獲天子賜予五位,遂將名號改為『靜譽』,在酒徒間以驚人的價格交易。
満場一致で最優秀となった上に、帝より五位を賜ったことから銘を『静誉』と改め、酒好きの間では恐ろしい値段で取引されているという。
對這兩位酒鬼而言是垂涎的目標,但他們曾有前科,喝光了為信長特別準備的酒。
二人の飲兵衛にとっては垂涎(すいぜん)の的なのだが、彼らはかつて信長の為に特別に用意された酒を飲み干してしまったという前科がある。
結果是兩人遭到為期三個月的禁酒令,刻骨銘心地體會到周遭人吃著美味的飯配酒而自己只能流口水的痛苦。
その結果として三か月に亘る禁酒令を受けた二人は、周囲が旨い飯を食って酒を飲んでいるのに指を咥えているしかない苦しみを体に刻み込んだ。
回想那如地獄的三個月,猶豫不決也是在所難免。
あの地獄のような三か月を思えば、二の足を踏んでしまうのも仕方ないだろう。
「縱使是名酒,酒藏開放時也會拿來當作待客酒。先忍耐到那時吧。」
「いくら銘酒といえども、酒蔵開放の折には振る舞い酒となるだろう。それまでの我慢よ」
「今年新釀的酒一入庫,舊的就會依序更換。到時各種酒都會拿出來款待,不如先在上面唾一下等到那時吧」
「今年仕込まれた新しい酒が入ると、古いものから順に入れ替えとなるからな。その時はあらゆる酒が振る舞われるゆえ、その時まで唾(つば)を付けておくとしよう」
無論酒藏多適合長期保存,隨著儲藏時間愈長味道還是會下降。
如何に長期保存に適した酒蔵であろうとも、流石に保存期間が長くなるにつれて味が落ちてしまう。
一般來說日本酒不像葡萄酒或威士忌那樣經年熟成來享用,通常以一年左右喝完為準。
一般的に日本酒はワインやウイスキーのように、何年も熟成を重ねて楽しむようにつくられておらず、おおむね一年程度で飲み切ってしまうのが目安とされる。
因此靜子每年都會設一個開放酒藏的日子,將舊酒與新酒互換。
それゆえ静子は一年ごとに古い酒と新しい酒を入れ替える酒蔵開放の日を設けていた。
在這一天,從在靜子宅工作的人以及醸造所的倉人(杜氏以外的酒職人)到外來人士都會被邀請來享受款待酒。
この日に限っては静子邸で働く人々や醸造所の蔵人(くらびと)(杜氏以外の酒職人)を始め、外部の人々すらも招いての振る舞い酒が供されるのだ。
理所當然地,身為靜子主君的信長也會被邀請,但他偏愛甜食勝過酒,於是貴重的酒便輪到兼續等越後勢與藤次郎等伊達勢享用。
当然のように静子の主君である信長も招かれるのだが、彼は酒よりも甘いものを好むため兼続たち越後勢や藤次郎たち伊達勢などにも貴重な酒が回ってくるという訳だ。
「好,為了不讓其他愛酒之人發現,把桶靠邊並轉向背面吧!」
「よし、他の酒好きに見つかりにくいように樽を端に寄せて裏を向けておこう!」
「那是好主意!那麼今天就喝這個『東之司』吧」
「それは名案! では今日はこの『東(あずま)の司(つかさ)』にしようか」
「好,那就轉到酒德利裡吧」
「ようし、それじゃ徳利に移すぞ」
話音剛落,慶次便打開標有『東之司』的酒桶,拿出帶來的柄杓與漏斗把酒換裝到酒德利裡。
そう口にするやいなや慶次は『東の司』と銘打たれた樽を開けて、持ち込んだ柄杓(ひしゃく)と漏斗(ろうと)を使って酒徳利(さかどっくり)に移し替える。
靜子的馬廻侍眾人人都愛酒,加上兼續共四人常常帶著酒與下酒菜聚在一起飲宴。
静子の馬廻り衆は皆酒好きなのだが、そこに兼続を加えた四人は度々酒と肴(さかな)を持ちよって酒宴を開くのだ。
兩人一組分成酒班與肴班各自去準備,然後帶來聚成宴會,已成慣例。
二人一組となってそれぞれに酒班と肴班に別れて調達し、それを持ちよって宴が催されるのが定例となっていた。
「美味的酒與下酒菜,只要有這些就能活下去」
「旨い酒と肴、これさえあれば生きてゆける」
「越後也能不能釀出清酒呢……若織田大人統一天下,回去要拜託靜子大人試試看」
「越後でも清酒を造れぬものだろうか……織田殿が天下統一をなさったら、静子殿にお願いしてみよう」
「玩吃睡的生活要結束了。回到越後後不如努力做做釀酒如何?」
「遊んで食べて寝る、という生活が終わるな。越後に戻ったら酒造りに精を出してみてはどうだ?」
「若能成為太平之世,那或許也不錯」
「泰平の世となるならば、それも良いやも知れぬ」
「喔,已經滿了嗎」
「おっと、もう満杯か」
看到酒德利裝滿,慶次停下手來。
酒徳利が満たされたのを見て慶次が手を止めた。
然後放在地上的酒德利有六個,他把它們用帶來的繩子綁起來掛在腰間。
そして床に置かれた酒徳利は六つ(・・)、それらを纏めて持参した縄で首を縛って腰に結わえ付ける。
即便相當有重量,慶次仍輕快步伐朝出口走去,兼續緊追其後,腰間綁了四個酒德利。
それなりの重量が有るというのに軽い足取りで出口へと向かう慶次を追って、兼続も腰に四つ(・・)の徳利を括り付けて後に続いた。
「今晚也來好好享受夜酒吧」
「今宵も楽しい夜酒と洒落こもう」
聽慶次歡悅的聲音兼續點頭。翌日四人皆醉倒睡過午,這就不必多說了。
慶次の楽しげな声に兼続が頷く。翌日、四人とも酔い潰れて昼まで寝過ごしたのは語るまでもない。