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戦国小町苦労譚

ワーカホリックに効く薬

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静子邸には数多くの動物たちが人ともに生活をしている。

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その筆頭はハイイロオオカミのヴィットマンとバルティの子であるカイザー、ケーニッヒ、アーデルハイト、リッター、ルッツの5頭。

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他にもマヌルネコの丸太、ターキッシュアンゴラのタマとハナ、ユキヒョウのゆっきー、しろちょこ、ミミズクのアカガネとクロガネ、オウギワシのシロガネが邸内を住処(すみか)としている。

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そして飼育している訳ではないが静子邸のゴミ捨て場付近を縄張りとするカラス達が屯(たむろ)していた。

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「丸太……寝るならあっちに寝床があるよ?」

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静子の文机(ふづくえ)でど真ん中に陣取り、丸くなっている丸太をつつきながら静子が呟く。

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彼女が言うように、静子の私室には藁で編んだ小型の『かまくら』のような物体が無造作に設置されていた。

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これは『猫ちぐら(または猫つぐらとも)』と呼ばれる物であり、狭い場所を好む猫の習性を利用した猫用のベッドとも言える。

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藁を丁寧に編み込んで作られる猫ちぐらは通気性が良いにもかかわらず、保温性も高いという矛盾を成立させる工芸品であり、猫にとって居心地の良い寝床となるはずなのだが丸太がこれを利用することは無い。

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一体何が気に入らないのか、色々な猫ちぐらを丸太に与えたが見向きもされず、気が付けば静子の文机のど真ん中で丸くなっているのが常である。

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強引に動かしても必ず戻ってきて陣取るため、静子は仕事の手を止めるか、それとも机の端で仕事を続けるしかない。

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「まったく。私はこう見えても忙しいんだぞ?」

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口では文句を言いつつも、静子は笑顔を浮かべて丸太の背中を優しく撫でる。静子が丸太に構っている気配に気づいたのか、何処からともなくカイザーたちも室内に入り込んできて静子の足元をうろうろし始めた。

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そんなカイザー達の様子を愛らしく思った静子は、椅子から立ち上がるとカイザーに抱き着くようにして覆いかぶさってその毛並みを堪能する。

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そうこうする内に静子は愛用のブラシを取り出して本格的にカイザーたちの毛繕(けづくろ)いに着手し、小一時間もすると静子及びカイザーたちは床に大の字になって寝転んでいた。

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一仕事をなしおえた静子は体に付着した毛を払い落しながら満足げに立ち上がると、中断した仕事を再開しようと文机の方へと視線を向ける。

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静子の決裁を待つ書類は未だに残っているが、相変わらず丸太が机上を占拠しており動く気配がない。

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「今日はもう良いか……」

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急に仕事を続ける気が失せてきた静子は、諦めて仕事道具を片付け始めた。

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仕事中毒(ワーカホリック)の静子が自主的に仕事を中断したのを見た丸太は、大きく欠伸(あくび)をしながらもそれで良いとばかりに尻尾で静子を撫でる。

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暫く静子の文机に陣取っていた丸太だが、静子が仕事を再開しないことに満足したのか唐突に起き上がって部屋から出て行った。

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それを見送った静子は、丸太が戻ってくる様子がないのを見て仕事の虫が疼(うず)きはずめる。

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静子は中断していた仕事を再開できるかなと思い、仕事道具を取り出そうと腰を上げかけた。

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すると今度はカイザーたちが一斉に静子の文机を囲むように円を描くように寝始める。

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一番体の大きいカイザーに至っては、丸太がいないのを良いことに文机の天板上で横になって寝そべり、机の端から端までを占領してしまった。

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こうなってしまえば静子の腕力ではカイザーをどかせることも出来ない。

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「はい降参」

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どうあっても静子に仕事をさせないというカイザー達の態度に、静子はついに手を挙げた。

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カイザーが仰向けになって寝ているのを良いことに、静子はカイザーの腹に顔を埋めてその柔らかい毛並みと確かな体温を確かめる。

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こうして静子がカイザーのぬくもりを感じていると、ケーニッヒやアーデルハイトも次は自分だとばかりにすり寄ってきた。

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存分に狼たちと触れ合って幸せ成分を補給した静子は、狼たちと共に床に寝転がって天井を見上げながら呟く。

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「……明日でいいか」

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彩が聞けば思わず問い返しそうな言葉を口にした静子は、瞼を閉じて自分が枕にしているカイザーの心音を聴きながら夢の世界へと落ちていく。

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(偶にはこういう日も……悪くないよね)

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それを最後に、静子は意識を手放した。