戦国小町苦労譚
一五七七年 四月中旬
信長明明是春天,卻感到令人發抖的惡寒。
信長は春だと言うのに身震いするほどの悪寒(おかん)を覚えていた。
眼前的靜子笑容可掬,然而她周身的氣氛緊繃,甚至讓人覺得像有抜刀的刀刃抵在喉間般令人窒息。
眼前の静子はにこやかに微笑んでいるというのに、身に纏(まと)う空気が張りつめており、抜き身の刃物を喉元に突き付けられているかのような息苦しささえ感じる。
信長自從與靜子相遇已逾十年,但從未見過她露出如此明顯的憤怒模樣。
信長が静子と出会ってから十年以上もの時が経過しているが、これほどまでに怒りを露わにした姿は目にしたことが無かった。
「嗯、嗯。我剛回來。留守期間有變化嗎?」
「う、うむ。今戻った。留守中変わりは無かったか?」
面對異常的靜子,信長本想探口風發問,卻不巧踩到地雷。
尋常では無い様子の静子に対し、信長は探りを入れるつもりで言葉を投げかけたのだが、運悪く見事に地雷を踏みぬいた。
「你真的認為沒有變化嗎……」
「本当に変わりがないと、お思いですか……」
面對彷彿從心底感到厭惡的靜子回應,信長意識到自己的失言。話已出口難以收回,他只好接著說話嘗試圓場。
心底呆れたと言わんばかりの静子の返しに、信長は己の失言を悟った。しかし、既に放ってしまった言葉を無かったことには出来ないため、更なる言葉を継いで軟着陸を試みる。
「正因為你不像平常,我才特意問的。那麼,留守期間發生了什麼?說來聽聽。」
「貴様がいつにない様子だからこそ、敢えて聞いたまでのこと。それで、留守中に何があったのだ? 申してみよ」
由靜子口中道出的經過,讓信長心膽俱裂。
そうして静子の口から語られた経緯は、信長をして心胆寒からしめるものであった。
事情的起因在於信長沉迷於電信電話。
ことの発端は信長が電信電話に夢中になってしまった事にある。
以往信長在自己不在時設有與自己同等決裁權的『留守居役』一職,任命堀秀政為此,代掌留守之務。
これまでの信長は、己が不在時に自分と同等の決裁権を持つ『留守居(るすい)役(やく)』という職を設け、留守を預かる堀(ほり)秀政(ひでまさ)をこれに任じていた。
然而,被能跨越距離與時間的電話吸引的信長開始思索:無論身在何處,只要能聽到資訊就能判斷並下達指示,留守居役便顯得多餘。
しかし、電話という距離と時間を超越する道具に魅入られた信長は考えてしまったのだ。何処に居ても自分が情報を聞いて判断し、指示を出せるのだから留守居役は不要だと。
結果在信長匆忙向東國出發後,堀發覺自己並未被託付作為委任狀代替的朱印。
その結果として信長が慌ただしく東国に向けて出立した後、堀は信長の委任状代わりとなる朱印を託されていない事に気が付いた。
即便如此,堀也沒那麼慌張。革新的信長推進大膽的權限下放,連軍事上都建立到各方面軍能自主判斷行動的體制。
それでも堀は然程(さほど)慌てていなかった。革新的な信長の手によって大胆な権限移譲が推進された結果、軍事ですら各方面軍が独自に判断して動く事が出来る程の体制が構築されていたためだ。
當然像與他國開戰等國家大事仍需仰賴信長的判斷並取得決裁,但大多數事情靠部下當場判斷即可應付。
流石に他国とのいくさを始めるなどの、国家の一大事となれば信長の判断を仰ぎ決裁を受ける必要があったが、大抵のことは配下達によるその場の判断で事足りていた。
偏偏就在這種時候悲劇發生了。作為西國一翼的明智光秀在新納入的領地中,傳出靜子列為重大傳染病的「天花」流行的報告。
そしてそんな時に限って悲劇は起こる。西国組の片翼である明智光秀が新たに削り取った領内に於いて、静子が重大伝染病に指定している『天然痘(てんねんとう)』の流行が報告されたのだった。
天花是由天花病毒引起的空氣傳染性疾病。
天然痘とは天然痘ウィルスによって引き起こされる空気感染性の感染症である。
對人類具有非常高的傳染力,一旦出現一名患者,周遭近八成的人會被感染,其中約有接近一半的人喪命,是極為可怕的疾病。
人類に対して非常に高い感染力を誇り、一人でも罹患者が出れば周囲の人たちの8割近くが感染し、その半数近くが命を落とす恐ろしい病気とされていた。
由於有時會成為國家覆滅的原因,靜子將其定為重大傳染病並建立了訊息彙整的機制。
時として国家が滅ぶ原因にすらなる恐ろしい感染症であるため、静子はこれを重大伝染病と定めて情報が集まってくる仕組みを構築していたのだ。
在靜子原來的時代,天花早已被根除,但其恐怖性被反覆傳述,因此她自早期便與負責畜產的みつお協力擬定對策。
静子の元いた時代では根絶されて久しい天然痘だが、その恐ろしさは営々と語り継がれていたため、彼女も早い段階から畜産を任せているみつおと連携して対策を練っていた。
那就是史實上英格蘭醫師愛德華·詹納引入的種痘。
それは史実に於いてイングランドの医師であるエドワード・ジェンナーが行った種痘(しゅとう)の導入であった。
種痘基於經驗法則:感染呈現與天花相似症狀的「牛痘」的人,不會罹患天花,或即使罹患也不會重症化。
種痘とは牛が罹患する天然痘に良く似た症状を呈する『牛痘(ぎゅうとう)』に罹患した人は、天然痘に罹患しない、しても重症化しないという経験則に知見を得ている。
換言之,故意將牛痘病毒接種於人體,使人感染牛痘,從而提高對天花的抵抗力,可視為免疫療法的先驅。
ようするに人に対してワザと牛痘ウィルスを植え付け、牛痘に罹患させることで天然痘に対する抵抗力を高めようという免疫療法のはしりであった。
順帶一提,後來研究發現牛痘病毒與天花病毒之間並無免疫交叉作用,詹納能發現天花疫苗在某種程度上屬於偶然的結果。
余談だが後年の研究によって牛痘ウィルスと天然痘ウィルスには免疫交差の作用が無いことが判明し、ジェンナーが天然痘ワクチンを生み出せたのは偶然に拠るものであった。
基於這些認知,靜子與みつお從牛痘病毒以及馬版的馬痘病毒,從病灶產生的「痘」處採取膿與瘡蓋,作為疫苗材料。
これらを踏まえて静子とみつおは牛痘ウィルスや、馬版である馬痘ウィルスを、病気によって出来る『痘(とう)』(おできのこと)から膿(うみ)や瘡蓋(かさぶた)ごと採取し、ワクチンの材料とした。
將這些塗於稱為二股針的器具尖端,在受試者上臂劃傷並植入皮內;接種後數日會產生膿疱,約一個月左右愈合並留下當時稱為「あばた」的瘢痕(類似瘢痕性牽引)。
これらを二股針と呼ばれる器具の先端に付けて、被験者の上腕部に傷をつけ皮内に植え付ける。こうすると接種後数日で膿疱(のうほう)(膿を内包するできもの)を生じ、約一か月程度で当時『あばた』と呼ばれた瘢痕(はんこん)(ケロイド状のひきつれ)を残して治癒する。
當然,靜子等人並非受過專業醫學訓練,他們的嘗試並不順利。靜子剛來戰國時參考電子書抄錄的資訊,經歷了漫長而艱辛的反覆試驗。
当然ながら医療を専門に学んでいない静子たちの取り組みは上手くいかなかった。静子が戦国時代に来た当初に電子書籍から書き写した情報等を参照し、長く苦しい試行錯誤が繰り返されることになった。
有時即便進行種痘也無法取得預期的免疫,或產生因種痘而致命的重度腦炎患者。克服這些犧牲後,他們持續篩選出毒性較弱但可誘發免疫的病毒株。
種痘をしたにも拘わらず意図した免疫を獲得できなかったり、種痘が原因で重篤な脳炎を発症する患者が出たりもした。そうした犠牲を乗り越え、毒性が弱いものの免疫は獲得できるウィルスを選別し続けた。
經過這些過程,直到近年才製造出一種被普遍認為接種後所獲益處大於風險的疫苗。
こうした経緯の末、やっと近年になってワクチンを接種することで被るリスクに対し、得られるメリットの方が大きいと誰もが認めるレベルのワクチンが製造されるようになっていた。
該疫苗雖已弱毒化,仍保有病原性,若一點處理不慎可能釀成大禍,故使用時必須必定取得信長的決裁。
このワクチンだが、弱毒化しているとは言え病原性を保持しており、少しでも取扱いを誤れば大惨事を招く可能性があるため、使用に際しては必ず信長の決裁を仰ぐことと定められていた。
靜子在其根據地尾張逐步向領民擴大預防接種,每次皆獲信長批准;甚至明文規定未經許可者將受重罰。
静子のお膝元である尾張から徐々に領民に対し、予防接種を拡大しており、その都度信長の了承を得ていたという経緯がある。無許可で行った際には厳罰に処すと明文化されてすらいた。
加上營養與衛生環境的飛躍改善,幸運的是在主要的織田領內實際上並未發生天花流行。
こうした努力や、栄養状態及び衛生環境が飛躍的に向上していることもあり、主要な織田領内にて実際に天然痘が流行するという事は幸いにして起こっていなかったのだ。
然而新獲得的領土與對外接觸頻繁的前線情況不同,天花的流行終於發生,而且還選在最糟糕的時機。
しかし、新たに獲得した領土や他国との接触が盛んな最前線は違う。起こるべくして天然痘の流行は発生した。それも最悪のタイミングというおまけつきだった。
若醫療技術發達,天花發病可用化學療法等治療,但在戰國時代無此可能。基本上罹患者只能被隔離,任其自然痊癒。
医療技術が発展していれば天然痘が発症しても化学療法等で対処可能だが、戦国時代には望むべくもない。基本的に罹患したら隔離して、自然治癒に任せるしか方法が無かった。
但若施行靜子等人開發的種痘,無論在感染前或最初期感染時,仍可期待一定程度的免疫效果,因而成為希望之星。
しかし、静子たちが開発した種痘を施せば感染前は勿論、最初期であれば感染してもある程度の免疫効果が望めるという希望の星である。
作為織田家的重臣,光秀對這些資訊的反應迅速。
織田家に臣従する重臣としてこれらの情報を共有されていた光秀の行動は迅速であった。
他對部下帶來的情報進行查證,確認確實有呈現天花特有症狀的病人出現,且正以驚人速度在其領內蔓延。
配下から齎された情報に対して裏取りを行い、間違いなく天然痘特有の症状を呈する病人が出ており、それが自身の領内にも恐るべき勢いで広がっているという状況を確認した。
於是他作為緊急通報派出先遣,向持有與保存疫苗的靜子,以及握有使用決定權的信長(因信長不在,此處由留守居役堀代理)求援。
その上で緊急通報として先触れを遣わし、ワクチンを保有及び保管している静子並びに、それの使用決定権を握る信長(不在のため、ここでは留守居役の堀)に助けを求めた。
然而此次堀並未被授予決裁權,且不幸的是信長帶著德川家康遊覽富士,連極機密的電話定期聯絡都未進行。
ところが今回に限って堀は決裁権を与えられておらず、また不幸にも信長が富士遊山に徳川家康を帯同していたため、秘中の秘である電話を用いた定期連絡すら行われることが無かったのだ。
此事處理愈遲,災害便愈擴大且難以挽回。雖對流行地的民眾禁制遷徙並透過隔離封鎖感染擴散,但被隔離的區域卻成為地獄。
この問題は対応が遅れれば遅れる程に被害が拡大し、取り返しがつかなくなってしまう。流行地の民たちには移動を禁じ、感染の拡大を隔離することで封じ込めてはいるものの、隔離地域は地獄となる。
疫病蔓延,一旦罹患便無法挽救,人人可能倒下;在被領主兵士包圍封鎖、只能默默等待死亡的情勢下,民眾的心情令人不勝唏噓。
罹患すれば助からない死病が蔓延し、いつ己も病に倒れるかも知れない状況で、領主の兵に囲まれて封鎖された中でひたすらに死を待つのみの民たちの心情は察するに余りある。
「什麼……那麼,是因為我一時的任性,讓本可得救的民命被置之不顧嗎?明明有可救之法,卻讓日向守(即光秀)去處置嗎……」
「なんと……それでは、わしの気まぐれのせいで助かる民の命が見殺しにされたというのか? 助けられる手立てがありながら日向守(ひゅうがのかみ)め(光秀のこと)にそれをさせたというのか……」
「不,我是擅自下令運送疫苗並實施種痘的。因堀大人向我諮詢,苦於明智大人與上樣所定法令之間的兩難,我當場決斷,故損害得以壓至最低限度。」
「いえ、私が独断でワクチンを運ばせ種痘を実施しました。明智様と上様の定められた法との板挟みに苦しむ堀様よりご相談を受け、その場で決断しましたゆえ、被害は最小限度に抑えられたことでしょう」
「真的嗎!?做得好,靜子!」
「まことか!? でかしたぞ、静子!」
「承蒙讚許,實在惶恐。並且,正因如此,我願領罰。」
「お褒めに与(あずか)り恐縮でございます。そして、それ故に罰を賜りとう存じます」
「你、你在說什麼!你當時採取的是最善之策不是嗎!?」
「な、何を申しておるのだ! 貴様はその場に於いて最善の手を打ったではないか!?」
「我至今仍堅信那個判斷無誤。」
「今でもあの判断は間違っていないと確信しております」
「既然如此……」
「ならば……」
「即便如此,法仍須被遵守。所謂惡法亦為法。即便法本身有問題,違法者若不受懲處,亦無以彰顯法度。」
「それでも法は守られねばなりませぬ。悪法もまた法なりと申します。たとえ法の側に問題があったとしても、それに反したものが罰されぬのでは示しがつきませぬ」
「那是我所定之法!我赦免靜子的行為──」
「わしが定めた法じゃ! 静子の行いはわしが赦す――」
「不行!法是人人平等必須遵守的東西。上位者若不遵守法,豈有何意義?我們必須以身作則,示範法的絕對性。」
「なりません! 法とは万人が等しく守らねばならぬもの。上の者が守らぬ法など、何の意味がありましょう? 我々は法が絶対のものであると身を以て示さねばならぬのです」
「你是說……要懲罰替我擦屁股的你嗎……」
「わしに……わしの尻ぬぐいをした貴様を罰せと言うのか……」
「是的。上樣必須向眾人示範榜樣。當然會有人誹謗上樣,但即便如此,也請忍耐施以懲罰。」
「はい。上様が皆に範を示さねばならぬのです。当然、上様を悪く言う者も現れましょう。それでも尚、堪(こら)えて罰を下して頂きとうございます」
信長前所未有地陷入苦惱。他親自制定的規範『織田家諸法度』(織田家相關者應遵守之法)中,對重大命令違反有明定之刑罰。
信長はかつて無い程に苦悩していた。信長自身が定めた規範である『織田家諸法度(しょはっと)』(織田家に連なるものが守るべき法)には重大な命令違反に対する刑罰が規定されている。
靜子此次所犯的命令違反,被視同擅自向諸國開戰;其量刑從沒收領地並命令當主等直系姻族切腹的『家斷絕』,到追加年貢不等。
今回静子が犯した命令違反は、勝手に諸外国に対して戦争を仕掛けるに等しいとされるものであり、その量刑は領地没収のうえ当主を含む直系姻族に切腹を申し付ける『お家断絶』から年貢の加増までとなっていた。
換言之,不論信長多麼手下留情,最高仍可能對靜子處以死刑,最低也會在她所繳納的龐大年貢上再加一成。
つまり信長がどれ程手心を加えようとも、最高で静子に死を申し付けることになり、最低限度にとどめても静子が収めている莫大な年貢に対して更に一割を加増して申し付けることになるのだ。
聽到加一成,或許會想「哪,那種程度而已」,但對正常經營領地者而言,多出一成的稅負會使可支配所得劇減,甚至可能導致溫飽出現困難。
一割増と聞けば「なんだ、その程度か」と思いがちであるが、通常の領地運営をしている者にとって一割もの追加税負担を求めれば可処分所得は激減し、下手をすれば食うに困ることすら起こり得る厳しいものとなる。
更何況靜子不僅以農業為業,亦廣泛經營諸多事業,因此所有這些皆將一律被加徵一成的追加稅負。
更に言うならば静子の場合、本業である農業だけに留まらず多方面に事業を展開しているため、それら全てに対して一律一割の追加税負担が発生してしまう。
作為首要納稅者,靜子所繳稅款的一成便相當於一個中等規模領地的年貢總額,縱然是靜子也無法輕易調動如此龐大之款項。
筆頭納税者である静子が収めている税の一割ともなれば、中規模領地の年貢総額に相当し、如何に静子といえども右から左へポンと動かせるような額ではない。
「可以嗎?貴女所繳年貢的一成將是龐大數目。且不可將這筆負擔轉嫁給百姓……」
「良いのだな? 貴様の収める年貢の一割ともなれば途方もない額となる。更にそのツケを民に回すことも罷(まか)りならぬのだぞ……」
「是。幸而我有充足的蓄積。不能說毫不痛楚,但不致妨害領地運營。請不必顧慮,盡管下旨。」
「はい。幸いにして私には充分な蓄えがございます。痛くも痒くもないとは申せませぬが、領地運営に支障をきたすような事はございませぬ。ご遠慮なさらず御申しつけ下さい」
「抱歉。是我愚蠢,我向你發誓不會再踏上同樣的覆轍。」
「すまぬ。わしが愚かであった、二度と同じ轍(てつ)は踏まぬことを貴様に誓おう」
信長說罷幾乎低首伏地向靜子致歉;若此非在靜子府邸,若有人見到此景恐怕會釀成大問題。
信長はそういうと静子に対して地面に額を突けんばかりに頭を下げた。もしここが静子邸でなく、誰かにこの様子を見咎められれば大問題となるほどの謝罪であった。
「上樣,請抬起臉來」
「上様、お顔を上げてください」
靜子走上前,輕輕握住他緊握並抵於地面的拳頭。她溫柔地放鬆那握到滲血的拳頭,一邊對他說話。
静子は信長の前に歩み寄り、彼が握りしめて地面に突いている拳をそっと手にとった。血が滲(にじ)む程に握りしめられている拳を優しく解(ほぐ)しながら、静子は彼に語り掛ける。
「此次之事也讓我膽寒。我擔心若不強行協助明智大人,將會釀成大禍,反過來落到上樣身上,於是便擅自表明主張。」
「此度(こたび)のことは私も胆が冷えました。横車を押してでも明智様へ御助力せねば、大きな禍根となって上様に返るやも知れぬと思い差し出口を申してしまいました」
「靜子……」
「静子……」
「上樣,我想看看您所描繪的日本模樣。雖是小事,但再堅固的堤防也可能因一個蟻穴而崩壞。請務必努力,不要辜負忠臣堀大人與明智大人的期待。」
「上様、私は上様が描かれる日ノ本の姿を見てみたいのです。些細なことですが、どれ程堅固な堤を築いたとて蟻の一穴(いっけつ)から崩落を招くことがございます。忠臣である堀様や、明智様のご期待を裏切らないようおつとめ下さい」
就這樣此次騷動得到了解決。於主君留守期間擅自決定援助他領的靜子,將被處以年貢追加一成的處罰,此事已廣為周知。
こうして今回の騒動は決着することとなった。主君の留守中に専決事項である他領への支援を行った静子へは年貢一割加増の罰が下されることが周知された。
並以追徵之稅設立基金,運營針對傳染病的研究機構,對織田家相關者一律提供醫療支援。
またその追徴した税により基金が創設され、伝染病に対する研究機関を運営し、織田家に連なるものには分け隔てなく医療支援が行われるというものだ。
且信長將有關傳染病處置的權限委授予該機構,緊急時可由其獨自主導分發疫苗等措施。
そしてこの機関に対して伝染病の対処に関する権限を信長から委譲し、緊急時には独自の判断でワクチンの配布等が出来るようになるという。
聞此消息的諸將改變了對法的認識。見信長為己之不明而感羞並修正法令、以免重蹈覆轍的姿態,也讓人理解嚴格法運用的難處。
これを知らされた諸将は、法に対する認識を改めることになった。また、信長自身が己の不明を恥じて法を修正し、二度と同じことが起こらぬよう務める姿勢を見て、厳格な法運用の難しさを知った。
鄰國明有句典故曰『哭著斬馬謖』,此事便成為正是如此的傳說之一。
隣国である明(みん)の故事に『泣いて馬謖(ばしょく)を斬る』というものがあるが、これが正にそうなのだと語り継がれることとなる。
信長自甲州回來,進入安土城後,對他留守期間所發生之事進行了處理。
信長が甲州より戻り、安土城へと入ったのち、彼の留守中に起こったことに対しての処理が行われた。
在向諸將通達要處置違法的靜子之時,信長的傍系親族之一族被抄沒家產,並遭到從家系圖上抹去的嚴厲處分。
諸将に対して法を犯した静子を処断する旨が通達されると共に、信長の傍系親族に当たる一族がお家取り潰しとなった。家系図からもその一族が抹消されるという厳しい処分が下された。
諸將見到為信長承擔罪責、即便自受不利的靜子,與為私利私慾圖謀顛覆國家之逆賊形成鮮明對比,皆自我反省、整頓行為。
片や己が不利益を被(こうむ)ろうとも信長の為に罪を被った静子と、己が私利私欲のために国家転覆を謀(はか)った逆賊との対比に諸将は襟を正すこととなった。
即便信長不在,也讓人真切感受到像天眼般窺見一切的監視機制確實存在。
たとえ信長が留守にしていようとも、全てを見通す天の目であるかの如き監視機構が存在することを実感することとなる。
一連的風波平息,到了四月中旬,接手甲州事務的信忠返回岐阜。
一連の騒動が落ち着き、四月も半ばとなった頃。甲州での作業を引き継いだ信忠が岐阜へと戻ってきた。
本來計畫趁勢直攻北條,然而或因氣溫回升較往年緩慢,殘雪仍重,不得不返回重檢計畫。
本来であればこのまま一気に北条攻めへと向かう予定であったが、例年より気温の上昇が遅いのか残雪が厳しく、一度計画そのものを見直す必要性に駆られての帰還であった。
由於甲州征伐本身已較預定提前推進,現階段無須強行冒進,應沉心重整計畫,整備萬全後再向小田原征伐發起挑戰。
甲州征伐自体が予定よりも前倒しで進んでいるため、この時点で無理を押す必要はない。腰を据えて計画を練り直し、万全の体勢を整えた上で小田原征伐に挑むこととなる。
對於這段突如其來的空白期,各陣營都認為事態的變動要等到雪融之後才會發生。因此展開了積極的情報蒐集,陣營之間的間諜們也開始暗中活動。
降って湧いたような空白の期間に対し、各陣営ともに事態が動くのは雪解けを待った後となると認識していた。それ故に活発な情報収集が行われ、各陣営の間者たちが暗躍することとなる。
對此靜子為警戒違反而自行閉門蟄居(類似自宅禁足),因此沒有人注意到在她屋敷中生活的上杉家人質已經消失。
これに際して静子は命令違反に対する戒めとして自主的に屋敷を閉門し、蟄居(ちっきょ)(自宅謹慎のようなもの)をしていたため、彼女の屋敷で生活していた上杉家の人質たちが姿を消していることに気付くものは居なかった。
「我並不記得有許可帶著四六去……不過如果是四六自己想去也沒辦法呢。只不過,看來會成為個奇怪的初陣啊。」
「四六を連れてゆくことを許した覚えはないんだけど……四六自身が望んだのならば仕方ないかな。しかし、奇妙な初陣を果たすことになりそうだね」
對靜子而言的意外,是連四六也跟隨慶次前往協助上杉家的騷動。
静子にとっての誤算は、上杉家の騒動へ加勢に向かった慶次に四六までもが付いて行ったことであった。
慶次等人出發赴越後的隔日早晨,四六的房間裡只留下了一張紙條,主人不見了。紙條上只寫著「去增廣見聞」。
慶次らが越後に向けて出立した翌朝、四六の部屋には置き手紙一つだけが残されており、主人の姿は無かった。置き手紙には「見聞を広めて参ります」とだけ記されていた。
作為保護者的靜子無法縱容作為下一任當主的四六為所欲為,但無論如何靜子終將比四六先離世,獨立之時終會到來。
保護者である静子としては次期当主である四六の勝手を看過できないが、どう足掻いたところで静子は四六よりも早くに世を去るため、いずれ独り立ちの時は来る。
靜子決定尊重那個過於聽話的四六所做出的決心。
聞き分けの良すぎるきらいすらある四六の覚悟を尊重しようと静子は決めたのだ。
作為兄長的慶次允許四六同行,表示四六已向他示出相當的覺悟與足以自保的能力。否則他不會在那種可能全軍覆沒的作戰中,特意背負一個累贅。
兄貴分である慶次が四六の同道を許したということは、それなりの覚悟と己の身を守れるだけの腕前を彼に示したという事だ。そうでなければ全滅すらあり得る作戦に、わざわざ足手まといを背負いこむような真似はするまい。
但即便如此,靜子仍然非常擔心四六。戰場上不知道會發生什麼,想到最壞可能會失去四六,甚至連臨終都見不到,便坐立不安。
しかし、それでも静子としては四六のことが心配でならなかった。いくさ場では何が起こるか判らない。最悪四六を失い、死に目にも会えないかも知れないと思うと居ても立っても居られない気持ちになった。
「總之,只能祈禱他平安活著回來了……」
「いずれにせよ、無事に生きて戻ってきてくれることを祈るしか無いか……」
與靜子的苦惱無關,織田家內則是震盪不止。靜子蟄居期間能免於捲入這場騷動,或許是天意。
そんな静子の苦悩をよそに、織田家では激震が走っていた。蟄居中の静子がこの騒動に巻き込まれないで済んだのは天の配剤であったのだろう。
事件的起因在於信忠未與信長商量便突然向周遭宣稱「將松姬立為正室」。
ことの発端は信忠が信長に相談することもなしに、突如として「松を正室とする」と周囲に宣言したことにあった。
就連向來強勢的信長也大怒,召信忠到安土命他撤回。但信忠反抗,始終不肯點頭。
流石の信長もこれには激怒し、信忠を安土へと呼び出して撤回するように命じた。ところがこれに信忠は反発し、ついぞ首を縦に振ることは無かった。
史實中,信忠在隔年娶了塩川伯耆守長滿之女鈴姬,次年據稱生下嫡子三法師。
史実に於ける信忠は塩川(しおかわ)伯耆守(ほうきのかみ)長満(ながみつ)の娘である鈴姫を翌々年に娶っており、その翌年には嫡子である三法師(さんぽうし)が生まれたとされている。
但在此世中荒木村重並未造反,信長與塩川並未走近,出現了這樣的出入。現狀下荒木村重不可能起兵叛亂,因此信忠的正室之位仍是空缺。
ところが今世に於いては荒木村重が謀反を起こしておらず、信長と塩川が接近していないと言う齟齬(そご)が発生していた。現状では荒木村重の謀反など起こりようもないため、信忠の正室の座は空位となっている。
原本松姬早已被內定為信忠的正室。但織田家與武田家反目,盟約被廢,婚約被解除,正室之事也歸於無。
元々は松姫こそが信忠の正室として内定していた。ところが織田家と武田家は敵対し、同盟が破棄されるに至って婚約は解消され、同時に正室の話は無に帰していた。
因此雖然允許信忠娶松姬,卻沒有人認為會把她立為正室。彼時正室往往牽涉濃厚的政治考量,將亡國之姬松姬立為正室無任何利處。
故に信忠が松姫を娶ることは許されたものの、正室に据えることは無いと誰もが考えていた。この時代の正室というのは政治的な思惑が強く絡むため、亡国の姫である松姫をそこに据えることにメリットは皆無である。
反而可能給夢想武田家復權的殘黨可乘之機,只有弊無利。因此對於此次信忠的宣言,不僅信長多次要求其重新考量,就連信忠的側近也一再勸阻。
逆に武田家の復権を夢見る残党に付け入る隙を見せることにもなりかねず、デメリットしか無いのだ。それゆえに今回の信忠の宣言に対し、信長からだけでなく信忠の側近からすら考え直すよう何度も申し入れがあった。
而這正使信忠變得愈發固執。一旦他下定決心,縱用撬棒也撼動不了。信忠確實繼承了信長既是長處亦可能成為短處的這份特質。
そしてそれこそが信忠を意固地にさせてしまった。一度こうだと決めれば梃子(てこ)でも動かない。信長の長所でもあり、短所ともなりうる特質を信忠もしっかりと受け継いでしまっていた。
「難得有一場父子吵架啊。那孩子也會為自己的發言承擔責任,我這邊倒也無話可說吧。」
「久方ぶりの親子喧嘩か。あの子も自分の発言に対する責を負うつもりだろうし、私からは何も言うことは無いかな」
走投無路的信忠側近曾寄書求靜子這位他的姊長出面調停。但靜子以正在蟄居為由拒絕介入。
万策尽きた信忠の側近が、彼の姉貴分である静子に対して仲裁を求める書状を送ってきていた。しかし、静子は蟄居中であることを理由にこれに関与することを断った。
過去也發生過類似衝突,最終總是由信長與信忠互相尋求妥協點,找出折衷方案。靜子認為即便外人不出手,這次也會如此收場。
今までにも似たような衝突は幾度としてあったし、最終的には信長、信忠共に互いに妥協点を探り合い、落としどころを決めていた。外部が手を出さずとも今回もそうなるだろうと静子は思っている。
「話說回來,他為何執意要立為正室呢?若被視為存有野心,松姬會被處分,她不可能想要那個位置;即使是側室也不應有太大不便。既然不明白那孩子的算計,最好別莽撞碰到樹叢招出蛇來。」
「それにしても何故正室にすることに拘ったのかな? 野心有りと見なされれば処断される松姫の側がそれを望むはずもないし、側室であっても特に不都合は無いはず。あの子の思惑が判らない以上、下手に藪を突いて蛇を出すような真似はしない方が良いよね」
有了這些考量,靜子宣稱不介入此事。之後她仍命令部下的間者繼續蒐集情報,但並未帶回令她在意的報告。
こうした考えもあって、静子はこの問題には関与しないと宣言した。その後も情報収集は続けるよう、配下の間者に命じていたが気になるような報告は齎されていない。
就在此時,一則與以往性質不同的緊張報告送到靜子處。
そんな折に、これまでとは毛色の違う緊迫した報告が静子の許へと届けられることになる。
「竟然敢正面挑戰,真想不到啊。」
「まさか真正面から挑んでくるとはね」
一直在幕後暗中活動的上杉景虎宣示自己為親北條派,並向正在靜子宅滯留的景勝發出書狀,表示「決一雌雄」。
今まで裏で暗躍していた上杉(うえすぎ)景虎(かげとら)が自身の立場を親北条派として表明し、静子邸に滞在していることとなっている景勝に対して「雌雄を決さん」と書状を送ってきたのだ。
景虎過去一直避免直接對立,對謙信與景勝佈局,企圖以謀略奪取上杉家,靜子對於他今竟要求直接對決的理由深思不已。
これまでずっと直接的な対立を避け、謙信や景勝に対して策をめぐらせ、謀略に拠って上杉家を乗っ取らんとしていた景虎が、今になって直接対決を求めた理由へ静子は思いを巡らせた。
「甲州征伐一施行,情勢或許就變了吧。」
「甲州征伐がなされたことによって状況が変わったんだろうね」
越後國仍是古老思想根深蒂固之地,盛行強者即正義的風潮。當謙信決定向信長臣服時,沒有人提出異議,無非是因為謙信比誰都強。
越後国(えちごのくに)は未だ古い思想が根強く残る土地であり、強きものこそが正義であるという風潮がある。謙信が信長に臣従することを決めた際も、これに異を唱えるものが居なかったのは、謙信が誰よりも強かったからにほかならない。
不過仍有為何選在此時的疑問。既然東國征伐剩下的目標是北條,北條家不太可能支援越後的騷動。現在當然是忍伏時機,等待時機成熟才是上策。
それにしても何故今なのかという疑問が残る。東国征伐の残る標的は北条である以上、越後での騒動に対して北条家が援軍を送れるとは思えない。今は雌伏の時として、機が満ちるのを待つのが得策だろう。
「聽聞甲州征伐的傳聞,他是判斷北條前途渺茫?還是想在末期綻放一朵花?」
「甲州征伐の噂を聞いて、北条の行く末が暗いと判断したのか。それとも最期に一花咲かせようと思ったのか」
無論如何,除景虎本人之外無人能知其心情。
いずれにせよ景虎本人を除いて彼の心情を知る者はいない。
「在人力動員上是劣勢,但若被正面挑戰,長尾殿也不能拒絕吧。若是點名本人的決鬥,縱然謙信也無法介入。」
「動員できる手勢の上では劣勢だけれど、正面から挑まれては長尾殿も断れないかな。本人を名指ししての決闘であれば、謙信であっても介入できないだろうし」
景勝被交作為織田家的質子,他可動員的兵力明顯少於景虎。景虎想必認為此刻是最能以己方優勢出戰的時機。
景勝は織田家に対する人質として差し出されており、彼が動員できる兵力は景虎と比べて明らかに少ない。今ならば最も己が有利な状況で戦えると景虎は考えたのであろう。
若指定景勝為決戰對象,便是在質疑他作為謙信繼承人的資質,因此就連謙信也無法介入。
景勝を指名しての決戦となれば、謙信の後継者としての景勝の資質を問うことになるため、ほかならぬ謙信であっても介入することが叶わない。
反之若景勝向謙信求援,將來會被輕視為不能證明自己是謙信繼承人的軟弱之人。
逆に景勝が謙信に対して援助を求めれば、己こそが謙信の後継者たることを示すことが出来なかった腰抜けであると軽んじられる未来が待っている。
因此景勝必須憑藉自身可動用的力量與景虎對戰。以景虎的立場來看,此處或許就是唯一的勝機。
ゆえにこそ景勝は自身の持ちうる力だけで景虎と戦わねばならない。確かに景虎の立場であれば、ここにしか勝機は無いと言えるだろう。
「兵力劣勢,且被直接挑戰而無從奇襲。這將是明顯劣勢下的艱苦戰鬥,或許因此慶次先生會覺得刺激有趣。但作為我家重要繼承人的初陣,未免太過殘酷了吧?」
「兵の数で劣り、直接勝負を挑まれたため奇襲するという道をも断たれた。明らかに劣勢な状況での厳しいいくさになるだろう、それゆえに慶次さんは楽しいのだろうけど。うちの大事な跡取りの初陣としては過酷すぎるんじゃないかな?」
靜子喃喃自語如此,然而她並不像口中所說的那般擔憂四六的安危。景勝所率之兵已受尾張文化薰陶,亦接受近代化的訓練。
そんなことを独り言(ご)ちる静子だが、彼女は口で言うほどに四六の身の上を危惧してはいなかった。景勝が率いる兵士たちは尾張の文化に触れ、近代的な訓練も受けている。
最重要的是,他們每日把尾張最精銳的部隊當作鍛鍊對手反覆特訓。若忘了有些因素不是單純以數量論就能衡量的話,便可能被人算計而失足。
何よりも彼らは日々の鍛錬相手として尾張の最精鋭部隊と何度も特訓を繰り返している。単純に数の理屈では測れない要因があることを忘れていると、足を掬われることになるだろう。
靜子有點期待,想看誤以為自己已把對手完美陷入計中的景虎,在知道景勝等人的實力後會露出什麼表情。
まんまと相手を策に嵌(は)めたつもりになっている景虎が、景勝たちの実力を知った時にどんな顔をするのか少し楽しみに思う静子であった。