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戦国小町苦労譚

一五七七年 四月上旬

武田領正面臨前所未有的危機。西方織田軍如怒濤般壓來,而本應成為退路的南方也被德川軍穩步逼近。

武田領は未曽有(みぞう)の危機に瀕(ひん)していた。西からは織田軍が怒涛の勢いで攻め寄せており、退路となるはずの南方からは徳川軍が着実に攻め上がってきている。

此外,統領武田家的勝頼與領民的關係嚴重惡化。尤其在靠近美濃的西端邊境村落,不僅不願應徵,甚至與敵國通謀,將織田軍引入境內。

更には武田家を率いる勝頼と領民の関係が著しく悪化していた。とくに武田領の西端付近、美濃との国境(くにざかい)近くの村では徴兵に応じないだけに飽き足らず敵国と通じて織田軍を領内に招き入れるまでに至った。

此事主要受真田昌幸的離間之計影響頗大,但勝頼自己亦有問題:未能團結本應輔佐當主的宗族,施行忽視領民的壓政。

これは主に真田昌幸による調略の影響が大きいのだが、本来当主を補佐すべき一族衆を纏(まと)めきれず、領民を顧(かえり)みない圧政を敷いた勝頼にも問題がある。

隨著敵軍逼近,領內情勢愈加嚴峻,終於以武田家一族首領穴山信君投向織田為契機,組織徹底瓦解。

こうした領内の状況は敵軍が迫るほどに深刻さを増し、遂には武田家一族衆筆頭である穴山(あなやま)信君(のぶただ)が織田家に寝返ったことを契機に組織が完全に崩壊した。

看清主家前途的一族人在織田軍面前多半迅速投降,或為了獲得更有利的戰後處遇而對織田軍提供方便的人也昌多。

主家を見限った一族衆は織田軍を前にすると早々に降伏し、あるいは少しでも有利な戦後を迎えるべく織田軍に便宜を図る者も多く出た。

「名震一時的武田命運也到此為止。汝等還是回到爾之本家北條去為妙」

「名にし負う武田の命運も最早これまで。其方(そなた)は親元である北条へと帰るがよい」

勝頼帶著悔恨這麼說。收到織田軍已逼近高遠城的報告後,他曾想將妻子北條夫人(據稱為北條氏康之六女,姓名不詳故以此稱之)與嫡子信勝送往後方的岩殿山城避難。

勝頼は悔恨を滲(にじ)ませながらそう口にする。勝頼の許に織田軍が高遠城へと迫っているとの一報が届き、妻である北条夫人(北条氏康の六女とされるが、名は不明であるためこう呼称する)及び嫡子である信勝(のぶかつ)を後方の岩殿山(いわどのやま)城へと逃がそうと試(こころ)みた。

然而掌管岩殿山城的舊臣、小山田信茂——亦為武田二十四將之一——已經投靠織田,先遣者回報說拒絕接納,勝頼於是悟到敗局已定。

しかし岩殿山城を治める武田家譜代の家老衆であり武田二十四将の一人にも数えられた小山田(おやまだ)信茂(のぶしげ)は既に織田家に寝返っており、遣わせた先触れに対して受け入れを拒否する旨の返答が届くに至り勝頼は敗北を悟った。

退路被斷的勝頼,連兒子信勝都曾建議一同自刃。曾效忠於信玄的多數武將已離去,不願向昔日主家拔刀的多數逃逸或為保全而攻向勝頼的居城新府城。

退路を断たれた勝頼に対し息子の信勝は共に自刃するよう進言さえした。かつて信玄に仕えていた多くの武将が勝頼の許を去り、かつての主家に対し刃を向けることを良しとせず逐電するか、保身のために勝頼の居城である新府城へと攻めてきている状況だ。

他想著自己與嫡子信勝的首級是收束戰事所需,卻不會去取為締盟而成政略婚姻之北條夫人的性命。如此思量後,他便告知妻子回娘家,然而北條夫人默然搖頭不肯。

己と嫡子である信勝の首はいくさを収める為に必要となるが、同盟を結ぶための政略結婚であった北条夫人の首までは取られまい。そう考えた勝頼は妻へ実家に帰るよう告げたのだが、北条夫人は黙したまま静かに首を横に振った。

「自從從北條嫁來,吾身便與四郎大人同在。願與之共赴最後」

「北条より嫁いだ時からこの身は四郎様と共にございます。最期までご一緒いたしとうございます」

「……是麼」

「……そうか」

聽到妻子的決意,勝頼未嘗再勸。當主欲先送妻子子息逃離,新府城內的將士已一哄而散,現在連護送她到北條那裡的人手都無法湊足。

妻の決意を耳にした勝頼は翻意を促そうとはしなかった。当主である勝頼が妻子を逃がそうとしたことから、新府城に詰めていた将兵たちも我先にと逃げ出しており、今となっては彼女を北条まで送り届けるだけの手勢すらままならない。

「織田軍已迫近高遠城,恐不久即陷。後方守備之穴山或會與德川呼應而襲來,但更早到達的恐怕是織田軍」

「既に織田軍は高遠城に迫っており、遠からず落城するであろう。後方を守っていた穴山が徳川と呼応して攻めてくるだろうが、それよりも早く織田軍がここに押し寄せると見ておる」

勝頼口稱「不久」,但此時高遠城實已陷落。士氣崩潰的武田軍無力抵擋與長可等分隊會合後由信忠率領的主力攻勢,未能撐過一日便告失守。

勝頼は遠からずと口にしたが、この時点で既に高遠城は落城していた。既に士気が崩壊している武田軍では、長可たちの別動隊と合流した信忠率いる本隊の猛攻を凌ぐことが出来ず、一日と保(も)たずに落城してしまう。

正如長可等人的攻城所示,當技術等級懸殊時守城戰無從成立,勝頼連派人傳報落城之事的機會也沒有。

長可たちの城攻めでも明らかになったように、技術レベルが隔絶した状態での籠城戦は成立せず、当主である勝頼に落城の報せを齎す伝令を逃がす暇すらなかったのだ。

且信忠在攻下高遠城後僅留下最低限兵力,便即刻進軍新府城,因而比勝頼所料更為逼近。

更に信忠は落とした高遠城に最低限の兵を残し、即座に新府城へと進軍したため勝頼が想像するよりもずっと間近にまで迫ってきている。

「連赴死前的行裝都來不及備妥,織田諸侯還真是匆忙。然則也不能就這樣白白送命,總要讓他們見見真章才行」

「死出の旅支度もままならぬとは織田の殿方は慌ただしいこと。さりとて黙って命をくれてやる訳には参りませぬ、最期に目にもの見せてやりましょうぞ」

「正是。須得讓人見識甲斐武田就在此處」

「そうよのう。甲斐の武田はここにありと見せてやらねばならんな」

面臨唯有等待死期的處境,北條夫人的輕笑令勝頼微微應和,但他旋即收起笑容,開口道:

最早死を待つのみという境遇で放たれた北条夫人の軽口に勝頼は小さく笑って応じた。しかしすぐに表情を引き締めると、勝頼が告げる。

「若深志城來的傳令屬實,高遠城或已陷落。新府城幾無守備,能讓汝等選擇一個安寧的最後時刻也只剩短短時間」

「深志城からの伝令が齎した報(しら)せが真であれば、高遠城は既に落ちているやも知れぬ。しかるに新府城を守る兵力は無いに等しく、其の方らに穏やかな最期を選ばせてやれるのも今暫くの間だけであろう」

「四郎大人是打算迎戰吧?若然,吾將待見爾完成夙願後再追隨。且城中尚有少數留守之人」

「四郎様は討って出るおつもりでございましょう? なれば四郎様が本懐を遂げられるのを見届けてから後を追って参ります。それに少ないとは言え、城にとどまった者もおりまする」

如今留在新府城者,多為負傷無法逃脫的兵卒,或即便逃出也命不久矣的年邁之人。自然被勝頼親自培養的近侍尚有殘留,但因恩義或忠義而留的人已屬少數。

今や新府城に残っている者と言えば傷を負い逃げられぬ兵や、たとえ逃げ延びたところで先の短い年老いた者が殆どであった。流石に勝頼が直々に育てた子飼いの部下は残っているものの、そうした恩義や忠義に拠って残っている者は稀であった。

正當勝頼為那些如沉船上先奔逃的鼠輩感到些許感傷時,一聲如猛獸低吼般奇異的響聲震蕩開來。

沈みゆく船から逃げる鼠(ねずみ)のように我先に逃げ出したものを思えば、彼らに感謝をしても罰(ばち)は当たるまいと勝頼が感傷的になっているところへ猛獣の唸りのような奇妙な音が響き渡った。

「正合我意。非要打擾二人獨處,卻因肚中不安難以自抑」

「これはしたり。夫婦水入らずに割り込むつもりはござらぬが、どうにも腹の虫が騒いでしまい申した」

一句與哀痛場面不相稱的爽朗聲音響起。勝頼完全被突襲,護在北條夫人身後質問聲音來源。雖不能說毫無戒備,但勝頼乃一流武人,竟讓人逼至此近卻未察覺,亦令他難以置信。

愁嘆場(しゅうたんば)にそぐわない朗らかな声がした。完全に虚を突かれた勝頼が北条夫人を背後に庇いながら声の主を誰何(すいか)する。油断が無かったとは言わないが、勝頼とて一廉(ひとかど)の武人であり、これほど近くまで寄られて居ながら気付かなかったという事実が信じられなかった。

勝頼眼前之人雖無短兵相帶,卻是龐大身軀,雄壯的肌肉被緊繃地塞進法衣,魁偉難掩。作為生物的本能在呼喊他逃走,但他以意志強行壓下。

勝頼の目に映った人物は寸鉄を帯びていないが、見上げる程の巨躯(きょく)に一目で判る隆々たる筋肉を窮屈そうに法衣に押し込めた魁偉(かいい)なるものであった。生物としての本能が勝頼に逃げろと叫んでいるのを意志の力で押し込める。

「本欲稍候行事,既被察覺也無可奈何。拙僧不過一介山伏,名喚華嶺。貧道看來無誤即為武田四郎嗎?」

「しばし待つつもりであったが、気取られてしまっては致し方ない。拙者、しがない山伏(やまぶし)の華嶺(かれい)と申す。武田四郎殿とお見受けするが相違あるまいや?」

「此時已無處可逃隱,吾即武田四郎!汝之企圖是取吾首乎?」

「今更逃げも隠れもせぬ。わしが武田四郎よ! そなたの狙いはわしの首か?」

「哈哈哈,別開玩笑了。雖仍在修行,曾以出家為志;既然要奪命,便以不留餘命的方式了結。只是吃同族之肉,還請饒過我吧」

「はっはっは、ご冗談を申されるな。未だ修行中なれどかつては僧を志した身、命を奪うからにはその命を余さず食らうことを己に課しておりまする。流石に同族を食らうのはご勘弁願いたい」

華嶺行者如此言笑,勝頼卻毫無笑意。那如幼時遇熊時感受到的猛獸般熱度再次襲來,使他動彈不得。當日的熊任性地離去,但此怪人恐怕不會如此善罷甘休。

華嶺行者はそう言って快活に笑うが勝頼は少しも笑えなかった。幼い頃に山で熊に遭遇した際にも感じた巨獣が放つ熱の様なものに中(あ)てられ、身動きすることが叶わない。幼きあの日の熊は気まぐれに去っていったが、この怪人はそうは行かないだろう。

勝頼窺探是否能以一命換得北條夫人的脫身,然華嶺行者連擺出架勢都未見,周遭也無可乘之隙。

己の一命を賭してでも北条夫人を逃がせないものかと隙を窺うが、華嶺行者は身構えてすらいないと言うのに隙らしい隙が見受けられなかった。

「那麼,華嶺大人此行向吾有何所求?」

「それでは、その華嶺殿はわしに如何なる御用かな?」

「奉織田勘九郎之託言。為報汝曾令松姫離戰之恩,特請武田四郎以一騎打決一勝負。請問,如何回覆?」

「織田勘九郎殿より言伝(ことづて)を預かっておりまする。松姫をいくさから遠ざけて頂いた思いに報いるべく、武田四郎殿に一騎打ちでの果し合いを所望いたす。さて、ご返答や如何に?」

「要一騎打!? 」

「一騎打ちだと!?」

華嶺行者出人意表的話讓勝頼露出疑色。大局已定,根本無需一騎決勝,且身為織田總帥之信忠處於壓倒性優勢,讓其冒此風險何以為意,勝頼不解。

華嶺行者の思いがけない言葉に勝頼は訝し気な表情を浮かべた。一騎打ちをするまでもなく既に大勢は決しており、圧倒的に優位な織田の総大将たる信忠がその身を危険に晒す意味が判らなかった。

「貧道非武士,故難明此等圖謀。然若能在將帥之間以一騎決勝而殞,豈非比被無名之人斬殺更見榮譽乎?」

「拙者は武士でござらぬゆえ、その企図は判りかねまする。しかし、名も知らぬ者に討たれるよりも、大将同士の一騎打ちにて散る方が誉(ほまれ)となるのではござらぬか?」

「你這說法好像早就打定主意我會敗似的」

「わしが端(はな)から負けるような物言いよの」

「哈哈哈。且勘九郎乃吾主親手鍛練之人。年輕不可輕侮,若輕敵,恐連首落時也不會察覺」

「はっはっは。さても勘九郎殿は我が主が直々に鍛えられた御方。年若いからと侮れば、己の首が落ちたことにも気付けませぬぞ?」

「吾亦是名門武門、武田當主,豈能輕易認輸!」

「わしとて武門の名門、武田の当主よ。そう易々とは負けてやれぬ!」

「那麼,就以決鬥來決定雌雄,可以嗎?」

「然(しか)らば果し合いにて雌雄を決するということで宜しいか?」

華嶺行者問道時,勝頼眼中湧著熱意點了點頭。那已不是剛才充滿諦觀的勝頼,而是充滿武人般霸氣的偉丈夫模樣。

華嶺行者の問いかけに勝頼は目に熱を湛(たた)えて頷(うなず)いた。そこには先ほどまでの諦観に塗(まみ)れた勝頼ではなく、武人らしい覇気に満ちた偉丈夫(いじょうふ)の姿があった。

「已承知閣下的覺悟。不久會派使者來傳達詳情」

「御覚悟しかと承った。追って使者が詳細を伝えに参りましょう」

意外地露出親切笑容的華嶺行者說罷便翻身越過先前切開的板門奔入屋外。勝頼慌忙跟上,卻再也找不見他的身影。

意外にも人懐こい笑みを浮かべた華嶺行者は、そう言うや否やトンボを切って開いていた板戸の外へと身を翻(ひるがえ)した。慌てて勝頼も後を追ったが、その姿は何処にも見当たらなかった。

如先前所述,高遠城自開戰端後僅一日便告陷落。其原因其實相當單純,乃因一種可稱為範式轉移般的革命性變化所致。

先にも述べたように高遠城は戦端を開いてから僅か一日にして落城している。その理由は実に単純であり、パラダイムシフトとでも呼ばれるべき革命的な変化に因(よ)るものであった。

先遣隊長可軍與本隊信忠軍在高遠城前會合,整合事前掌握的情報以及投降的武田方將領所提供的情報,佈陣封死逃路。

先遣隊である長可軍と、本隊である信忠軍は高遠城を目前にして合流し、事前に齎されていた情報及び寝返った武田方の武将から得られた情報を統合して逃げ道を塞ぐように布陣した。

他們稍稍退後布陣,當天未向高遠城發起攻擊,是因需要等待行軍速度較慢的部隊以重新編整隊形。

やや遠巻きに布陣し、その日のうちに高遠城へと攻め掛からなかったのは、進軍速度の遅い部隊を待って隊を編成しなおす時間が必要となったためであった。

翌晨,隨著戰鼓一齊敲響,一聲巨響迴盪,那本應堅固的城門從內側被炸飛。此乃趁夜在城門放置爆藥的結果,對武田方而言完全摸不著頭緒。

翌朝、日が昇るとともに戦太鼓(いくさだいこ)が打ち鳴らされると同時に轟音が響き渡り、堅固なはずの城門が内側に吹き飛んだ。これは夜陰に乗じて城門に爆薬を仕掛けておいた結果なのだが、武田側からすれば何をされたのか皆目見当がつかなかった。

乘著那股混亂,信忠軍從正面大舉衝鋒;同時,配備擲彈筒的長可軍從後方接連破壞防禦設施向城內推進。

その混乱に乗じて正面からは信忠軍が大挙して押し寄せる。時を同じくして裏側からは擲弾筒(てきだんとう)を装備した長可軍が、次々と防衛設備を破壊しながら攻め上がった。

原本就有接連逃亡者,使守備兵力減少,遇上無視防禦設施的猛攻,軍心潰散紛紛投降。

元より逃亡者が相次いでおり、守備兵が減っていたところへ防衛設備をものともしない猛攻を受け、戦意を失って投降するものが続出した。

當夕陽高掛西方天際時,城主仁科盛信在壓倒性劣勢中奮戰,然聽聞小山田大學助討死,遂悟敗局已定。

高く上った日が西の空に掛かる頃、城主である仁科(にしな)盛信(もりのぶ)は圧倒的な劣勢の中、奮闘するものの小山田大学助(だいがくのすけ)が討ち死にしたと耳にして敗北を悟った。

他命屬下將自己的首級帶去織田投降,然後自刃而亡。

配下の将に自分の首を持って織田に下るよう伝えると、自刃して果てた。

即便在戰國時代也屬一流規模的高遠城會失陷,完全是因為『時代已變』。

戦国時代でも屈指の規模を誇った高遠城が落ちた要因は、偏(ひとえ)に『時代が変わった』ためであった。

只要固守堅城便能對抗數倍敵軍的時代已宣告終結;面對大口徑砲和高性能爆藥,舊有的城門與城牆不過是稍堅的屏障而已。

堅固な城に籠って戦えば、自軍に倍する寄せ手にでも善戦できる時代は終焉(しゅうえん)を告げた。大口径の砲や高性能な爆薬を前にすれば、従来の城門や城壁は少し丈夫な衝立(ついたて)に過ぎない。

武田也並非固守舊制不知變通,他理解鐵砲的重要性,並持續努力備齊一定數量。

武田とて頑なに旧態依然とした戦法に固執していたわけではない。鉄砲の重要性は理解しており、それなりの数を揃える努力は続けていた。

然而即便如此,過去成功經驗所支撐的騎馬隊偏重編制與輕視火繩槍的風氣仍難以扭轉。新式火槍的射程遠超騎兵突擊距離,且具備足夠命中精度與威力,令那些戰法成為過去式。

しかし、それでも過去の成功体験に裏打ちされた騎馬隊偏重(へんちょう)の部隊編成や、鉄砲軽視の流れを覆すには至らない。騎馬隊の突撃距離を遥かに上回る射程と、充分な命中精度と威力を備えた新式銃の登場によってそれらは過去のものとなった。

以城牆環繞、曲折的九十九折使敵軍拉長稀薄,從槍眼或箭孔攻擊的傳統防守,已然不再奏效。

城壁に囲まれ曲がりくねった九十九(つづら)折(お)りによって敵部隊を長く薄く延ばして、銃眼や矢狭間より攻撃を加えるという定番の防衛は呆気なく通用しなくなった。

更驚人的是,以信忠為首的主力竟使用大砲,直接將城壁擊穿一線推進。結果,各處分散配置的兵力瞬間被殲,除有水的護城河外,其他阻礙皆不值一提。

あろうことか信忠率いる本隊は大砲を用い、城壁を一直線に打ち抜いて進んできたのだ。その結果、随所に分散して配置した兵は瞬く間に討ち取られ、最短距離を攻め上がられたため水を湛えた堀以外は足止めにすらならなかった。

「一天之內攻下高遠城,還要以一騎打ち斬殺大將勝頼。要將武田所自誇的『武』與『軍』兩者徹底擊潰,將勝者與敗者曝於白日乎?」

「高遠城を一日で落とし、更には大将である勝頼を一騎打ちにて屠(ほふ)る。武田が誇った『武』と『軍』の双方を完膚(かんぷ)なきまでに叩き、勝者と敗者の姿を白日に晒すおつもりか?」

長可帶著愉快的笑意向身旁之人說話。於落城的高遠城過了一夜後,信忠留下部分部隊便匆匆起兵進發。

長可は愉快そうに笑いながら隣に並ぶ人物へと声をかけた。落城した高遠城にて一夜を過ごし、信忠はある程度の部隊を残すと早々に進軍を開始する。

向來率別動隊的長可因戰功顯著被召回後方,這既是受封於大將信忠身邊侍奉的榮譽,亦是箝制好勇鬥狠的長可的項圈角色。

今まで別動隊を率いていた長可は、充分に戦功をあげたとして後方に戻され、大将である信忠の周囲に侍(はべ)る栄誉でもあり、暴走する長可を繋ぎとめる首輪でもある役目を与えられていた。

「在此戰之前,武田大人曾將將成我妻的松姬送往惠林寺避難,這是我所受之恩。與其被無名小卒斬殺,不如以一騎打ち了結,方為武士本懷」

「このいくさに先んじて、武田殿はわしの妻となる松姫を恵林寺(えりんじ)へと逃がして頂いた恩がある。このまま無名の兵に討ち取られるよりは、一騎打ちにて決着をつける方が武士の本懐となろう」

「確實,若輕率逃生卻最終被落武者狩所斬,那將是淒慘的結局」

「確かに下手に落ち延びた挙句に、落ち武者狩りに討ち取られたとなれば惨めな最期となりまするな」

「而且還有一利:可向眾人昭示武田在織田面前已屈服」

「それに武田が織田の前に屈したと衆目に示せるという利点もある」

「到了此時,我想也不會有膽敢妨礙一騎打ち的不肖之輩;兩位決定雌雄之所,某人我會守護」

「この期(ご)に及んで一騎打ちを邪魔立てする不心得者もおらぬとは思いますが、お二人が雌雄を決される場は某がお守りいたしましょう」

「就拜託了,鬼武藏(長可之異名)」

「頼りにしておるぞ、鬼武蔵(おにむさし)(長可の異名)」

說罷信忠與長可相視而笑。在靜子宅中他們或互相戲謔,但於戰場上仍有嚴謹的上下秩序。長可雖似無法無天,卻並非不懂軍中等級意義的愚者。

そう言って信忠と長可は笑い合った。静子邸では互いに軽口を叩き合う仲だが、いくさ場に於いては厳格な上下関係が存在する。無法者に見える長可だが、軍に於ける上下関係が持つ意味が理解できない程の愚か者ではない。

因此在眾目之下的公開場合,他也能作出相應的端莊表現。

ゆえに衆目のある公の場に於いては、その場に相応しい振舞いをすることも出来るのだ。

「據方才的快馬回報,聽說上樣不久將親臨此地,如此一來靜子大人也會來吧」

「先ほどの早馬によれば、近々上様がこちらにお越しになると耳にしましたが、となれば静子殿もおいでになるでしょうな」

「父上與靜子,皆為我軍無可替代的要害。雖然可能性低,但我想不會犯下一次性失去兩者的愚行」

「父上と静子、その何(いず)れも替えの利かない我が軍の急所。可能性が低いとは言え、一度に失われる恐れのある愚は犯されぬと思うがな」

「原來如此。據說上樣在看過我們的表現後,會去眺望富士山,然後返回尾張。富士山那裡有什麼呢?」

「なるほど。上様は我々の働きを見たのち、富士の山をご覧になって尾張へと戻られるとありました。富士の山には何があるのでしょう?」

「靜子也對富士山有所在意。但那一帶屬於德川領地,故不得輕舉妄動」

「富士の山は静子も気にしておったな。しかし、あの辺りは徳川の領土ゆえ迂闊(うかつ)なことは出来ぬ」

就在這些交談之間,信忠率領的主力已抵達新府城。事先遣使與勝頼交涉後,新府城無血開城,信忠主力遂進城休整。

そうこうしている間にも信忠の率いる本隊は新府城へと到着した。事前に使者が遣わされ勝頼との交渉の結果、新府城は無血開城しており信忠の本隊はそのまま城内へと兵を進めた。

勝頼僅率本屬在天目山紮營,雙方約定於那裡一騎打ち。留在新府城內的多為病者、傷者與願意投降者,皆解除武裝集中於一室。

勝頼は己の手勢のみを率いて天目山に陣を張っており、そこで一騎打ちを行う手筈となっていた。新府城内に残されているのは病人や怪我人、投降する意志のある者が武装解除の上、一室に集められていた。

雖言可能性低,但仍戒備詐襲前進;勝頼按約辦理後撤離,信忠則將軍隊重編為注重機動性的小部隊。

可能性は低いとは言え騙し討ちを警戒しつつ進軍したのだが、勝頼は約定通りの処置を施した上で撤収しており、信忠は軍を機動力重視の小部隊に編成し直す。

「各位連戰不休想必已疲,今日就在此充分養精蓄銳,為明日的決戰做準備」

「さて、連戦に次ぐ連戦で皆も疲れているとは思うが、今日はここで充分に英気を養い明日の決戦に備えてくれ」

接到信忠的號令後,軍隊在新府城休息。諸軍之間的勝負已定,剩下的是兩位大將之間的一騎打ち,如同英雄譚般的結果,眾人雖不明言卻屏息以待。

信忠の号令を受けて軍は新府城にて休息をとった。軍同士での勝敗は既に決しており、残るは大将同士での一騎打ちという英雄譚のような成り行きに皆は口にしないまでも固唾(かたず)を飲んでいる。

一夜過後,信忠僅率千名精兵直赴天目山。因以騎兵為主,信忠部隊僅半日左右便抵達勝頼所紮營的天目山麓。

一夜明けると信忠は手勢の精兵千名のみを率いて一路天目山を目指した。騎馬を中心に編成しているため、信忠の部隊は僅か半日ほどで勝頼が陣を構える天目山の麓(ふもと)まで辿り着いた。

時近日落,雙方相距可目視對峙,形成奇異的僵持景象。正當信忠欲派使者通知一騎打ち之刻,出乎意料的人物來到了信忠的陣營。

まもなく日も沈もうという頃合いであったため、お互いの陣を目視できる距離に居ながら睨み合うという奇妙な構図となった。そして信忠が一騎打ちの刻限を伝えるべく使者を遣わそうとしていた折、予想だにしなかった人物が信忠の陣を訪(おとな)った。

「有趣。那就見上一面吧」

「面白い。会おうではないか」

來拜訪信忠營帳的,正是武田勝頼本人。他未先通報,僅帶了數名隨從前來,信忠將勝頼請入自己陣中,兩人正面相對而坐。

信忠の陣を訪れたのは、武田勝頼その人であった。先触れもなく数名の供のみを伴って訪れた勝頼を、信忠は自陣に招くと真正面から向かい合う形で対面した。

勝頼似乎信任提出一騎打擂臺的信忠,雖仍穿著戰裝,卻將刀交付在他手中。

勝頼は一騎打ちを申し出た信忠を信頼してか、いくさ装束のままではあるが刀を預けている。

「這般直接相見,倒是初次。我是武田四郎,承繼父親信玄之位,為武田家第二十代當主。」

「こうして直接お会いするのは初めてになるか。私は武田四郎、父信玄の後を継いだ武田家二十代当主である」

「初次見面,我是織田彈正忠(だんじょうのちゅう)的嫡子,勘九郎。只是,在雙方將交鋒的前夜造訪營帳,到底有何貴幹?」

「お初にお目にかかる、私は織田弾正忠(だんじょうのちゅう)が嫡子、勘九郎である。さて、互いに刃を交えんとする前夜に御自(おんみずか)ら陣を訪ねられるとは如何なる御用か?」

對信忠的質問,勝頼深深一鞠躬以示答禮。

信忠の問いに勝頼は深々と頭を下げることで応えた。

「首先,感謝諸君對於我這敗軍之將所給予的禮遇。明日將以一騎打決出勝負,無論誰勝,我軍都願向貴軍投降。」

「まずは敗軍の将たる私に礼を尽くして頂いたことにお礼申し上げる。明日には一騎打ちにて雌雄を決することになるが、どちらが勝つにせよ我が軍は貴軍に投降致す」

如此言畢抬起臉來,勝頼的眼裡並未消沉。因出城紮營略顯滲灰,但仍可見其霸氣充盈。

そう告げて面を上げた勝頼の目は死んではいなかった。城を出て陣を張っているため、やや薄汚れてはいるものの勝頼は覇気に満ちている様子だ。

「明知我之請求厚顏,仍敢啟問。無論勝敗如何,我意自刃,唯願赦免跟隨我的部下之性命。」

「厚かましいのを承知でお願い申す。勝敗の如何に拠らず私は自刃致す。代わりに私に付き従ってくれた配下の助命を賜りたい」

「除你與嫡子外,餘者我以名義保其人身安全。但若有人欲追隨主君而去,我不予挽留。」

「貴方と御嫡男以外については我が名にかけて身の安全を保障しよう。ただし、主君の後を追わんとする者については引き留めぬ」

「不勝感激。既然如此,於一騎打前再無多言,失陪了。」

「忝(かたじけな)い。然(しか)らば一騎打ちを前にこれ以上のなれ合いはすまい。これにて失礼致す」

勝頼懇求寬赦那些始終追隨他的人的性命,信忠則承諾除勝頼與其子信勝外,其他人皆可獲保全。

勝頼は最期まで自分に付き従ってくれた者の助命を嘆願した。そして信忠は勝頼と彼の息子である信勝以外については保証する旨を確約した。

在此時代,大將與其嫡子肩負著消除後顧之憂的責任。勝頼以性命換取了這等承諾後,準備離開信忠的營地。

この時代に於いては大将及びその嫡子は、後顧の憂いを絶つためにも責任を負わされることになる。そして自らの命を懸けてそれらを勝ち取った勝頼は信忠の陣を去ろうとした。

「等等。看起來你似乎尚未充分整備。命人於別帐備湯飯,請稍候片刻。」

「待たれよ。見たところ、充分な支度が出来ておらぬようにお見受けする。別の天幕に湯と飯を用意させるゆえ、しばし待たれよ」

「已蒙厚待,無需再多。」

「既に温情は充分頂戴した。これ以上は不要」

「這不是出於憐憫。若一騎打的對手寒酸,反而令我難堪。戰勝一位備至的對手方有意義,為我之面目亦請受我此情。」

「情けをかけているのではない。一騎打ちの相手が見窄(みすぼ)らしくては私が困る。万全の態勢の貴殿に勝利することに意味があるのだ、私のためにもお受け願いたい」

「……承知」

「……承知」

勝頼並非完全信以信忠的說辭,卻感激同為武道志士所致的最後關懷,欣然受下。

勝頼は信忠の口上を真に受けた訳ではないが、同じく武を志した者からの最期の気遣いを有難く受けることにした。

為免其決心動搖,他低首轉身,結束了與信忠的會談。

決意が鈍らぬように頭を下げたまま背を向けると、勝頼は信忠との会談を終えた。

對信忠而言,這場一騎打亦具重大意義。他認為親手討取武田的總大將,方可堂堂宣稱為信長的繼承者。

信忠としてもこの一騎打ちには大きな意味がある。武田の総大将を我が手で討つことで、初めて胸を張って信長の後継者を名乗れると考えていた。

他當然無意認輸,但勝敗向來兵家常事,信忠命人送水沐浴,擦拭身軀、修整鬍鬚,並以油理髮。

負けるつもりなど毛頭ないが、勝敗は兵家の常であるため信忠も湯を運ばせると体を拭いて髭を整え、髪を油で整えた。

明日,將舉行一場足以左右日本局勢的一騎打。

明日になれば、日ノ本の趨勢を左右する一騎打ちが行われる。

遠離甲斐緊張地帶的尾張,靜子則久違地從事著平靜的公務。

緊張の高まる甲斐の地より遠く離れた尾張では、静子が久方ぶりの穏やかな執務に勤しんでいた。

之所以如此,是因為長期留宿靜子宅的信長,經由電話定時聯絡得知信忠與勝頼將一騎打的消息後,立刻匆忙集結兵力向甲斐出發。

それと言うのも長らく静子邸に逗留し続けていた信長が、電話による定時連絡により信忠と勝頼との一騎打ちの報せを知るや否や、大急ぎで手勢を集めて甲斐へと出立したためであった。

他說道:「雖然我認為萬無一失,仍須為那一成做準備。若是杞人憂天,就當作觀光行程罷了。」於是率領一支以速度為重的部隊向東邁進。

曰く「万に一つも負けは無いとは思うが、その一つに備えねばならぬ。取り越し苦労であれば物見遊山と洒落こもう」とのことで、速度重視の編成をした軍を率いて一路東を目指している。

信長的行軍路線將追隨信忠的侵攻路徑,成為在信忠軍所設中繼點逐站換馬前進的行軍。

信長の進路は信忠の侵攻ルートをなぞる形となり、信忠の軍が構築した中継地点ごとに馬を乗り換えて進む強行軍となる。

原本打算帶著靜子同行,卻偶然出現近衛前久(さきひさ)與信長同道,靜子便留在尾張等待兩人的歸來。

当初は静子を伴う予定であったのだが、偶然にも近衛前久(さきひさ)が信長と同道することになり、静子は尾張で二人の帰りを待つこととなった。

「兩人一起當起觀光旅行,殿下也真是風光啊。」

「二人揃って物見遊山の旅とは、殿も良いご身分じゃのう」

正值信長離開尾張之際,駐守岐阜的濃姫來到靜子處。濃姫判斷此次信長與前久的東國遠征十之八九只是遊歷觀光,罕見地抱怨起來。

信長が尾張を発ったのと入れ替わりに岐阜に詰めていた濃姫が静子の許へ訪れている。此度の信長と前久による東国遠征は、十中八九物見遊山の旅となると判断した濃姫は珍しく愚痴を零す。

靜子問道,原應在信忠不在時代為岐阜城看守的濃姫怎可待在此處;濃姫則把手覆於唇邊,嬌豔地微笑回應。

静子は信忠が留守の間に岐阜城を預かるはずの濃姫がこんな処にいて良いのかと訊ねたのだが、当の本人は口許に手を当てて艶然と微笑みながら答えた。

「正因為連妾也離開了,不軌之徒才有可乘之機。雖不如靜子引以為傲的電報網,對於岐阜與尾張這等地也全在妾的掌握之中。」

「妾までもが留守にしたからこそ、不心得者が動こうというものよ。静子ご自慢の電信程では無いにせよ、岐阜と尾張程度であれば全ては妾の掌(たなごころ)の上じゃ」

靜子察覺她是故意放手不管,以便將潛伏的嫌疑人誘出來,這令她感到一陣毛骨悚然。

あえて留守にすることで泳がせていた容疑者を燻(いぶ)りだすつもりだと察して静子は空恐ろしくなった。

縱然濃姫有多麼優秀的情報網,物理距離仍是不可忽視的障礙。靜子亦無法想像她究竟如何取得那些消息。

濃姫が如何に優れた諜報網を持っていたとしても、物理的な距離は厳然と立ちはだかるはずである。どうやって彼女が情報を得ているのか、静子をしてすら見当がつかなかった。

「我常想問,濃姫大人不打算事先防範嗎?」

「毎度思うのですが、濃姫様は事前に防ごうとは思われないのですか?」

「呵呵呵。人一有欲望,惡的萌芽便無法根除。再多地拔除也無止境。不如用身邊之人示範一旦犯罪會有何下場,適度地以示懲戒,豈非上策?」

「ほほほ。人が欲を抱く限り悪の芽は無くならぬ。そんなものを幾ら摘んだとてきりがない。ならば罪を犯せばどうなるか身近な存在を以て、適度に知らしめて見せるのが上策とは思わぬか?」

「……確實,他們所為仍是惡行,施以懲罰理所當然……但以誘發之為手段,實在令人不安……」

「……確かに悪事を働いたことに変わりはありませんので、罰を下すのは当然ですが……誘うような真似をするのは如何なものかと……」

「所謂『魔が差す』不是嗎?魔性常藏於日常的微小處。真魔成形之前,妾先行剪除,實可說是親切了。」

「魔が差すと言うじゃろう? 魔というのは日常のふとした処に潜んでいるものなのじゃよ。本物の魔が育つ前に、妾が間引いてやっておるのじゃ、親切とすら言えよう」

靜子自身亦處於統領組織的位置,能理解濃姫之意。人人難以抗拒甜美的誘惑,若不嚴律己身便易為所動搖。

静子とて組織を纏める地位にあるため、濃姫の言わんとするところは理解していた。誰しも甘い誘惑には抗い難く、厳しく己を律さねば容易に流されてしまう。

此時可助人者或為信仰,或為對主君超越利害的恩義;然濃姫不倚賴這些不確定之物,而以一罰百戒之法示警。

そういった際に助けとなるのが信仰であったり、主君に対する損得を超えた恩義であったりするのだが、濃姫はそういった不確かなものに頼らず一罰百戒を以て警告するのだ。

雖然從不以言語或態度明示,卻以『我在看著你』這等令人脊背發寒的警告相威懾;即便如此仍有人犯罪,可見人性之惡難以挽救。

決して口にも態度にも出さないが「見ているぞ」と。そんな背筋が寒くなるような警告を以てしても、罪を犯す者が絶えないのだから人の業というものは救いがたい。

「義姊,上您在這裡啊。」

「義姉上、ここにおいででしたか」

「啊呀,不是市嗎。你有什麼事找妾嗎?」

「おや、市ではないか。妾になんぞ用かえ?」

濃姬一邊和她攀談,靜子仍在繼續辦公,結果連市也出現了。靜子差點就要放棄認為真要沒法工作了,但看起來市是有事找濃姬,靜子這才放下心來。

濃姫と語らいつつも執務を続けている静子の許へ、お市までもが現れた。これは本格的に仕事にならないかなと静子は諦めかけたのだが、どうも用事があるのは濃姫に対してであったため静子は胸を撫でおろす。

為免犯了捅草叢引出蛇來的愚行,靜子保持沉默,只是豎起耳朵聽著,繼續執行公務。

藪をつついて蛇を出す愚を犯すまいと、静子は黙したまま耳だけをそばだてて執務を続けていた。

「靜子也在正好。彷彿是在等兄上出發似的,有位親族跑來向妾傳播關於義姊上行為的傳聞。實在太過分了,故此想也要向義姊上請教一番。」

「静子もいるのならば丁度良い。兄上が出立されたのをまるで見計らったかのように、親族の一人が妾に義姉上の所業について触れ回っておるのよ。流石に目に余るゆえ、義姉上にもご相談せねばと思うての」

「啊啊,是那傢伙吧? 在殿面前裝得像借來的貓般乖巧,稍有空隙便立刻露出馬腳。真是借虎威的狐狸啊。」

「ああ、あ奴であろう? 殿の前では借りてきた猫のように大人しく振舞うが、こうして隙を見せれば立ちどころに馬脚を露(あらわ)しおる。ほんに虎の威を借る狐よの」

濃姬似乎早已掌握情勢,毫不動容地冷笑。明明說這種暗中操作要不讓當事人知道,可這次卻剛好中了擺在眼前的餌,落入圈套。

対する濃姫は既に把握していたようで、まるで動じずにせせら笑って見せる。こうした裏工作は本人に知られぬようにせねばならないと言うのに、まんまと目の前に垂らされた餌に食いついてしまったという形となった。

「今日最後的定時聯絡剛才已結束,非緊急的話無法與上樣取得連絡。」

「本日最後の定時連絡は先ほど終わりましたので、緊急でない限りは上様に連絡を付けることは叶いません」

「呵呵呵。為這種小事煩擾殿上未免多餘。我等會在織田家內部處理,市也這麼認為吧?」

「ほほほ。このような些事(さじ)で殿のお心を煩(わずら)わせるまでも無かろう。織田家の内々で対処するゆえ、市もそれで構わぬか?」

「若義姊上知情便無妨。」

「義姉上がご存じであれば構いませぬ」

靜子尚未放棄織田家顧問的職位,偶爾也會聽聞此類織田家內部的醜聞,但大多由濃姬處理。

静子は未だに織田家相談役の地位を返上しておらず、こうした織田家内の醜聞をも耳にすることがあるのだが、その殆どが濃姫によって対処される。

靜子通常只會被告知問題已解決,卻不知結果如何。雖有些不滿足,但追根究柢也無所獲,便置之不理。

静子は結果がどうなったかを知ることなく、問題が解決した旨のみを知らされることとなる。少し消化不良ではあるが、これを詮索することで得るものも無いため放置していた。

「不管打算做些什麼,請別把事情鬧得太大,好嗎?」

「何をされるおつもりか知りませんが、余り大事(おおごと)にならないようにして下さいね?」

「呵呵呵。那不過是自己想做的事反過來降臨罷了。說是自作自受也不為過吧?」

「ほほほ。自分がしようとした事がそのまま降りかかってくるだけのことよ。まさに自業自得というものであろう?」

(啊,這是要被排擠出局的傢伙)

(あ、これは締め出されるヤツだ)

織田家內有稱為嫡流與庶流的區分,所謂本家與分家。若細究根源,信長原本也是出自庶流。

織田家の中には嫡流(ちゃくりゅう)と庶流(しょりゅう)と呼ばれる区分けが存在する。所謂(いわゆる)本家と分家に当たるのだが、信長も元を正せば庶流の出であった。

但因為嫡流的父親信秀的正室被離縁,信長之母成為繼室,使得信長成為信秀的後繼者,進而被納入嫡流,乃有此經過。

しかし、嫡流であった父信秀の正室が離縁され、信長の母が継室となったことで信長は信秀の後継者となり、嫡流に組み込まれることになった経緯がある。

庶流有支持嫡流的義務,同時嫡流也有安撫庶流的責任。不滿此種框架、懷抱野心想取而代之者,總是會有一部分人出現。

庶流は嫡流を支える義務があるのと同時に、嫡流も庶流を安堵する義務を負う。こうした枠組みを良しとせず、野心を抱いて己が嫡流に成り代わろうとするものは常に一定数出てくる。

受到嫡流庇護卻想反咬一口的,像是沒被教好的家犬,其下場可想而知。

嫡流の庇護を受けていながら、それに牙を剥かんとする躾(しつけ)のなっていない飼い犬の行く末など知れたものだろう。

「本來就是戰時了,別再鬧什麼家族內鬧劇,好嗎?」

「ただでさえ戦時なんですから、お家騒動なんて起こさないで下さいね?」

「那傢伙這等程度不足以造成什麼風波。若肯安分便可放過……真愚蠢啊。」

「あ奴程度ではそれほどの騒ぎにもならぬよ。大人しくしておれば見逃してやったものを……愚かよのう」

(把餌掛在看得見的地方,還這麼說)

(見える場所に餌をぶら下げておいて、この言い様)

「不知天命,終將招致滅亡。」

「身の程を弁えぬゆえ、破滅を招くことになるのじゃ」

「正如市所言。作為妾也不得不接下被挑起的爭端。」

「市の申す通りじゃ。妾としても売られた喧嘩は買わねばならぬ」

「那甚至談不上什麼爭吵吧……」

「喧嘩にすらなっていないじゃないですか……」

靜子長嘆一聲。她覺得這情形宛如《西遊記》中的孫悟空與以手掌收服他的釋尊。

静子が盛大なため息を吐いた。まるで『西遊記』に登場する『孫悟空』と、彼を掌であしらった『釈尊』のようだと静子は思った。

「真是的,靜子你真寬厚。企圖下克上者,便是拿命拼搏想抓住夢想。若夢碎了,也就沒辦法了不是?」

「ほんに静子は優しいのう。下克上を企(くわだ)てるというという事は、己の全てを賭して夢を掴まんと挑むということ。夢破れたのであらば仕方あるまい?」

「散播陰謠竟會牽連至死,想必那人連夢都想不到吧……」

「陰口を吹聴して回ることが死に繋がるとは、まさに夢にも思わないでしょう……」

「那等陰謠出奇地棘手。任由被灌輸者怎麼想,會像沉澱物般逐漸堆積在心裡,總有一刻會萌生端倪。」

「ああした陰口というのは存外厄介なのじゃよ。吹き込まれた側がどう思おうと少しずつ澱(おり)のように心に堆積し、何かの拍子に芽吹くゆえな」

「如市所言。因此妾正是把惡行會自取滅亡的證據擺在眼前。多麼寬宏大量啊。」

「市の申す通りよ。ゆえに妾が悪事は身を亡ぼすという証拠を突き付けてやっておるのじゃ。なんと寛大なことよのう」

靜子悟出,那人的下場似乎已然注定。懷抱不相稱的野心,他到底有沒有意識到自己要咬的對象有多龐大呢?

最早、彼の人の行く末は定まってしまったようだと静子は悟った。不相応な野心を抱いた彼は、果たして噛みつこうとした相手の大きさを理解していたのだろうか?

對於這個聽了名字也想不起樣貌的人,靜子生出一絲絲憐憫。

名前を聞いても顔も思い浮かばない彼に、少しだけ憐憫を覚える静子であった。