戦国小町苦労譚
1576年 六月上旬
維特曼與巴爾蒂兩頭的噩耗也很快傳到了信長那裡。
ヴィットマンとバルティ二頭の訃報は信長の許へもすぐに届けられた。
「是麼,逝去了嗎」
「そうか、逝ったか」
聽完報告後信長只低聲說了一句,便下令將當日所有行程全部中止,嚴命不論是誰都不得接見,然後返回自己的房間。
報告を聞き終えた信長は一言だけ呟くと、その日の予定を全て中止にするよう指示を出し、誰であろうと取り次ぐなと厳命して自室へと戻っていった。
對於一向喜歡按計畫推進事務的信長來說,這是異例的職務放棄,但現場根本沒有誰敢指出來。
物事を予定通りに進めたがる信長にしては異例の職務放棄だが、とてもそれを指摘できるような雰囲気ではなかった。
因為信長周遭的氣氛突然變得如被磨亮的刀刃般銳利,使人一旦說出不當之言便可能被斬棄。
信長が纏う空気が突如として研ぎ澄まされた刃のように鋭くなり、下手なことを口にしようものなら切り捨てられることが予想できてしまったためだ。
證據是,在信長離開後,留下的小姓們動彈不得、僵立不動,要恢復如常行動花了相當長的時間。
その証拠に信長が立ち去った後も、残された小姓たちは動けず固まったままとなり、元通りに動けるようになるのにかなりの時間を要した。
「今天回得相當早呢」
「今日は随分とお早いお戻りですこと」
信長打開通向內室的襖門時,裡頭坐著一位本不該在此的人。
信長が自室に繋がる襖を開け放つと、そこにはここに居るはずのない人物が座していた。
優雅地坐在緋毛氈上、正從朱漆銚子往杯中倒酒的,正是信長的正室濃姫。
緋毛氈(ひもうせん)の上に優雅に座し、朱塗りの銚子(ちょうし)から盃へと酒を注いでいるのは、誰あろう信長の正室である濃姫であった。
信長對本該在尾張的濃姫出現在安土的宅第中感到疑惑,但想到她行蹤神出鬼沒向來如此,便很快放棄追問。
信長は本来尾張に居るはずの濃姫が、安土にある屋敷の自室に居ることを不審に思いはしたが、彼女が神出鬼没なのはいつものことと早々に追及を諦めた。
信長毫不掩飾自己的不悅,接過濃姫遞來的杯子一口喝盡。
信長は不機嫌さを隠そうともせず、濃姫の差し出した盃を受け取ると一息に飲み干した。
「哎呀哎呀,這可不像殿下的喝法。發生了什麼好事嗎?」
「これはこれは殿らしからぬ飲みっぷり。何か良いことでもございましたか?」
「明明是全部知道才來的,還裝模作樣!」
「全て承知の上で来ておるくせに、わざとらしいわ!」
信長粗暴地從濃姫手中奪過銚子,將酒滿斟於杯並推到她面前;濃姫微笑接過杯,同樣一口喝乾。
信長は濃姫から乱暴に銚子を奪うと、盃へなみなみと酒を注いで濃姫に突き付けた。濃姫はニコリとほほ笑むと、盃を受け取って同じように一息に飲み干してみせた。
「那麼,你不是在靜子身邊的嗎?」
「それで、貴様は静子についているのではなかったのか?」
「呵呵。自己忙得不可開交時若有長輩在旁,連好好哀嘆都做不到。幸好我對支撐靜子之人有些把握,便留下口信來到此處,想做只有妾才能做的事。」
「ほほっ。己のことで手一杯の折に、目上のものが居ては満足に嘆きもできませぬ。幸い静子を支えるものには当てがありますゆえ、言伝(ことづて)を残してこちらへと参り、妾にしか出来ぬことをしようかと」
「……傳了些什麼?」
「……なんと伝えた」
信長好奇地問,想知道善於操弄心緒的濃姫所託付的話語是何內容。
心の機微(きび)を巧に操る濃姫が託した言葉とは何なのかが気になった信長が訊ねる。
「暫且只顧自己。後事妾自會妥善料理,務必好好休息即可。酬禮就用先前的「ちょこれーとけえき」便可。」
「暫し己のことのみを気にかけよ。後のことは妾がよしなに取り計らうゆえ、ゆっくりと休むようにと。礼は前(さき)の『ちょこれーとけえき』で構わぬとも」
「呼……。為了不讓那個人掛心,竟然連具體的酬禮都要求了。你對靜子也真是很縱容啊。」
「ふ……。あ奴が気に病まぬよう、具体的な礼まで要求するとはな。貴様も随分と静子には甘いようだ」
「可比不上殿那般。再說,有誰還能像她那樣毫無二心地傾盡奉獻呢?」
「殿ほどではございませんよ。それに二心なくあれほど献身を尽くしてくれる臣など他におりましょうや?」
「確實如此。那就把靜子交給你吧。我自有我能做的事。」
「確かにな。ならば静子は其方(そなた)に任せよう。わしはわしでやることが出来た」
「哎呀哎呀,那麼妾此行的意義豈非蕩然無存。可否容我這等殿方難以理解的女子任性一回?」
「おやおや、それでは妾がお願いに参った意味がございません。殿方には判らぬ女子(おなご)の我が侭も聞いてはいただけませぬか?」
「哼!反正我不懂女心,儘管說吧。」
「ふん! どうせわしには女心など判りはせぬ。好きに申してみよ」
濃姫咯咯笑著發話,信長接過話後皺著臉,正欲起身的動作停下,重重坐回去。
コロコロと笑いながら濃姫が声を掛け、それを受けた信長は渋面で立ち上がりかけた動作をやめて、どっかと座りなおした。
濃姫在無言中接過信長遞來的杯子,一邊從銚子倒酒,一邊把希望信長為靜子費心的事說明。
無言で信長が差し出した盃に、濃姫は銚子から酒を注ぎながら静子の為、信長に骨を折って欲しいことを伝える。
信長未多言便將話全部聽完,隨即又一口把杯中酒豪飲下去。
信長は口を挟まずにすべてを聞き終えると、盃の酒をまた一息に呷(あお)ってみせた。
「真是多麼迂迴的事。但既然你這麼說,若能對靜子有利便隨你去做吧。我會做到身為國人應當完成之事為止。」
「なんとも迂遠(うえん)なことだ。だが其方が言うのならそれが静子の為になるのだろう、好きにせよ。わしは国人として為さねばならぬことを為すまで」
說完這句,信長便起身離開房中。室內突然失去人影,濃姫喃喃自語道。
それだけを言い終えると、信長は席を立ち部屋から出て行ってしまった。急に人気(ひとけ)が無くなった室内で、濃姫はぽつりと呟いた。
「笨拙的人」
「不器用なお人」
維特曼與巴爾蒂離開靜子處的那夜天亮後,靜子如預定般封閉了通往山間的所有道路。
ヴィットマンとバルティが静子の許を去った夜が明け、静子は予定通りに山へと通じる全ての道を閉鎖した。
山自古被視為與神同體之地,不受人理所左右;年老的獸會將身軀託付給年輕獸以延續生命。
山は古来、神と同一視されることから人の理(ことわり)が通じぬ地であり、年老いた獣はその身を若い獣に託すことで命が紡がれていく。
那是自古反覆的自然運行與規矩,雖無法改變,但靜子作為牠們的家人,希望至少別讓那一幕曝於眾目。
それは悠久の昔から繰り返された自然の営みであり掟であった。それを覆すことはできないが、せめてその姿を衆目に晒したくないというのが彼らの家族である静子の願いであった。
靜子將封山期定為一年,正因預估那段時間足以讓牠們的屍骸白骨化,屆時回收並為之弔唁。
静子が閉山期間を1年と定めたのも、それだけの時間があれば彼らの骸(むくろ)は白骨化すると予測し、それを回収して弔(とむら)うつもりだったのだ。
「……別開玩笑了」
「……冗談はやめてよ」
「深表同情,但這不是玩笑。」
「心中お察しいたしますが、これは冗談ではありません」
靜子把封書裡的內容全部讀完後垂肩嘆言;應她之請一同核閱內容的彩也以困惑的神色回應她。
静子は封書の内容を全て読み終えると、肩を落としながら言葉を漏らした。静子に請(こ)われて一緒に内容を検(あらた)めていた彩も、困惑顔で静子の声に応じる。
靜子懷疑這是否玩笑並非無理,因為她手中正是所謂的詔書——傳達天子詔命的公文書。
静子が冗談かと疑ったのも無理はない。静子が手にしているのは詔書(しょうしょ)と呼ばれる帝の命令を伝える公文書だからだ。
內容是要把靜子曾發出禁足令的那座山,定為神體山(被視為神明寄宿的山)。
中身は静子が禁足令を発した山を神体山(しんたいさん)(神が宿るとされる山)に定めるというものだった。
「詔書的製作程序本就複雜,且不只是天子,公卿全體的承認也需要吧?不是那種能在一朝一夕準備好的東西……這到底是從何時就決定的呢?」
「詔書って作成手順が複雑な上に、帝はもとより公卿(くぎょう)全員の承認が必要となるんじゃなかったかな? 一朝一夕に用意できる代物じゃないよね……いつから決まっていたんだろう?」
詔書,顧名思義,是傳達詔(みことのり)(天皇命令)的文書。換言之,詔書是在國家大事時發布的重要文件,且用於如即位或改元等講究格式與程序的儀禮場合。
詔書とは読んで字のごとく、詔(みことのり)(天皇の命令)を伝える書である。つまり国家の大事に際して発布される重要書類であり、格式や手順が重んじられる即位や改元の折など儀礼的な際に用いられる。
不該對靜子因一己任性而起的事發佈詔書。
静子が己の我が儘で始めたことに対して発布されてはならないものだった。
在近代日本史上最著名的詔書,是昭和天皇發表的「大東亜戦争終結の詔書」,也就是所謂玉音放送的原稿。
近代日本史に於いて最も有名な詔書が昭和天皇の出された「大東亜戦争終結の詔書」であり、いわゆる玉音放送の原稿となったものだ。
即便在現代,若聽說在國會召集、眾議院解散、參議院通常選舉等情況下也會發布詔書,便能理解其重要性。
現代に於いても国会の召集や衆議院解散、参議院の通常選挙などに際して発行されていると聞けば、その重要性は理解できるであろう。
「關於喪期過後一年預定建立的社,據說四天王寺會派遣金剛組前來。此外也有數位著名的番匠(即現代所稱的宮大工)表示願意出面,還有以石工聞名的穴太眾也說隨時準備前來……」
「喪(も)が明けた一年後に建立(こんりゅう)予定の社についても、四天王寺より金剛組が派遣される手筈とのことです。他にも名立たる番匠(ばんしょう)(現代でいう宮大工)が名乗りを上げているそうです。また石工として有名な穴太衆(あのうしゅう)からは、いつでも参ずる用意があると……」
「等等、等等!這是不是越弄越大了?我只是想建一座小小的社來祭祀那些孩子們而已……」
「待って、待って! 何だかどんどん大事になってないかな? 私はこじんまりとした社を建てて、あの子たちを祀(まつ)ろうとしただけなんだけど……」
聽到靜子的話,彩沉重地嘆了口氣。雖然自認很了解靜子自我評價低,但親眼目睹時還是湧現出另一種感受。
静子の言葉に彩は重いため息を吐いた。静子の自己評価が低いというのは重々知っているつもりだったが、こうして目の当たりにするとまた別の想いが浮かんでしまう。
靜子心底有個意識,無論成就多大的大事,自己始終不過是可以替代的個人。然而在他人眼中,根本沒有誰能勝任替代靜子的位置。
静子はどれほどの大事を成そうとも、いつでも代替の利く一個人に過ぎないと言う意識が根底にある。だが、他のものから見れば静子の代役が務まる人物など居るはずがない。
也就是說,靜子的動向總是吸引有力者的關注。若有人得到消息說她離開所有公職,作為一個人去度長假,會發生什麼事呢?
つまり静子の動向は常に有力者の耳目を惹き付けることになる。そんな静子が全ての公職を離れ、一個人として長い休暇を取るなどという情報を掴めばどうなるか?
因為正值與被視為宿敵的本願寺剛剛了結恩怨,於是不少人起了猜忌。再加上信長以自己的名義為靜子招募番匠,遂使此次騷動擴大。
宿敵と目された本願寺との決着がついた矢先の出来事だけに、邪推するものは少なくなかった。そこに来て信長が、自分の名で静子の為に番匠を募ったがために今回の騒動へと発展した。
「關於帝與朝廷的意向我無法斷定,但對於番匠的動向可以預料」
「帝や朝廷のご意向については判りかねますが、番匠については予想がつきます」
「欸!?這是什麼意思?」
「え!? どういうこと?」
「靜子様,您至今所施予的恩惠正在回報給您。」
「静子様、貴女が今まで為さってきた恩が返ってきているのです」
「嗯——倒是比較有讓人怨恨的記憶,但被回報恩情的事好像並不多……」
「うーん、恨まれる覚えは割とあるけど、恩返しされるようなことってそんなに無いような……」
彩無可奈何地搖搖頭。見她這副樣子靜子也只是一頭霧水,於是彩乾脆把話說出口。
処置のしようがないとばかりに彩は頭を振った。その様子を見ても静子は首を傾げるばかりなので、敢えて口にすることにした。
「說您沒自覺也是個問題。對靜子様或許是再平常不過的事,但請理解在這亂世中對外援助是多麼罕見。您是為了保護與傳承技藝而伸出援手,然而接手病弱的番匠或提出資金援助,並非人人能做得到。那些曾被逼不得已而不得不捨棄同伴的人,能安心從事工作,想回報這份恩義也不足為奇。」
「自覚がないと言うのも問題ですね。静子様にとっては、当たり前(・・・・)のことかも知れませんが、この乱世に於いて余所にまで援助をするという事がどれほど稀有(けう)なことかご理解下さい。貴女は技術の保護や継承を目的として手を差し伸べられたのでしょうが、身体を悪くした番匠を引き受けたり資金援助を申し出たりするというのは誰もが成し得なかったことなのです。身を切るような思いで仲間を見捨てなければならなかった彼らが、安心して仕事に励めるようになった御恩を返そうとするのは不思議ではありません」
「啊——大匠工作常有意外,雇主卻沒有保障這點我覺得是失職。如果有人因為對我有恩義而想回報,希望能把那份好意轉給其他人。我記得好像叫做恩送吧?不過既然如此也不能完全拒絕,這次就讓我接受他們的好意好了。」
「あー。大工仕事に事故は付きものだし、それに対する保障が無いのは使用者側の怠慢だと思うんだけどね。私に恩義を感じてくれるなら、それを他の人に回してあげて欲しいな。確か恩送(おんおく)りって言うんだよね? ただ、そういうことなら無下にする訳にもいかないから、今回は甘えさせて貰おうかな」
「我覺得那是好的。佛法有句話『懸情流水 受恩刻石』(把施予的憐憫如流水一般放下,將所受之恩刻於石以不忘)的教誨。請把您曾放下的憐憫視為已循環回返,領受他們的恩義吧。」
「それが良いと思います。仏の教えに『懸情流水(けんじょうりゅうすい) 受恩刻石(じゅおんこくせき)』(情けを懸けたことは水に流し、受けた恩は石に刻んで忘れないの意)というものがあるそうです。静子様が水に流された情けが、巡り巡って戻ってきたと思い、彼らの恩返しを受けて差し上げて下さい」
「雖然害怕會變成覺得理所當然要接受回報,但老實說這次真是幫了大忙。畢竟要建立有歷史的社,並不是我們能掌握的技術。」
「恩返しを受けて当然って考えるようになるのが怖いんだけど、今回は正直助かるかな。流石に歴史ある社を建立する技術は、私達じゃ持ち得ないからね」
「這或許也是天意的安排。靜子様一旦遭遇苦難,便會有人提出幫助。天或許看著您過去對他人所施的功德。若您欲走上歧路,糾正之則為臣下之責。」
「これも天の配剤なのでしょう。静子様に苦難が訪れれば、その助けとなる申し出があるのですから。貴女が今までに他人に施されてきた功徳を、天は見ておられるのかも知れません。もし貴女が間違った道に進もうとされるなら、それを正すのは臣下の務めです」
「……謝謝你。」
「……ありがとう」
面對難得語氣充滿情感的彩,靜子一邊覺得害羞一邊表達了感謝。
いつになく想いを込めて語る彩を前に、静子はくすぐったさを覚えつつも感謝を告げた。
靜子深深吸了口氣,搖了搖頭讓自己平復混亂的情緒。
大きく深呼吸をした静子は、頭を振って混乱を落ち着かせる。
關於詔書一事,朝廷不可能僅憑善意行事,想必另有盤算。但即便如此,一旦發布的詔書也不可能被撤回。
詔書の件については、朝廷が善意だけで動くはずもないため、何らかの下心があっての事だろう。それでも一度発布された詔が取り消されることはあり得ない。
既然事已發生無可奈何,靜子認為為政者的職責就是控制其所帶來的影響。
起こってしまったものは仕方ないとして、それによる影響を制御するのが為政者の務めだと静子は考えた。
必須巧妙應對以免依賴山林為生的民眾遭受不利益,但因為無前例,預料困難重重。
生活の一部を山に依存している民が不利益を被らないよう、上手く立ち回らねばならないが、前例のないことだけに困難が予想される。
「老實說,成為神體山會帶來什麼影響難以預測。不過無論是好是壞,總有人會趁亂行惡,因此要比平常更加小心。」
「正直なところ、神体山となることでどんな影響が出るかは予測がつかない。ただ、良きにつけ悪しきにつけ、混乱に乗じて悪事を働こうとするものは出るから、いつも以上に注意しないとね」
「是,明白了。若超出我等所能,會準備好向上様借力。」
「はい、承知しました。我々の手に余るようであれば、上様のお力も借りられるよう準備をしておきます」
「若是杞人憂天那當然最好。再說世間的悲劇,比起由惡意引起的,更多是出於善意而造成的。我真希望能讓我們為維特曼和巴爾蒂哀悼一段時間就好……」
「取り越し苦労であれば、それに越したことはないんだけどね。それにこの世にある悲劇って、悪意から起こったものより善意から生じたそれの方が多いんだよね。ヴィットマンとバルティの喪に服す時間くらい放っておいて欲しかったなあ……」
「靜子様一直對地位、財產和榮譽皆不感興趣,所以一旦初次目睹便易翩然起舞。對這類想當然的旁人,必須讓他們見識一下。」
「静子様は今まで地位にも財産にも名誉にも興味を示されませんでしたから、はじめて目にした隙に舞い上がっているのでしょう。そのような慮外ものには、目にものを見せてやりませんと」
「啊,不用主動對抗就好。只要多加注意即可。」
「いやあ、進んで敵対はしなくて良いよ。ただ注意だけは払いましょう」
「好,失陪了。」
「はい、では失礼します」
兩人以互相注意作結,但她們的擔憂最終成為杞人憂天。
ともに気を付けようと話を締めくくった二人だが、彼女達の心配は杞憂となった。
至於朝廷的干涉,大概是因為義父近衛前久為沒能阻止詔書而耿耿於懷,自此徹底地進行了各方斡旋,封鎖了之後的一切動作。
朝廷からの干渉については、義父である近衛前久(さきひさ)が詔書を止められなかったことを気にしてか、徹底的に根回しを行って以降の動きを悉(ことごと)く封じた。
與前久形成對照的是信長,他直接向公家們發難。明明是為了慰勞忠心侍奉的臣下而給予休養,卻因此帶來事端,他質問這是否對織田家的一種挑釁。
前久とは対照的に信長は真正面から公家達を糾弾(きゅうだん)する。身を尽くして仕えてくれた臣下を労わって休養を与えたと言うのに、そこへ騒ぎの種を持ち込むとは織田家に対する挑戦かと問うたのだ。
有些人發現自己夾在一方面漸成武家頂點的信長與作為公家頂點的關白前久之間,已踩到了虎尾,頓時震驚不已。
片や武家の頂点へと至りつつある信長と、関白という公家の頂点である前久の両方から板挟みとなり、虎の尾を踏んでしまったことに気付いた者たちが震え上がった。
靜子本不打算舉行那種盛大儀式,但已發布的詔書影響難以撥亂反正,於是決定舉行將維特曼與巴爾蒂奉為山之鎮守神的地鎮祭。
静子としては仰々しい儀式などするつもりもなかったのだが、発布されてしまった詔書の影響は如何ともしがたく、ヴィットマンとバルティを山の鎮守(ちんじゅ)神とする地鎮祭が営まれることになった。
對外宣布為地鎮祭,但其實內裡兼具葬禮與送葬。本來打算僅在親族間靜悄悄進行,沒料到竟會鬧得如此盛大。
公には地鎮祭となっているが、その内実は葬儀と葬送をも兼ねていた。本来は身内だけでひっそりと執り行うつもりだっただけに、ここまでの大事になるのは予想外であった。
朝廷本打算在山頂舉行儀式,但靜子堅決反對進入禁足地,再加上她的兩位後見人支持,最終改為在山麓舉辦。
朝廷としては山頂で儀式を執り行うつもりであったが、静子が禁足を頑として譲らず、また彼女の後見人二人がそれを支持したために麓での開催となった。
出席者陣容可謂聲勢赫赫,連不把權威放在眼裡的傾奇者慶次,以及傍若無人到活脫脫一幅畫的長可,為了滿足靜子的願望都盛裝出席。
参列者についても錚々(そうそう)たる顔ぶれが並び、そうした権威を意に介さない傾奇者の慶次や、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)を絵にかいたような長可ですら、静子の願いを叶えんがため正装に身を包んでいる。
(雖然有很多人不知道你們的事,但真心哀悼的人們都在,會原諒的吧?)
(お前たちの事を知らない人も多いけど、心から悼(いた)んでくれる人達は揃っているから許してくれるよね?)
靜子向山頂閉目,祈求ヴィットマン與バルティ會守護著他們。
山頂に向かって静子は瞑目し、ヴィットマンとバルティが自分達を見守ってくれることを祈った。
由於此事關乎帝的威信,朝廷派來以帝的代理人、關白義父前久為首,及屬於他派閥的公家列席,山科言經等文人也有參加。
この一件に関しては帝の威信に関わるため、朝廷からは帝の代理人として関白である義父の前久を筆頭に、彼の派閥に属する公家が並ぶ。また山科(やましな)言経(ときつね)ら文人たちも参加していた。
言經在日記中如此記述當日的事。
言経はこの日の出来事を日記に次のように記している。
「這是在遠離京城之地、名不見經傳的小山作為靈峰舉行的祭事,但始終肅穆進行。尤其是尾張之人皆虔誠祈禱,一點喧嘩聲都無。」
「京から遠く離れた地に於ける、誰も名も知らぬような山を霊峰とする祭事だが、終始厳かに進められた。特に尾張の者たちは皆が真摯(しんし)に祈りを捧げ、しわぶき一つ聞こえなかった」
此外他還觸及了參列者的面貌。
更には参列者の顔ぶれについても触れていた。
「令人驚訝的是,本願寺也派了名代參列。雖然尚未和好就派遣使者,而尾張方竟然接受,令人生畏於其度量之廣。能使那些曾被苦待之人也心生敬意,此人究竟是何等人物?」
「驚いたことに本願寺からも名代が参列していた。未だ和睦がなっていないというのに使者を遣わせ、またそれを受け入れた尾張方の度量の広さには驚かされた。散々に煮え湯を飲ませた相手ですら敬意を払わせるほどの人物とは如何ほどのものか」
對於沒有提到靜子現身的描述,或許是因為多半讓人感到落空吧。
そうして目にした静子の姿に対する言及がないのは、多分に肩透かしを食らったためであろうか。
除了他之外,還有許多文人記錄了當日之事,但那些多談的不是地鎮祭本身,而是隨後舉行的直會。
彼以外にもこの日の事を記した文人は多いが、それらは地鎮祭そのものよりも、後に催された直会(なおらい)について多く触れられている。
織田家方面有信長、信忠、信孝三人出席,濃姬與お市等人則婉拒參列。
織田家からは信長、信忠、信孝の三名が参列し、濃姫やお市たちは参列を遠慮した。
濃姬知道靜子不願張揚,遂提出協助幕後諸事以減輕她的負擔。
濃姫は静子が大げさにすることを望まない事を知っており、少しでも負担が軽くなるよう裏方全般への協力を申し出てくれている。
多虧她的協助,靜子才能帶著些許餘裕應付祭事,並向出席者致意。
彼女の助力のおかげで、多少の余裕をもって祭事に臨めている静子は、参列者に挨拶をしていた。
「今天在百忙之中蒞臨,感激不盡。」
「本日はご多忙のところ、ご参列を賜り有難く存じます」
靜子向信長與信忠奉上口上並低頭致意。信孝似乎被其他人攔住,並未到場。
静子は信長と信忠へ口上を述べて頭を下げる。信孝は他の誰かに捉(つか)まっているのか、この場にはいなかった。
對深深低頭的靜子,信長讓她起身後像對待孩童般撫摸她的頭。突如其來令靜子驚愕張目,信長以溫柔目光只說了「妳做得很好」便離去。
深々と頭を下げる静子に対し、信長は彼女に身を起こさせると幼い子供にするかのように頭を撫でた。突然のことに静子が驚いて目を見開くが、信長は優しい眼差しで「貴様は良くやった」とだけ口にすると立ち去った。
信忠也隨信長步去,與靜子擦身而過時輕拍她的肩兩下。靜子明白那是他在公開場合所能表達的最大安慰,視野一時扭曲,拭去淚水送別了他們。
信忠も信長に続いて歩み去るが、静子とすれ違う際に彼女の肩を二度軽く叩いてみせた。公の場で出来る彼なりの精一杯の慰めだと理解した静子は、思わず視界が歪んだが涙を拭って彼らを見送った。
地鎮祭本有既定程序,不花太多時間便結束,轉入相當於宴會的直會。
元より決まりきった手順が定められている地鎮祭だけに、それほど時間を掛けずに終了すると宴会に相当する直会へと移る。
直會是以神酒乾杯,大家共享供品下來之食物。
直会とはお神酒で乾杯し、お供え物のお下がりを皆で食する事を言う。
雖然出乎意料地變得盛大,但尾張名產紛紛上桌,眾人為那些從未見過的菜餚與酒所吸引著迷。
思いがけず大事になってしまったが、そこは天下に鳴り響いた尾張の産物がこれでもかと供され、誰しもが見た事もない料理や酒に魅了されていた。
對靜子以外的親眷而言這只是祭事,酒入之後肅穆氛圍便消散,場面逐漸喧鬧起來。
静子の身内以外にとっては祭事であり、酒が入ってしまえば厳かな雰囲気など消し飛んでしまい、大変な賑わいとなっていく。
對於心情易於低落的靜子,這樣熱鬧的氣氛是可貴的。
気分が落ち込みがちであった静子にとって、こうした賑やかな空気はありがたかった。
「靜子大人,拙僧也來冒充一下說教。」
「静子様、拙僧も少し説教の真似事を致しましょう」
把一大盤鱈魚咖哩炸與炒蔬菜獨自吃光的華嶺行者,走到會場一隅獨自佇立的靜子身邊。
鱈のカレー揚げと野菜炒めの大皿を一人で空にした華嶺行者が、会場の隅で一人佇んでいる静子の許へとやってきた。
雖然他外貌明顯古怪,卻詭異地沒有引起任何注意,靜子直到他來到眼前才察覺他的存在。
明らかに怪異な風貌をしているというのに、不思議と誰からも注目されず、静子自身も目の前に来られるまで彼の存在を認識できなかった。
華嶺行者待靜子平復後開口,聲音並不大卻奇異地清晰,令人印象深刻地傳入耳中。
華嶺行者は静子が落ち着くのを待ってから、決して大きな声ではないのに不思議とはっきり耳に残る声で語り始める。
「靜子大人,您定然因未能對離去的兩頭盡到足夠的事而悔恨。然而,那正是一種傲氣。無論準備多周全仍會留有遺憾,非神非佛的凡人再怎麼盡心,也難以成就十全的施予。」
「静子様は、貴女の許を去った二頭に対して十分な事をしてやれなかったと後悔しておいででしょう。しかし、それは傲(おご)りというものです。どれ程万全の準備をしていたとしても悔いは残るでしょうし、神仏ならぬ御身がどれほど尽くそうとも十全の施しなどというものは成し得ませぬ」
華嶺行者的話聽來並不討喜,正因此卻悄然滲入心裡。
華嶺行者の言葉は決して聞こえの良いものでは無かったが、それ故にするりと心に沁み込んできた。
出自一位見送過遠比靜子更多生死者所達之境界的話,斷言靜子的悔恨乃是傲慢。
静子よりも遥かに多くの生死を見送ってきたものが達した境地から発される言葉は、静子の後悔を傲慢だと断じた。
但那同時也稍微減輕了她肩負的重擔。
しかし、それは同時に彼女が背負っているものを少し軽くもしてくれた。
「死亡並非終焉。那是失去兩頭之後新日常的開始,留下的人各自必須每日努力地活下去。追念離去者無妨,但不可為之所囚。」
「死とは終焉(しゅうえん)ではありませぬ。二頭(かぞく)を欠いた日常の始まりであり、残されたものはそれぞれに日々を懸命に生きねばならぬのです。去ったものを偲ぶのは良いでしょう、しかし囚われてしまってはいけませぬ」
「……」
「……」
「即便不舉行這等神事,歸返山中的他們也會守護吾等。織田大人所倡之天下布武是偉大志向,但在山眼中亦只是刹那夢。即使道半朽敗,山亦會包容一切。妳過於欲背負太多,反倒看不見自身。並非叫妳立刻忘卻,但顧念當前支撐妳之物亦為要事。」
「このような神事を行わずとも、山へと還った彼らは我らを見守ってくれるでしょう。織田様の唱える天下布武、大したお考えですが山からすればそれすらも刹那(せつな)の夢。たとえ道半ばに朽ちたとしても、山は全てを受け入れてくれるでしょう。貴女は多くを背負おうと気負い過ぎ、却ってご自身が見えておらぬのでしょう。すぐに忘れろとは申しませぬが、貴女を今支えてくれるものを顧(かえり)みることも大事かと存じます」
「……是啊。感謝你。我稍微感到輕鬆了一些。」
「……そうですね。ありがとうございます。少し、気が楽になりました」
「哎呀,我這個帶腥味的和尚竟然說得一副了不起。但若妳忽視現在,兩頭也不能安心長眠,切莫忘記。」
「いやはや、生臭坊主が偉そうなことを申しました。ですが御身が今を蔑(ないがし)ろにすれば、二頭も安心して眠れぬことをお忘れ無きよう」
一邊再三叮囑後深深一禮,華嶺行者回到人群之中。方才凝望遠方般透明的眼神消失無蹤,他被濃烈誘人的咖哩鍋香吸引得搖搖晃晃的模樣甚至有些滑稽。
そう念を押しつつ深々と頭を下げた後、華嶺行者は人ごみの中へと戻っていった。先ほどまでの遥か遠くを見つめるような透明な眼差しは消え去り、強烈に食欲をそそるカレー鍋の匂いにフラフラと誘われる様はユーモラスですらあった。
見此極大的反差,靜子不禁苦笑,亦想起久違的飢餓。她夾起此前不願動筷的菜餚,入口咀嚼時重新感受到生的實感。
その余りの落差に静子は思わず苦笑し、久しく忘れていた空腹を思い出した。それまでは手を付けようとも思わなかった料理に箸を伸ばし、口に入れて噛みしめると生の実感が湧いた。
憑藉ヴィットマン與バルティ的獻身,靜子在這戰國世間續存生命。作為他們的主人,靜子的職責不是沉溺悲痛,而是將他們遺留下的生命繼續傳至下一代。
ヴィットマンとバルティの献身によって静子はこの戦国の世で生を繋いだ。彼らの主人として静子が為すべき務めとは、悲嘆に暮れることではなく、彼らが遺した命を次代へと繋げていくことだ。
他們的孩子カイザー與ケーニヒ等雖未與同族繁衍,卻以ウルフドッグ的形態留存血脈。靜子明白到,她的任務是盡一切手段以免這血脈斷絕。
彼らの子であるカイザーやケーニヒ達は同族の子を為さなかったが、ウルフドッグという形でその血を残している。それが絶えてしまわぬよう、手を尽くすことが己の役目だと理解した。
「月亮好美呢」
「月が綺麗だね」
所謂直會的宴席仍在繼續,但規模逐漸縮小。因為睡著或醉倒之人已由足滿等人陸續抬出,會場中留下的人數日漸減少。
直会と称した宴は尚も続いているが、徐々にその規模は小さくなっている。眠りこんでしまった者や、酔い潰れたものは都度足満たちが外へと運びだしているため、会場に残る人数はどんどん少なくなっていた。
把給仕和在收拾的女僕與下人們的後續交給他們,靜子離開了直會的場所。天色已經完全暗下,天空中掛著一輪現代無法見到的澄澈月影。
給仕や片づけをしている小間使いや下働きたちに後を任せ、静子は直会の場から立ち去った。既に日はとっぷりと暮れ、天には現代では決して目に出来ない澄んだ月の姿が見える。
「差不多該睡了。明天也得早起呢」
「そろそろ寝ないと。明日も早いからね」
信長與信忠兩人雖然絕不會說出口,靜子卻隱約明白他們渴望她回歸。
信長も信忠も決して口にはしなかったが、静子は彼らが自分の復帰を望んでいることを漠然と理解していた。
靜子並不認為那是薄情。以她的立場來看已經得到足夠的時間,個人的情感與作為領主、作為信長的臣下應盡的義務是分開的。
それについて薄情だと静子は思わなかった。自分の立場を思えば十分に時間を貰ったし、個人的な感情と領主としてまた信長の臣下として果たすべき責務は別だ。
而且這並不代表必須與他們決裂。靜子的人生仍會繼續,只要活著,時常總會有緬懷他們的機會。
それにこれで彼らと決別せねばならないわけではない。静子の人生はこれからも続いていくのだ。生きている限り、折に触れて彼らを偲ぶ機会は巡ってくる。
「接下來會變得很艱難吧」
「これから大変な事になる、かな」
靜子一邊仰望天空一邊自言自語。到目前為止,信長藉由靜子蒐集了大量情報,但並未積極運用那些情報來行動。
静子は空を見上げながら独白する。今まで信長は静子を通じて多くの情報を掻き集めていたが、それらを積極的に活用して動いてはいなかった。
然而,時機似乎正在成熟。以天性直覺嗅出端倪的信長,將結束雌伏之時,迎來雄飛之刻,並欲向天下昭示此事。
しかし、機が満ちつつあるのだろう。天性の勘によってそれを嗅ぎ取った信長は雌伏の時を終え、雄飛の時を迎えた事を天下に知らしめようとするだろう。
「上樣會等我平復嗎?或許我想得太高了」
「上様は私が落ち着くまで待ってくれたのかな? 流石に思い上がりすぎか」
靜子帶著幾分自嘲低語,但她的想法卻相當中肯。
自嘲気味に呟く静子だが、彼女の考えは的を射ていた。
信長從此將一鼓作氣發起攻勢。為此,能使己軍發揮最大戰力的靜子之存在是不可或缺的。
信長はこれより一気に攻勢に出る。その為にも自軍の力を最大限に発揮させる静子の存在が必要不可欠であった。
在她恢復萬全狀態之前,他們一直在伺機,無法啟動戰端。
彼女が万全の状態を取り戻すまでは、戦端を開くことはできないと機を窺っていたのだ。
終於時機成熟。若她重返戰線,信忠與靜子的第二次東國征伐便將展開。
そして遂に機は満ちた。彼女が戦線に戻れば信忠と静子の第二次東国征伐が始まる。