戦国小町苦労譚
一五七六年二月中旬
近江首屈一指的大店「田上(たなかみ)屋」的店主,且為靜子的御用商人久次郎已經前往九州。
近江有数の大店(おおだな)『田上(たなかみ)屋』の店主にして、静子の御用商人でもある久次郎は九州へと足を延ばしていた。
他判斷,失去與本願寺聯繫的毛利無法阻擋織田家的霸業,戰火不久便會逼近九州。
彼の見立てによると、本願寺との連携を失った毛利では織田家の覇業を阻むことは出来ず、遠からず戦火は九州へ迫ると読んでいた。
屆時為了避免在戰亂中遺失,靜子出面保護藝事是理所當然,他正奮力在當地建立能支援靜子的體制,作為立足點。
そうなれば戦災での遺失を避けるべく、静子が芸事保護に乗り出すのは自明であり、その為の足掛かりとして自らが乗り込んで現地で静子を支援できる体制を作りあげるべく奮闘していた。
與商人交易不同,與作為武家的國人交易時,若非以現金或實物便缺乏說服力。
商人との取引と異なり、武家たる国人たちとの取引に於いて現金や現物以外では説得力に欠ける。
話雖如此,即便是靜子,要在遙遠的九州籌措大筆現金或等值貴重實物,也只能透過海路運送。
とは言え、流石の静子といえども遠く離れた九州の地で、大金やそれに準じた価値ある現物を用立てるには海路を通じて輸送するほかない。
於是他想,若由身為御用商人的自己先在九州設據點,能在當地調度現金或實物,會如何?
そこで御用商人でもある自分が九州に先んじて拠点を持ち、現金や現物が都合を付けられるとしたらどうだろう?
不同於需數日才能到達且可能因海難而全損的海運,若當地有可信的商人能現場墊資,便非利用不可。
到着するまでに日数を要する上に、海難事故等による全損すらあり得る海運と異なり、現地に信用のおける商人が居て、その場で資金を用立ててくれるのだ、これを利用しない手はない。
若是國人之間的大額交易,資金流動龐大,久次郎可得的手續費也將相當可觀。
国人同士の取引ともなれば莫大な金額が動くことになり、それに応じて久次郎が得られる手数料も莫大なものとなる。
此外還能以靜子的御用商人之名打響招牌,在遠離近江的九州穩固地盤。
更に静子の御用商人として名を売ることができ、近江から遠く離れた九州の地でも地盤を固める事が出来る。
接著把九州的特產輸往東國,將東國各種物品運往西國循環,所能獲得的利潤不可限量。
後は九州の特産品を東国に流し、東国の各種物品を西国にと循環させれば、得られる利益はどれ程のものになるか判らない。
久次郎自與靜子的交往中聽得現代式的企業運營,依自己理解加以實踐。
久次郎は今までの静子との付き合いから、現代式の企業運営を聞き出し、自分なりに解釈して実践していた。
那是透過發行股份來構築以資本關係相連的企業集團。
それは株式を発行する事により資本関係で結びついたグループ企業の構築であった。
靜子談的是讓各分社擁有特色的分社化,但基礎知識不足的久次郎把它理解為所謂「暖簾(のれん)分け」的延伸型。
静子としてはそれぞれに特色を持たせた分社化を語ったのだが、基礎知識で劣る久次郎は所謂(いわゆる)『暖簾(のれん)分け』の発展形だと理解した。
然而,相較於僅以資本關係連結的冷酷分社獨立,帶有家族性格的久次郎式暖簾分家更契合時代,結果奇妙地獲得成功。
しかし、資本関係だけで繋がった冷徹な分社独立よりも、家族的な性格を引きずった久次郎の暖簾分け方式の方が時代にマッチしており、奇しくも彼の策は成功した。
因此久次郎的店號「田上屋」成為異例的全國知名大店,發展為日本境內版圖最廣的一大商業集團。
お陰で久次郎の屋号である『田上屋』は異例の全国区で名の知られた大店となり、日ノ本で最も広い版図を持つ一大商業コングロマリットに成長していた。
利用田上屋所建立的企業網,便能在尾張存現金、在九州領現金,確立了類似現代銀行的匯款功能。
この田上屋が作り上げたグループ企業網を利用すれば、尾張で現金を預けて九州で現金を引き出すことが可能となる。現代社会の銀行が担う送金機能を確立していた。
這項功績獲得肯定,並廣為九州國人知悉靜子的御用商人,結果他雖為商人卻取得藝事保護的當地總代理地位,被委以與當地國人交涉的任務。
この功績を評価され、九州の国人にも広く静子の御用商人として周知された結果、商人でありながら芸事保護に関する現地総代理人の地位を得て、現地の国人たちと交渉を任されるまでになった。
「久次郎さんは、蛍丸(ほたるまる)の件で交渉中だっけ?」
「久次郎さんは、蛍丸(ほたるまる)の件で交渉中だっけ?」
在現代被認為是來(らい)國俊(くにとし)所作的大太刀蛍丸,於太平洋戰爭終結時的混亂期下落不明;而在戰國時代則由阿蘇氏作為家寶所藏。
現代に於いては太平洋戦争終結時の混乱期に所在不明となった、来(らい)国俊(くにとし)作の大太刀(おおたち)とされる蛍丸だが、戦国時代では阿蘇氏が家宝として所持している。
史實上,阿蘇氏在降於島津氏後作為戰國大名的阿蘇氏滅亡,後來於豐臣秀吉的九州征服時以阿蘇神社大宮司之位再興。
史実では阿蘇氏が島津氏に下った事を機会に戦国大名としての阿蘇氏は滅亡し、後に豊臣秀吉の九州制圧の際に阿蘇神社の大宮司として再興した。
即便在那段嚴酷的變遷中也未曾放棄蛍丸,成為阿蘇神社宮司家時仍奉為寶刀並秘藏,故靜子認為交涉將相當困難。
その過酷な変遷の最中(さなか)にあっても蛍丸を片時も手放さず、阿蘇神社宮司家となった際にも宝刀として奉納し、以後秘蔵し続けたことから困難な交渉になると静子は考えていた。
於是靜子決定動員她所擁有的一切人脈。
そこで静子は己の持てるコネクションを総動員することにした。
亦即透過義父前久(さきひさ)向朝廷請得借用蛍丸的勅書,並派遣她的代理人久次郎,以商人衝入懷裡的方式打動對方。
即ち、義父である前久(さきひさ)を通じて朝廷より蛍丸借用に関する勅書を賜り、一方では己の代理人である久次郎を送り込み、懐に飛び込む商人ならではの方法で心を掴んだ。
而在這一切的背後,有被視為最接近天下人的織田家這座重鎮所提供的武力後盾。
そしてそれらすべての背景に、天下人に最も近いとされる織田家の重鎮であるという武力の裏打ちがあった。
即便做到這一步,要讓對方點頭仍需相當時間,這就是人類這種生物令人頭疼之處。
ここまでしても、相手が頷くまでには相応の時間を要するのが人間と言う生き物の難しい処だと言える。
「借用が叶ったら、まずは現物の写真を撮ってファイリングし、その後に写しを製造かな」
「借用が叶ったら、まずは現物の写真を撮ってファイリングし、その後に写しを製造かな」
靜子所擁有的刀劍分為三種:第一為稱作本科者,即所謂的真品;第二為本科已失傳的寫し;第三為本科仍存在的寫し。
静子が所有する刀剣は3種類に分類されている。一つ目は本科と呼ばれる所謂本物。二つ目は本科が失われた写し、三つ目は本科が存在する写しとなる。
本科亦寫作本歌,指作為寫し原本的刀劍。像此次阿蘇氏那般雖會借出但不願轉讓的情況,便以本科為範本製作寫し。
本科とは本歌とも書き、写しの元となる刀剣を指す。今回の阿蘇氏のように借用には応じても、譲渡は望めない場合等に本科を手本に写しを作ることになる。
若製造過程已明確,可望製得相當精巧的寫し,但許多名刀即便是鍛刀者本人也不見得能再造出相同之物。
製造過程が明らかになっていれば、それなりに精巧な写しが望めるが、多くの名刀は刀剣を打った本人にして、二度と同じものが作れるか判らない。
儘管如此,靜子認為為了刀劍研究而製作寫し是有意義的,於是積極支援刀鍛冶製作寫し。
それでも刀剣の研究をする上で、写しを製造することに意味があると静子は考え、精力的に刀鍛冶を支援し写しを作らせている。
如今被稱作靜子愛刀的大包平(おおかねひら),靜子平時所佩的也只是其寫し。
今では静子の愛刀として知られる大包平(おおかねひら)も、静子が普段佩刀(はいとう)しているのは写しである。
為了製作更精巧的寫し,本科被收納於刀箱中並嚴密管理。
本科はより精巧な写しを作るために刀箱に収められ厳重に管理されている。
能見到本科大包平者,唯有靜子或受靜子許可的刀鍛冶;除非特別儀式,靜子本人亦不會佩帶。
本科の大包平を目に出来るのは、静子もしくは静子に許された刀鍛冶のみであり、特別な行事以外では静子自身も身に着けることはない。
為避免即便附屬資料遺失而混淆本科與寫し,靜子委託製作的寫し在茎(なかご,柄中收納的握持部分)處設有識別巧思。
また付属の資料等が遺失しても本科と写しが混同されないよう、静子が作らせた写しには茎(なかご)(柄に収まる持ち手部分)に工夫がなされていた。
該處平時被柄飾掩蓋不可見,但義務上要刻上製造年月日與「静写」的銘文。
普段は柄に装飾され見えない部分だが、そこに製造年月日と『静写』の銘を切ることが義務付けられている。
順帶一提,當刀工為製造而接觸本科時,靜子軍的正規兵會嚴密守護周邊,甚至動員間者,防備周到。
因みに刀工たちが製造の為に本科に触れる際には、周辺を静子軍の正規兵が固め、更に間者までが動員される念の入れようとなる。
被監視的刀工們反而歡迎,因為安全獲得保障,從衣食住到材料皆有保障,得以專心鍛刀。
監視される側の刀工たちは、安全が確保される上に、衣食住から材料に至るまでが保障される為、刀鍛冶に専念できるとむしろ歓迎すらしていた。
「要是能像買下『にっかり青江(あおえ)』那樣就好了,但那只是運氣站在一邊罷了啊。」
「『にっかり青江(あおえ)』のように買い取れたら良いんだけど、あれは運が味方しただけだよねえ」
靜子一邊喃喃自語,一邊仰面躺在床上。
静子は呟きながら床に仰向けに寝転がった。
『にっかり青江』是備中青江派所作的一把大脇差,關於其名稱由來有多種說法難以確定,但共同之處是「斬了一名會微笑的女幽靈,隔日去看斬落之處發現石燈籠被劈成兩半」的傳說。
『にっかり青江』とは備中青江派作の大脇差(おおわきざし)であり、名前の由来は複数あるため定かではないが共通している部分は「にっこりと笑う女の幽霊を斬り、翌朝斬った場所を確認すると石燈篭が真っ二つになっていた」というものである。
據說斬殺這個幽靈的武士也有三人被提名,除了斬殺地點外,還確認到細節上的差異,例如說是帶著一女一子的幽靈。
この幽霊を斬ったとされる武士も三人の名が上がり、斬った場所の他にも女と子供の二人連れの幽霊だなどと細部の違いが確認できる。
另外還有其它擁有類似逸話的刀劍,那把是備前長船(おさふね)長光(ながみつ)所作,因此被稱為「にっかり長光」。
また他にも似たような逸話を持つ刀剣があり、そちらは備前長船(おさふね)長光(ながみつ)作であったため、にっかり長光と呼ばれている。
「柴田大人重視實質勝於名聲,雖然令人高興,但另一方面也感到寂寞啊」
「柴田様は名より実を取っちゃったから、嬉しい反面寂しくもあったなあ」
にっかり青江的所有者是柴田勝家,靜子一方面覺得易於交涉,但另一方面想像可能只會借用而已。
にっかり青江の所有者は柴田勝家であり、静子としては交渉し易い反面、借用だけに留まるだろうと想像していた。
然而,事實一揭開,柴田二話不說就答應讓渡,並請她代為協助領地經營。
しかし、蓋を開けてみれば柴田は二つ返事で譲渡を約束し、代わりにと彼の領地経営を補佐することとなる。
當然,對織田家而言,也期望柴田能使北陸地區繁榮並妥善治理,於是取得信長的許可後進行合作。
勿論、織田家にとっても柴田が北陸の地を繁栄させ、しっかりと治めてくれることは望むところであり、信長の許可を得て協力する運びとなった。
靜子自行認定柴田為同樣愛刀之士,對於能夠買下來既高興又有些被背叛般的複雜心情。
静子は勝手に柴田を同じく刀剣を愛する同好の士と認定しており、買い取りが叶って嬉しい反面、裏切られたような複雑な心境となっている。
另外由於未經磨上(すりあげ,將日本刀改短)的處理,和現代的分類不同,にっかり青江並非大脇差而被歸為太刀。
なお磨上(すりあげ)(日本刀を短く作り直すこと)が行われていない為、現代のそれとは異なりにっかり青江は大脇差ではなく、太刀として分類される。
「為了研究使用正本有風險,另一方面若是什麼都要做成復刻品,荷包也會受不了啊」
「研究のために本科を使うのはリスクが伴うし、かと言って何でもかんでも写しを作るのは懐が痛むなあ」
若關於刀劍高價交易的認知廣泛流傳,邪惡之徒自然會冒出來。倘若靜子所借用的刀劍遭竊,無論理由為何,她的信用都會受損。
刀剣が高値で取引されると言う認識が広まれば、当然のように邪な輩が湧いて出てくる。仮に静子の借用している刀剣が盗難に遭えば、理由如何に拠らず彼女の信用は失墜する。
信用易失難得,得回來需長時間。一旦容許過一次盜竊,今後的借用就會變得困難。
信用は失うに容易く、勝ち得るには長い時間を要するものである。一度でも盗難を許せば、以降の借用は難しくなる。
或許可以以權力或武力強行施壓,但強行橫徵暴斂的代價終將糾纏不休,遲早會把自己推入窮境。
権力や武力を背景にごり押しすることはできるだろうが、無理に横車を押した代償は必ず付き纏い、いずれ自分を窮地に追い詰める可能性がある。
為了排除這類風險,借來的刀劍會先拍照並取得詳細的測量資料,之後委託可信的刀匠製作複製品。
そうしたリスクを排除するためにも、借用した刀剣は写真を始めとした詳細な計測データを取った後、信用できる刀工に写しの制作を依頼する。
在製作複製品期間,正本在運送途中也由旗下部隊警備,若借用期限允許會暫時保管,並被運入靜子府第中警備最為嚴密的倉庫。
写しの制作中は勿論、本科については運送中も子飼いの部隊が警備を務め、借用期間に余裕があればその間保管するため、最も警備が厳重な静子邸にある蔵へと運び込まれる。
如此製成的複製品經過必要處置後會送到靜子手中。
こうして制作された写しは、所定の処置を施した上で静子の許へと届けられる。
近來僅因為靜子曾擁有而增添光環,複製品也開始具有一定價值,對複製品的取扱也變得需要注意。
近頃は静子が所有したというだけで箔が付くのか、写しにも一定の価値が生じるようになり、写しの取扱いについても注意が必要になってしまった。
「那麼,休息結束。開始工作吧」
「さーて、休憩は終わり。仕事に取り掛かるか」
她從四肢攤開仰望天花板的姿勢奮力坐起,伸手去拿置於文桌上的文件盒。
大の字で天井を仰いでいた姿勢から、勢いを付けて起き上がると、静子は文机に置かれた書類入れに手を付ける。
近來,靜子親自要處理的工作多半變成了事務性作業。
この頃、静子自らが手掛けなければいけない仕事と言えば事務処理になっていた。
雖然已盡量減少只有她能做的工作,但仍有非以統括身分無法決斷的決裁事務,雖不至於忙到不可收拾,卻也不能讓她偷閒。
自分でなければできない仕事を減らしていった結果ではあるが、それでも統括する立場でなければ判断できない決裁事務は残るものであり、忙殺される程ではないが楽はさせて貰えない。
靜子親自披掛上陣行軍的情況,自東國征伐以來已久未發生。
静子自身が甲冑を身に纏い行軍するような事態は、東国征伐以来絶えて久しい。
即便有出陣,也僅會以她的立場駐守後方發號施令。
仮に出陣することがあったとしても、静子の立場では後方に陣取って指示を出すのみである。
雖然精於弓術,但近身戰鬥力幾乎等於無,體力與武力也不可能勝過男性。
弓の扱いこそ秀でているものの、近接戦闘力は皆無に等しく、体力腕力で男性に勝るわけもない。
然而靜子麾下的將兵絕不會輕視她。
それでも静子配下の将兵たちが静子を侮るようなことは決してない。
因為他們親眼見識到她那罕見的調度指揮能力與宏觀視野,持續維繫軍隊命脈──後勤補給。
それは彼女の類まれな采配能力や、広く大きくものを見る視点により軍の生命線である兵站を維持し続けている姿をその目で見ているからだ。
對於不懂後勤為何物的外來部隊,僅因為她是女人可能會輕視靜子,但被編入靜子軍並完成包括座學在內軍事訓練的精銳士兵知道,力量不僅僅是武力。
兵站の何たるかを知らないような外様の部隊ならば女人であるだけで静子を侮る事もあるが、静子軍に組み込まれ座学を始めとした軍事訓練を終えた精兵は腕力だけが力ではない事を知っている。
「嗯……這個可決,這個應該駁回吧?把需要這麼大預算的理由附上再提出」
「ふーむ。これは可決、こっちは却下かな? これだけの予算を必要とする根拠を添えて再提出っと」
逐張確認書類,若無問題就蓋決裁印並移入已決裁的文件箱;被駁回的則加註駁回理由後分類入另一文件箱。
書類を一枚ずつ確認し、問題なければ決裁の判を捺して決裁済みの書類箱へと移し、却下するものには却下理由を書き加えて別の書類箱に分別する。
所有文件裁可完畢後,隨從會把各文件箱搬到事務人員所在的房間,之後的處理就會被接手。
全ての書類について裁可が終われば、小姓がそれぞれの書類箱を事務方の詰める部屋へと運び、以降の処理が引き継がれることになる。
休息一會兒後的靜子發揮集中力,連續處理完等待決裁的文件。
休憩によって一息いれた静子は、集中力を発揮して次々と決裁待ちの書類を片付けていった。
「母上,工作結束了嗎?」
「かかさま、おしごとおわりました?」
把最後一份文件放入已決裁的文件箱後,靜子注意到室外傳來的聲音並回頭一看,見到器(うつわ)把襖輕輕掀開,從縫隙窺出臉來。
最後の書類を決裁済みの書類箱へと移したところで、静子は室外から掛けられた声に気付いて振り返る。見ると器(うつわ)が襖を少し開けて、隙間から顔を覗かせていた。
「嗯,正好剛辦完。怎麼了嗎?」
「ええ、丁度今終わったところ。どうかした?」
一邊這麼問,靜子又翻找記憶,試圖想起是否和器有什麼約定。
そう問いつつも静子は自分の記憶を掘り返し、器と何か約束をしていたかを思い出そうとする。
如果由她先開口,器也會回應,但平常極少主動說話的器這次卻主動,這讓靜子感到在意。
こちらから話しかければ応えもするが、滅多に自分から話しかけない器がそれをしたという事が静子には気掛かりだった。
「那個,今天彩誇獎我了」
「あのね、きょうはあやがほめてくれたの」
「喔喔!那真了不起!那個傲嬌的彩醬竟然能讓人看出來地稱讚,妳真努力啊!」
「おお! それは凄いね! あのツンデレの彩ちゃんがそれと判るように褒めてくれるなんて、よく頑張ったね!」
「傲嬌?」
「つんでれ?」
「咳咳,沒事。比起那個不要待在那裡,過來這邊好嗎?」
「コホン、何でもありません。それよりもそんな処に居ないで、こちらにおいで?」
說完靜子整個身體向後轉身,向器招手。器有些猶豫,但被靜子浮現的笑容吸引,走進室內並安坐在靜子伸出的雙手間。
そう言うと静子は体ごと背後に振り返り、器に向かって手招きをする。少し迷った器だが、静子の浮かべる笑みにつられて室内に入ると、静子の差し出す両手の間に収まった。
靜子把器放在自己膝上,像是在相互擁抱般面對面,交頭接耳地應和器說話。
静子は自分の膝の上に器を座らせて、まるで抱き合うかのようにお互いに向かい合って器の話に相槌を打っている。
從戰國的常識看這行為會被皺眉,但器在成為靜子的養女之前受過虐待,變成情感淡薄的少女。
戦国の常識からすれば目を顰(ひそ)められる行動だが、器は静子の養女となるまでの虐待が元で感情が希薄な少女となっている。
靜子深信能療癒她的,是眾所周知的愛與肌膚接觸。也許因為性別差異,四六害羞不肯讓她抱,這是她目前的煩惱。
それを癒してやれるのは、誰の目にも明らかな愛情と肌の触れ合いだと静子は信じてやまない。性別の差があるためか、四六は照れて抱かせてくれないのが目下の悩みだ。
幸好兩人都對靜子敞開了心,雖然四六有些行為不良,但有個名為慶次的同性可靠兄長在身邊。
幸いにして二人とも静子には心を開いてくれているし、四六には少々素行が悪いが慶次と言う同性で頼れる兄貴分が居る。
靜子在異性情感的微妙之處極為欠缺,因此慶次願意擔當兄長讓她感到意外的高興。
静子自身が異性との感情の機微については壊滅的であるため、慶次が兄貴分に収まってくれたのは嬉しい誤算であった。
「今天有算術考試。雖然很難,但我努力了,彩說我很努力喔」
「きょうはね、さんすうのしけんがあったの。むずかしかったけどがんばったら、あやがよくがんばりましたって」
「嗯」
「うん」
「而且飯都沒剩就吃完了。我也一個人去洗澡了喔」
「それとごはんものこさずたべたの。おふろもひとりではいれたよ」
支支吾吾說話的器,聽起來像是在被表揚,不用人提醒就會自己做事。
たどたどしく話す器の言葉によると、言われなくても自分の事を自分でする器を褒めたようだ。
「嗯(比起茶々大人和初大人……不,那兩人根本超出常規)」
「うん(茶々様や初様と比べたら……いや、あの二人は規格外か)」
「平常雖然很可怕,但在誇獎的時候會笑」
「いつもはこわいけど、ほめてくれるときはわらってくれるの」
「是啊。彩平常沒表情,但一笑起來就很可愛。做好事就誇,做壞事就罵。這是在大家一起生活時非常重要的事」
「そうだね。彩ちゃんは普段無表情だけど、その分笑ってくれた時は可愛いよね。良い事をしたら褒めて、悪い事をしたら叱る。これは皆と一緒に暮らす上で、とても大事なことなんだよ」
「嗯。其實想一直被誇,但還是會被罵。所以想慢慢變得不會被罵」
「うん。ほんとはいつもほめられたいけど、やっぱりしかられることもあるから。すこしずつしかられないようになりたい」
「不用急。而且與其努力不被罵,不如增加被誇的次數會比較快樂喔?我和彩都很喜歡器,真希望每天都能誇她」
「焦らなくても良いんだよ。それに叱られないようにするよりも、褒められることを増やす方が楽しいよ? 私も彩ちゃんも器が大好きだから、本当は毎日でも器を褒めたいんだ」
靜子像抱著器的頭靠在胸前般,溫柔地撫摸她的頭髮。器沒有表示反感,任由靜子依偎,眯起眼睛看起來很舒服。
器の頭を胸に抱きこむようにして、静子は器の髪を優しくなでる。器は嫌がる素振りもなく、静子に身を任せると目を細めて心地よさそうにしていた。
被忽視的陰影仍然深深籠罩在器身上。不是想做些什麼,而是想不被罵,這樣的想法作為孩子來說有些不健康。
ネグレクトの影響は未だ色濃く器に影を落としている。自分が何かをしたいではなく、叱られないようにしたいと言うのは子供の発想としてはやや不健全だ。
對器而言,比普通孩子更需要以更清晰的言語與態度傳達愛。
器には普通の子供よりもよりはっきりと言葉と態度で愛情を伝える必要がある。
自己從未真的生過孩子,假裝當母親多少讓人覺得羞澀,但這絕不是可以與器的成長相權衡的事。
実際に子を産んだことのない自分が母親の真似事をするのは少し気恥ずかしくもあるが、器の生育と天秤に掛けられるものではない。
「本來打算像哥哥那樣會說話再告訴你的,但太高興了所以忍不住來了」
「ほんとうはあにさまみたいにはなせるようになってからいうつもりだったんだけど、うれしくってきちゃった」
器在成長過程中幾乎不說話,恐怕大腦語言區的發展較為遲緩。
器は成長の過程で殆ど言葉を発さなかったため、恐らく脳の言語野の発達が遅れている。
從只和兄長兩人生活,換到有其他孩子的環境,據報告聽說器也在意自己不能順利對話這點。
兄と二人だけの生活から、他の子どももいる環境に身を置いたことで、器自身も自分が上手に会話できないことを気にしていると報告では聞いていた。
「說得很好喔。四六(兄上)最初也是這樣,慢慢來,每天都和媽媽說話吧!」
「上手に話せているよ。四六(あにさま)も最初はそうだったから、少しずつ毎日かかさまと話そう!」
「嗯」
「うん」
「失禮了,靜子大人。石切丸的複製品已經送來了——」
「失礼します、静子様。石切丸(いしきりまる)の写しが届きました――」
正和器說著無目的的閒話,話語突然中斷的時候,彩來報告了。
器ととりとめのない会話を続け、ふと会話が途切れたタイミングで彩が報告に現れる。
那宛如掌握好時機般的精準讓靜子感受到她的體貼而高興,於是抱著器轉向彩。
まるで見計らったかのようなタイミングの良さに、彼女の気遣いを感じて嬉しくなった静子は、器を抱きかかえたまま彩の方へ向き直った。
「傲嬌」
「つんでれ」
在靜子還沒來得及說謝謝之前,器已指著彩說出那句話。瞬間彩臉上的情緒色彩被抽離,變成如能面般的無表情。
ありがとうと静子が声を掛けるよりも早く、器が彩を指さして言葉を発した。途端に彩の顔面から感情の色が抜け落ちて、能面のような無表情へと変じる。
「靜子大人,有件事想和您談。器大人,晚餐已經準備好了,請和大家一起用餐。我也會跟上去的」
「静子様、少しお話がございます。器様、夕餉の支度が出来ておりますので、皆と一緒に食事になさってください。私も追って参りますので」
「嗯,知道了」
「うん、わかった」
「謝謝您」
「ありがとうございます」
器指著彩稱她為傲嬌時,彩露出優雅的笑容。然而在那漂亮笑容的背後,靜子看見浮現怨恨的般若陰影。
彩の事を指してツンデレと呼んだ器に、彩は上品な笑みを浮かべている。しかし、静子にはその綺麗な笑みの背後に怨嗟の表情を浮かべた般若の影を見た。
之後,關於密閉室內發生的事靜子再也不肯提起。
その後、締め切られた室内での出来事について静子は決して語ろうとはしなかった。
足滿近來頻繁前往技術街,與木工、五金細工師、鑄造師等反覆進行細密的商談。
足満は最近、技術街に足しげく通い木工職人や金物細工師、鋳物師などと綿密な打ち合わせを繰り返していた。
加工木材時總會產生稱為端材的零碎剩料。
木材を加工するとどうしても端材(はざい)と呼ばれる半端な余り部分が出てしまう。
此外在山林整備時產生的間伐材或林地殘材等,雖不能做為商用或建築材料,但又捨不得丟棄的木材會出現。
この他にも山の整備で出る間伐材や林地残材(りんちざんざい)など、商売や建築材料としては使えないが捨てるには惜しい木材が生じる。
通常會將其加工成一次性筷子或牙籤等小物再利用。
通常は割り箸や、爪楊枝等の小物へと加工して再利用している。
即便在現代,一次性筷子也被視為資源浪費的象徵,在生態名義下遭受非難,但本來它是將廢材有效利用、支撐森林資源的一種作法。
現代でも割り箸が資源の無駄遣いの象徴のようにあげつらわれ、エコの大義名分の元に断罪されたが、本来は廃材を有効活用し森林資源を支える工夫の一つであった。
史實上割箸首次出現的時期不明,但一般確認流通的是江戶後期、文政(1818~1831年)左右。
史実に於いて割り箸が初めて登場した時期は不明だが、一般的に流通している事が確認できるのは江戸後期、文政(1818~1831年)頃と言われている。
根據介紹江戶、京、大阪事物的百科書《守貞謾稿》,當時並不是以割箸稱之,而是被稱為「引き裂き箸」。
江戸時代後期の江戸、京、大阪の事物を紹介した百科事典のような書物、守貞謾稿(もりさだまんこう)に拠れば当時は割り箸という呼び名ではなく、『引き裂き箸』と呼ばれていたようだ。
在技術街先行生產的割筷,幸好「割」這個動作有「開始一件事」的含義,因此在神事與慶典等眾目睽睽之下使用,並逐漸在庶民間普及。
歴史に先んじて技術街で生産される割り箸は、幸いにして「割る」という行為が「事をはじめる」と言う意味をもつため、神事や祝い事など衆目の前で使用され、庶民にも広まっていった。
不只木製,竹製的割筷也有生產,價格低廉到餐飲店也能夠供應使用。
木製だけでなく竹製の割り箸も生産され、飲食店でも割り箸を使える程度には安価で供給されるようになっていた。
在那樣的背景下,找不到合適大小邊料的足滿,雇人去回收林地殘材並買下,然後招呼木工職人請他們把材料加工成各種形狀。
そうした背景もあり、手頃な大きさの端材が手に入らない足満は、林地残材を人まで雇って回収した上で買い取り、木工職人達に声をかけて様々な形に加工するよう依頼していた。
由於分別交給各種工匠,除了足滿之外沒人知道全貌,但工匠們察覺他打算做出相當精巧機構的東西,正努力回應他的要求。
色々な職人にバラバラに発注しているため、足満以外は全体像が判らないが、かなり精巧な機構を備えた何かを作ろうとしていることを職人たちは察しており、足満の要求に応えるべく奮闘していた。
當所有零件到手後,足滿用黏著劑和螺絲開始組裝,組出了會勾起現代男性鄉愁的形狀。
足満は全ての部品が手許に届くと、接着剤やネジを用いて組み立てを開始し、現代人の男性であれば郷愁を掻き立てられるような形へと組み上げた。
「好! 精度超出預期,沒有晃動,組得很牢固」
「よし! 期待以上の精度だ。がたつきもなくしっかりと組み上がった」
原理上就是把用割筷做的橡皮筋槍放大,連槍管和握把都講究,是個成人的玩具般的完成品。
原理的には割り箸で作る輪ゴム鉄砲を大きく、銃身やグリップにも気を使った大人の玩具と言った仕上がりだ。
足滿拉動由鑄件護圈保護的鍛鐵扳機,確認固定具正常動作後滿意地點了點頭。
足満は鋳物のトリガーガードで守られた鍛鉄製のトリガーを引いて、固定具が正常に動作する事を確認すると満足げに頷いた。
「理想是要塗漆或上光,但先能成形就先算不錯了!」
「理想を言うならニスを塗ったり、塗装をしたりしたいところだが……まずは形になっただけでも良しとしよう!」
足滿用邊料製作的是自動手槍型的橡皮筋槍。
足満が端材を用いて作ったのは、オートマチックハンドガン型のゴム銃だ。
隨著工業化進展,硫酸與硝酸等作為必需基材的酸類需求增加,副產物樹脂與法克蒂斯等剩餘物被利用來製作的橡皮筋大量普及。
工業化が進むにつれて硫酸や硝酸と言った必須基材となる酸の需要が増え、副産物として樹脂やファクチスの余りを利用した輪ゴムが大量に普及していた。
當然彈性比不上天然橡膠,但一想到只要挑選合適粗細就能用於橡皮筋槍,足滿心中的少年魂便開始歡呼。
勿論天然ゴム程の弾性は無いのだが、それ相応の太さのものを見繕えば十分にゴム銃に使えると閃いた途端、足満の中に住まう少年魂が叫び始めた。
足滿偏好的是轉輪式手槍勝於自動手槍,但回轉式彈倉與橡皮筋槍相性不佳,因此放棄了那個念頭。
足満の好みはオートマチックよりもリボルバータイプのハンドガンなのだが、回転式弾倉と輪ゴム銃は相性が悪いため断念していた。
「先用橡皮筋槍展示連發式槍,就能證明它的有用性。總有一天還想攜帶轉輪手槍」
「まずはゴム銃で連発式銃を見せれば、その有用性が示せよう。いずれはリボルバーを携帯したいものだ」
若能做出能射實包的手槍當然好,但連栓式步槍都還停在半自動階段,無法期待技術一蹴而就的飛躍。
実際に実包を射撃できる拳銃を作れれば良いが、ボルトアクションライフルですらセミオート止まりの現状、一足飛びの技術革新は望めない。
與實彈不同,能在完全相同位置裝填多個彈體(在此為橡皮筋)的橡皮筋槍,適合作為理解連發機構的教材。
実弾と異なり、全く同じ個所に複数の弾体(この場合は輪ゴム)を装填できるゴム銃は、連発式の仕組みを理解する教材として適していると言えた。
「以取代擊鐵的齒輪掛住的方式,最多能裝十二發橡皮筋。我試做了五把,叫上みつお、五郎、四郎來互相試射看看吧」
「撃鉄代わりの歯車に引っ掛ける形で、12発まで輪ゴムを装填できる。試しに5丁作ったから、みつおや五郎、四郎にも声をかけて試しに撃ち合ってみるか」
若是真槍且有金屬框架,要玩雙槍很困難,但除了機構部位外幾乎全木製的橡皮筋槍則能輕鬆應付雙槍打法。
金属製のフレームを持つ実銃ならば難しい二丁拳銃も、機構部を除けば殆どが木製のゴム銃ならば余裕で扱う事が可能だ。
他為自己留了兩把,插在腰兩側的帶上掛好,將剩下三把和橡皮筋用風呂敷包起來興沖沖地出門了。
自分用に二丁確保して、腰の両側で帯に差し込んで吊るすと、残りの三丁と輪ゴムを風呂敷に包んでいそいそと出かけていった。
數日後,許多士兵目擊到練兵場一角四個年紀不小的大叔正興高采烈地互相射擊,模樣十分好玩。
数日後、練兵場の片隅で良い歳をしたおっさん4人がそれは楽しそうに撃ち合いをする姿を多くの兵士が目撃することになる。
不知為何大家也被吸引,形成一股祕密風潮,鐵匠繪圖改良、費盡心思進行改造,各種魔改開始出現。
何故か皆も心惹かれるものがあったのか、密かなブームとなり、鉄砲鍛冶が図面を引いて工夫を凝らすなど、魔改造が始まった。
時光流轉,二月中旬。彩雙腿站立,靜子悄然坐在她面前,呈現出往常的構圖。
時は巡り、二月半ば。仁王立ちする彩と、その前で悄然と座る静子と言ういつもの構図があった。
「靜子大人,何時才能讓我擺脫那個奇怪的稱呼?」
「静子様、いつになったらあの面妖な呼称から解放して頂けるのですか?」
面對彩的沉著怒氣,靜子為自己能力不足而感到懊悔。換言之,器養成了把彩稱為「傲嬌」的習慣。
彩の静かな怒りを前に、静子は己の力不足を嘆いていた。即ち、器が彩のことを『ツンデレ』と呼ぶ癖がついてしまったのだ。
「妳在教妳的女兒些什麼?」
「貴女は自分の娘に何を教えているのですか?」
「對不起喔,絕對不是壞意思喔?乍看難以接近,但指的是內心溫柔的女性喔?」
「ごめんね。決して悪い意味じゃないんだよ? 一見とっつきにくいけど、内心は優しい女性を指す言葉だからね?」
靜子無法直視彩的眼睛,低著頭磕磕巴巴說出幾乎算不上謊言的辯解。
彩の目を見つめる事が出来ず、静子は俯いたままで辛うじて嘘ではない言い訳を口にする。
「也就是說?」
「つまり?」
「我跟器說不是罵人而是稱讚,器好像喜歡那個語感……」
「悪口じゃなくて誉め言葉だって器にも説明したら、音の響きが気に入ったみたいで……」
靜子試圖說服器別說那個詞,雖是讚美但不夠端雅,然而器因為那短句能精準表現彩,反而很喜歡並開始大量使用。
静子は器に対して、誉め言葉だけど余り上品な言葉じゃないから言わないように説得を試みたが、短いセンテンスで的確に彩を表現する語彙を気に入ってしまい、多用するようになってしまった。
從靜子的態度看,不覺得只是單純那麼一回事,但至少不是惡意,彩不情願地選擇忍耐。
静子の態度を見るに、それだけの意味とは思えないが、少なくとも悪意があるわけではないと理解し、不本意だが彩は自分が我慢をすることを選択した。
「被指著說些不明所以的詞,比想像中還要讓人放不下心」
「自分を指さして、何だか判らない言葉を掛けられるというのは意外に気になるものです」
「抱歉喔」
「ごめんね」
「沒關係。說不在意是騙人的,但我會努力習慣的」
「もう構いません。気にしないと言えば嘘になりますが、慣れるよう努力します」
對彩來說那是個陌生的稱呼,但因為她反應過度反而顯示器很中意,彩祈願器能早點膩了就好。
彩からすれば聞き慣れない呼び名だが、過剰に反応するから器も気に入っている節があるため、器が早く飽きてくれることを願うことにした。
「這個話題就到此為止吧。不過現在必須決定如何應對這個問題」
「この話はもう良いでしょう。しかし、今はこの問題にどう対応するかを決めなければなりません」
話雖如此,彩也明白自己正在對靜子施加苛刻之事。
そう言いつつも、彩は自分が静子に酷な事を強いているという自覚があった。
靜子明顯是刻意避開那個話題(……),但因為時間限制也不能再拖延。
静子が意図的にその話題(・・・・)を避けているのは明白であり、しかし時間的制限のため先延ばしも出来ない案件であった。
即使會被指為無情,也必須讓靜子正視這個問題。
非情だと誹(そし)られようとも静子には問題に向き合って貰わなければならない。
若從這個問題逃避,最終後悔的會是靜子本人,彩已下定決心要狠下心來。
この問題から逃げたところで、一番後悔するのは静子自身となる、彩は心を鬼にする覚悟でいた。
「我明白彩醬想說的是。腦子裡是明白的,這幾年也一直做好了覺悟……不,應該說我以為做好了覺悟。但當它真的擺在眼前時,還是不行啊……」
「彩ちゃんが言わんとしていることは理解してる。頭では理解してるし、何年も前から覚悟はしていた……いや、していたつもりだったんだ。でも、いざ目の前に突き付けられると駄目だな……」
不同於平常的靜子,這是一種像疲憊老者般無力的喃喃自語。為了忍住那股差點溢出的情緒,靜子抬頭望向天花板,輕輕嘆了一口氣。
いつもの静子とは異なり、疲れ果てた老人のような力ない呟きだった。思わず流れそうになる何かに耐えるため、静子は天井を見上げて小さく息を吐いた。
彩幾乎因為過於刺痛而瞬間想移開視線,但她強行收束意識,硬是穩住了自己。
余りの痛々しさに彩は一瞬目を逸らしそうになったが、強く意識を引き締めることで踏みとどまった。
站在彩面前的,不再是無論何等困境仍帶著某種悠閒開朗的靜子,而是個無法接受將失去自己家人的、僅僅只是個女人的模樣。
彩の前に居るのは、どんな苦境でも何処か暢気で朗らかな静子の姿ではなく、己の家族を失う事を受け入れられずにいる唯の女の姿であった。
「我腦子裡是知道的,算是活得長了。沒有藥也沒有專門醫師,能活到這步已經很了不起。你知道嗎?若是野生的話壽命甚至不到現在的一半喔」
「頭では解ってるんだ、長生きした方だって。薬も専門の医者も居ないなか、ここまで生き永らえたことがさ。知ってる? 野生の寿命なら今の半分もないんだよ」
「……我能體會您的心情。但拖延也是有極限的──」
「……心中お察しいたします。しかし、先延ばしするにも限界が――」
「我知道!」
「判ってる!」
靜子用力將拳頭砸在桌上大聲喊道。
力任せに拳を机に打ち付けて静子が叫ぶ。
發出一聲巨響,但彩面無表情,沒有任何人要衝過來的樣子。
大きな物音がしたが、彩はポーカーフェイスを崩さず、誰も駆けつけてくる様子もない。
只是,彩在靜子看不見的角度緊握拳頭,指甲深深陷入手掌。
ただ、彩は静子から見えない位置で爪が手に食い込むほどに拳を握りしめていた。
「對不起。我知道的。我這副樣子讓工作受了影響,彩醬你真的在為我著想,我都知道……」
「ごめんね。判ってはいるんだ。私がこの体たらくなため仕事に支障を来たしているのも、彩ちゃんが本当に私を思いやってくれているのも判ってはいるんだ……」
「什麼影響──」
「支障など――」
「即便如此,這次心是真的跟不上。對不起,我自己也知道這樣不行。也知道時間不多,但再給我一點時間吧……」
「それでも、今回ばかりは心がついてこないの。ごめんね、自分でもこのままじゃダメだって判ってる。時間が無いのも判ってるけど、もう少し時間を頂戴……」
許多話語在腦海掠過,但沒有一句從彩口中說出。
幾つもの言葉が脳裏を過るが、そのどれもが彩の口から放たれることは無かった。
一向善良得令人感到無奈,但必要時又能冷酷的靜子,此刻無法控制情緒被牽扯的模樣,讓彩說不出話來。
呆れるほどお人よしだけれど、必要とあらば冷酷にもなれる静子が感情を制御できずに振り回される姿を前に、彩は言葉を失ってしまった。
而對於在困苦時總是在旁陪伴的靜子,無法成為她的支柱讓自己感到焦急與無力。
そして辛い時にいつも寄り添ってくれた静子に対して、力になれない己が歯がゆかった。
「對不起。能讓我一個人待一會兒嗎?工作我會想辦法處理好」
「ごめん。暫く一人にしてくれるかな? 仕事は何とか片付けるから」
「我知道了」
「分かりました」
彩咬緊牙關品味自己的無力,離開了靜子的房間。
彩は己の無力さを噛みしめながら、静子の部屋を後にした。
靜子已經太重要,不能任由情緒擺布。她說出的一句話,有時足以左右一個人的生死。
静子は己の感情に身を任せるには偉くなり過ぎた。彼女が発する一言は、時として人の生死をも左右する一言となる。
倘若靜子帶著怒氣情緒化地嚴厲訓斥某人,在這個時代,那對被訓斥者來說幾乎等於死刑宣判。
もし仮に静子が苛立ちのまま、誰かを感情的に強く叱責したとする。この時代のそれはされた方にとって死刑宣告にも等しい。
遭到主上責難的家人地位會變得像沾了瘡一樣人人避之唯恐不及,最糟糕的情況甚至會被連同家人一同逐出領地,這並不罕見。
主人の勘気を被った家人の立ち位置など、腫物もかくやといったものになる。最悪の場合、家族もろとも領外へと放逐されることすら珍しい事ではない。
「(妳至今壓抑自我,為了世人、為了他人奉獻。分離的時刻也應該可以有些任性吧……)失禮了」
「(貴女は今まで己を殺し、世の為人の為に尽くしてきた。別離(わかれ)の刻(とき)ぐらい自儘に振る舞える自由があっても良いだろうに……)失礼します」
彩深深鞠躬,關上隔開室內與外面的襖門。然而,室內沒有任何回應傳出。
彩は深く頭を下げて、室内と外を隔てる襖を閉めた。しかし、室内から応(いら)えが返ってくることは無かった。
「……靜子的情況如何?」
「……静子の様子はどうじゃ?」
在走廊轉角處,彩被側面傳來的聲音招呼。尋聲望去,站在那裡的是市。
廊下の角を曲がったところで、彩は横合いから声を掛けられた。声の主を探せば、そこに居たのは市であった。
她帶著憂鬱的表情注視著彩,已沒有那種得意洋洋在靜子宅邸大搖大擺的模樣。
憂えた面持ちで彩を見つめる彼女からは、我が物顔で静子邸を闊歩する女性の姿は無かった。
對市的詢問,彩默默搖了搖頭。市彷彿早已料到這個答案,輕輕嘆出帶著哀傷的氣息。
市の問いかけに彩は無言で首を横に振った。市もその答えを予測していたかのように、切なげなため息が漏れる。
「就連妳也不行嗎」
「お主でも無理か」
「沒辦法。對方就是那個人……」
「仕方ありません。相手が相手……ですし」
一邊這麼說,彩回想起數日前的情景。靜子開始鬱鬱寡歡的導火線,是二月初旬那天下起冷冷的雨夾雪的日子。
そう口にしながら彩は数日前を思い返していた。静子が塞ぎ込むようになった発端は、二月初旬の冷たい霙(みぞれ)が降った日だった。
前一日的暖意彷彿消失無蹤,隨著急速的寒冷,陰沉濕冷滲入。
前日の温かさが嘘のように鳴りを潜め、急激な冷え込みと共に陰陰滅滅とした湿気が入り込んでくる。
這麼惡劣的天氣沒什麼別的事可做,靜子的工作也順利處理完畢,吃過午飯時就空閒下來了。
こう悪天候だと他にすることもなく、静子の仕事も順調に片付いてしまい、昼餉を終える頃には手隙となっていた。
往常她會提前著手做新工作,但不知為何興致缺缺,她躺在一旁加入了原本閒著的維特曼家族的圈子。
常ならば前倒しで進めるべく新たな仕事に取り掛かるのだが、何故かそんな気分になれず傍(かたわ)らに寝そべって控えていたヴィットマンファミリーの輪に加わった。
往常靜子入睡前,狼群會守護在旁,但那天並非如此。
いつもなら静子が眠りに就くまで、狼たちが見守るのだが、その日はそうならなかった。
靜子靠在カイザー身上閉上眼睛約一會兒後,ヴィット曼突然開始劇烈地咳嗽,發出喘鳴並開始粗重呼吸。
静子がカイザーにもたれ掛かり、目を閉じてから一刻ほど経った頃。ヴィットマンが突然咳込み、ぜいぜいと荒い息を吐き始めた。
伴隨著混濁的喘鳴和含水聲的咳嗽,他吐出帶血的嘔吐物。
濁った喘鳴(ぜいめい)と水音の混じる咳と共に、血の混じった吐瀉物を吐き出した。
作為老化的徵兆,他睡眠時間比以前更長,也越來越多次對呼喊沒有反應,這些多少讓人有所預測,但沒料到症狀會急劇到這種程度。
老化の兆候として以前よりも睡眠時間が長くなり、呼びかけに反応しないことが増えていたこともありある程度は予測していたのだが、ここまで急激な症状は予期していなかった。
慌張的靜子立刻吩咐去叫醫生,並在此期間守在ヴィット曼身旁繼續看護。
焦った静子はとにかく医者を呼ぶように命じ、その間ヴィットマンに寄り添って看病を続けた。
巴爾蒂和カイザー等人也或許因為擔心反覆粗重呼吸的ヴィット曼,於是遠遠地守護著。
バルティやカイザー達も荒い呼吸を繰り返すヴィットマンを心配するのか、遠巻きに見守っている。
不久,來檢查其他犬科動物健康狀況的醫師到達,維特曼被抬上擔架送走了。
やがて他の犬科の健康状況を診ている医師が到着し、ヴィットマンは担架に乗せられて運ばれていった。
維特曼吐出的嘔吐物也被收拾起來,周遭除了沒了維特曼之外恢復到之前的樣子。
ヴィットマンが吐き出した吐瀉物も回収され、周囲はヴィットマンが居ないこと以外は以前と同じ状態を取り戻した。
被迫面對如同親人般的夥伴的病況,靜子的臉色變得如草稿紙般蒼白。
肉親にも等しい相棒の容態を突き付けられ、静子の顔色はわら半紙のようになっていた。
彩想要安慰,但又覺得外行人隨便說些撫慰的話不合適,只能靠在靜子身邊,輕輕撫摸她的背以示安慰。
彩としては慰めたいところだが、素人が気休めを口にする事も憚られ、静子に寄り添って背中をさするにとどめている。
在彩的這份奉獻下,終於稍微平靜下來的靜子,呆然失神地輕聲說出一句話。
そうした彩の献身もあって、ようやく少し落ち着いた静子は、呆然自失のままぽつりと言葉を漏らした。
「可能活不久了」
「もう長くないかもしれない」