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戦国小町苦労譚

1575年 十二月中旬

靜子戰戰兢兢地回頭,只見濃姬帶著艷然的笑容站在那裡。

恐る恐る静子が背後を振り返ると、艶然とした笑みを浮かべる濃姫がいた。

她與靜子對上眼時,故意誇張地低下臉,一副悲傷的模樣說起話來。

彼女は静子と目線が合うと、やけにわざとらしく顔を伏せ、さも哀しそうに言葉を紡ぐ。

「在日之本被稱為第一的榮譽,理應屬於殿。然而,殿因天下大事而離開尾張,無法湊時間。因此,靜子似乎不懂得那種用能取得栩栩如生畫姿的『かめら』來拍攝妾,讓忙碌的殿至少留有妾的相貌這等小小的女子心思。妾一直比親子還疼愛靜子,真是令人痛惜……」

「日ノ本で一番という誉(ほま)れは、殿にこそ相応しい。しかし、殿は天下の大事にて尾張を空けておられ都合がつかぬ。そこで克明な絵姿が得られるという『かめら』で妾(わらわ)を写し、お忙しい殿にせめて妾の似姿を持っていて頂きたいという、いじましい女心を静子は解(かい)さぬと見える。妾は静子を我が子以上に可愛がってきたというのに、ほんに嘆かわしいこと……」

濃姬故意上演明顯的裝哭,身後伺候的侍女也做出「啊,多麼令人憐惜」的安慰姿態。

濃姫が明らかな嘘泣きを決め込むと、背後に控えていた侍女も「ああ、なんとおいたわしい」と慰める仕草を見せる。

面對突如其來的鬧劇以及投向自己的指責眼光,靜子忍不住開始辯解。

唐突に始まった茶番と、自分に向けられる非難がましい視線に静子はたまらず弁解を始めた。

「絕不是輕視濃姬大人的意思。若無人希望,虎太郎也曾說過由他來,且みつおさん一家應該不會拘泥於次序。但是,真的可以嗎?」

「決して濃姫様を軽んじていた訳ではありません。虎太郎(こたろう)も希望者が居なければ自分がと申しておりましたし、みつおさん一家は順番に拘(こだわ)られないと思います。ですが、本当に宜(よろ)しいのですか?」

「哼哼哼,你竟然要問每天對著你送給妾的那面姿見的我?自從用了那面映得如此清楚的鏡子已經很久了,妾從未臥病過一次。也就是說那不過是迷信一類罷了」

「ほほほ、そなたがくれた姿見と毎日向かい合っている妾にそれを聞くのかえ? あれほどはっきりと映る鏡を使うようになって随分と経つが、妾が臥せったことなど一度としてない。つまりは迷信の類よの」

看到濃姬咯咯地笑得好像很有趣,靜子則以陰沉的目光回望。

ころころとさもおかし気に笑う濃姫を見て、静子はじっとりとした視線を浴びせる。

「剛才那齣小戲可以了吧?看你們倒是配合得相當默契……」

「さきの小芝居はもう宜しいのですか? 随分と息の合ったご様子でしたが……」

「好好。既然你會愉快地把日之本第一讓給妾,那妾也必須顯示胸襟的寬廣。那就走吧,妾已經準備好了,既然如此就把美麗的畫姿送到殿那裡去吧」

「よいよい。何せ日ノ本一番を快(こころよ)く譲ってくれるのじゃろう? ならば、妾も懐の深いところを示さねばなるまい? それでは参ろうか、既に支度は済ませておるゆえ、どうせなら美しい絵姿を殿に届けねばの」

送走心情大好的濃姬,靜子暗暗嘆了一口氣。

上機嫌で滑るように歩む濃姫の背を見送り、静子はこっそり溜め息を吐いた。

在場的みつお與靜子對眼後苦笑,點了一下頭,決定讓出順序。

現場に居合わせたみつおも静子と目が合うと苦笑し、一つ頷いて順番を譲ってくれることとなった。

把情況告訴虎太郎後,他表示本來若無人願意就會由他來,他雖然錯失了日之本第一,但只要能成為異人中第一也無妨,便表示同意了。

虎太郎にも事情を話すと、元より希望者が居なければ自分がと申し出たのであり、日ノ本一を逃したとは言え異人で一番でさえあれば良いと了承してくれた。

就這樣進行的世界首次人物攝影,選定的構圖為遠景可見雪山,近景有略帶淡紅色的山茶花,濃姬扶著山茶花微笑的姿態。

こうして執り行われた世界初の人物撮影は、遠景に雪山を望み、近景に薄紅(うすくれない)に色付く山茶花(さざんか)に手を添えてほほ笑む濃姫の姿という構図が選ばれた。

臨時被選為拍攝小隊的みつお舉起臨時反光板,注意陰影處理,拍出來的照片成為一張相當適合贈予信長的作品。

急遽撮影班に抜擢されたみつおが即席のレフ板を掲げ、陰影にまで気を配った写真が撮られ、信長に贈るに相応しい一枚に仕上がった。

立刻進行顯影後,將印得漂亮的照片請畫師上色,做成擬似彩色照片,裝入畫框,並如濃姬所言送往安土的信長處。

すぐに現像が行われると、美しくプリント出来たものに絵師が色を付け、疑似的にカラー写真に仕立てたものを額縁に収め、濃姫の宣言通り安土におわす信長の許へと届けられることとなった。

接著則是故意以和服出場的虎太郎被拍,最後收錄的是みつお一家和樂融融的樣子。

続いて敢えて和装で挑んだ虎太郎が撮影され、最後に仲睦まじい様子のみつお一家が写真に収まった。

「話說濃姬大人,作為照片原本的乾板要如何處置?有了它可以印出很多相同的照片,但若落入上樣以外之人手中,恐怕會有些不妥……」

「ところで濃姫様、写真の元となる乾板はどうされますか? これがあれば同じ写真が何枚も作れるのですが、上様以外の手に渡るのは些(いささ)か都合が悪いかと……」

「那就由靜子來保管吧。妾只要有一張與送給殿的那張成對即可。以靜子的性子,想必也會把它當作資料保存吧?」

「ならば静子の手で保管しておくれ。妾の許には殿に送ったものと対となる一枚があれば充分。静子のことゆえ、それも資料として残したいのであろう?」

「承蒙關照,感激不盡。定會嚴加保管,絕不讓外流。」

「お気遣い痛み入ります。決して外部に流出しないよう、厳重に保管致します」

這些用於一連串攝影的乾板,作為世界首次人物攝影使用的器材,其存在只在後世被傳聞保留其存在。

これら一連の撮影に用いられた乾板は、世界初の人物撮影に使用された機材として、後の世に存在のみが伝えられることとなる。

從尾張的騷動過了約半個月,在作為信長居所的安土,又因照片引發了另一樁問題。

尾張での騒動から半月ほどが過ぎ、信長の御座所たる安土では写真に端を発した別の問題が発生していた。

「濃姬奪走日之本第一還勉強可以接受。但在我虎次郎(信長的愛貓)之前居然讓野貓先被拍成照片,這我不能忍!把靜子給我叫來!無論如何一定要替我和虎次郎拍一張同框的照片!」

「お濃めが日ノ本一を掻っ攫うのはまだ許せる。しかし、わしの虎次郎(信長の愛猫)を差し置いて、野良猫が先に写真になるなど我慢がならぬ! 静子をここに呼べ! わしと虎次郎が共に収まった写真を是が非でも撮らねばならぬ!」

「話雖如此,上樣的照片若流傳,反而會使您暴露於危險。我願與蛍雪(光秀的愛貓)一起代替上樣侍奉!」

「お言葉ですが上様の写真が出回れば、御身を危険に曝(さら)すことになりましょう。私が蛍雪(けいせつ)(光秀の愛猫)と共に上様の代わりをお務(つと)め仕(つかまつ)る!」

「您在說什麼!明智大人也是丹波攻的總帥,絕不能有萬一,這裡由某人與令月(細川的愛貓)來……」

「何を仰いますか! 明智殿とて丹波攻めの御大将、万が一があってはなりませぬ、ここは某が令月(れいげつ)(細川の愛猫)と……」

「不不,各位都身處戰場,若留有相像恐會成為障礙,天皇也對照片抱有極大的興趣。首先由我與開耶(サクヤ)(前久的愛貓)一起照相吧」

「いやいや、各々(おのおの)方はいくさ場に立たれる身。似姿が残れば障りがありましょう、帝も写真には並々ならぬ興味を寄せられておられるご様子。まずは私が開耶(サクヤ)(前久の愛猫)と写りましょうぞ」

在安土的信長暫居殿,平日少見激動的信長正提高嗓門大聲喊叫。

安土にある信長の仮御殿では、いつになく激した様子の信長が声を張り上げていた。

明智光秀勸諫,隨後在場的細川藤孝挺身自薦。

それを諫めるように明智光秀が進言し、更に居合わせた細川藤孝(ふじたか)が我こそはと名乗りを上げる。

近衛前久又自我推舉,局面逐漸顯現出混沌的樣貌。

とどめとばかりに近衛前久(さきひさ)が自薦し、状況は混沌とした様相をみせつつあった。

除了信長之外,其他人雖然各自說著表面話,但心意一致:只要安全有保障,有野心的人誰不想成為第一?

信長以外の誰もが建前を述べているが、全員の心は一致していた。安全が担保されるのなら、自分こそが一番になりたいと願うのは野心家の性であった。

討論未能取得結論,總之決定先召回靜子與照片技術人員,便派出快馬前往尾張。

議論に決着がつかないまま、兎にも角にも静子と写真技術者を呼び戻すことだけが決まり、尾張へと早馬が仕立てられた。

接過那位面容決絕的使者交來的文書後,靜子被過於荒唐的任務弄得像死魚般眼神空洞,望向遠方,後悔不該寄出那張貓的照片。

決死の形相を浮かべた使者より文を受け取った静子は、余りにも余りな用件に死んだ魚のように虚ろな目で遠くを見やり、猫の写真なんか送るんじゃなかったと後悔していた。

結論是,各自保管自己拍攝的乾板,所有複印出的照片亦由各自管理,事情就此了結。

結論として、それぞれが撮影された乾板を各自で保管し、転写された写真も全て各自が管理することで決着した。

長途跋涉而來的靜子等人幾乎沒得歇息,就被帶去一處又一處拍照。

遠路はるばる出向いてきた静子達は、休息も取れぬまま撮影に連れまわされた。

信長成了「與愛貓合影的日本首位國人」,前久成了「與愛貓合影的日本首位關白」,光秀成了「同樣的武將」,藤孝則成了「同文化人」。

信長は『愛猫と共に写った日ノ本初の国人』となり、前久は『愛猫と共に写った日ノ本初の関白』、光秀は『同じく武将』となり、藤孝は『同文化人』となった。

看到大家滿心歡喜地把照片收藏起來,靜子心裡覺得男人無論幾歲都喜歡當第一,微微地覺得有些可愛。

皆がそれぞれにほくほくとした表情で写真をしまい込む姿を見た静子は、男は幾つになっても一番が好きなんだなあと少し微笑ましく思っていた。

此時,在接近堺的街道上長可已經紮營駐紮。

その頃、堺を目前に控えた街道筋では長可が陣を張っていた。

一路上他的老毛病依然如故,白天就喝到拔刀行凶,把揮刀胡鬧的醉漢打至半死,不幸引起長可注意而被消滅的夜盜團夥被殲滅,還一邊燒掉非法的關卡繼續前行。

ここまで出向く道中も相変わらずの振る舞いは続き、昼日中から酒を呑んだ挙句に刀を抜いて暴れる酔漢を半殺しにし、不運にも長可の嗅覚に察知された夜盗集団を壊滅させ、違法な関所を焼き払いつつの道行(みちゆき)であった。

因為他們絲毫不掩飾自己的存在,一行人的接近很早就被堺的商人們知曉,而成為長可目標的豪商從此過著惶惶不可終日的日子。

自らの存在を一切隠そうとしていないため、彼ら一行の接近は早い段階から堺の商人たちの知るところとなり、長可の目的となった豪商は既に生きた心地がしない日々が続いていた。

「好了,把你們那些看起來像商人的旅人一個個帶來。向所有出入堺的商人告知我尋找的那個人和目的。」

「さて、お前たち商人風の旅人を片っ端から連れてこい。堺に出入りする全ての商人に、俺の目当ての人物と目的を教えてやれ」

接受長可命令的手下們忠實執行了他的指示。也就是說,一道只攔截商人的簡易關卡建立了起來。

長可の命令を受けた配下達は、彼の指令を忠実にこなした。即ち商人だけを足止めする簡易関所が出来上がった。

當天便有大量抱怨湧向那位反抗信長的豪商,他派遣使者去制止長可的橫行。

その日のうちに、信長に反抗した豪商の許へ苦情が殺到し、彼は長可の狼藉を止めるべく使者を遣わした。

對於要求停止豪商無法無天的請求,長可的回答是「依從上樣之命,不服從之前在此留守」。

豪商の無法をやめるようにとの要請に対して、長可の返答は「上様の命に従え、従うまではここに留まる」であった。

豪商的使者嘗試各種交涉,但無法從長可那裡換來任何妥協,只得垂頭喪氣地返回堺。

豪商の使者はあれこれと交渉を試みたが、長可から一切の譲歩を引き出せず、すごすごと堺へと戻っていった。

達成了第一個目標後,長可等人便停止了對商人的檢問。

既に第一の目標を達した長可達は、商人たちに対する検問をやめていた。

因為他們已向出入堺的大量人們宣傳了自己的目的與目標人物,判斷不再需要繼續下去。

堺に出入りする多くの人間に対して、自分達の目的と標的とする人物の周知が出来たため、これ以上は必要ないとの判断からであった。

對那位豪商而言,那只是給他回覆的緩衝期,他擔心何時會再度重啟而怨聲再起,心緒不寧。

豪商からすれば返答をするまでの猶予としか思えず、いつ再開されて再び苦情が殺到するか気が気ではなかった。

不期然變成了耐力比拚的長可與豪商,先失去耐心的果然還是長可這邊。

期せずして我慢比べとなった長可と豪商だが、先に焦れたのはやはりと言うか長可の方であった。

畢竟是能夠反抗信長的商人,即便像坐在針毯上一樣也在忍耐。長可看清了對方不動的態勢,開始籌劃下一步。

流石は信長に反抗しうる商人だけあり、針の筵(むしろ)に座りながらも耐えている。長可は動かない状況に見切りをつけ、次の策を練り始めた。

他原以為只要讓周遭無關的人責備對方『都是你害的、很麻煩』之類,對方就會早早退讓,但事情沒那麼順利。

周囲の無関係の人々からお前のせいで迷惑していると責められれば早々に音を上げるかと踏んでいたが、そう上手くはいかなかったようだ。

潛伏在堺街中的間諜回報說,其他大商人也因為明日有我之感而結盟,開始行動保護長可的標的豪商。

堺の街中に潜り込ませている間者からの報告では他の大商人たちも明日は我が身と結託し、長可の標的である豪商を擁護するよう動いているとのこと。

然而,隨著事態延長,意見也開始分裂,已難稱得上一致的陣線。

しかし、それも事態が長期化するに連れ意見が分かれてきており、一枚岩とは言い難い状況になりつつあった。

長可認為這正中下懷,只要再推一把消極派的背脊,裂痕便會迅速擴大。

そうなればしめたもので、後は消極派の背中を押してやれば亀裂は容易に広がると長可は判断した。

自從長可最初向使者說明要件已過了八日左右。這時,一行人前來拜訪長可的陣營。

長可が最初に使者へ用件を伝えてから八日が経過した頃。長可の陣を訪ねてくる一行が現れた。

那是徹底變了樣的那位豪商。本人以及曾作為長可使者的幾名看似番頭的男子,都剃光了頭,像曝露禿頂的僧侶一樣。

それはすっかり変わり果てた件(くだん)の豪商であった。本人をはじめ、長可への使者を務めた番頭らしき男も髪を剃り落とし、禿頭(とくとう)を晒した僧侶のような恰好になっていた。

「歡迎蒞臨我陣,竟然由你們親自來訪,看來可以期待一個好答覆。我等乃武士聚會,招待有限,還請見諒。那麼,有何事相求?」

「ようこそ我が陣へ、そちらから出向いて頂けるとは色よい返事を期待できそうだ。我ら武辺者の寄り合いゆえ、大したもてなしもできぬが、それはご勘弁願いたい。さて、どのような用向きかな?」

面對的長可甚至顯得朗然可親。被招呼的豪商當場跪下,像用禿頭摩擦地面一般擦著地,擠出聲音。

対する長可の様子は朗らかですらあった。声をかけられた豪商はその場に跪(ひざまず)き、禿頭を地面にこすりつけるようにして声を絞り出した。

「此次的失當,伏乞致歉。凡事遵從上樣之命。因為貪念蒙蔽了我的雙眼,我愚不可及。今後我將把家業讓與子嗣,我亦如是隱居,特請森大人向上樣懇求寬恕,望能為我言狀。」

「この度の不始末、伏してお詫び申し上げまする。全て上様の仰る通りに致します。欲に目が眩(くら)んだ私(わたくし)が愚かでした。この上は身代(しんだい)を息子に譲り、私はこの通り隠居致しますゆえ、森様より上様へご寛恕(かんじょ)賜りますよう、お口添えを戴きたく参りました」

豪商全身像瘧疾般顫抖,拼命組織言語。跟隨者亦如主人般匍匐在地,對長可低頭致敬。

まるで瘧(おこり)のように全身を震わせながら、豪商は必死に言葉を紡いだ。主人に倣(なら)うように皆が這いつくばるようにして長可に頭を下げていた。

「先把臉抬起來吧。我等也不是鬼,只要把那筆土地交易當作未曾發生,某人我便去向上樣美言一番。那麼,答覆如何?」

「まずは面(おもて)を上げられよ。我らとて鬼ではない、土地の取引が無かったことになりさえすれば某(それがし)が上様へ執(と)り成(な)しをしようではないか。して、返答や如何に?」

從土下座的姿勢抬頭望向長可的豪商,臉色染成如死人般的土灰色。年紀比他小好幾代的這名男子,對豪商們的態度毫不理會,只求結果。

土下座の姿勢から長可を見上げる豪商の顔色は死人のような土気色に染まった。孫ほどにも年の離れたこの男は、豪商たちの態度を一顧だにせず、ただ結果のみ(・・・・)を求めていた。

走投無路的豪商顫抖著從懷中取出契文,遞向長可,契文上記載了信長所問題視的土地交易內容。

進退窮(きわ)まった豪商は、震える手で懐より証文を取り出すと、長可の方へと差し出した。そこには信長が問題視していた土地の取引内容が記されていた。

「我已從交易相手處取回此等契文。請您……請您饒恕我……」

「このように取引相手より証文を取り戻して参りました。これ以上はどうか……どうかご勘弁を……」

長可接過豪商遞來的契文,瀏覽一遍內容後從容點頭。

長可は豪商が差し出した証文を受け取り、内容を一通り検めると鷹揚に頷いた。

「吾已接受汝之願。此見之,上樣亦當喜悅。我等也將速速收兵,向上樣報告,於是失陪。咳咳,你言及將家業讓與,然上樣並不欲此。自今往後仍然繼續從事……商業即可。」

「そなたの願い、しかと承った。これを見れば上様もお喜びになられよう。我らも早々に陣を畳み、上様へご報告に向かうゆえ、これにて失礼致そう。そうそう身代(しんだい)を譲ると申されたが、上様もそれは望んでおられぬ。これからも変わらず(・・・・)商いに勤しまれよ」

聽了長可的回答,豪商像遭雷擊般顫抖,癱倒在地。長可於言外之意禁止了他的逃遁。

長可の応(いら)えを聞いた豪商は雷に打たれたかのように震え、その場にうずくまってしまった。彼は豪商に対して、言外に逃げを禁じたのだ。

對於在信長面前屈服而廢棄交易、毀掉信用的豪商來說,既不得引退又被迫繼續經商,無異於公開宣告其恥辱。

信長に屈して取引を反故にし、信用を潰した豪商にとって、引退をも許されず、商売を続けさせられるのは己の恥を公言して回ることに等しかった。

即便到此地步,豪商仍輕視長可,認為他不過是個以力取勝的蠻橫之徒。結果他不得不以滿是屈辱的日子來贖回愚行的代價。

豪商はこの期に及んでも尚、所詮は力自慢の乱暴者に過ぎないと長可を侮っていたのだ。彼は愚かさの代償を、屈辱に塗れた日々を送ることで贖ってゆく羽目になってしまった。

短短不到一刻的會見後,長可滿意地送走了那扶持著已憔悴不堪主人的一行,目送他們回堺。

僅か一刻にも満たない会見ですっかりやつれ果てた主人を支えるようにして堺へと戻っていく一行を、長可は満足げに見送っていた。

「森大人。那傢伙為何突然改變態度?單方面解除交易,豈非會造成不小損失?」

「森様。あ奴はどうして急に態度を変えたのでしょうか? 取引を一方的に破棄する以上、少なくない損害が出るでしょうに」

「嗯?啊,確實我並非親自動手,或許不易理解。好,今天天色不錯,就賞你一個教訓吧!」

「ん? ああ、確かに俺が直接動いた訳じゃないから判らんか。よし、今日は気分が良いから一つ教えてやるとしよう!」

一向少有好氣色的長可此次心情異常愉悅,興高采烈地向部下們說明自己的策謀細節。

いつになく上機嫌な長可は、嬉々として己の策の仔細を部下に語って聞かせた。

那內容若為熟悉內情者所聞,必會不寒而慄,冷酷無情。長可命堺內潛伏的間者去探查豪商們的會合。

それは事情を知るものが聞けば身の毛もよだつ非情な内容であった。長可は堺に潜む間者に命じて、豪商たちの会合を探らせた。

接著他調查出支持反抗信長的名單,並鎖定反抗派商人的家屬,令間者追蹤他們的動向。

そこで信長への反抗を支持している顔ぶれを調べ上げた。その上で長可は反抗派の商人たちの家族に目を付け、間者たちに命じて彼らの動向を探らせた。

再來,長可寫文告發給反抗派商人,暗示他已掌握他們反信長的事實,且亦掌握其家眷的行蹤。

次に長可は反抗派の商人たちへ文をしたため、彼らが信長に反抗的であることを把握し、また彼らの家族の動向をも掴んでいることを匂わせた。

會合內容不僅盡皆外洩,甚至牽及到自身家屬,身為局外人的豪商們當然無法繼續站在他那邊。

会合の内容が筒抜けになっているばかりか自分の家族にまで手が及んでいるとあっては、所詮他人事である豪商に味方し続けることなど出来なかった。

他們彼此開始尋找叛徒,陷入疑心暗鬼,結果如同梳子缺齒般,一個接一個地從反抗派倒向恭順派。

彼らは互いに裏切り者を探し合い、疑心暗鬼に陥った挙句、櫛の歯が欠けるように一人、また一人と反抗派が恭順派へと転んでいった。

長可的手段是絕不直接動手碰觸豪商本尊,而是大幅削弱其周遭的助力,將豪商剝得赤裸。

長可の手口は本丸である豪商本人へは一切の手出しをせず、周囲の味方をごっそりと削り取り、豪商を丸裸にすると言うものであった。

豪商在看到同伴一個接一個屈服於威脅並翻臉後,被逼到只有他孤身一人頑抗的地步。

豪商は味方が次々に脅迫に屈し意見を翻すなか、己のみが無事で強情を張っているという状況に追い込まれた。

「怎麼說呢……真的慘烈。他該是嘗到了連坐在針毯都算溫和的生不如死之苦了吧」

「なんというか……壮絶ですな。あ奴は針の筵など生ぬるいと思えるような生き地獄を味わったでしょう」

「唉,這種像是互相試探的把戲真麻煩,我又不擅長。不過忍耐是有回報的。以迷惑費之名拿了不少銀兩,回到尾張後就好好到城裡大肆玩一場吧!」

「まあ、こういう駆け引きみたいなことはまだるっこしくて苦手なんだがな。我慢した甲斐もあったってもんだ。迷惑料と称してかなりの金子を頂戴したことだし、尾張に戻ったらぱーっと街へ繰り出そうぜ!」

長可坐在那個以迷惑費名義留下的木箱上,豪爽地大笑。看著與陰險手段相反的闊達模樣,部下們再次深刻體會到他們主人有多可怕。

長可は豪商が迷惑料の名目で残していった木箱に腰掛け、豪快に笑って見せた。陰惨な手口とは裏腹に闊達な様子の長可を見て、部下は自分達の主人の恐ろしさを改めて思い知っていた。

堺的交涉圓滿結束後,長可一行如同來時般行事,抵達了京。

堺での交渉を上首尾に終えた長可一行は、往路と同様に振る舞いながら京へと辿り着いた。

「總算到京了。真是的,惡黨到處滋生,處理起來真麻煩。」

「やっと京かよ。まったく悪党ってのは何処にでも涌いて出やがるから始末が悪い」

長可一邊抱怨把自己的事先放一邊不說,一邊用懷紙擦拭成了心愛長槍的人間無骨。

長可は自分の事を棚上げした愚痴をこぼしながら、愛槍となった人間無骨を懐紙で拭っていた。

長可丟棄的懷紙上黏滿了血脂,明顯顯示有人被槍刺中。

長可が放り捨てた懐紙には、べっとりと血脂が付着しており、誰かが槍にかかった事を如実に示していた。

「因為會從日ノ本各地聚集人潮,途中被雇為護衛的牢人失了職就會幹出蠢事吧。」

「日ノ本各地から人が集まりますから、道中の護衛として雇われた牢人どもが職にあぶれて馬鹿をやらかすんでしょうな」

如同都的語源宮處所示,京是帝的御所,作為日ノ本的首都,不僅國內,連海外的宣教師也廣為認知。

京は都の語源となった宮処(みやどころ)が示すように帝の御座所であり、日ノ本の首都として国内のみならず、海外の宣教師たちにも広く認識されていた。

自應仁之亂以後曾一度凋零,但自信長上洛以來活力回復,現在的熱鬧程度已讓人人認定京就是政事的中心。

応仁の乱以降は著しく寂れていたが、信長の上洛以来活気を取り戻し、今や誰もが京こそが政(まつりごと)の中心だと認知する程の賑わいをみせている。

治安一旦維持且人潮匯聚,商機自然出現。地方的人也會想來京碰碰運氣,把財產變賣,帶著護衛前來。

治安が保たれ多くの人々が集まれば、必然的に商売の機会が発生する。そうなれば地方の者も一山当てようと京を目指すことになり、財産を商品に替え護衛を引き連れてやってくる。

到此沒問題,但一旦抵達治安良好的京,那些只以武力自豪的護衛便失去用場。

ここまでの流れは問題ないのだが、治安の良い京に辿り着いてしまえば腕っぷしだけが自慢の護衛はお役御免となった。

善於推銷、自有一套的牢人會被雇為從京出發前往地方的商人護衛,但並非人人都有那能耐。

自分の売り込みに長けた如才のない牢人は京から地方へと向かう商人の護衛に雇われもするが、皆がそのようにできるはずもない。

失業、把積蓄揮霍光的他們會離開執法嚴格的京,跑到附近城鎮或村落惹事生非。

職にあぶれ手持ちの金を食いつぶした彼らは、取り締まりの厳しい京を出て、近隣の街や村々で揉め事を起こすことになる。

若只是醉酒鬧事還算可愛,但那些本就行為不良、如同山賊的牢人可不是這麼簡單。

揉め事と言っても、酔って暴れる程度ならば可愛げもある。しかし、元より素行の悪い山賊まがいの牢人のこと。

他們倚仗武力立刻變成強盜,或結黨成群化身為山賊四處為害。

腕っぷしを恃みに強盗へと早変わりしたり、徒党を組んで野盗に身をやつしたりしていた。

越發猖獗的他們在各地為非作歹,無論男女老幼,無辜的人都遭其毒手。

勢いづいた彼らは各地で無法を働き、老若男女を問わず無辜(むこ)の人々をその手にかけていた。

「不過也不用打成那樣……只要斬首就好了吧?」

「しかし、あそこまで殴らずとも……首を刎ねるだけで良かったのでは?」

「笨蛋是用說的不會懂。必須讓所有人一眼就看得出來,以示懲戒。」

「馬鹿には口で言っても判らぬからな。誰の目にも一目で判るように戒めねばならん」

被長可的槍處決的,正是前述那些無法無天的人。長可親手做成示眾的山賊首領模樣,連習慣看他打架的部下也為之膽寒。

長可の槍にかかったのも前述の無法者たちであった。長可が手ずから晒し首に仕上げた野盗の頭目の姿は、長可の喧嘩を見慣れている部下をして心胆寒からしめるものがあった。

他騎乘趁勢,將長槍刺穿頭目的肩膀釘在地上,跳下馬壓住對方,跨騎其上當成馬,用拳反覆敲打其面部。

何しろ騎乗したままの勢いに任せ、頭目の肩を手にした槍で貫いて地面に縫い留めると、馬から飛び降りて圧(の)し掛かり、馬代わりに跨ると顔面を何度も殴りつけた。

長可的籠手內鑲有鋼,若被那種東西敲打面部,頰骨立刻粉碎,口鼻眼都噴出血泡,面目立刻變得面目全非。

長可の篭手には鋼が仕込まれており、そんな物で顔面を殴打されようものなら即座に頬骨が砕け、口から目鼻から血泡を吹いて二目とみられない面相に変貌する。

確認頭目尚且苟活後,長可轉而襲擊被慘狀震懾的殘黨,從頭目身上拔出長槍揮舞,砍斷逃竄者的腿再痛毆,瞬間周遭化為血海。

頭目が辛うじて生きているのを確認すると、長可は惨状に震え上がった残党にも襲い掛かった。頭目から槍を引き抜いて振るい、逃げ惑う残党どもの足を切り払っては殴りつけ、瞬く間に辺りは血の海へと変じた。

等到聽聞傳言從京趕來的治安維持巡邏隊到達時,只剩下一顆腫得幾乎是原來兩倍、連眼鼻都難辨的生首,與數具從脖子以上把肉捏成團子般的屍體散落一地。

噂を聞きつけて京より駆けつけた治安維持警ら隊が到着する頃には、元の倍ほどにも腫れあがり、目鼻が何処にあるかすら定かではない生首が一つと、首から上が肉を捏(こ)ねて作った団子のようになった死体が数体転がっているだけであった。

當然,他們不知如何處理。現場慘狀宛如戰場,已難分誰是無法者。

勿論、彼らは対処に困った。辺りは戦場もかくやという酸鼻をきわめる有様であり、どちらが無法者か判らない状態だった。

話雖如此,對方是信長寵愛的長可。若說錯話觸怒了他,他們自己也可能淪為悲慘屍體的一員。

とは言え、相手は信長のお気に入りである長可だ。下手な事を言って不興を買えば、自分達も悲惨な死体の仲間入りをするかもしれない。

雖被嚴命履行治安維持職責,但在幾乎沒徹底調查長可就把人放散後,他們能做的也只是著手收拾現場而已。

治安維持の職務を果たすよう厳命されている彼らだが、ろくに長可を取り調べもせずに解散させると、現場の収拾に取り掛かるのが関の山であった。

即便如此,能對長可說到抵京後要到巡邏隊駐所報到,仍應當被稱讚為英明之舉。

それでも長可に対して、京に着いたら警ら隊の詰め所に出頭するよう伝えたのは見事と褒められるべきであろう。

「唉,過去的事就別管了。何況既然難得來到京,先把行李放在旅籠,然後出去好好玩一圈吧!」

「まあ、済んだことは良いだろう。それよりも折角の京だ、旅籠(はたご)に荷物を置いたら遊びに繰り出すぞ!」

「是、是啊……」

「は、はあ……」

長可氣勢高昂,而一名部下一邊看著心裡擔憂會不會出事,他的擔心很快就成了現實。

気炎を上げる長可をしり目に、部下の一人が大丈夫かなと気を揉んでいると、彼の心配は現実のものとなった。

「勝蔵君,過來那邊正坐一下。」

「勝蔵君、ちょっとそこに正座しなさい」

原來是靜子得知長可的行狀後,受前久之邀來到京停留在近衛邸,此刻她正站在那裡。

そこには前久に京へと招かれ、近衛邸に滞在していたところへ、長可の行状を知らされた静子の姿があった。

「啊、喔喔……啊,腿麻得動不了。」

「お、おおう……あ、足が痺れて動かぬ」

被靜子抓住,帶回靜子在京的宅邸的長可,被迫在土間正坐,接受了數小時的嚴厲教訓。

静子に捕まり、静子の京屋敷へと連行された長可は、土間に正座させられた状態で数時間こってりと絞られた。

靜子之所以知道長可的所作所為,全是長可自作自受。

静子の耳に長可の所業が入ったのは、長可の自業自得であった。

明明若老實到巡邏隊駐所報到就不會鬧大,他偏偏偷懶,結果讓困擾的巡邏隊只能來向靜子請示,事情遂演變至今。

素直に警ら隊の詰め所に出頭すれば大事にならずに済んだものを、横着をしたばかりに困り果てた警ら隊が静子へと相談することとなり、現在に至っている。

「勝蔵,有種妙藥能讓你的腿麻不再成問題喔?」

「勝蔵、足の痺れを気にせずとも良くなる妙薬があるぞ?」

「不、等一下!誠然斬首後腿麻就不會在意了,但那豈不是本末倒置!」

「いや待ってくれ! 確かに首を落とせば足の痺れなぞ気にならんだろうが、それでは本末転倒だろう!」

「不聽從靜子大人的吩咐、只是個擺設般的腦袋,何必留在脖子上保存呢?」

「静子様の言いつけを理解せぬ飾りの頭なぞ、首の上に載せておかずとも良かろう?」

才藏板著臉把槍靠在長可的脖子上,長可慌忙懇求他打消念頭。才藏本就不是會開玩笑的人,長可真怕他會當真行刑。

真顔で長可の首に槍を添える才蔵に、長可は慌てて思いとどまるよう頼みこむ。元より冗談を言わない才蔵だけに、本気で殺されるのではと長可は肝を冷やしていた。

「真是的!多虧靜子大人到處為你低頭求情,否則你的處分不會只有這點。要感謝能得一位寬厚的主人啊」

「全く! 静子様が方々に頭を下げて回られたからこそ、貴様の沙汰はその程度で済んでおるのだ。情け深い主を得たことに感謝するのだな」

「我、明白了。不,我會比大海還深地反省」

「わ、判っておる。いえ、海より深く反省致します」

長可本能想辯解,但一察覺到才藏那冷得刺骨的目光,立刻改變了態度。若不小心說錯話,真的可能會被斷然處置。

反射的に抗弁しようとした長可だが、底冷えするような才蔵の視線に気づくと即座に態度を改めた。下手な事を口にしようものなら、本当に切り捨てられる可能性があった。

「反省不是用嘴巴說的,要用行動來表現」

「反省は口ではなく、行動で示せ」

「……我會努力的。話說靜子沒看到身影,是出門了嗎?」

「……努力する。ところで静子の姿が見えぬが、出かけたのか?」

「她正在整理儀容。聽說接下來要與一位長谷川某(某某)會面」

「身支度をしておられる。これより長谷川某(なにがし)とお会いなさるそうだ」

「啊,果然是那位」

「ああ、例の」

此處所說的長谷川即為信春,後號等伯(とうはく),他被考驗是否有資格觸碰靜子所藏的舶來美術品。

ここで言う長谷川とは信春、後に等伯(とうはく)と号する男であり、静子が所蔵する舶来の美術品に触れる資格があるか否かの試験を課されていた。

這次他提出想展示成果,因此安排了會見。

今回、その結果を見せたいとの申し出があり、会見を行う運びとなっていた。

靜子交付課題的時間不久,認為這報告相當早;但就信春而言,他焦急於一定要在年內拿出成果。

静子は課題を言い渡して日も浅く、随分と早い報告だと認識しているのだが、信春としては年内に結果を出さねばならぬと焦っていた。

雖然沒有明確劃定期限,但他的心越急越陷入僵局,覺得再多花時間也難以做出比現在更好的作品。

いつまでと期限を切られていないとは言え、気ばかりが急いて行き詰り、これ以上時間をかけたところで今の作品より良いものが出来るとは思えなかった。

靜子準備就緒後,才藏以馬廻衆的身分在旁待命。他的存在本就不適於藝事,而剛被斥責的長可則趁機迅速溜走了。

静子の支度が整うと、才蔵は馬廻衆として傍に控える。存在自体が芸事向きではなく、また叱られたばかりの長可は、これ幸いと逐電することにした。

「今日謝謝您撥冗見我,衷心感謝」

「本日は私の為にお時間を割(さ)いて頂き、心より御礼申し上げまする」

靜子把長谷川引入京邸的客間,與他對坐。既然此行並非寒暄,靜子便主動切入正題。

静子は己の京屋敷にある客間に長谷川を通し、彼と向かい合って座っていた。そもそもの用件がご機嫌伺いではないため、静子の方から本題を促す。

「那麼,聽說您會立即呈現我所出之課題成果,是否屬實?」

「さて、早速私が出した課題に対する成果を見せて頂けると伺ったのですが、相違ありませんか?」

「是。雖遠不及靜子大人所藏的名品,但我帶來的是毫無虛飾、傾盡全力的作品。或許有礙觀瞻,還請惠賜一閱」

「はっ。静子様が所蔵される名品には遠く及ばずとも、私の掛け値なしの全力を振るったものをお持ち致しました。お目汚しかと存じますが、どうぞご覧下さい」

信春行了一禮後回身起立,走向置於身後的屏風,繞到背側掀除了覆蓋用的白布。

信春は一礼すると振り返り、立ち上がって己の背後に置いてあった屏風に歩み寄った。信春は屏風の背後に回り込むと、目隠しとして掛けてあった白布を取り払った。

映入靜子眼簾的是兩扇屏風,圖樣與花札所謂的『松に鶴』極為相似;不過那松被畫成盆栽常見的模樣,與花札上的松大相逕庭。

静子の目に飛び込んできたのは花札で言うところの『松に鶴』によく似た意匠で描かれた二扇の屏風であった。尤も松は盆栽でよく見るような姿で描かれており、花札の松とは似ても似つかない。

靜子知道花札的圖樣是在江戶時代以後才定型,認為這大概只是巧合。無論鶴或松,皆為象徵繁榮的吉祥物,並不稀奇。

静子が良く知る花札の図柄が定着したのは江戸時代以降とされており、偶然に似てしまったのだろうと考える。鶴にせよ松にせよ、いずれも繁栄を示す縁起物であり、それほど珍しいものではない。

「嗯」

「ふむ」

然而配色過於突兀。雖然屏風畫常施以色彩、甚至有極艷的作品,但信春的色彩原色感強烈到令人不適,破壞了整體和諧。

しかし、配色が突飛に過ぎた。屏風絵には彩色が施され、極彩色を見せる作品もあるが、信春のそれは原色が煩い程に自己主張をしており、調和を崩してしまっていた。

屏風的底色是未漂白的米色,鶴的白、松的黑與代表日之丸的紅色彷彿從屏風上跳了出來,有如現代藝術作品般讓人錯覺。

屏風の素地が生成り色なのに対して、鶴の白、松の黒、日の丸の赤と屏風から浮き上がって見えるほどであり、まるでモダンアート作品かのように錯覚する。

(真不知該如何是好……)

(どうしたものかな……)

靜子在心中嘀咕。實在過度賣弄新奇,雖有新意,卻已大幅偏離信春以往的作風。

静子は内心で唸っていた。余りにも奇を衒(てら)いすぎており、目新しくはあるが信春の今までの作風から大きく逸脱してしまっていた。

她能理解要捨棄一路辛勤建立的風格、開創全新天地須有相當的覺悟,但這樣反而葬送了屏風畫原有的美感。

己が営々と作り上げてきた作風を捨て去り、全くの新天地を切り拓くというのは相当の覚悟が必要だったのだとは察するが、これでは屏風絵の良さをも殺してしまう。

若要走到這一步,不如跳出屏風的框架,在畫布上繪製,反而能成立為一幅單獨的畫作。

ここまで踏み切るならば、いっそ屏風絵からも飛び出してキャンバスにでも描けば一幅の絵画として成立しただろう。

(他的幹勁是不是朝著奇怪的方向空轉了呢?)

(やる気が妙な方向に空回りしたのかな?)

看到靜子皺眉、面露難色並喃喃自語的模樣,信春坐立難安。

眉根を寄せて難しい顔をしたまま、ぶつぶつと何事か呟いている静子の様子を目にした信春は、気が気ではなかった。

他自覺陷入迷惘,是在行不通之後痛苦完成的作品;看得出距離靜子所期待的作品還有很大差距。

己自身が迷走している自覚があり、行き詰まった末に苦悶しながら描き上げた作品だ。およそ静子の期待する作品には程遠いことが窺い知れた。

根據外界對靜子『女中豪傑、蒐集刀劍、接連推出奇特離奇之物』的評價,信春悟出自己為了稍吸引她的注意反而跑偏到大錯特錯的方向,遂閉目自省。

女だてらに刀剣を蒐集し、奇妙かつ奇天烈な代物を次々と世に出す女傑であるという静子の人物評から、少しでも彼女の気を惹こうとして明後日の方向へと駆け抜けてしまったと信春は悟り、瞑目した。

「並非不好,但這已超出屏風畫的範疇。我本想看到的是您那貫徹延續至今的作品延伸之作」

「悪くはないが、最早これは屏風絵の域を飛び出している。私は貴方が今まで脈々と描き続けてこられた延長上にある作品が見たかった」

「唔……那麼……」

「はっ……それでは……」

信春因自己的作品未能合靜子的雅眼而消沉。

信春は己の作品が静子のお眼鏡に適わなかったと消沈する。

「或許是我出題的方式不妥,不能僅以此斷定長谷川君的實力。改日再重新交付課題。我會先給予一定的閱覽許可,望他從中學習、受其啟發,交出更具長谷川風格的作品」

「私も出題の仕方が悪かったのでしょう。これのみを以て長谷川殿の実力をはかることは致しますまい。改めて課題を出し直しましょう。それに先駆けてある程度の閲覧許可を出します。それらから学び、刺激を受けた上で、長谷川殿らしい作品を期待します」

靜子說出這出乎意料的話後,信春短暫地無法反應。

静子が放った思わぬ言葉に、信春は暫しの間反応できずにいた。

然而當他理解她話中的含意後,信春幾乎是撲倒在地向她頂禮膜拜。

しかし、彼女の言葉の意味が理解できると、信春はその場に身を投げ出すようにして彼女へ平伏した。

「竟在呈現如此失態之後仍蒙給予機會,實在出乎意料的欣喜!我雖無才,但縱使以一命相賭,也必定送上令您滿意的作品」

「これ程の失態を見せて尚、機会を頂けるとは望外の喜び! 非才の身ではございますが、一命を賭してでも必ずやご期待にそえる品をお届け致します」

靜子自覺自己說得過於寬厚。然而她也覺得若因自己的不慎刺激而扼殺了一位可能流芳百世的藝術家,實在可惜。

静子は我がことながら甘い事を言っているという自覚があった。しかし、自分が変に刺激をしてしまったがために、後世にまで名を残す芸術家の未来を閉ざしてしまうのは惜しいと考えた。

信春再三致謝後退去。送他到門外的靜子嘆了口氣,苦笑自己每次興致過頭、想賣弄幾分風情時總不會有好結果。

信春は繰り返し礼を述べ、客間から退出していった。それを見送った静子は一つ嘆息すると、自分が意気込んで色気を出した時はろくなことがないなと苦笑した。

「好吧,他看來也是用力過猛,該稍微給些援助了」

「よし、彼も根を詰め過ぎた様子だし、少し援助をしておくかな」

静子拍手叫小姓,吩咐把金子交給信春與他家人,作為作品的報酬。

静子は手を叩いて小姓を呼ぶと、信春と彼の家族に作品への対価として金子を渡すよう命じた。

在謠傳静子留宿京邸、賓客連日上門的情況下,與信春會面結束後静子婉拒了來訪申請,決定返回久未居住的尾張。

静子が京屋敷に滞在しているとの噂を聞きつけた来客が連日押しかけるなか、信春との会見を終えた静子は来訪の申し込みを丁重に断り、長らく留守にしてしまった尾張へと戻ることにした。

西國方面雖然瀰漫火藥味,但静子即便留在京中也無能為力。推測在歲末前後事態會有動盪,秀吉也會撤退。

西国方面はきな臭さが漂っているものの、静子が京に居たところで出来ることはない。恐らく年明けを前にして事態は動き、秀吉も撤退することになるだろうと予測する。

若真如此,播磨與摂津將被反織田勢力吞併,信長便會喪失開展西國征伐的踏腳石。

そうなれば播磨や摂津は反織田勢力に取り込まれることとなり、信長は西国征伐の足掛かりを失うこととなる。

「嗯——真希望能把播磨納入織田家的勢力範圍。畢竟瀨戶內海豐富的海產很有吸引力,也是把持海運的千載難逢機會啊」

「うーん、播磨は織田家の勢力下に置きたかったなあ。なんと言っても瀬戸内海の豊富な海産物は魅力だし、海運を牛耳るまたとない機会だったんだけどね」

與悲觀言語相反,静子的神情反而相對晴朗。時代已向織田傾斜,就算天秤稍微回擺,大趨勢也不會改變。

悲観的な言葉とは裏腹に、静子の表情は比較的晴れやかであった。既に時代は織田へと傾き、多少天秤の傾きが戻ったところで、大きな流れは変わらない。

「不過,羽柴大人這次戰費是否花得很兇?透過おね様那邊也有來關於繼玻璃工藝之後新的產物的商談……唉,這並不只限於羽柴大人啦……」

「しかし、羽柴様は此度の戦費が嵩んだのかな? おね様を通じて、ガラス工芸に続く新たな産物についての相談が寄せられていたし……ま、羽柴様に限った話でもないんだけど……」

提到秀吉就是眼光敏銳的戰國武將,但若要興新產業似乎又是另一回事,看得出他不擇手段,甚至動用內宅的關係人脈。

秀吉と言えば目端の利く戦国武将の筆頭であるのだが、新たに産業を興すとなると勝手が違うのか、奥向きの伝手まで動員するというなりふり構わなさが見える。

近來連番兵燹,織田家的重鎮們都在為新得的領地經營傷透腦筋。

近頃いくさ続きであった織田家の重鎮たちは、いずれも新たに得た領地の運営に苦心していた。

對掌管加賀的柴田,私下提醒了現代仍有名的山代溫泉、山中溫泉與片山津溫泉的存在。

加賀を支配下に収めた柴田には、現代でも有名な山代(やましろ)温泉に、山中(やまなか)温泉、片山津(かたやまづ)温泉の存在をそれとなく伝えている。

其中山代溫泉與山中溫泉是擁有千年以上歷史的古湯,即便相對歷史較淺的片山津溫泉也已有數百年歷史。

中でも山代温泉と山中温泉は千年以上の歴史を誇る古湯(ことう)であり、比較的歴史の浅い片山津温泉ですらも数百年の歴史を持つ。

作為既存產業,静子所渴求的陶石會出產之外,漆器、金箔與各式工藝品等潛在地力很高。日本海側領地特有的海產也很豐富,静子也派遣漁業相關的技術人員推進共同開發。

既存の産業として、静子も欲した陶石が産出するほか、漆器や金箔、工芸品の数々など潜在的な地力は高い。他にも日本海側の領地特有の海産物が豊富であり、静子も漁業関連の技術者を派遣して共同開発を推し進めている。

同時,負責丹波平定的明智光秀也向她諮詢產業振興之策。

また丹波平定の任についている明智光秀からも、産業振興についての相談が寄せられていた。

說到丹波,是個以丹波栗等山珍聞名的地方,還有以丹波黑豆著稱的黑大豆與大納言小豆等有前景的商材。

丹波と言えば、丹波栗をはじめとした山の幸に恵まれた土地であり、丹波黒豆の名で知られる黒大豆や大納言小豆など、有望な商材が目白押しだった。

已告訴光秀,紮根於土地的農產品才是真正的寶物,僅僅把它們宣傳為特產就能期待相當的收益。

光秀には土地に根付いた農産物こそが宝であり、それらを特産品として喧伝していくだけでも十分に利益が見込める事を伝えていた。

「雖然以諮詢費名義拿了不少謝禮,但把錢一直放在我這裡也沒辦法啊。有沒有什麼點子能把錢送到手頭緊的羽柴大人那裡呢?」

「相談料と称してかなりのお礼を貰ったけれど、私のところでお金がだぶついていても仕方がないんだよね。懐事情が苦しい羽柴様のところへ回せるようなネタは何かないかなあ?」

與前往新領地、穩紮穩打鞏固地盤的柴田或穩步擴張勢力的光秀不同,秀吉的居所今濱表現得不怎麼理想。

新たな領地に赴き、着々と地場固めを始めている柴田や、着実に支配地域を広げている光秀とは異なり、秀吉の御座所である今浜はいまひとつ振るわない。

「玻璃工藝是高級品,所以不會馬上帶來大筆利潤,雖然難處不少,但它位於自堺連接京、越前、越後街道的通過點,總有一天資金會積累起來吧」

「ガラス工芸は高級品だから即座に大きな利益が上がるわけじゃないし、難しいところだけど堺から京、越前、越後へと結ぶ街道の通過点に位置するから、いずれ資金は貯まるはずなんだけどねえ」

若敗勢已濃、甚至連投入的戰費換不回領地,秀吉在織田家中的影響力將會大幅下降。

既に敗色濃厚であり、費やした戦費に対して得られる領地すら失うとなれば、秀吉の織田家に於ける影響力は著しく落ち込んでしまうだろう。

「啊——真讓人沮喪。這邊顧好了那邊又會出狀況,接下來恐怕會越來越多和政治牽扯的麻煩事涌上來。能只為自己的前途擔憂的時候還真是輕鬆啊?」

「あー、気が滅入るなあ。あちらを立てればこちらが立たず、これからどんどん政治が絡んだ話が舞い込んできそうだよ。自分の行く末だけを心配していられた頃の方が楽だったのかなあ?」

静子把這場戰事視為歷史的必然,理解它將走向終熄。種子島的出現加速了變革,而這變革恰是由静子等人所創的新式火槍與大砲所推進。

静子は歴史の必然として、これからいくさは終息に向かうと理解していた。種子島の登場で加速した変革は、他ならぬ静子達が生み出した新式銃や大砲の存在によって加速している。

面對能發出巨大火力的大砲,即便堅固的城池也難以保持原有優勢。今後的織田家或許會在局地敗北,但在大方向上會朝天下統一前進。

大火力を生み出す大砲を前にしては、堅固な城とてそれほどの優位を保てなくなってしまう。今後の織田家は局地的な敗北こそすれど、大局的には天下統一に向けてひた進むことになるだろう。

(若迎來太平之世,金錢會取代武力成為關鍵。製造財富的體系牽涉到利益圈,有權力之處必然摻入政治)

(泰平の世になれば武に代わって金が物を言うようになる。金を生み出す仕組みには利権が関わり、権力があるところには必ず政治が絡んでくる)

隨著戰亂朝著終息,成為時代霸主的織田家內部權力鬥爭的火種正在悶燒。

戦乱が終息に向かうなか、時代の覇者となる織田家内では権力闘争の火種が燻(くずぶ)っている。

無論時代如何變遷,總令人想感嘆人終究難免互相爭鬥,但不管静子是否願意,她都注定要被捲入其中。

いかに時代が移り変わろうとも、人は互いに争う定めなのかと嘆きたくなるが、静子が望まずとも否が応でも巻き込まれる運命が待っている。

雖說不渴望出人頭地,但静子已是織田家的重鎮,既然搖錢樹都集中到她這裡,人人都磨拳擦掌想把她拉入自己陣營。

出世を望まぬとは言え、既に静子は織田家の重鎮であり、金のなる木は静子のところに集中している以上、誰もが静子を己の陣営に引き入れようと手ぐすねを引いている状況だ。

(乾脆遺世出家,在寺裡過自給自足的生活不是更好嗎?)

(いっそ俗世を捨てて出家して、お寺で自給自足の生活を送る方が良いのでは?)

這類近似怯聲怯氣的想法掠過她心頭,但她已不再有那樣可以允許的身分。

そんな弱音にも似た思いが頭を過(よぎ)るが、既にそれが許されるような立場でもない。

反覆煩惱也沒有如魔法般一招解決的辦法,静子仰望尾張方角那群自顯其姿的群山,長嘆一聲。

悩んだところで一息に解決できる魔法のような一手があるわけもなく、静子は尾張の方角で自己主張する山々の連なりを見上げて、重いため息を吐いた。