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戦国小町苦労譚

千五百六十六年 四月上旬

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秋が過ぎ、冬が来て、そして年が明けた。そして季節は廻り四月上旬、静子がこの時代にきてほぼ一年が経った。

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依然として元の時代へ帰る目処は立っていない。そもそもどういう理屈や方法でタイムスリップしたのか、彼女自身理解できていなかった。

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幾つか現代の技術品を持ち込んでいるが、今の所彼女がそれを使う事は無かった。

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便利だが代用品がないうちに壊れたら元も子もない。

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知識を得るためにスマートフォンを活用し、ソーラーチャージャーつき手回し発電LEDライトを使って充電する。

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普段使うのはその程度で、他にある道具は基本的に代用品を作った後で活用していた。

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そうしなければ結局静子一人に負担がかかるだけで、村人たちは何の作業も出来ないからだ。

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手回し発電でスマートフォンを充電しながら、静子はこれまでの事を思い返す。

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秋の頃に信長へ収穫量増加を宣言した静子。それを受けてか、信長はとんでもない事を言い出した。

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それは五十人の農民を送る代わりに、二十五俵の米を収穫しろという命令だ。

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そして足りなかった分、一俵につき二人殺すという何とも脅迫じみた事まで言ってきた。

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その躊躇いの無さに静子はやはり戦国時代だと強く認識するようになった。

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現代の感覚や倫理など道端に落ちている石ころレベルだと理解する。

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冬に入って少しした頃、信長は約束した農民五十人を静子の村へ送った。

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それに家族がついて来たため、かなりの大所帯だった。

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しかし彼らは一箇所から連れてこられた訳ではなく、静子が来る前の村同様収穫が振るわない地域から連れてこられていた。

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住み慣れた土地を無理やり捨てさせられ、この地に移住させられたのだからそのストレスたるや相当なものだろう。

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だがその事情を斟酌する余裕などなかった。

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村長が静子と知って驚く入植者たちだが、反発の声などは上がらなかった。

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恐らく反発しようが恭順を示そうが彼らがとる道は一つしかないと理解してるのだろう。

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すなわち、静子に従って約束の二十五俵を超える収穫をもたらす他に生き残るすべは無いのだ、と。

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年が明けてから本格的な作業に取り掛かった。とは言っても最初は畑や田んぼの整備だ。

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一月中旬に農作物用の2ha、サトウキビ用の1ha、薩摩芋の1ha、田んぼの8haを整備し終えた。

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これは事前に静子が村人たちと共に準備していた事が幸いした。

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二月下旬、苗代の準備に取り掛かる必要があったが、当時は種籾を適当に撒くのが常識だった。

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だから殆どの村人たちは育苗の必要性を理解できず、結果それらを教えるのに数日を費やした。

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苗箱を植える一ヶ月以上前に準備する事で、土が最適な状態になるのだがやはり農民は半信半疑といった感じだ。

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三月下旬、籾種に対して塩水選を行った。やはりここでも入植者の殆どは胡乱げな表情を浮かべるのみだった。

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そもそも充実した籾種を選ぶ事自体、戦国時代ではありえない話なのかもしれない。

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比重1.16の塩水を作り、浮いた籾種を取り除いていく作業は地味だった。

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しかしこれで浸種に必要な籾種が揃ったので、合格した籾種を川の水を入れた木桶に入れてなるべく水温が上がらないよう日陰になる場所へ安置する。

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籾に十分吸水させ揃って一斉に発芽させる為だと説明したが、やはり入植者は理解出来ていなかった。

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(積算温度の調整、って言っても分からないよねー)

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しかしこれだけで終わりではない。静子は更に別の作業も抱えていた。

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まず秋が終わる前にムクロジの実を収穫して石鹸粉を作る作業だ。

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勿論、これを必要とするのは当面は静子のみであるため、収穫した後は殆ど彼女が一人で作業していた。

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次に鶏卵産業をするために鶏を増やす必要が出てきた。最初は鶏同士を交配させ有精卵を作って孵化させ続けた。

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しかし鶏については解体ぐらいしか出来ない静子なので、ヒヨコが寒さで死んだり、大きく成長せず小さいままだったりした。

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しかもオス・メスを分別するのに一ヶ月ほど待つ必要があり、それまでは共通の餌を用意する必要がある。

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現代でもヒヨコの性別を判別する技術は国家資格であり、養鶏の分野で重宝されている。その資格の有用さを思い知る静子だった。

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勿論、静子はそんな国家資格を持つような技術者ではないから、何羽ものヒヨコを死なせたり間引きしたりしながらも、試行錯誤を繰り返し数を増やしていった。

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死なせたり間引きしたヒヨコや若鶏に近い鶏は全て堆肥に混ぜた。

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捨てるなどという事は一切しない。

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幸いにして半年ほどでオスを七羽、メスを二〇羽まで増やし、当面の数を揃えることが出来た。

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これから有精卵を作る組と無精卵を作る組に分けて飼育する。

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有精卵を作る組はオス一羽に対してメス五羽を二組、無精卵を作る組はメス一〇羽とした。

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鶏の餌は野菜クズと魚の骨や貝殻などを粉末にした物を混ぜた飼料で統一した。

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何故なら産卵はどんな種類の鶏でも二年でペースが落ちる、との話を以前耳にした事があったのだ。

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それなら二年間、餌を統一しておいた方が楽だろうと静子は考えた。

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勿論、生まれたてのヒヨコの時は柔らかめの餌だが。

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野菜の栽培手法も村人たちからは奇妙な方法だったが、こちらは少しだけ理解を得られた。

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だが大半の工程は村人から見れば謎の作業だと疑問視されることは否めなかった。

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堆肥をしっかりなじませた2haの広さを持つ耕地を、一辺が五〇メートルのサイズに区分けした。

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八つ分の耕地が出来、春野菜と秋野菜の連作と、それら農地を一年ごとにサイクルさせる輪作を行う環境が完成した。

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まず二耕地を一ペアと考え、それぞれA-1、A-2、B-1、B-2、C-1、C-2、D-1、D-2という連番を振った。

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春はA-1にとうもろこし、A-2にニラ、B-1にかぼちゃ、B-2にナス、C-1にトマト、C-2にダイコン、D-1とD-2に養鶏場を設置した。

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無論、全て戦国時代の栽培方法ではなく静子が知っている現代の栽培方法でだが。

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秋には収穫し、それから秋野菜としてA-1にネギ、A-2にレタス、B-1里芋、B-2に小松菜、C-1に金時ニンジン、C-2にカブ、D-1とD-2は変わらず養鶏場を続ける事とした。

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分割して更に一年ごとに土地を回すので、それらを分かりやすくするため看板を用意した。

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春が来るたびにこの看板を回して、今何を育てているか分かりやすくする事で、サイクルの勘違いを回避する事が出来る。

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看板は意外にも村人たちにも好評だった。曰く「育てているのが何か分かりやすい」との事だ。

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予定外だったのは入植者の中に養蚕を手掛けていた人物が数名いた事だ。

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早速静子は養蚕をするための環境を整えた。

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流石に村の中では出来ないので養蚕場所を村から少しだけ離れている場所に設置した。

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桑の葉が必要だったが、幸いにも少し遠くにだが桑の木が少しだけ自生していた。

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そこで静子は養蚕場の付近の木を全て桑の木に差し替える事にした。

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桑畑、と今は言えないが果実や木材も利用出来る。

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幸い桑は成長が早いので、数年もすれば桑の実と蚕の餌である葉が回収出来るだろう。

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育成も自然に任せるというか放置するだけで、やる事は毎年苗を植えるだけだ。

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更に予定外の事を静子は思いついた。

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家を建てる時に余った木材を見て、採蜜するための巣箱を作れないかと思ったのだ。

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セイヨウミツバチはいないが、ニホンミツバチは古来から日本にいるのでそちらで蜜を採取する事にした。

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静子の祖父の友人が考えた採蜜重視型の巣箱を記憶から掘り起こして作り上げる。

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一段の高さを大体120ミリほどとし、それらを四個重ねる事で収穫物を採取しやすく、また女王蜂を見つけ易い構造となっている。

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しかし静子は養蜂家の仕事を本や見学で知っていても、細かい点までは理解できていない。

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そもそも女王バチが手元にないので、設置しても蜂が巣を作ってくれるかどうかは殆ど神頼みに近かった。つまり置いたら最後、後は運を天に任せるのみだった。

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設置場所は自然に生えている菜の花が多い所にした。合計五カ所設置し、あとは定期的に見に来て巣箱にニホンミツバチが住み着いているか確認する程度だ。

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楽な反面、はちみつの採取量が不安定というデメリットがある。と言っても静子は単に思いつきでやっただけなので、はちみつが大量にとれなくても別段問題はなかった。

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そんな考えだったから、戦国時代にはちみつがどんな扱いだったか完全に忘れていた彼女だった。

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サトウキビは去年の夏に苗として再植えしたものと、春から植えていたもの全てを使って苗とし、更なる量産体制を敷いた。

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村人からは何が植えられているか分からなかったので、やはり首を傾げていたが。

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(砂糖はこの時代かなり貴重な調味料。ならば砂糖を大量に生産し、それをお館様に献上する事で、この村の人たちは徴兵を回避出来る。それから塩とかの調味料も優先的に融通して貰える)

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薩摩芋の方も今年は最初から大量に苗植えを行えた。しかし薩摩芋の後、畑を休ませてしまうのも勿体無い話である。

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そこで静子は秋から油菜を育てる事にした。油菜からは菜種油が取れるし、越冬するニホンミツバチの餌にも出来るから一石二鳥だと思った。

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本来は菜、つまり葉物野菜として利用されていた。

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古事記では吉備の菘菜(あおな)として、万葉集では佐野の茎立(くくたち)として登場している。

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植物油の採油目的として栽培され始めたのは江戸時代からで、主に灯油原料として利用され、生活に密着した油だった。

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そして忘れてはならないのが大豆生産だった。

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味噌、醤油の原料であり、油の原料であり、生薬でもあり、そして食用でもある万能な存在だ。

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しかし大豆の育成はとにかく難しいと言われている。

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特に窒素肥料が大量にいる上に、他の作物と噛み合わない事で有名だ。

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戦国時代に窒素肥料など手に入る訳もなく、鶏糞を使った堆肥を作るより他ない。

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害虫対策も考えなくてはならず頭の痛い事だらけだった。

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そこで静子が考えのはコンパニオンプランツという栽培方法だ。

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これは共栄作物とも呼ぶ農学、園芸学上の概念だ。

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互いに隣接させて栽培することで、互いの成長によい影響を与え共栄しあう事を言う。

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大豆とトウモロコシの場合、トウモロコシの害虫は大豆の臭いが嫌いで、そして大豆の害虫はトウモロコシの害虫が天敵で食べてしまう。

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まさに農薬を使わず害虫対策が出来る優れた技術だ。

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ただ経験的に言われているものがほとんどで、現代でも科学的に解明されている例は少ない。

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静子はこの技術を取り入れ100aのうち、大豆を50a、残り50aにトウモロコシを植えることにした。

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最後に辛玉ねぎだが、これは秋まき翌年夏収穫タイプだった。

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そして未だ量産体制ではなく、全部が種を手に入れるために使用された。

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食用として栽培するには来年まで待つ必要があった。

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古代エジプトから慢性疲労や筋肉疲労など疲れにもよく効く食べ物として愛されている。

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毎日玉ねぎを食べれば、それだけで簡単にバテない体力がつくのだ。

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またビタミンB1の吸収を高めるので、大豆や鶏レバーとの相性が良い。

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だが静子が音頭を取るのはここまでだ。

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百姓たちの主食である雑穀などの栽培は、村人たちの判断に任せる事にした。

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話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず、だ。

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故に静子は一から十まで全てを管理はしない。

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あくまで先頭に立つ時は、ノルマがあり税でもある米栽培、農地改良、区画整理、用水の整備など、重要なインフラ整備や農業整備のみだ。

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やる事が一杯で悪戦苦闘の毎日だったが、それなりに充実した日々だと静子は思っていた。

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時折姿を見せる信長の無理難題が無ければ、だが。

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しかしそんな事はお構いなしに、信長はまたも無理難題を静子に申し付けた。

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「うーん、五個設置したけど三個しか巣を作ってないね」

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巣箱を見つつ静子は呟く。

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中身は見事に空っぽで女王バチが巣を作っているような形跡はない。

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五個ほど設置した内、最初は四個に巣を作っていた。

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だが途中一匹の女王バチは巣箱が気に入らなかったのか、作りかけの巣を捨ててどこかへ飛んでいった。

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ニホンミツバチは神経質だから、多少の環境変化すら嫌って巣を捨てる。

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人間には気付かない小さな変化に気付いて女王バチは巣を捨てたのだろう。

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静子はそう思うことにした。悩んでも悔しい思いをするだけだから。

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「仕方ないか。おっと、そろそろ日が暮れる。早く帰ろうっと」

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空を見上げると既に日が沈みかけていた。

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森の方は日が落ちるのが早いので、早くしないと真っ暗で何も見えなくなる。

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最後の巣箱を元に戻すと、静子は村に戻るための道を走った。

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「ヴィットマンがいれば暗くても帰れるんだろうけど……今、お嫁さん探しに出てるからなぁ」

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オオカミのヴィットマンは、発情期が近くなった頃お嫁さん探しに村を出ていった。

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正直、帰ってくるかは微妙だったが、それでも静子は笑顔で送り出した。

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「まぁもし帰ってこなかったら……仕方ないよね」

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元々野生動物なのだから、そのままどこかへ行っても仕方ない事だ。

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そう思った時、少し目の前からガサガサと小さな音が聞こえた。

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反射的に小動物が出てくると思った彼女は、それを避けるため軽くジャンプした。

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「ッ!?」

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しかし出てきたのは小動物でも大型の動物でもなく、太い木の棒だった。

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既にジャンプしていた静子は体勢を変える事など出来ない。

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その木の棒に足首があたり空中でバランスを崩す。

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肩から落ちて何度か地面を転がった後、背中から木の幹に激突した。

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「かはっ!」

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衝撃で一気に肺の空気が押し出された静子は、酸欠で気を失いそうになった。

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「へへへ、女だ」

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「女は高く売れるな。それも上玉だ」

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「こんな所に一人とか……襲ってくれと言ってるようなものだぜ」

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だがその前に聞こえた下卑た声が、静子の意識を無理やり叩き起こす。

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痛む肩を手で押さえつつ、彼女は声がした方へ顔を向ける。

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野盗らしき男が五人いた。持っているのは槍や刀、農具である鎌などだった。

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(戦場から逃げた足軽……?)

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そう思ったが防具などを身に着けていないから、戦争に巻き込まれた農民たちだろうと考えた。

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「おっと、声を上げるなよ」

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静子が何かを言う前に、野盗の一人が手に持っている槍を静子の喉に突きつける。

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下手に騒げばこのまま突き刺す、言葉にしなくてもそう語っているのが理解できた。

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「へへ、暫くご無沙汰だったんだ。存分に楽しんだ後で売り払うか」

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持っていた刀を鞘にしまうと、野盗の一人がニヤニヤと笑いながら静子へ近づく。

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そして鼻が曲がるような臭いを漂わせた野盗が、静子の服を脱がそうと手を伸ばした瞬間。

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ガサリと茂みを掻き分ける音と共に、その男の姿は消え去った。