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戦国小町苦労譚

万能の意思疎通手段

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我々が普段何気なく使用している言語が、実は多くの謎に包まれていることをご存じだろうか?

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日本人が多くの場合用いる日本語は、その起源に於いて独立言語説やアルタイ語族に属する説などもありながらはっきりとはしていない。

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音を用いてコミュニケーションを図る動物は他にも存在するが、洗練され体系化された言語及び文字を用いて知識の継承を可能としたのは人類だけであろう。

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このように言語の主目的は他者とコミュニケーションを図ることだが、世の中には会話が成立しない相手というものが一定数存在する。

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時代や場所に拠らず、それはいつ何処に於いても発生するものであり、このディスコミュニケーションを解決するための手法の一つに暴力がある。

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「こひゅ……こひゅ……」

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天井から足を上にした状態で吊り下げられている男から喘鳴(ぜんめい)が漏れる。

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男の顔面は最早元の人相が判らぬほどに腫れあがり、全裸に剥かれた体には至る所に痛々しいミミズ腫れが走っていた。

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力なく垂れ下がり揺れる両腕は、鈍器による殴打を受けたのか奇妙に折れ曲がっている。

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息も絶え絶えといった様子の男の傍に立ち、冷徹な視線を彼に向けているのは足満であった。

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足満の手には動物の革を編(あ)んだ長い一本鞭(むち)が握られており、男の体にミミズ腫れを刻んだことを雄弁に語っている。

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一本鞭とは本来カウボーイが牛を追い立てるために使った道具であり、人を叩くことを主目的とした道具では無いことは明らかだ。

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足満は慣れた仕草で鞭を振るうと、パーンと何かが破裂するような鋭い音を立てる。

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その音を耳にした男はすっかり萎縮(いしゅく)し、体に刻み込まれた痛みへの恐怖から歯の根が合わずガチガチと音を立てた。

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余談だが鞭が発する鋭い破裂音は、鞭の先端が地面などを叩いた際に発生しているのではない。

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鞭の先端が輪を描くようにして振るえば、全長5メートル程度の一般的な鞭であってもその先端の速度は容易に音速を超える。

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我々の耳に飛び込んでくる音を伝播している物質は空気であり、音は空気分子の振動という形で伝わってくるのだ。

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音が空気分子を叩くと、その振動によって隣の空気分子を叩いてまた振動が伝わりと、まるでドミノ倒しのように連鎖的に伝わる速度を音速という。

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ここで空気中の物体が音速を超えるとどうなるのか?

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空気分子は物体に叩かれた振動を隣の分子に伝える間もなく物体に押されて潰れ、玉つき事故の現場のように高密度の一塊となって進むことになる。

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この塊を衝撃波といい、これが空気中を伝わる際にまた空気分子にぶつかって減速・減衰して音波(ソニックブーム)となるのだ。

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「話す気になったか? 五つ数える間だけ待ってやる、早く謳(うた)え」

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「あ……、わ、た」

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男は必死に言葉を紡ごうとするが、萎縮しきって硬直した喉は意味のある音を発せなかった。

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彼に刻み込まれた痛みと恐怖が時間を空費させ、その間にも無情なカウントは続行される。

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常人であれば男が喋ろうとしている姿勢を汲み取り、男を落ち着かせた上で情報を聞き出すことを優先するのだろう。

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しかし、足満にとって静子以外の存在は己も含めて消耗品程度にしか捉えていないため、時間経過と共に無情にも鞭は振るわれた。

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「いぎぃぃ!!」

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先端に行くほどに細くなり、最も先端に至ってはただの革紐でしかない鞭は、その地味な見た目とは裏腹に恐ろしい威力を秘めている。

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良く鞣(なめ)された革紐を隙間なく編み上げた鞭は強靭であり、打撃面が細いことから衝撃が集中して激しい痛みを生む。

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たった一度の鞭打ちにより、背中の皮膚は裂けて出血し、男は喉からせり上がる悲鳴を噛み殺そうとするも苦鳴が漏れた。

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こうして歯を食いしばり、身を固くすることで痛みに耐える彼が目にしたのは異常な光景だった。

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奇妙な歯車状の部品が付いた長机に仰向けに寝かされた彼の仲間は、その両手両足を縄で引っ張られている。

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てこの原理とラチェット機構を組み合わせた巻き上げ機によって縄は凄まじい力で引っ張られ、男の仲間の腕や足は元の倍ほどまでに伸び切ってしまっていた。

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他にも土下座するような形に両手足を折り曲げられた状態で金属製の器具によって固定されている仲間もおり、その仲間は口と鼻から血を流している。

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これらの装置は拷問(ごうもん)で有名なロンドン塔の二人の娘、前者を『エクセター公の娘』、後者を『スカベンジャーの娘』と言う有名な拷問具だ。

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「そろそろわしと話す気になったか? 主への忠義で口を閉ざすのならば止めはせぬ、なにまだまだ代わりは居るのでな」

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言葉によるコミュニケーションは、一方が会話を拒絶すれば閉ざされる。

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操る言葉が相手と異なっていたり、そもそも言葉自体を持っていなかったりしても通用しない。

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翻(ひるがえ)って暴力はどうだろう? 相手が拒絶しても会話を強要できる上、言葉を持たぬ動物にすら望む行動を促せるのだ。

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足満は黙秘を続ける男たちの会話を早々に打ち切ると、暴力によるコミュニケーションで望む情報を引き出そうとしていた。

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因みに足満は既にある程度の情報を掴んでおり、男たちのような下っ端が持つ情報はさしたる重要性を持たない。

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ゆえに相手から情報を得ることに固執せず、むしろ凄惨な死体を量産することで男たちの主人に警告しようとすら考えていた。

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人間は理解できぬものに対して本能的な恐怖を覚える。

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間者から情報を得る為に拷問をするのが当たり前である戦国時代に於いても、情報を取れなくても構わないという前提で苛烈な拷問を課す足満は恐ろしい。

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何しろ彼は静子に敵意を向けた相手に一切の容赦をしない。たとえ相手が年端もゆかぬ童であろうとも寸毫(すんごう)の躊躇(ちゅうちょ)すら見せないのだ。

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「くっ……殺せ!」

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「殺すのは大前提だ。全てを吐いて楽に死ぬか、沈黙を守り苦しんで死ぬかだ」

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殺せと叫ぶ男に対し足満は冷徹に告げた。

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そもそも足満には最初から彼らを生かして返す気が無い。拷問に耐えて苦しみ続けた末に死ぬか、主人を裏切って情報を吐いた末に一思いに殺されるかの差だ。

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足満は逆さ吊りの男に対して再び鞭を振るうと、次はエクセター公の娘に掛けられている男の元へと足を運ぶ。

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男は既に肩と肘や膝、手首足首の関節が脱臼してしまっていた。最も外れにくい股関節のみがはまっているという状態だった。

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「さて、貴様にも問おう。謳うか、それとも沈黙か?」

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「何故、そこまで織田に尽くす! 奴はあしかが――」

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男の声が不自然に途切れる。

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足満が男の二の腕を凄まじい力で掴んだからだ。

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肩と肘関節が外れた腕を掴まれた男は、骨と骨を繋ぐ靭帯が伸びきったところに力が掛かったことで生じる激痛に耐える。

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「織田などどうなろうと構わぬ。足利など輪を掛けて興味がない」

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足満にとって己の血族たる足利将軍家がどうなろうと気にならない。

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それは織田家に対しても同様であり、たとえ史実通り『本能寺の変』が起こって信長が命を落とそうとも足満が彼の死を悼(いた)むことなどあり得ない。

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彼にとっての関心事は、常に静子ただ一人だけである。

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「それでは何故!?」

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「貴様らは静子に危害を加えんと企(くわだ)てた。それだけで万死に値する!」

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「なっ! そ、それだけの理由で我らに牙を剥くというのか!」

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「貴様らを鏖殺(おうさつ)するには充分だ」

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男は背筋に氷柱を突きこまれたような寒気を感じた。

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足満の狂気は異質であり、彼が静子に向ける感情はもはや人間に対するそれではないようにすら思える。

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いずれにせよ、自分たちは虎の尾を嫌というほど踏みつけたのだと悟った。

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「せいぜい耐えて己の罪の重さを知れ」

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まるで無駄話をしたとでも言うような足満の態度に男は絶望し、男は己の心が折れる音を聞いた。