戦国小町苦労譚
一五七六年 五月下旬
當信長等人在熱鬧地舉行賞花酒宴時,石山本願寺則相反地瀰漫著如被遺棄的廢墟般的蕭條感。
信長達が賑やかな花見の酒宴を催している頃、石山本願寺では対照的に打ち捨てられた廃墟のような寂寥(せきりょう)感に満ちていた。
在本願寺內部,由頼廉領導的溫和派成為主流,像教如那樣主張徹底抗戰的強硬派已失去氣勢。
本願寺内部では頼廉(らいれん)率いる穏健派が主流となり、教如(きょうにょ)のように徹底抗戦を唱える強硬派は勢いを失っていた。
然而,被逼到絕境的組織往往會走向更激進的先鋒化,教如等強硬派也不例外,他們不肯解除武裝,佔據山中的僧房固守。
しかし、追い詰められた組織がより過激に先鋭化するのは世の常であり、ご多分に漏れず教如たち強硬派も武装解除に応じず山中の僧房を占拠し立て籠もっていた。
此外,不屬於任一勢力的僧侶們帶著能帶走的所有財產,已從被解除包圍的本願寺逃離。
またそのどちらの勢力にも属さない僧たちは、持てるだけの財産を抱えて既に包囲の解かれた本願寺から脱していた。
見到那情形的信徒們也洞悉本願寺的前途,像沉船上逃竄的老鼠般爭先恐後地四散離去。
その姿を見た信徒たちも本願寺の行く末を悟り、沈みゆく船から鼠が逃げ出すかのように我先にと離散していった。
雖說已同意解除武裝,但曾能供多人生活的本願寺內儲存著各種物資,信徒們順手牽羊,連鍋釜等生活雜貨也一併搬走。
武装解除に応じたとは言え、多くの人々が生活できるだけの環境であった本願寺内には様々な物資が蓄えられており、信徒たちは行き掛けの駄賃とばかりに鍋や釜といった生活雑貨まで持ち去ってしまった。
過去堆在各山門前的武具類已被織田軍運走,因此可供信徒拿到的值錢之物也變得有限。
かつては各山門前に山と積まれた武具類は、織田軍の手によって運び去られたため、信徒たちが手に出来る金目の物が限られていたとも言える。
對於那些情況被報告後,頼廉僅低聲道「是麼」,並未採取任何對應行動。
それらについて報告を受けた頼廉は、「そうか」とだけ呟いたのみで、何ら対応を取ろうとはしなかった。
「法主」
「法主」
頼廉站在幽閉顕如的牢房前出神。現為本願寺代表的是頼廉,被奪去法主之位的顕如如今不過是個普通僧侶。
頼廉は顕如(けんにょ)が幽閉されている牢の前で立ち尽くしていた。現在の本願寺代表は頼廉であり、法主の座を追われた顕如は単なる一僧侶に過ぎない。
即便如此,對頼廉而言唯一的法主仍然只有顕如。為與織田家談判只能成為本願寺代表,但在幽閉顕如之後,頼廉也未曾自稱法主。
それでも頼廉にとっての法主とは顕如しかいない。織田家と交渉するには本願寺代表となるしかなく、顕如を幽閉した後も頼廉自身が法主を名乗ることはなかった。
「法主」
「法主」
即將入夜,頼廉再次向那個連燈火都不用的牢中之主呼喚,然而牢中沒有回應。
夕闇が迫ろうと言うのに灯りすら使わない牢の主に向かい、頼廉が再び声を掛けた。しかし、牢から応(いら)えが返ることはなかった。
頼廉認為沒有回應是理所當然。無論如何掩飾,對本願寺而言他也只是叛徒罷了。
頼廉は返事が無いのを当然と考えていた。どう言い繕(つくろ)ったところで本願寺にとって己は裏切り者に過ぎない。
他認為顕如固執地拒絕交談也是理所當然,於是即便沒有回音仍每日來訪,向黑暗持續報告日常。
顕如が頑(かたく)なに会話を拒むのも当然と捉え、返事がなくともこうして日参し、日々の報告を闇に向かって続けている。
「法主,與織田的和睦進展順利。以此和睦,我等將置於織田的管轄之下,並以交出此處本願寺為證。」
「法主、織田との和睦は順調に進んでおります。この和睦を以て、我らは織田の管理下に置かれることとなり、その証拠としてここ本願寺を明け渡します」
與信長和睦時,絕對必須接受的條件,就是放棄作為一向宗總本山的石山本願寺。
信長との和睦に於いて、絶対に呑まねばならぬ条件。それが一向宗の総本山である、石山本願寺の放棄であった。
石山本願寺對於分散於日本各地的本願寺門徒是信仰的依靠,史實上也曾是能與信長對抗長達十餘年的要塞。
石山本願寺とは日ノ本各地に散った本願寺門徒にとって信仰の拠り所であり、史実に於いて信長と足掛け10年以上に亘って戦うことが出来た要塞でもあった。
因此信長在締結和睦時必定會以撤離本願寺作為最低條件。換句話說,他自信只要掌控本願寺,無論各地是否爆發一向一揆,都能任意處置。
それ故に信長が和睦を結ぶ上での最低条件として本願寺からの退去を言い渡すことは確実であった。裏を返せば、本願寺さえ抑えていれば、各地で一向一揆が勃発しようとも如何様にも対処できるという自信の表れでもある。
「為籌措戰費,還會被提出各種條件。而剩到最後的信徒們,則由雑賀衆接納。」
「他にも戦費を贖(あがな)うため、様々な条件を突き付けられることでしょう。そして、最後まで残った信徒(・・)たちは雑賀衆が受け入れてくれることとなりました」
頼廉談起顕如此前所掛念的信徒未來去向。對末端信徒已盡力使其免受牽連,但對上層領導者們則不在此保障之列。
頼廉は予(かね)てより顕如が気に掛けていた信徒の今後についてを語った。末端の信徒については咎(とが)が及ばぬよう手を尽くしたが、上層部の指導者たちに関してはその限りではない。
頼廉透過與信長的密約,取得了保證:本願寺門徒在退去後仍可享有信仰自由的承諾。
頼廉は信長との密約によって、本願寺門徒について本願寺退去後も信教の自由を保証するとの言質(げんち)を取り付けていた。
信長對本願寺禁令有兩點:一為禁止持有武力,另一為禁止介入政治。
信長が本願寺に禁じたのは二点。一つは武力を持つことの禁止、もう一つは政治への介入禁止である。
對信長而言,宗教應是生活的規範和精神的依靠即可,若借佛的威光去操縱信徒的未來則被視為不敬。
信長にとっての宗教とは生活の規範であり、精神の拠り所でさえあれば良く、仏の威光を借りて信徒たちの未来を舵取りするなど不遜(ふそん)と考えていた。
「……若有任何動靜,我會再來。」
「……何か動きがあれば、また参ります」
結局顕如直到最後也沒有回答。然而對頼廉來說那是常事,他向牢房一禮後便離去。
結局最後まで顕如からの答えは無かった。しかし、頼廉にとってそれは毎度のことであり、牢に向かって一礼するとその場をあとにした。
頼廉離開不久後,黑暗中的牢內傳出充滿懊惱的低聲。
頼廉が立ち去った暫くのち、闇に閉ざされた牢内より懊悩(おうのう)を湛(たた)えた声が漏れた。
「對不起,頼廉。事到如今,我仍無法斷絕親情。若我能早些處分教如……」
「すまぬ、頼廉。事がここに至っても、未だ肉親の情を断つことができぬ。もっと早くに私が教如を処断しておれば……」
話未說完便化為無言,牢房再次被寂靜吞沒。
それ以上は言葉とならず、再び牢は静寂に飲み込まれた。
場景轉至播磨,秀吉在此頭疼不已。播磨約當今兵庫縣西南部,境內擁有姬路港等大港,以港灣城市為中心經濟發達,因而多方勢力為爭奪利權互相交鋒。
ところ変わって播磨(はりま)では秀吉が手を焼いていた。播磨とは、今日でいう兵庫県の南西部に当たる。領内に姫路港などの大きな港を擁(よう)し、港湾都市を中心に経済が発達しており、それ故に多くの勢力が互いに利権を巡って争うこととなる。
自鎌倉時代起朝廷、武家、佛家等皆覬覦此地,播磨遂被戰亂吞沒,也由此對中央政權抱有強烈的反骨精神。
鎌倉時代から朝廷や武家、仏家らが食指を伸ばしたことで戦乱に呑まれ、それがために中央政権に対して強い反骨精神を抱くに至った。
其中最有名的是赤松氏,可說是日本史上對朝廷與幕府等體制最為反抗的一族。
中でも有名なのが赤松氏であった。彼らは、日本史上に於いて朝廷や幕府と言った体制側に最も反抗した一族と言っても過言ではない。
例如在1333年,日後開足利幕府成為將軍的足利尊氏攻京時,赤松氏攻下了鎌倉幕府重要據點六波羅探題。
例を挙げれば1333年、後に足利幕府を開き将軍となる足利(あしかが)尊氏(たかうじ)が京を攻めた際、鎌倉幕府の重要拠点であった六波羅(ろくはら)探題(たんだい)を攻め落とした。
當時率領播磨國人立下大功的,是赤松氏第四代當主赤松則村(後出家法名為円心)。
その際に播磨国人を率いて大きな手柄を立てたのが赤松氏第四代当主の赤松則村(のりむら)(後に出家し、法名を円心(えんしん)とした)であった。
之後因在建武政權中遭到冷遇(亦被說成捲入政爭),則村響應尊氏起兵,討伐建武政權,對室町幕府的成立貢獻良多。
その後、建武(けんむ)政権から冷遇されたため(政争に巻き込まれたとも言われている)、尊氏の挙兵に呼応し建武政権を討ち室町幕府の成立に多大な貢献をする。
其後雖屬於足利一方,但在宴會席上斬殺推動恐怖政治、以苛烈處斬聞名並被稱為萬人恐怖的室町幕府第六代將軍足利義教者,正是赤松滿祐。
その後は足利方に与(くみ)していたが、室町幕府六代将軍であり恐怖政治を指向し、苛烈な処断を繰り返して万人恐怖との異名を持つ足利義教(よしのり)を宴会の席で殺害してみせたのも赤松満祐(みつすけ)である。
如是,赤松氏常被政權的勢力鬥爭所左右,或因此養成獨立自主的風骨,其反骨精神亦異常高昂。
このように赤松氏は政権の勢力争いに翻弄されることが多く、その為か独立独歩の気風を持ち、反骨精神も並外れて高い。
尤其當自己的飯碗即將被奪走時,這種精神便會無遺憾地發揮出來。
特に己の「飯の種」が奪われんとしたとき、その精神が遺憾なく発揮されることとなる。
「哈哈哈,相當有骨氣啊」
「はっはっは。なかなかに気骨があるではないか」
正因為如此背景,秀吉對播磨的攻略受到赤松氏猛烈反抗而陷入苦戰。
そのような背景から秀吉の播磨攻略は件(くだん)の赤松氏による猛烈な反抗を受け難航していた。
不顧秀吉的困境,由靜子軍派出的真田昌幸率領的狙擊部隊正穩步取得成果。表面上他們以信長的命令,在秀吉軍中進行新兵器的實地試驗為名參戰。
秀吉の苦境をよそに、静子軍より派遣された真田(さなだ)昌幸(まさゆき)率いる狙撃部隊は着実に成果を挙げていた。彼らは表向き信長の命により新兵器の実地試験をするため、秀吉軍に参加しているとされている。
由於戰況不利,若坦白說是向他軍乞援,秀吉軍本就岌岌可危的士氣便會瓦解。因此將他們當作受信長直命的特殊部隊,以游擊方式運用,盡量減少與其他部隊的接觸。
戦況が思わしくないため、馬鹿正直に援軍を要請したなどと明かせば苦戦を強いられている秀吉軍の士気は崩壊してしまう。そこで信長の直命(じきめい)を受けた特殊部隊として取り扱い、遊撃的に運用することで他部隊との接点を最小限にする。
結果於多數秀吉軍將士眼中,狙擊部隊的存在成了難以觸碰的疙瘩。與其同行的部隊甚至因其戰鬥風格與勇猛形象相去甚遠,對其抱持近乎譴責與蔑視的印象。
その結果、秀吉軍の大部分にとって狙撃部隊の存在は腫れものに触るような扱いとなった。更に行動を共にした部隊からは、狙撃部隊の勇猛さからかけ離れた戦いぶりに対し非難や侮蔑に近い印象を持たれるに至っている。
這也不足為怪,在仍以個人武勇受崇敬的秀吉軍裡,他們的戰鬥教義顯得格格不入。基本上潛伏於暗處、佔據高地進行偵察,只狙擊那些集中士兵且發號施令的下士官,然後迅速後撤。
それもそのはず、未だに個人の武勇が尊ばれる秀吉軍に於いて、彼らの戦闘教義(ドクトリン)は異質すぎた。基本的に物陰に潜み、高所に布陣して索敵を行い、兵卒を纏めて指示を出している下士官のみを狙撃するだけでさっさと後退してしまうのだ。
他們盡可能避免正面交鋒,若不得已則在敵軍預想的侵攻路線上設陷阱以牽制,然後一邊屠殺一邊撤退,採取與戰場榮譽最為格格不入的戰法。
直接的な交戦を可能な限り回避し、どうしても避けられない場合は敵軍の予想侵攻ルート上に罠を仕込み、足止めをした上で一方的に虐殺しつつ逃げまわるという、いくさ場の誉(ほまれ)から最もかけ離れた戦法を取る。
坦白說,這種做法既卑劣又投機,於秀吉軍將兵眼中只是琐碎地讓敵人流血、未能取得決定性戰果的膽小鬼。
有体(ありてい)に言ってしまえば卑怯(ひきょう)かつ姑息(こそく)であり、秀吉軍の将兵から見ればチマチマと敵に出血を強いるのみで、決定的な戦果を挙げない臆病者として認識されるのだ。
而這種戰法恰好完美地對上了滿懷反骨精神的赤松氏。當敵人甚至看不見對方時,部隊內只有下士官接連被斬,通常精神力難以承受,士兵紛紛先拔腿就跑也不奇怪。
そしてこの戦法は反骨精神に溢れる赤松氏に見事にハマった。敵の姿すら見えない中、己の軍の下士官のみが次々に討ち取られるという状況に陥れば、通常の精神力では耐え切れず兵も我先にと逃げ出すのが通常だ。
在這種情況下,下士官最先變得畏懼。因為除了下士官以外的人都不會受到攻擊,想要當部隊統領的人自然減少,這是必然的結果。
このような状況下では下士官がまず怖気づく。なぜならば下士官以外は攻撃されないのだから、部隊のまとめ役になりたがる者がいなくなるのは当然の帰結と言えた。
但赤松氏並不受此常識所限。損失越大便越瘋狂地衝上前。首先隊長的鎧甲變得更為厚重,若仍被貫穿便拋開體面,甚至用竹木綁上盾牌護體。
しかし赤松氏に限ってはこの常識が当てはまらなかった。損害が出れば出る程に遮二無二突きかかってくるのだ。まず隊長の鎧が重厚なものへと変えられた。それすらも貫通するのを見れば、外聞など捨て去って体に竹や木で作った盾を括り付けさえした。
即便仍無法避免彈著衝擊導致落馬,終於他們下馬與足輕混在一塊行軍,毫不顧忌形象。連昌幸也為之震驚,情不自禁說出了前述的話。
それでも着弾の衝撃による落馬が避けられないと知ると、ついには下馬して足軽に混じり行軍してくるという形振(なりふ)り構わなさを見せた。これには流石の昌幸も驚愕し、前述の言葉が思わず口をついて出るに至った。
對於不屈不撓、絞盡腦汁應對卻依然正面衝來的敵人,堅持避免交戰的昌幸立場,使得秀吉軍的將領甚至故意大聲地背後嘲諷起來。
卑怯な戦法にも挫(くじ)けず、知恵を絞って対処しながら真っすぐに向かってくる敵に対し、あくまでも交戦を避ける戦術を貫く昌幸の姿勢に、秀吉軍の将たちはわざと聞こえるように陰口を叩くにまでなった。
「大將。就這樣被任人說去可以嗎?」
「大将。言われっぱなしにしておいて良いのかい?」
狙擊部隊之一的菊在撤收準備時問昌幸。正如名諱可知,菊雖屬於狙擊兵這一精英中的精英兵科,但她是女性。
狙撃部隊の一人、菊が撤収準備をしながら昌幸に訊ねた。菊という名前から判るように、狙撃兵(スナイパー)というエリート中のエリート兵科でありながら彼女は女性なのだ。
與狙擊兵配套運作的觀測手由她的兄長一郎與妹妹ちさ擔任。即便在與其他軍相比充滿例外的靜子軍中,兄妹三人組成一個小組(スリーマン一組、セル)也屬罕見。
さらに狙撃兵とセットで運用される観測手(スポッター)は彼女の兄である一郎と、妹のちさが担う。彼女たちは他の軍と比較して例外だらけの静子軍に於いてすら珍しい、兄妹が三人(スリーマン)一組(セル)を構成しているのだ。
她們從軍的理由各不相同:菊是為了敬愛的靜子,一郎則為了不讓妹妹們挨餓能飽餐一頓,最年幼的ちさ則是因不願與兄姊分開而隨行。
尤も彼女らが従軍する理由はそれぞれに異なる。菊は敬愛する静子の為であり、兄の一郎は妹たちを飢えさせず腹一杯に食わせてやれるからであり、最年少のちさは兄姉と離れて暮らすのが嫌だという理由だ。
「這無所謂的。我們本就是異類,遭人疏遠理所當然。我們能做他們做不到的遠距離狙擊攻擊,他們則能做我們寡兵無法勝任的近距離衝鋒。並非哪方優越,而是用途根本不同。處理魚時不會用鋸子吧?就是那種道理」
「別に構いやせんよ。我々は元々異物ゆえ、疎(うと)まれるのは当然だ。我らは彼らにできない狙撃という遠距離攻撃ができる、逆に彼らは寡兵の我らにはできない近接攻撃ができる。どちらが優れているという話ではなく、使い道が根本的に違う道具なのだ。魚を捌(さば)くのに鋸(のこぎり)は使わぬだろう? そういうことよ」
昌幸對菊幾近傲慢的語氣似乎不以為意,他也以彷彿不存在身分差的隨性口吻回道。
昌幸は菊のともすれば横柄とも言える口調を気にした様子もなく、自身も身分差など無いかの如く気軽に応じた。
「嗯,讚賞我的人是靜子大人,其他那些渣渣說什麼無所謂。但若因此連靜子大人也被侮辱,那可不能任由其事」
「まあ私を評価して下さるのは静子様だから、他の塵(ちり)芥(あくた)どもが何を言おうが構わないけどさ。それで静子様までが侮られるのは見過ごせないよ?」
「縱然同在織田家的大樹荫下,同屬一族,但畢竟是他軍,我們的常識行不通。只希望他們不會愚蠢到在公開場合指責靜子大人罷了」
「織田家という大樹の陰を共有する者同士とは言え、所詮は他軍ゆえ我らの常識は通用せんよ。まあ彼らも公の場で静子様を非難する程愚かではないと祈るとしよう」
「菊,從懷裡把筆記拿出來。果然是暗殺帳……事情未必每次都不會曝光,所以忍耐點」
「菊、懐に入れた帳面を出せ。やはり暗殺帳か……そう毎度ことが露見せぬとは限らぬのだから辛抱せよ」
一郎說罷便從菊手中奪過筆記本撕下一頁。上面記載著剛才藉口對狙擊部隊出言不遜、聲稱卑劣戰法是因主君軟弱的那些人的特徵與所屬部隊。
そう言うと一郎は菊から取り上げた帳面から一枚を破り取った。そこには先ほど狙撃部隊への悪口にかこつけて、卑怯な戦いぶりは主君が女々しいからだと口にした者の特徴と所属部隊が記されていた。
正如一郎所言,菊策劃此類報復並非頭一回。她趁夜色掩護、偽裝成意外發動襲擊,至今未被發覺,但被她傷及的人數數不清。
一郎のやはりという言葉通り、菊がこうした報復を企むのはこれが初めてではない。夜闇に乗じた上に事故に見せかけて襲撃するため、今のところ露見していないが、彼女の手によって傷を負ったものは五指では収まらない。
「嗯。要做的話務必別讓靜子大人受到一絲麻煩,記住了?」
「ふむ。やるなら静子様に決してご迷惑が掛からぬようにやるのだぞ?」
「那個……真田大人。請不要挑釁姐姐。她提到靜子大人時就失去分寸了……」
「あの……真田様。姉を煽らないで下さい。姉は静子様のこととなると歯止めが利きませんから……」
昌幸取笑菊以娛自己,ちさ則向他投來抱怨。正如她所言,菊幾可稱為靜子教的原教旨主義者,對崇拜的靜子若遭侮辱必以懲罰回應。
面白がって菊を煽った昌幸に対して、ちさから苦情が届く。彼女の言う通り、菊は静子教原理主義者と言っても過言ではない程に静子に入れ込んでおり、崇拝対象である静子に対する侮辱へは罰を以て応じる。
幸好至今尚未造成死亡,但若不另尋報復手段或宣洩方式,不久便難免有人喪命。
幸いにして今のところ死者は出ていないのだが、何か別の報復手段なりガス抜き方法を見つけねば、遠からず人死にが出ることは予想に難くない。
「話說回來。狙擊出乎意料地也能命中啊,我以為十發才中一發已算不錯了」
「冗談はさておき。意外に命中するものだな、狙撃というのは十回に一回当たれば良い方だと聞いていたのだが」
「那是因為我很優秀。靜子大人還親自讚過我呢!」
「それは、あたしが優秀だからさ。静子様直々にお褒めの言葉を賜ったほどだからね!」
菊挺起對年紀而言可悲地扁薄的胸脯,得意地說道。
年齢からすれば哀しい程に薄い胸を反らした菊が得意げに言う。
與動畫或電影不同,現實中的狙擊手需反覆進行極其枯燥的工作,耐性是必需。雖然易怒的菊看似不適合,但她在特殊情況下能展現異常的專注力。
アニメや映画のそれとは異なり、現実の狙撃兵とは恐ろしく地味な仕事を繰り返す忍耐力が求められる。激昂しやすい菊には不向きに思えるが、彼女は特異な状況下で異常な集中力を発揮するという特性を持っていた。
狙擊訓練就是反覆確定目標射擊、再觀測記錄差異的作業。不斷重複缺乏變化的工作,並對每次射擊詳細記錄環境數值與結果,常人難以忍受。
狙撃の訓練とは狙点を定めて射撃し、次に観測を行って差異を記録するという作業の繰り返しとなる。変化に乏しい作業を延々と繰り返し、射撃ごとに環境数値や結果を事細かに記録するというのは常人には耐えがたい。
然而一旦她專注於一件事,便會全然不顧周遭,能忘卻吃睡般沉浸其中,這是她難得的天賦。
しかし、彼女は一つのことに没頭すると周囲を全く気にしなくなるほどにのめり込み易い気質を持っており、寝食を忘れる程に集中できるという得難い才能を持っていた。
可是在日常生活中,這種特質反倒成了羈絆。尤其在她成長的農村,若有人拜託拔草,不論風雨或日落她都會默默重複拔草,因此被人斥為缺乏機智的女子。
ところが、彼女が持つこの性質は日常生活に於いては足かせにしかならない。特に彼女が育った農村などでは、草むしりを頼まれれば雨が降ろうが日が暮れようが黙々と草むしりのみを繰り返す菊を機転の利かない娘だとこき下ろした。
像農村這種共同體,須依周遭情況臨機應變對應,對她而言卻很困難。因此她自幼便被當成飯桶般的廢物,遭人輕視。
農村のような共同体に於いては、周囲の状況に合わせて臨機応変に対応をすることが求められるが、彼女にとってそれは難しい。故に彼女は幼い頃からずっと無駄飯ぐらいの穀潰(ごくつぶ)しと呼ばれ、蔑(さげす)まれてきた。
正是靜子將她從那處撿起。現代稱這類表現為自閉症頻譜症(ASD),熟悉此類人存在與特性的靜子看出菊的天賦。
そんな彼女を拾い上げたのが、他ならぬ静子であった。彼女のような特性を示す人々を現代では自閉症スペクトラム症(ASD)と呼び、そうした人々の存在と特徴を知っていた静子は菊が持つ天性の才能を見出した。
那是驚人的專注力及持續力,與常人不同的時間與空間感知能力。她不用看鐘也能大致掌握時間,對遠處物體的距離幾乎毫無誤差地判斷出來。
それは驚異的な集中力及びその持続力と、常人離れした時間・空間認識能力にあった。彼女は時計を見ずともほぼ正確に時間を把握しており、遠く離れた場所にある物体との距離を殆ど誤差なく言い当てた。
靜子為她介紹了能發揮天賦的測量部隊與狙擊部隊,菊姊妹的生活因此飛躍改善。或許也因這背景,菊把救她於絕境的靜子視為至高,如今甚至認為靜子與神佛無異。
静子は彼女の才能を活かせる場所として測量部隊や狙撃部隊を紹介し、菊たち兄妹の生活は飛躍的に向上することとなる。こうした背景もあってか、菊は己をどん底から拾い上げてくれた静子へ傾倒し、今では静子と神仏は等しいとまで思っている。
「又開始了啊……」
「また始まったか……」
「看她連汗進眼也不在意地訓練,靜子大人曾把用過的手巾繫在額頭,現在她還供在神龕上呢」
「汗が目に入るのも気にかけず訓練している姿を見て、静子様が額に巻いて下さった手拭いを未だに神棚に祀(まつ)っているしね」
菊那說到耳朵起繭的自說自話又開始了,一郎與ちさ以帶著些微怪異的溫熱目光聽過便算。昌幸起初也覺得困惑,如今只覺得放著不管直到她停最為妥當。
耳にタコができる程に繰り返された菊の自分語りが始まり、一郎とちさはその全てを生暖かい眼差しで聞き流した。昌幸も当初は面食らっていたが、今では止まるまで放置するのが一番と流している。
「抑音器……是那個嗎?足滿大人給的零件很厲害,可是感覺不像在開槍,我不喜歡。」
「さぷれっさー……だったかな? 足満様が下さった部品は凄いけど、銃を撃ってるって感じがしなくて好きじゃないな」
菊一邊說著,仔細地把以旋入方式接在槍口的零件拆下。消音器(減音器)是裝在槍口上,用來減輕彈藥發射聲與閃光的裝置。
菊はそう言いながら、銃口にねじ込む形で接続された部品を丁寧に取り外す。サプレッサー(減音器)とは銃口に装着することで、銃弾の発射音と閃光を軽減する装置である。
消音器的原理是藉由分散在彈丸發射時從槍口猛烈噴出的燃燒氣體來抑制聲音。就像可樂塑膠瓶猛然打開會發出「噗嗤」的高音,但慢慢小心扭開只會有「嘶」的氣體漏出聲一樣。
サプレッサーの原理とは、銃弾の発射時に勢いよく銃口から噴き出す燃焼ガスを分散させることにより、音を抑制するというものだ。コーラのペットボトルを勢いよく開ければプシュっと高い音がするが、ゆっくりと慎重に捻ればシューという気体が抜ける音しかしないのと同じ理屈である。
個人喜好先放一邊,對菊而言足滿也是可怕的存在。雖然菊以不擅察言觀色聞名,但只要與足滿處在同一空間,就會因生存本能的恐懼而渾身發抖。
個人的な好みはさておいて、菊にとっても足満は恐ろしい存在だ。場の空気を読まないことに定評のある菊だが、足満と同じ空間に居るだけで生存本能に根差した恐怖で身がすくむ。
為了靜子菊甚至不惜性命,卻對足滿連反抗的念頭都沒有。即便有人說他是吞人的「鬼」,菊甚至覺得那說法可以很容易接受。
静子の為ならば命すら惜しまない菊だが、足満にだけは逆らう気すら起きない。彼は人を喰らう『鬼』だと言われても、すんなり納得できるとすら思っていた。
「要好好記錄實驗數據喔?」
「ちゃんと実験データを記録しなよ?」
「每次裝上拆下都得重新調整準星,很麻煩……但還是得繼續嗎?」
「付けたり外したりするたびに、照準を調整し直さないといけないから面倒なんだけど……続けなきゃダメかな?」
菊對自己的狙擊風格很執著,不喜歡改變平時的手續。
菊は己の狙撃スタイルに拘(こだわ)りがあり、いつもの手順を変更することを嫌う。
「聽說靜子大人也對那個零件抱有期待。」
「その部品には静子様も期待しておられるそうだ」
「快把帳冊還來!立刻記錄好,然後準備下一次射擊!」
「早く帳面を返して! すぐに記録して次の射撃準備をしないと!」
在一郎一聲令下,菊立刻改變態度,眾人只能苦笑。
一郎の一声で途端に態度を変える菊に、一同は苦笑するしかなかった。
昌幸率領的狙擊部隊現在在做的,是狙擊兵這一兵科的單獨運用,以及與其他部隊協同運用時的實地訓練。
昌幸が率いる狙撃部隊が現在何をやっているかと言えば、狙撃兵という兵科の単独運用及び、他の部隊との連携運用した際の実地訓練であった。
基本上狙擊兵無法成為戰鬥的決定性力量。由於需要特殊的裝備與技術,無法大量配置。
基本的に狙撃兵は戦闘の決定力になり得ない。そもそも特殊な兵装及び技術を要するため、数を揃える事が出来ない。
因此,他們對以物量碾壓的攻勢極為脆弱,一旦與敵接觸甚至難以撤退。相反地,因為對敵方擁有數倍的射程,若能有效運用便能挫傷敵方士氣。
この為、物量による力押しに滅法弱く、一度でも接敵を許せば逃走すら難しい。反面、敵方に対して数倍の射程距離を誇るため効果的に運用すれば敵の士気を挫くことができる。
無論如何訓練,在真實戰場上總會持續發生意外;要確認如何應對那些狀況,以及如何達成目的。
そして如何に訓練を積もうが、実際のいくさ場では予期しない事が常に起こり続ける。それをどのように対処するか、またどのようにして目的を達成するかを確認するのだ。
「哥,敵人在那裡?」
「兄さん、敵は?」
「西南方,距離約300公尺,高低差約-30公尺。」
「南西の方角、距離およそ300メートル、高低差およそマイナス30メートルだ」
哥哥一郎用視差式測距儀傳達測量結果。
兄の一郎が、視差式測距儀を用いて計測結果を伝える。
「ちさ?」
「ちさ?」
「周圍的野生動物沒有反應,所以附近沒有人類。還沒被發現。」
「周囲の野生動物が反応していないから、付近に人間はいないよ。まだこっちは見つかっていない」
「了解。開四發後就移動,請準備好。」
「了解。四発撃ったら移動するから準備よろしく」
菊答道後,朝著肉眼只看得見如同拇指大小的目標連續射擊四次。
菊はそう答えると肉眼では親指ほどの大きさにしか見えない標的に向かって、立て続けに四回射撃した。
ちさ繼續戒備周邊,哥哥一郎從測距儀換到望遠鏡,傳達射擊結果。
ちさが引き続き周辺を警戒し、兄の一郎が測距儀から望遠鏡に持ち替えて射撃結果を伝える。
結果是兩發命中、一發為擦邊彈,剩下一發可能飛偏方向,未能觀測到著彈。
結果は二発命中、一発が至近弾、残る一発は見当違いの方向へ飛んだのか着弾を観測できなかった。
命中率五成或許看來偏低,但在這個時代,槍彈要能直直飛行本來就是罕見的事。
命中率5割と言えば低く思われるかも知れないが、この時代に於ける銃というのはまずもって真っすぐ弾が飛ぶことすら稀なのだ。
必須拉近到近在眼前的距離,並靠數量組成彈幕,才能勉強成為戰力。
目の前と言えるほどの距離まで引き付けて、数を揃えて弾幕を張ることによってようやく戦力となる。
如同嘲笑那種常識般,無聲飛來的死亡碎彈降下,友軍被擊斃的事實足以讓士兵雙腿發軟。
そんな常識を嘲笑(あざわら)うかのように音も無く飛来する死の礫(つぶて)を受けて、味方が死んだという事実は兵たちの足を竦(すく)ませるには十分であった。
菊從用枯木做的簡易三腳架上卸下槍身,把可拆解的部件拆開收進背囊。
枯れ木を用いた簡易三脚から菊が銃身を外し、分解できる部品をばらすと背嚢(はいのう)にしまい込む。
一郎把笨重的行李整理背起,ちさ抹去他們的痕跡後便開始移動。
一郎が嵩張る荷物を纏めて担ぎ、ちさが自分達の痕跡を消せば移動が始まる。
「不過,真田大人也毫不留情。先大致剷除指揮官級,接著又要奪走『目』。」
「しかし、真田様も容赦がないね。隊長格を粗方潰したところで、次は『目』を奪えだもん」
體力充沛的一郎擔任先頭,緊跟其後的輕便ちさ負責指示路線。最後方的菊只要跟著兩人走過的路即可。
体力のある一郎が先頭を務め、直後に身軽なちさが控えて進路を指示する。最後尾の菊は二人の通った跡を着いてゆけば良い。
在眾人默默前進到事先調查好的下一個狙擊點時,菊突然向前方拋出一句話。
事前の調査で見つけておいた次の狙撃地点まで、皆が黙々と進むなか不意に菊が言葉を前方に投げ掛けた。
「先把斥候、先導者、偵察這類先行的角色殲滅掉,他們的進軍速度就會大幅下降。」
「斥候(せっこう)や先導役、物見なんかを先に潰してしまえば、奴らの進軍速度はがくんと落ちるからな」
昌幸正在巡視各狙擊隊並下達指示,雖然他已不在此地,但他交代給菊等人的任務就是前述那樣。
昌幸はそれぞれの狙撃隊を回って指示を出しており、既にここには居ないのだが、彼が菊たちに命じた内容が前述のものだった。
敵方將領失去能傳達命令的下士官,接著又失去探查敵情的目標。縱然是赤松軍的將領,到了這種情況也不得不撤退。
敵の武将は己の命令を中継する下士官を失い、次いで敵を探すための目を失った。流石に赤松軍の武将といえど、この状況になれば撤退せざるを得ない。
為了防備看不見的敵襲,他們採取密集隊形,並整隊後撤。狙擊手們不去狙擊敵將是有原因的。
見えない敵の襲撃に備えて密集形態をとると、兵を纏めて引き返していく。狙撃手たちが敵の武将を狙わないのには理由があった。
若因為接受秀吉的請求而派出的狙擊部隊連續斬殺敵將,秀吉等人的面子就會徹底受損,因此不宜做出那種華麗的戰果。
秀吉の要請を受けて派遣された狙撃部隊が次々と敵将を討ち取るという華々しい戦果を挙げてしまえば、秀吉たちの面子は丸つぶれになってしまうからだ。
「我方之間爭功有什麼意義呢?」
「味方同士で手柄争いをしてどうしようってんだろうね?」
「大概是讓大家競爭戰功比較容易激勵士氣。反而是不需那樣也能維持士氣的靜子大人才是傑出。」
「手柄を競わせる方が簡単に士気を上げられるからだろう。むしろそんな事をせずとも士気を保てる静子様が傑出しておられるだけだ」
「閒聊也差不多該結束了。我們快到了。」
「無駄話はそろそろ終わって。もう着くよ」
三人到達預定狙擊地點後,一郎與ちさ一邊警戒周圍,一邊巡視有無敵人的蹤跡。確認安全後由菊決定狙擊位置,放下行李後再次組裝槍械。
三人は予定の狙撃地点に到着すると、一郎とちさが周辺を警戒しながら敵の痕跡が無いかを確認して回る。安全を確保できた段階で菊が狙撃ポイントを決め、その周辺に荷物を下ろすと再び銃を組み立てる。
雖未特別商量,但三人各自都明白自己的角色,毫不拖延地完成狙擊準備。
特に示し合わせた訳でもないのに、三人ともが己の役割を理解しており、寸刻の遅滞なく狙撃の準備が整っていった。
「好了,已就位,請指示」
「よし配置についた、指示をよろしく」
菊將以金屬導軌相連的彈藥裝填入槍管,然後採取射擊姿勢。
銃身に金属ガイドで連結された銃弾を込めると、菊は射撃体勢を取った。
自五月以來,信長的情緒持續惡化,他不再掩飾煩躁,只默然地在眉間擠出皺紋。
五月に入って以来、信長の機嫌は悪化の一途を辿っていた。彼は苛立ちを隠そうともせず、ただ黙して眉間に皺(しわ)を寄せていた。
沒有人試圖討好沉默寡言的信長。即便是濃姫在內,大家也都明白無法讓他改變心情。
むっつりと黙り込んだ信長のご機嫌を取ろうとする者はいない。たとえそれが濃姫であろうとも、信長の機嫌を回復させることは叶わないと皆が理解していた。
「……」
「……」
信長的惱怒源自他手中那封書信——那是靜子送來的「暇乞い(現代所謂的休假申請)」的信。
信長の苛立ちの原因は、彼が手にした文にあった。それは静子より届けられた『暇乞い(現代で言うところの休暇願)』の文だった。
內容是繼ヴィットマン之後,配對的巴爾蒂也身體不適,兩隻剩餘的時間所剩無多。
その内容とはヴィットマンに続いて、番(つが)いのバルティも体調を崩し、二頭に残された時間は少ない。
信中請求暫時休職,想在這位自早期便陪伴左右的忠臣的最後日子儘量守在身旁。
最初期から自分に寄り添ってくれていた忠臣の最期に、出来るだけ傍にいてやりたい為、暫く仕事を休ませて欲しいというものだ。
信長並未因靜子的請假而生氣,反倒鬆了一口氣,想著「終於打算休息了嗎」。若問他何以惱怒,則是為自己的視而不見感到羞愧。
信長は静子の暇乞いに対しては立腹していなかった。むしろ『やっと休む気になったか』と安堵したほどだ。では、何を苛立っているのかと問えば、己の不明を恥じていたのである。
(真是可悲。在靜子提出請假之前,竟無法察覺她的困境……)
(つくづく己が情けない。静子が暇乞いを願う前に、あ奴の窮状を察してやれぬとは……)
回想起來,撿到靜子已經十年了。過去雖強加無數難題,但靜子在公私兩面都支持著自己。
思い返せば静子を拾って十年が経つ。今まで様々な無理難題を押し付けてきたが、静子は公私ともに自分を支えてくれていた。
若自問「若未撿到靜子,今日的我會存在嗎?」便能立刻斷然回答否定。
もし『静子を拾っておらねば、今日(こんにち)の自分はあったのか』と自問すれば、即座に否と断言できるだろう。
即便因某些機緣走到幾乎能觸及天下人之位的地步,也很難想像能建立如今日這般堅固的體制。
何かの巡り合わせで天下人に手が届くという処まで来たとしても、今ほど盤石な体制は築き得なかったであろうことは想像に難くない。
其中最大的轉捩點,應該是阻止武田信玄西上作戰之時。人人都說不可能取勝。
中でも一番の転機は、武田信玄の西上作戦を阻んだ時であろう。誰もが勝てるはずがないと口にした。
信長自己甚至評估自軍勝率僅三成,可見信玄所率的武田軍有多強。
信長自身ですら、自軍の勝利を三割と見積もっていたほどだ。それほどまでに信玄の率いる武田軍とは強かった。
(只是一天的戰事,就改變了我的處境)
(たった一日のいくさが、わしの立場を変えた)
直到三方原之戰前,許多人已斷然拋棄我,認為「織田的天下就此終結」。
三方ヶ原の戦い直前までは『織田の天下もこれまでよ』と自分を見限って離れていくものが多かった。
然而次日一旦得知三方原之戰的結果,立刻出現大量翻臉向好的人。自那日以後,形勢明顯逆轉。
そして明けて翌日となり、三方ヶ原の戦いの行方が知らされた途端に掌を返すものが続出したのだ。あの日を境に潮目がはっきりと変わった。
即便她是完成如此大業的最大功臣,靜子卻在戰前戰後完全沒有改變。
それほどの大事を成し遂げた最大の功労者だと言うのに、静子だけはいくさの前後で全く変わったところが無かった。
「我回來了」
『ただいま戻りました』
她以毫無負擔、像是在告知午餐準備好了般的輕鬆語氣行了回歸的問候。
まるで気負った処がなく、昼餉の準備が出来たとでも告げるかのような気軽さで、帰参の挨拶を述べたのだ。
信長是那時才第一次感到靜子可畏;靜子有時會讓人覺得她目光遠超自己許多。
信長はその時初めて静子が恐ろしいと感じた。静子は時として自分より遥か遠くを見据えていると思わせることがある。
對靜子來說,三方原之戰不是孤注一擲的決戰,而只是通往明天、與今日相連的日常延續。
静子にとって三方ヶ原の戦いとは、イチかバチかの運命を掛けた決戦ではなく、今日と地続きの明日へ辿り着く日常の延長でしかなかったのだ。
如今那樣的靜子顯然露出脆弱一面,信長為自己未曾想去了解她所處境地而感到羞愧,同時奇怪地為她向自己吐露出一種近乎人類的情感而感到高興。
そんな静子が今、明らかに弱みを見せていた。信長は静子の置かれた状況を知ろうとしなかった己を恥じるとともに、妙な話だが人間らしい感情を己に吐露してくれたことを嬉しくも思っていた。
「不能說她只是單純的野獸。她是第一個在任何時候都陪伴靜子的朋友」
「ただの獣とは言えぬ。いつ如何なる時も静子に寄り添った最初の友だからな」
信長覺得靜子對那匹狼所懷的情感等同於親情。靜子鮮少開口說願望,信長則打算不惜一切障難也要實現她的願望。
信長はかの狼に対して静子が寄せる心情は、肉親のそれに等しいと感じていた。滅多に望みを口にしない静子の願いだ、信長としては万難を排してでも叶えるつもりであった。
「到如今,我能做的也不多。至少要盡力讓靜子不被小事困擾,作為主君應盡的職責……」
「今となっては、わしに出来ることなどそうありはせぬ。せめて静子が些事に囚われぬよう、手を尽くしてやるのが主君の務めか……」
說完後信長召來右筆,完成了幾封書狀並交付送往各處。
そう口にすると信長は右筆(ゆうひつ)を呼び、いくつかの書状を仕上げて各所へと届けさせた。
至少要設法讓靜子心安度日,預先牽制那些可能給她帶來麻煩的人。
せめて静子が心穏やかに過ごせるよう配慮し、先回りして静子に厄介ごとを持ち込みそうな輩を牽制する。
「哼」
「ふっ」
意識到自己竟然這般掛心,他忍不住嗤笑。在他那苛烈的人生中,這種為他人著想的時刻寥若晨星。
そこまで気を回している自分に気付いて信長は吹き出した。彼の苛烈な人生に於いて、こうまで相手を思いやった事など片手で数えるほどしかない。
作為被讚譽為天下人的自己,竟被年歲可說像女兒般遠離自己的靜子擺佈,覺得可笑。
天下人と持て囃(はや)される自分が、娘と言っても過言ではない程に歳の離れた静子に振り回されている様がおかしかった。
(交往超過十年,卻總被她所驚訝)
(十年以上の付き合いだが、いつも奴には驚かされる)
被形容為連人都不把人當一回事的鬼一般存在的自己,竟有這一面,讓人耳目一新。
人を人とも思わぬ鬼のようだと形容される自分に、こんな一面があったとは新鮮な驚きであった。
在戰國時代,過度信任他人可能會致命。即便是有血緣的親人,也常因野心而反目成仇。
戦国時代に於いては、他人を信じすぎれば命取りとなる。たとえ血の繋がった肉親であろうとも、野心の為に骨肉の争いとなることも珍しくない。
(但只有靜子不同。看到她時,總是處處防備背叛的自己反而覺得愚蠢)
(だが静子だけは違う。奴を見ていると常に裏切りに備える自分が間抜けに思える)
起初只是因新奇而撿回來的棄子。那個棋子接連克服難題,證明了自身的價值,並教會他更廣闊的未知世界。
最初は物珍しさから拾った使い捨ての駒であった。その駒は次々と難題を乗り越え、己の価値を示した上で、更なる見果てぬ世界を教えてくれた。
由於不虛與委蛇,偶爾會有衝突,但靜子始終誠實。表面上看似違逆信長的意見,卻總是以信長的利益為行動準則。
媚び諂(へつら)いをしないため、時としてぶつかる時もあるが、静子は常に正直であり続けた。一見信長の意見に反しているように見えても、常に信長の利となるよう動いてくれた。
「細想起來,那傢伙向我要的東西全都是奇怪的東西。從耕地的人手開始,到在南蠻與明國栽種的作物種子,還有從未見過的獸類。後來他開始蒐集寺社與公家留下的塗鴉時,我真以為他瘋了,但如今反倒覺得懷念……而這次竟然想要休息,真是被靜子牽著鼻子走的命啊」
「思えば、あ奴がわしに欲したものは妙なものばかりじゃな。畑を耕す人手に始まり、南蛮や明で栽培されている作物の種やら、見た事もないような獣やら。そのうち寺社や公家の落書きを集め出した時は、流石に気が触れたかとも思うたが、今となっては懐かしい……そして今度は休みが欲しいとはな、ほとほと静子には振り回される定めと見える」
與言語相反,信長臉上的剛才不悅已不見,甚至浮現出愉快的神情。
言葉とは裏腹に、信長の表情に直前の不機嫌さはなく、楽しげな表情さえ浮かべていた。