戦国小町苦労譚
一五七四年 十月上旬
「誘餌?」
「囮?」
孫一以帶著疑惑的聲音反問。頼廉點頭回應孫一的問話,接著繼續說道。
孫一が怪訝(けげん)な声で問い返す。頼廉(らいれん)は孫一の問いに首肯すると、言葉を続ける。
「我等一直在窺探織田的動向,從細微之處蒐集情報,並在每個場合持續打出看來最妥當的手段。然現實如何?情勢非但未轉好,反而被逼到進退兩難。換言之,織田明知眾人目光集中於己,便當作誘餌,故意大動作地示眾,以此掩蓋真正的策略,難道不是如此?」
「我らは常に織田の動向を窺っていた。微に入り細を穿って情報を集め、その場その場で最善と思える手を打ち続けていたのだ。しかるに現実はどうだ? 状況が好転するどころか、二進(にっち)も三進(さっち)もいかぬ立場へと追い詰められておる。つまり、織田は自身に耳目が集まっていることを承知で囮とし、派手に大きく動いて見せることで、本命の策を隠し果(おお)せたのではないか?」
「原來如此……我們以為是在追著頭走,結果卻被那華而不實的尾巴給抓住了。不過,凡事都想親自決斷、不把要事交他人的織田,會有能夠託付真正策謀的人嗎?」
「なるほど……我々は頭を追っていたつもりが、派手に飾り立てられた尻尾を掴まされていた訳ですな。しかし、何でも自分で決めたがり、大事なところを他人任せにしない織田が、本命の策を託せる相手などいるのでしょうか?」
「一般人沒有,但他偏偏留了這麼一位。她非男兒,沒有出世野心,絕不會背叛且極為能幹,即便不能逐條細指示,也能讀出命令背後的大旨,獨自運籌策動。論及這次雜賀的災難,必定也有她參與其中。」
「普通は居らぬが、奴だけは囲っておる。男ではないため、出世の野心がなく、絶対に裏切らぬ上に有能であり、細かく指示を出せずとも命令の裏にある大筋を読んで単独で策を転がせる人物。此度の雑賀の受難にも、必ず一枚噛んでいよう」
「……近衛的女兒嗎」
「……近衛の娘か」
孫一折斷手中的小枝,丟入中央的營火,苦澀地低聲喃喃。
手にした小枝をへし折って、中央の焚き火にくべながら孫一が苦々しげに呟いた。
在三人所屬的各自勢力中,孫一所在的雜賀衆遭受的損失尤其突出。原本不是地頭的名震天下的火槍僱兵集團,如今已淪為毫無規模、散亂無序的一團烏合之眾。
三人が所属するそれぞれの勢力のうち、孫一が属する雑賀衆が被(こうむ)った損害は突出して多い。国人でもないのに天下に名の知れた鉄砲傭兵集団が、今や見る影もない烏合の衆に成り下がっていた。
更甚者,許多雜賀衆回歸做商人一事,經由負責流通的商人口耳相傳,迅速以驚人速度傳遍全國。商人為了製造有趣話題、吸引交易對象的關注,便將傳聞中的雜賀衆視作已被殲滅。
更に雑賀衆の多くが商人へと立ち戻ったことは、流通を担う商人の口を通じて恐ろしい勢いで全国へと広まっていった。商人としては面白おかしい話題を提供し、取引相手の関心を買おうとするため、噂上の雑賀衆は壊滅した扱いとなっていた。
如此一來,沒有人還會想要雇用作為傭兵集團的雜賀衆,人人更傾向回歸經商。雜賀衆各自勢力雖換來個別的富裕,卻以評價跌落為代價,名聲掃地。
こうなると傭兵集団としての雑賀衆を欲するものはいなくなり、ますます商売へと傾倒するようになる。雑賀衆の個々の勢力が個別に潤うのと引き換えに、雑賀衆の評判は地に落ちた。
「把情報交給商人而非織田勢力,也是高明的一招。他們拿著貨品散向全國,誰也無法箝住所有人的嘴。那些主張徹底抗戰的,也隨著情勢轉不利而喪失勢頭。能保有戰意的,都是沒有商才、靠做買賣無法維生的傢伙。」
「織田の勢力ではなく、商人に情報を担わせたのも上手いやり口よ。商材を手に全国へと一斉に散る上に、全員の口に戸を立てるなど出来ようはずもない。徹底抗戦を唱えておった輩も、情勢が不利になるに連れて勢いを失っておる。戦意を保っておるのは、商才がない故に商売では食っていけぬ者ばかり」
「還誇獎敵人做什麼!若不採取行動,先人建立起來的雜賀衆會崩潰的啊?」
「敵を褒めてどうする! 何か手を打たねば、先人の作り上げた雑賀衆が崩壊するのだぞ?」
「不可能了。若是由棟梁一下令大家行動的體制還有望,但因為是合議制,崩潰難以避免。大家各自開始朝不同方向前進,要再度整合並非易事。」
「無理だな。棟梁の号令一下、皆が動く体制であったならまだしも、合議制であったが故に崩壊はさけられぬ。皆がそれぞれ別の地点を目指し始めたのだ、再び纏め上げるのは容易ではない」
孫一本人冷酷地理解當下情勢。說到底,他恨那些導致一手栽培、共赴沙場的雜賀衆走向崩壞的信長與靜子;但若要顧及雜賀衆的生存,個人情感必須拋開。
孫一は冷酷なまでに状況を理解していた。個人的な事を言えば、手塩にかけて育て、共に戦ってきた雑賀衆を崩壊に導いた信長や静子が憎い。しかし、雑賀衆の生き残りを考えるのなら、個人的な感情は排さねばならない。
到了必須放棄那支朝各處分散的船隊、只統合朝著與自己相同方向航行之船隻的時候。若因留戀往昔榮華而誤判時機,將會失去一切。
それぞれに違う方向へと進み始めた船団を捨て、自分と同じ方向を目指す船だけを束ねねばならない時が来ていた。かつての栄華を惜しんで、機を見誤れば全てを失う。
這是常人難以做到的割捨,但孫一做得到。他把自己的生命與他人的生命放在天秤上衡量,若認為他人存活對雜賀衆更有利,就會毫不猶豫地捨棄性命。這種非人般的果敢潔淨,孫一具備著。
常人には不可能な損切りだが、孫一にはそれが出来た。自分の命と他人の命を天秤にかけ、他人が生き残る方が雑賀衆の為になると思えば、躊躇なく命を捨てられる。そんな非人間的な潔さが、孫一にはあった。
「而且有個理由,使得不能分心去對付那些被織田唆使的人。」
「それに織田に唆(そそのか)された連中に、構っておられぬ理由がある」
「可否聽聽那個理由?」
「その理由をお聞きしても?」
一直扮演聽者的恵瓊提出疑問。孫一長吐一口氣後,回答了恵瓊的提問。
今まで聞き役に徹していた恵瓊(えけい)が疑問を口にした。孫一は一度大きく息を吐ききると、恵瓊の問いに答える。
「那些人並非因憎恨雜賀衆才分道揚鑣。他們是相信回歸做商人對雜賀衆有利,才改變立場。因堅信自己的判斷,便會試圖成為引導眾人的主流。於是抗戰派被逼到少數,慢慢在溫水中腐朽。當我們喪失利齒之時,便無法對抗織田了……」
「連中も雑賀衆が憎くて袂(たもと)を分かった訳ではない。商人へと立ち戻ることが雑賀衆の為になると信じて転んだのだ。自身の考えを信じておるが故に、皆を導こうと主流派になろうとするだろう。こうして抗戦派は少数派へと追いやられ、ぬるま湯の中で朽ちてゆく。我らが牙を失った時、織田に抗する術などないというのに……」
「但正因如此,不是應該向大家坦白一切,圖謀再起嗎?」
「しかし、ならばこそ皆に全てを打ち明け、再起を図るべきでは?」
「不會有那樣的喘息時間讓那些精心準備的對手。他們必定會再發第二、第三支箭,使各方互相爭鬥。等到大家都疲乏不堪之時,織田便會一舉吞滅。」
「ここまで用意周到な策を弄する輩が、そのような猶予を与えるはずがない。必ず第二、第三の矢を打ち込み、互いに相争うように仕向けられよう。そうして皆が疲弊したところを織田が平らげる算段よ」
「原來如此……織田不費力氣就能壓倒雜賀,本願寺除毛利外將失去依靠。加賀的一向宗會被織田找藉口,已是風前燈火。紀伊的門徒若失去雜賀衆這個支柱,也將不久瓦解。本願寺要存活下去只能固守,但沒有援軍的固守不過是緩慢的自殺。」
「なるほど……織田は労せず雑賀を下し、本願寺は毛利以外の寄る辺を失う。加賀一向宗はまんまと織田に口実を与え、最早風前の灯火。紀伊門徒も雑賀衆という支えを失えば、遠からず瓦解しましょう。本願寺が生き残るには、籠城をするしかないが、援軍のあてがない籠城など緩慢な自殺に過ぎぬ」
「現在的情勢已是被詰住了……」
「今の状況は詰んで(・・・)おる」
頼廉擠出充滿苦澀的聲音。以常規一手已無法扭轉局面,除非以某種代價,像一手走兩步那樣的大逆轉才可能奏效。
頼廉が苦渋に満ちた声を絞り出した。最早尋常の一手では盤面は覆らない。それこそ何かを代償に、一回の番手で二回指すような大番狂わせが必要となる。
然而即便在如此情況下,頼廉眼中並未死滅。仍帶著窮鼠欲反的表情,相信著能起死回生的一手而等待勝機。
しかし、このような状況にあって尚、頼廉の目は死んではいなかった。起死回生の一手を信じて勝機を待つ、窮鼠(きゅうそ)の表情を浮かべていた。
「所以我才說過……在首次包圍時,不論傷痛多大也必須將織田滅掉……」
「だから申したのだ……。最初の包囲時に、どれ程大きな痛手を被ろうとも織田を滅ぼさねばならぬと……」
對於頼廉那充滿慚愧而難以壓抑的低語,兩人找不到可以回應的話。
慙愧(ざんき)に堪えぬとばかりに頼廉の口から漏れた呟きに、二人は掛ける言葉を見いだせなかった。
「嘿啾……有人在傳言嗎?唉,話說回來……又是麻煩事了……」
「へっくち……誰かが噂をしているのかな? ま、それはそれとして……まーた厄介ごとだよ……」
靜子看著從信長處送來的書信抱怨。信中大意是『要在靜子的茶室用茶,請做好萬全準備等候』。
信長より届けられた文を見た静子がぼやく。文の内容を要約すると「静子の茶室を使うから、準備万端整えて待つように」である。
不是在岐阜城為信長特製的茶室,而是特意在靜子宅邸中的茶室舉行茶會。簡言之,靜子宅內的茶室很樸素。
岐阜城に設えられた信長謹製の茶室ではなく、わざわざ静子の邸宅にある茶室で茶会を開くとの内容だった。端的に言ってしまえば、静子邸にある茶室は質素である。
她本來對茶道興趣不大,再加上知道史實中豐臣秀吉所造的黃金茶室。因為覺得那般絢爛豪華的茶室令人難以安心,便將茶室盡量排除奢華,做成極為簡素的樣式。
元々茶の湯に興味が薄い上に、史実で秀吉が作らせた黄金の茶室を知っている。絢爛豪華な茶室など気が休まらないとの理由から、贅を排した極力簡素な茶室に仕上がっていた。
茶室的大小依客層考量,是最低限度的四畳半,採用了所謂「小間」。順帶一提,四畳半以下稱為小間,四畳半以上稱為廣間;四畳半既可為小間亦可為廣間。
茶室の広さは客層を考慮した、最低限の四畳半。所謂『小間(こま)』を採用した。余談だが四畳半以下の間取りを小間、四畳半以上を広間(ひろま)と呼ぶ。四畳半は『小間』にも『広間』にもなる。
基本設計參考了草庵茶室。屋頂覆以稻草,牆面是簡樸的土壁。窗亦是所謂的下地窓,看起來像只在牆面留白未施泥的簡單外觀。
基本的な設計は草庵茶室(そうあんちゃしつ)を参考にした。屋根には藁(わら)を葺(ふ)き、壁も素っ気の無い土壁。窓も下地窓(したじまど)と呼ばれる、壁をそこだけ塗り残したような簡素な見た目だ。
內裝極為簡樸,中央置有半疊的爐畳,周圍以像風車葉片般排列的榻榻米環繞,其他只有同樣簡素的床之間。
内装も簡素極まりなく、中央部に半畳の炉畳を据え、周囲を風車の羽根のように取り囲む畳があるだけで、他にはこれまた簡素な床(とこ)の間(ま)があるだけであった。
床之間掛著信長親筆揮毫的『諸行無常』掛軸,並放著市場買來毫無特色的陶製花入,依季節插入當時見得到的草花。
床の間には信長揮毫(きごう)の『諸行無常』の掛け軸と、市場で買ってきた何の変哲もない陶器の花入れが置かれ、季節折々で目に付いた草花を生けてあった。
外觀小巧,內裝雖樸素卻有風味。自負是頗有千利休所完成草庵茶室趣味的茶室,但周遭卻給予『陰氣沉重』『寒酸』等嚴苛評價。
外観は小ぢんまりとしており、内装も簡素ではあるものの風合いがあった。千利休が完成させた草庵茶室の趣を匂わせる中々の茶室だと自負していたが、周囲からは『陰気臭い』『みすぼらしい』と散々な評価を頂いていた。
「居然說到運氣會下滑還想用那種被貶低的茶室……難道有人給了奇怪的壞主意?」
「運気が下がるとまで貶した茶室を使いたいって……誰かに変な入れ知恵でもされたかな?」
近來茶道界常被談論的是東山御物。僅有東山御物陳列於茶室便會成為羨慕的焦點,靜子被認為擁有許多東山御物,因此有人低聲說她的茶室必定極為珍貴。
近頃の茶の湯において、良く話題に上るのが東山御物であった。茶室に東山御物があるだけで憧憬の的となるほどであり、多くの東山御物を所持していることで知られている静子の茶室は、さぞや見事な物であろうと囁かれていた。
但事實上連東山御物都沒有,除了信長親手所書之外,根本沒有任何有價值之物,換言之是清爽得近乎坦率的茶室。
現実には東山御物はおろか、信長本人の手による書以外には価値のあるものなど一切ないという、いっそ清々しい茶室であった。
「嘛,既然是上樣,想必是認為能派上用場……不過在不了解背景的情況下多想也沒用。該睡了。」
「まあ、上様のことだから、何かに使えると踏んでのことだと思うけど……背景が判らない状態じゃ考えても無駄かな。そろそろ寝ようっと」
靜子熄了燈鑽進被窩。因為維特曼們已經圍在周圍捲成一團,被窩附近甚至有點熱。
灯りを消した静子は布団に潜り込む。既にヴィットマンたちが周囲で丸くなっているため、布団の辺りは若干暑いほどであった。
偶爾貓會跳到被窩上,但睡覺時胸部被壓會影響夢境,所以她在房間一角放了鋪好毛毯的籃子。
時折、猫が布団の上に乗りにくるのだが、睡眠中に胸を圧迫されると夢見が悪いので、部屋の片隅に毛布を敷いた籠を置くようにしていた。
她以為提供了替代睡床給貓,卻看不出有被使用的跡象。
猫に代わりの寝床を提供したつもりだが、利用されている様子はなかった。
隔日,靜子下令準備茶室後,把一天的事務在上午處理完。吃過午膳後就在自己的房間和維特曼們悠閒地度過。
翌日、静子は茶室の準備を命じた後、一日の業務を午前中で片付けた。昼餉を取った後は、自室でヴィットマンたちとゆっくり寛いで過ごした。
並非特別做什麼。與無拘無束如家人般的夥伴共享悠閒時光。像靜子這樣的身分,能如此運用時間算是奢侈,她正享受久違的休息。
特別何をするという訳ではない。気の置けない家族も同然の仲間と、ゆったりとした時間を共有する。静子ほどの立場となれば、こうした時間の使い方は贅沢となる。久々に訪れた休みを堪能していた。
「再過一陣子應該會冷,但現在是好過的氣候呢」
「もう少ししたら寒くなるだろうけど、今は過ごし易い気候だね」
「汪」
「ウォン」
靜子的自言自語換來凱澤一聲吠叫回應。靜子也不清楚牠是不是懂她的話,還是只是巧合。不過總覺得像是幫她搭了個腔。
静子の独り言にカイザーが一声吼えて応えた。彼女の言葉を理解しているのか、それとも単に偶然が重なっただけかは静子にも分らなかった。しかし、なんとなく合いの手を入れてくれたように思えた。
「呼……終於南蠻果實也從我手上離開了,再加上從南蠻商人買來的椰棗本來就不費工夫啊」
「ふう……遂に南蛮果実たちも私の手を離れたし、南蛮商人から買ったデーツはそもそも手が掛からないからなあ」
椰棗是棗椰樹的果實。
デーツとはナツメヤシの果実である。南蛮商人が保存食として持ち込んだものを、静子が興味を持って買い取ったのだ。
人類栽培棗椰樹的歷史悠久,有說法認為早在公元前六千年左右就已在埃及與美索不達米亞栽種。
人類によるナツメヤシ栽培の歴史は古く、一節には紀元前六千年頃にはエジプトやメソポタミアで栽培されていたと考えられている。
在日本不甚普及,看起來像單一品種,但其實有超過四百種品種,曾以棗椰為主食的地區,依果實成熟度還會有多種不同的稱呼,可見其為重要食物。
日本ではそれほど馴染みがないため、単一品種のように思われているが、実際には四百種類以上もの品種があり、かつてナツメヤシを主食としていた地域では果実の成熟度合に応じて何種類もの呼び名が与えられたほど重要な食べ物であった。
如其多分布於乾燥帶所示,耐乾燥和溫差,能在惡劣栽培環境下生長良好。在日本的氣候下,只要注意濕度、溫度不大幅低於零度便不易枯死,而有溫室可用的靜子環境下無需太多照料。
乾燥帯に多く分布していることから判るように、乾燥や温度変化に強く、過酷な栽培環境にも耐えて良く成長する。日本の気候に於いては、湿気にさえ気をつければ0度を大きく下回らない限り枯れることは稀であり、温室を利用できる静子の環境では手入れの必要がなかった。
「不過,居然連製成乾果後還能發芽……真是可怕的生命力呢」
「しかし、ドライフルーツに加工された後でも発芽するとは……恐るべき生命力だね」
因為只是未經工業加熱處理、僅以日曬,靜子認為溫度沒達到會使發芽能力消失的程度。
工業的な加熱処理を施されない天日干しだけに、発芽能力が無くなる温度まで達しなかったのではと静子は考えた。
起初她把吃過的椰棗種子泡在水裡想檢查,隔夜後發現膨脹約一.五倍,於是抱著試試看的心情把它們埋進土裡,結果發芽了。
最初は食べた後のデーツの種を調べるために水に浸けておいたのだが、一晩経って見ると1.5倍ほどにも膨らんでいたため、もしやと思い土に植えてみたところ発芽した。
當然不會從所有種子都發芽,發芽率甚至不到一成,但靜子還是非常高興。
流石に全ての種から発芽する訳ではなく、発芽率は1割にも満たなかったが静子はとても喜んだ。
因為長成大樹前需注意低溫,她把苗移植到盆中繼續栽培。問題在於椰棗為雌雄異株,需要雌雄同株才能結實。
成木になるまでは低温に気を付ける必要があるため、鉢に移し替えて栽培を継続している。問題はデーツが雌雄異株による結実性を持っていることにある。
因此若雌雄株不齊,無法期待收成,但在開花前無法辨別雌雄。
この性質から雌雄の株が揃わないと、果実の収穫は期待できないのだが、花が咲くようにならなければ雌雄の判別が出来ないのだ。
靜子曾在現代看到把椰棗當作減肥食品介紹的文章,因此僅記得雌株開下垂的花、雄株開向上的花這點。
静子は現代に於いて、ダイエット食品として紹介されていたデーツの記事を見ていたため、雌株は下向きに花が付き、雄株が上向きの花をつけるという事だけは覚えていた。
現在她培育約十株幼苗,只能祈禱它們不會全部偏向同一性別。
今は10本程度の苗を育てているが、それらが全てどちらかの株に偏らないことを祈るのみである。
「嗯,倒不是非得收成不可,但若能採到果實就有可能做出『炸豬排醬』……幸好南蠻商人們似乎認為椰棗能賣得出去,今後也會定期採購吧」
「まあ、別に実が収穫できなくても良いんだけど、実が採れるなら『とんかつソース』を作れる可能性があるんだよねえ……。幸い南蛮商人たちはデーツが売り物になると思ってくれたようだし、今後も定期的に買い付けられるよね」
棗椰在中東是普遍的食物,吃完鮮椰棗後把種子丟在那裡也常能發芽。然而如前所述,要分辨雌雄須耗時多年,因此多人不願栽種。
ナツメヤシは中東ではポピュラーな食品であり、生のデーツを食べた後の種をその辺に捨てておいても良く発芽する。しかし、前述の通り、雌雄を判別するのに年数が掛かるため、多くの人々は育てようとは思わない。
一株雄株就能為約五十株雌株授粉,除了優秀的雄株外其價值普遍偏低,這對後來者造成極為不利的競爭原理。
雄株が1本あれば、50本程度の雌株に受粉することが可能であり、優秀な雄株以外の価値が総じて低いため、後発にとって極めて不利な競争原理が働くためである。
因此對南蠻商人而言椰棗除了當作保存食外並不被重視,反而會優先流向像靜子這種願意以較高單位重量價格收購的地方。
これらの事から南蛮商人にとってデーツは保存食として以外では重要視されておらず、重量当たりの取引価格が高く設定している静子のところへと優先して回されることとなる。
靜子打算利用這點,今後繼續從乾椰棗回收種子進行栽培。
静子はこれを利用して、今後も乾燥デーツから種子を回収して、栽培を続ける予定だ。
正當靜子享受涼爽午後時,踏過鋪好的碎石接近的腳步聲傳入耳中。她合上手中的書,起身撫摸正在警戒的維特曼們的頭。
涼やかな午後の一時を満喫していた静子の耳に、敷かれた砂利を踏みしめて近寄ってくる足音が届いた。静子は手にした本を閉じると、立ち上がって警戒をしているヴィットマンたちの頭を撫でる。
「靜子大人,從上樣那裡來的快馬到達了。『明日午后抵達』是這麼說的。」
「静子様、上様より早馬が着きました。『明日の昼過ぎに着く』とのことです」
「知道了。請告訴蕭,明天一早開始打掃茶室。」
「判りました。明日の早朝より茶室の掃除を行うよう、蕭に伝えてちょうだい」
「遵命」
「承知しました」
她向繞過庭院前來報告、免得讓坐在緣側的靜子起身的小姓下達命令。靜子把合上的書放在緣側,起身伸展全身。
縁側に座る静子を立たせないよう、庭を回って報告にきた小姓へ命を伝える。静子は閉じた本を縁側に置き、立ち上がって全身を伸ばす。
雖有些依依不捨,寧靜的時光結束。收起表情,靜子便開始處理她該做的事。
名残惜しいが穏やかな時間は終わった。表情を引き締めると、静子は己の為すべきことへと取り掛かった。
隔日下午。在蕭等人細心整備過的茶室裡,靜子等待信長的到來。雖只有四疊半,但十月的氣候稍顯寒冷。
翌日の午後。蕭たちが念入りに手入れを施した茶室にて、静子は信長の到着を待っていた。たった四畳半とは言え、十月の気候には少し寒々しい。
她在房間中央準備的爐(ろ)裡排好炭,放上五德,再把茶釜掛在上面。如此一來房間整體變暖,受外界風寒的客人能在室內取暖。
部屋の中央に設えられた炉(ろ)に、炭を並べて五徳を置き、その上に茶釜を掛けた。こうすることで、部屋全体が温かくなり、外気に晒された客が室内で暖を取れるようになる。
靜子的茶室採用把部分榻榻米割開,把釜安置於鋪在地板下的囲炉裏——即爐檀(ろだん)——的方式。順便一提,把釜放在榻榻米上所用的爐式稱為風爐(ふろ)。
静子の茶室では畳の一部を切り取って、床下に備え付けられた囲炉裏である炉檀(ろだん)に釜を据える方式を採用している。ちなみに釜が畳の上に置かれた炉に掛けられる様式を、風炉(ふろ)と呼ぶ。
現代傳來各種作法與程序,但只懂得受邀時不至於出醜的最低限,靜子作為款待方便想先把房間暖起來。
現代には様々な作法や手順が伝わっていたが、招かれた折に恥をかかない最低限しか知らない静子は、もてなす側として部屋を暖めておこうと考えたのだ。
當室內變得足夠溫暖時,外頭候著的小姓通報信長已到。下令引導後,靜子等候信長到來。
室内が十分に暖かくなった頃、外に控える小姓が信長の到着を告げた。案内するよう命じて、静子は信長の到着を待った。
隨著踏地的腳步聲漸近,她側耳傾聽,注意到一件奇怪的事。
やがて地面を踏みしめる足音が聞こえてきたため、耳をそばだてていると奇妙なことに気が付いた。
引路的小姓會在途中待命,所以腳步聲應該只剩一人的,但不管怎麼聽卻像是有好幾人的腳步聲。
案内の小姓は途中で待機するため、足音は一人分になるはずだが、どう聞いても複数人の足音が聞こえるのだ。
當她納悶是誰時,繼信長之後一名素未謀面的男子走進了茶室。
誰だろうと訝っていると、信長に続いて見た事の無い人物が茶室へと入ってきた。
從外表判斷大約在五十歲前後,因為沒有武人特有的壓迫感,靜子以為他可能是商人。也曾考慮過是公家,但若是公家,信長不下令依對方相應布置便不合情理。
外見から察するに五十路(いそじ)付近、武人特有の他を圧するような気配がないため、静子は商人ではないかと考えた。公家である可能性も考えたが、それならば信長が相手に応じた飾りつけを命じないのが不自然だ。
若要對公家示威,身為持有許多東山御物的信長絕不會不使用那些東西。能直接見到信長的人面孔靜子也都熟悉,所以對這位初次見面的人的出身不明而皺起了眉頭。
公家に対して示威をするなら、多くの東山御物を所有する信長が使わない筈がない。信長に直接目通り出来る人物の顔は、静子も知悉(ちしつ)しているため、初見の人物の出自が判らず眉を顰(ひそ)めることとなる。
「置之不理」
「捨て置け」
注意到靜子視線的信長笑著下令。既然信長斷言沒問題,靜子也無從反對,便如預定般開始點茶。
静子の視線に気づいた信長が笑いながら命じた。信長が問題ないと断じた以上、静子としては異を唱える訳にもいかず、予定通り茶を点(た)て始める。
(……做起來很尷尬)
(……やりづらい)
靜子對作為被邀客人的禮節多少懂一些,但對主人一方的禮儀完全不知,想起歷史劇中見過的場面,邊看邊模仿著點茶。
静子としては招待客側の作法ならばある程度心得ているが、亭主側の作法等知り様もなく、歴史もののドラマなどで見たシーンを思い出し、見様見真似で茶を点てる。
那人從坐在床前貴人畳上大剌剌盤腿而坐的信長身旁移開,於客畳正座,緊盯著靜子的一舉一動,生怕錯過任何細節。
床の前にある貴人畳にどっかりと胡坐をかいて座る信長から離れて、客畳に正座する人物は、静子の一挙手一投足を見逃すまいと観察していた。
雖說搭了茶室,但靜子並未預想會坐在主人一方;好一點說她是我流,壞一點說則動作稚拙地點起茶來。
茶室を作りはしたものの、亭主側に座ることなど想定していない静子は、良く言えば我流で、悪く言えば稚拙な所作で茶を点てた。
客人那種想要詳盡觀察主人動作的姿態讓人覺得他或許是茶人,但既然信長知道靜子的手藝卻毫無評論,這點讓人難以理解。
亭主の動きを具(つぶさ)に観察せんとする姿勢から、客人は茶人かも知れないと思ったが、それにしては静子の腕前を知る信長が何も言わないのが腑に落ちない。
在這種情況下,靜子的失誤會牽連到主人信長,使丟臉的反而是信長。信長的意圖與客人的盤算雙方皆不明,靜子心中抱持一抹不安。
この場合、静子の不手際は主人である信長の不明に繋がり、恥をかくのは信長となるのだ。信長の意図と、客人の思惑双方が判然とせず、静子は一抹の不安を抱いていた。
「……請」
「……どうぞ」
按本來的禮法應先奉上茶菓,等客人吃畢再端茶,但靜子覺得各自按喜好時機吃比較好,於是把兩者同時呈上。
本来の作法であれば、まず茶菓子を勧め、客が食べ終わったのを見計らって茶を出すのだが、各自が好きなタイミングで食べた方が良いと思った静子は、両方を一遍に提供した。
「嗯,又是新作嗎。外觀姑且不論,味道是不錯的」
「ふむ、またしても新作か。見た目はともかく、味は良いな」
信長似乎不在意失禮之處,先把茶菓吃完,接著伸手取薄茶。然後靜子再次做出大膽之舉。
信長は無作法を気にしていないのか、まず茶菓子を平らげ、次いで薄茶に手を伸ばした。そしてまたもや静子が暴挙に出る。
她將另一只茶碗所點的茶,連同茶菓一起再度奉給客人。
別の茶碗で点てた茶を、またも茶菓子と共に客人へと勧めた。
客人對如此非常規的舉止大為驚愕,但行禮說了句「我領受了」,便依信長的做法一同品嚐茶菓與薄茶。
余りにも型破りな振る舞いに度肝を抜かれた客人だが、頂戴しますと一礼し、信長に倣って茶菓子と薄茶を口にする。
他微微睜大雙眼,隨即把視線移向床之間擺放的花入。
僅かに目を見開き、次いで床の間に飾られた花入れへと目線をやった。
「原來如此……這是仿射干玉(ぬばたま)所作吧。那種讓人聯想到秋夜綿長的艷黑,配以茶菓來營造季節感且味道一流。實在是非常出色的點前(てまえ)。」
「なるほど……これは射干玉(ぬばたま)を模しておられるのですね。秋の夜長を思わせる艶めいた黒、茶菓子で季節を演出しつつ味わいも一級品。実に結構なお点前(てまえ)でした」
「是、是。承蒙讚賞,惶恐不已」
「は、はい。お褒めに与(あずか)り恐縮です」
對於根本沒有那種意圖的靜子來說,被如此讚美讓她困惑不已。
そのような意図を一切していなかった静子は、褒め殺し状態に困惑していた。
信長一邊愉快地看著靜子的模樣,一邊揭示了客人的身分。
そんな静子の様子を楽しげに眺めながら、信長は客人の素性を明かした。
「好啊,靜子。看來合宗易(そうえき)的眼緣。以往不說奉承話的宗易竟然這般全然讚美,也是罕見的事。」
「良かったな、静子。どうやら宗易(そうえき)のお眼鏡に適ったようだぞ。世辞など言わぬ宗易が、手放しで褒めるなど珍しいこともあるものよ」
「宗……易……? 啊!」
「宗……易……? あっ!」
靜子理解眼前之人為何人時,差點脫口說出自己所知的名字,慌忙把話咽回去。
目の前の人物が誰かを理解した静子は、思わず自分が知る名を言いかけ、慌てて言葉を飲み込んだ。
千宗易,也就是現代所知的千利休,是茶湯天下三宗匠之一。
千宗易、現代では千利休の名で知られる、茶湯の天下三宗匠の一人であった。
信長將堺納為直轄領時,曾與今井宗久、津田宗及等人一同被雇為茶頭(さどう)。
信長が堺を直轄領とした折、今井(いまい) 宗久(そうきゅう)、津田(つだ) 宗及(そうぎゅう)らとともに茶頭(さどう)として雇われていた。
順帶一提,後世所傳的利休之名,他實際使用的時期很短。其一生大多以法名宗易在世間活動。
余談だが後世に伝わる利休の名を名乗っていた時期は短い。彼はその人生の殆どを法名である宗易として活動していた。
利休之名起於1585年,源於秀吉為回禮其就任關白而打算舉行禁裏茶會的構想。
利休の名は1585年、秀吉が関白就任の返礼にと禁裏茶会を催そうと考えたことに端を発している。
因那茶會的亭主宗易身分為町人,為使他能入內宮中參會,正親町天皇賜予宗易「利休」之居士號,從此名實俱成,成為天下第一的茶人。
その茶会の亭主を務める宗易の身分が町人であったため、彼が宮中へ参内(さんだい)出来るよう、正親町天皇が『利休』という居士号を宗易に与えたことにより、名実ともに天下一の茶人として名を馳せることとなる。
「宗易不喜華美,厭倦那些以雕琢華貴的茶室或東山御物等名物為榮的茶會。因此,我帶他來到我所知最為寒酸……也就是最樸素的這處茶室。」
「宗易は華美を好まず、贅を凝らした茶室や東山御物などの名物が尊ばれる茶会に倦(う)んでおった。ゆえに、わしが知る限り最もみすぼ……質素な茶室である、ここに連れてきたのだ」
「……若是那樣,事先告知一聲——」
「……それならば、前もって教えて頂ければ——」
「若是告訴你,你定會想把場面裝飾起來,但要緊的是讓宗易看到原本的你。」
「教えれば貴様は場を取り繕おうとするだろうが、ありのままの貴様を宗易に見せることが肝要なのだ」
面對日後會被稱為茶聖的茶道大家,靜子因露出稚拙的點前而抗議時,信長一句話便斬釘截鐵地回絕了她。
後に茶聖とも呼ばれる茶道の大家を前にして、稚拙な点前を晒した静子の抗議を信長は一言で切って捨てた。
如信長所言,若事先被告知,靜子必定會動用所有本事把場面修飾得體面。
信長の言う通り、事前に知らされていれば、静子は持てる力を総動員してその場を取り繕ったであろう。
信長認為,那種被修飾過、僅為場面應付的茶會毫無意義。
そうして取り繕われた、その場限りの茶会では意味がないと信長は考えたのだ。
「如何,宗易。這場與近來所流行者背道而馳的茶會,無須顧忌。說說你的見解吧。」
「どうじゃ、宗易。近頃持て囃される流行とは真逆をゆくこの茶会、遠慮は要らぬ。思うところを申してみよ」
「……是的。就茶之湯的作法而言,實在大為破格;就如何讓人美味地品一服茶這點而言,若把茶菓與抹茶同時端出,便會毀了滋味。」
「……そうですね。茶の湯の作法としては型破りも甚だしく、一服の茶を如何に美味しく味わって貰うかという点では、茶菓子と抹茶を一遍に出してしまっては台無しです」
「是、是。實在羞愧不已」
「は、はい。お恥ずかしい限りです」
在宗易這位連信長都不得不敬重的大師眼中,靜子的點前幾乎如兒戲,然而那僅限於作法;在如何款待客人的本質上,她已抓住要領,仍有許多值得稱許之處。
信長をして一目置かざるを得ない宗易から見れば、静子の点前は児戯にも等しかった。しかし、それは作法に限った話であり、客を如何にもてなすかという本質は押さえており、評価すべきところも多かった。
「不必那麼拘謹。這不過是依當代「茶之湯」的作法來說而已。我連茶室一起,都覺得這場茶會很美好」
「そう畏(かしこ)まられることはありません。あくまで当世の『茶の湯』の作法に照らした際の話です。私は茶室ともども、この茶会を素晴らしく思います」
「啊、啊……」
「は、はあ……」
「例如床の間的花器。並非什麼名物,只是在普通陶器裡插著同樣普通的檜扇。乍看似乎是隨意插放,實際上卻巧妙再現了葉、花與果實三者不同盛期的秋日時節。相比秋天變遷的那種雄渾,器物顯得有些簡淡甚至冷清,正是在那裡存在著不足之美、侘寂吧」
「例えば床の間の花入れ。名物という訳でもなく、ありふれた陶器にこれまたありふれた檜扇(ひおうぎ)を生けてあるだけ。一見無造作に生けてあるように思えて、その実(じつ)、葉と花と実という見頃の異なる秋の時間を見事に再現されている。そしてその秋の移ろいという雄大さに比べて、ややもすれば素っ気ない程の器。そこに不足の美、侘びがあるのでしょう」
「……真是受之有愧」
「……恐れ入ります」
被人誇得像是事先未曾刻意為之,靜子沉默著以敷衍帶過。
まるで意図していないところを大仰に褒められ、静子は黙してお茶を濁すことにした。
「實在看到了極好的東西。看了妳的茶室,我覺得看見了自己所追求的方向」
「実に良いものを見せて頂きました。貴女の茶室を見て、私は己の目指す先が見えた気がします」
說罷宗易放鬆了先前一直掛在臉上的苦相,首次露出笑容。
そう言って宗易はずっと浮かべていた渋面を緩め、初めて笑みを浮かべた。
「我對近來的茶之湯,尤其偏重唐物茶器的風氣頗感不滿。然而僅僅發表不滿並不能示範出新路徑。任何人都可以抱怨,但若不能展示自己所信為好的東西,便無法獲得他人的同意」
「私は近頃の茶の湯、とりわけ唐物の茶器を偏重する流れに不満を抱いておりました。されど、不満を唱えるだけ(・・・・・)で、新たな道を示せておりませなんだ。不平不満を口にするなら誰にでも出来ましょう、こんな茶の湯の方が良いと思いませぬかと、己が良いと信ずるものを示せずして他人の同意など得られるはずがございません」
一直默默看著兩人對話的信長淡然一笑,問了一句。
二人のやり取りを黙って見守っていた信長は、薄く笑みを浮かべると一言問うた。
「如何,靜子覺得有意思嗎?有沒有受到些刺激?」
「どうじゃ、静子は面白かろう? 少しは刺激になったか?」
「是的,意外地讓我回到初心。多虧如此,我確信自己所求的茶之湯並無錯誤」
「はい、図らずして初心へ立ち返ることが出来ました。お陰で、己が求める茶の湯が間違っていなかったと確信できました」
「把多餘之物排除到極限,剝去虛飾,所謂枯寂幽玄的美之類的」
「極限まで無駄を排し、虚飾を取り払う、枯れた幽玄の美とやらか」
「削到再也無法再減,從簡樸中發現趣味。號稱為『侘び茶』吧?」
「これ以上何も削れないというところまで削って、簡素の中に趣を見出すのです。号して『侘び茶』でしょうか」
「與我們國人以華麗絢爛為旨的茶之湯形成對照。那也未嘗不可」
「豪華絢爛を旨とする、我ら国人の茶の湯とは対照的よな。それもまた良し」
大概是喜歡上了『侘び茶』這個詞,宗易閉目反覆點頭;在他腦中,侘び茶的方向已逐漸成形。
侘び茶という言葉が気に入ったのか、宗易は瞑目して何度も頷いていた。彼の頭の中では、侘び茶の方向性が形作られている。
不久再度睜眼,宗易整理坐姿,轉向靜子。
やがて再び目を開き、宗易は居住まいを正すと静子に向き直った。
「靜子大人,有一件事想請求您」
「静子様、一つお願いがございます」
「請求,是嗎?」
「お願い、ですか?」
「雖然失禮,可否將那個花器讓給我?」
「不躾ながら、あの花入れを譲っては頂けぬでしょうか?」
靜子理解了宗易話中之意,望向那花器。那是個談不上吸引人注意、毫無特別之處的陶製花器。
宗易の言葉が意味するところを理解し、静子は花入れへと目をやった。これと言って目を惹くところのない、何の変哲もない陶製の花入れだ。
或許是年輕匠人的習作,是在市場上只剩下一個賣不掉時被靜子買下的。
若い職人の習作なのか、市場で一つだけ売れ残っていたのを静子が買い求めたものであった。
甚至未必用過轆轤,形狀不均勻歪斜,色調也顯得粗拙。
ろくろすら使っていないのか、形も均一でなく歪んでおり、色合いも野暮ったい。
「可否請您考慮一下,讓我以此作為不忘今日、迷失之時能回歸初心的標記?我能獻上的酬謝,對靜子大人而言不過微薄,然而不論為何我都願意奉上」
「今日という日を忘れぬよう、道に迷った際に初心へ立ち戻る標(しるべ)として、どうかご一考頂けませぬか? 私に差し出せる対価など静子様からすれば微々たるもの、されど何であれ差し出すつもりでおりまする」
「啊,不。它並非什麼了不得的值錢之物。若您中意,請隨意帶走。無需回報。」
「あ、いえ。そう大した価値のあるものではありません。お気に召したのであれば、どうぞお持ちください。対価は必要ありません」
「承蒙厚愛,日後定當報答」
「ありがたき幸せ。この御恩はいずれ」
沒想到會有人想要那個在市場上用十円(織田領內的新貨幣單位,換算成現代價格約數百日圓左右)買下的東西,靜子一時語塞。
まさか市場で十円(織田領内の新貨幣の単位、現代価格に換算すると数百円程度)で買い求めたものを欲しがる人がいるとは思わず、咄嗟に返答に窮してしまったのだった。
靜子向屋外喊人,把花器包好後遞給宗易。
静子は屋外に声を掛け、人を呼んで花入れを包ませると、宗易に手渡した。
「若我所追求的茶之湯成形,定會先行邀請靜子大人。」
「私の目指す茶の湯が形になれば、真っ先に静子様をお招き致します」
「好,我會期待著」
「はい、楽しみにお待ちしております」
宗易恭敬告辭後離開茶室;而信長似乎根本無意離去,盤腿坐在貴人畳上,邊夾著菓子盤裡的點心。
宗易は丁寧に暇を告げ、茶室を後にした。一方の信長は、退出するつもりがさらさらないのか、貴人畳に胡坐をかいたまま、菓子盆の中身を摘まんでいた。
宗易似乎全心投入於侘び茶,沒有留意到信長仍在,匆匆離去。
対する宗易は侘び茶のことで頭が一杯なのか、信長が残っていることにも気を留めず、足早に立ち去って行った。
「……侘び茶嗎。怎麼總覺得悶悶不樂,讓人受不了。我並不是說要華而不實,但若無一絲華麗,茶的滋味也會遲鈍」
「……侘び茶か。どうにも辛気臭くて敵わぬな。派手であれば良いとは言わぬが、華が無ければ茶の味も鈍ろう」
宗易離去,過了一會兒,信長端著靜子泡的焙じ茶以湯盞啜飲,開言道。
宗易が立ち去り、暫し時を置いた頃。信長は静子が淹れた焙じ茶を湯呑で飲みながら、言葉を発した。
「這大概是與上樣所喜好的茶會相對立的吧」
「上様の好まれる茶会とは対極に位置するものなのでしょう」
「……嗯,倒也好。若宗易沉迷於侘,那對我們也方便」
「……まあ良い。宗易が侘びに傾倒するならば、こちらとしても都合が良い」
「那是怎麼個……」
「それはどういった……」
話語未說完,靜子已然領會。宗易所追求的侘び茶,在方向上正好與信長所偏好的『唐物數寄』相反。
問いの言葉を発する中で、静子は理解に至った。宗易が目指す侘び茶は信長が好む『唐物数寄(からものすき)』と真逆の方向性を持つ。
信長心想,若宗易不需名物(唐物茶器)的觀念普及開來,他就更容易取得那些器物吧。不知為何信長確信侘び茶無法成為主流,但知曉歷史的靜子心中仍難以消除一抹不安。
名物(唐物の茶器)を必要としない宗易の考えが浸透すれば、それを自分が手に入れ易くなると考えているのだろう。何故か、信長は侘び茶が主流になれないと確信しているようだが、歴史を知る静子には一抹の不安が拭えないでいた。
「這種事你無需掛心。倒是去大和的準備都做好了吧?」
「貴様が気にせずとも良い事だ。それよりも大和行きの支度は出来ておろうな?」
「是、是的」
「は、はい」
「那就好。於京中停留數日,之後前往大和。務必好好完成任務。」
「ならば良し。京で数日滞在し、その後大和へと向かう。しかと役目を果たしてみせよ」
信長說了這番話後,不待靜子的回應便離開了茶室。
信長はそれだけ告げると、静子の返答を待たずに茶室を後にした。
自與宗易邂逅以來,靜子忙得不可開交。靜子早已向正親町天皇陳情,請求准許閱覽正倉院的寶物。
宗易との邂逅(かいこう)からこちら、静子は忙殺されていた。静子は予(かね)てより正親町天皇へ正倉院の宝物閲覧の許可を求める陳情を出していた。
這件事成為導火線,在朝廷內引發騷動。起因在於一些想投靠織田家的公家串通一氣,無視帝意,擅自批准靜子閱覽。
それが原因となって朝廷では騒動が巻き起こっていたのだ。発端は織田家に取り入ろうと考えた公家が結託し、帝の意向を無視して静子の閲覧を許可してしまったことにある。
事後才告知於帝,帝大怒,責問公家等越權之舉;而公家們則在日記中記下對帝的不滿,言道:「倚仗織田殿的支持,公家當一心處理政事,若拘泥形式而錯失良機,實不可理喻。」
事後承諾として知らされた帝が立腹し、公家達の越権行為を責めたのだが、公家達は『織田殿の引き立てで、公家一同が一丸となって政務に取り組むべき時に、形式に拘って機を逃すのは愚か』と、帝への不満を日記に残す状態であった。
為何公家與帝爭執?因為今年連日乾旱,旱災頻仍所致。
何故、公家と帝が争っているのかと言えば、今年が日照り続きで干ばつの被害が多かったためである。
尾張、美濃等信長直轄的糧倉地區一向有防旱措施且設備完善,影響較輕微,但其他國家則非如此。
尾張・美濃など信長直轄の穀倉地帯は、常に干ばつ対策を取っており、設備も充実していたがために影響は軽微であったが、他国に於いてはその限りではなかった。
反覆舉行祈雨儀式,且召來陰陽師進行占筮,結果卻成為罕見兇事,朝廷上下大亂。
繰り返し雨乞いの儀式が行われ、陰陽師を招いて占筮(せんぜい)を執り行わせた。結果は稀に見る凶事となり、朝廷は上を下への大騒動となった。
現代人或許會一笑置之,認為「多麼不科學」,但在此時代,易占的可信度極高,各地盛行加持祈禱。
現代人ならば「何を非科学的な」と一笑に付すところだが、この時代に於ける易占(えきせん)の信憑性(しんぴょうせい)は高く、各地で加持(かじ)祈祷(きとう)が盛んに行われることとなる。
此觀念源自大陸,認為天下大亂時乃天譴治世天子的不德,所謂天人相關說廣為信奉。
そしてこれは大陸由来の考え方だが、天下が大きく乱れる時は、それを治める天子の不徳を、天が咎(とが)めているとする天人相関説が広く信じられていた。
因此若發生大規模旱災,人們便以為天在責難帝王之不德,接連出現尖銳的天皇批判,甚至有人不再服從帝命。
それ故に大規模な干ばつが起きたとなれば、帝の不徳を天が咎めているとして、痛烈な天皇批判が相次ぎ、帝の命に従わない者も出てくるのである。
額外一提,史實上有一說信長曾逼迫正親町天皇讓位(也有相反說法稱他諫阻讓位),此事正值禁中怪異與大災害使天下大亂之年。
余談になるが、史実では信長が正親町天皇に譲位を迫ったという説がある(真逆に譲位を諫(いさ)めたという説もある)。それが折しも禁中怪異や、大災害で天下が大いに乱れた年のことなのだ。
換言之,信長並非對當朝天子無禮,只是按當時觀念,為了治理天變地異與大災害而請求讓位,屬於理所當然的建言。
つまり信長は時の帝に無礼を働いた訳ではなく、天変地異や大災害を治めるためにも譲位してくださいと、当時の価値観としては当然のことを願い出ただけであった。
順帶一提,正親町天皇拒絕了信長的讓位請求,直到他於本能寺之變橫死前,仍堅拒讓位。
因みに正親町天皇は信長の譲位願いを退け、彼が本能寺の変にて横死する最後まで譲位を拒み続けた。
這些紛擾交織之下,正式取得進入正倉院的許可,竟是在信長抵京數日後才獲准。
こうした騒動も相俟(あいま)って、正式に正倉院への立ち入り許可が下りたのは、信長が京へと着いて数日後という有様だった。
當然在信長坐等期間,靜子向其養父前久請託,請他在朝中斡旋,總算才促成今日之局面。
勿論信長が座して待っている間、静子は養父である前久(さきひさ)に働きかけ、朝廷内の調停を図って貰い、何とか今日という日を迎えたという状況であった。
信長覺得此事麻煩,然雖有私心,亦不能輕忽對他好意之人,便就騷動之起因致歉,並向雙方表達慰勞。
面倒な話だと思った信長だが、下心有りとは言え自分に便宜を図ろうとしてくれたものを無下にする訳にもいかず、騒動の起因となった事を詫び、双方を労(ねぎら)うにとどめた。
隨後無事進入大和,抵達東大寺。信長在此向全軍下達了「嚴禁胡作非為」的命令。
その後は何事もなく大和入りし、東大寺へと到着した。信長はそこで全軍に対して『無法の厳禁』を言い渡した。
若違反此禁,不僅違規者本人,連同隊友與直屬上司皆將連坐追責,處分嚴厲。
この禁を破れば、破った本人は勿論のこと、隊の仲間や直属の上司に至るまで連座で責を問うという、厳しいものであった。
更禁止於東大寺境內紮營,無論境內或境外紮營時,連用火之規範也細加限制。
更には東大寺の境内に陣を敷くことも禁じ、境内外にて陣を敷く際にも火の扱いに至るまで細かく禁令を課した。
並命令在等待信長返回期間,非徒然待命,而要盡最大努力協助維持周邊治安。
その上、信長の帰りを待つ間、ただ待機していれば良いとするのではなく、周辺の治安維持に最大限の協力をせよと申し付けた。
發完這些指示後,信長只帶著最少的隨從前往東大寺。
これらの指示を出し終えると、信長は最低限の供だけを連れて東大寺を訪(おとな)った。
當時並未以強權壓人,而是按規矩程序進入正倉院,申請欲閱覽黃熟香(即名為蘭奢待者)。
その際にも強権を振りかざす訳でもなく、形式通りの手順を踏み正倉院へ立ち入り、黄熟香(おうじゅくこう)(蘭奢待(らんじゃたい)という名前を持つ)を閲覧したい旨を願い出た。
並非親自踏入庫內,而請求僅取出蘭奢待,在大僧正立會下進行閱覽,並削取兩處為止。
また、自身が宝物庫に踏み入るのではなく、蘭奢待のみを持ち出して貰い、大僧正立会の許、閲覧及び二か所を削り取るとした。
東大寺僧侶們原以為信長是傍若無人、連神佛亦不敬的野蠻人,但在真正面對他的時候,仍不得不對他禮節周全且堂堂正正的風範感到讚歎。
信長と言えば傍若無人の権化であり、神も仏も畏れぬ蛮人という先入観を持っていた東大寺の僧たちは、実際の信長を前にして、礼儀正しく堂々たる振る舞いに感心せざるを得なかった。
信長入大和之最大目的在於示範其已將大和納入支配,對於不反對此事的東大寺與春日大社,他始終以禮相待。
信長が大和入りした最大の目的は、大和を支配下に置いたことを示すためであり、それに異を唱えなかった東大寺や春日大社に対しては、終始礼儀正しく振舞った。
對於治理大和的為政者,命其再次赴見並宣誓歸入其統治;對於明知信長已至卻遲遲未來或音信全無者,派遣小股兵力的使節前往。
対して大和を治める為政者に関しては、再度自分の許へ赴いて支配下に収まることを宣言させた。信長の到着を知りつつも、挨拶が遅れている、もしくは音沙汰の無い者へは、小規模の軍を率いた使節を遣わせた。
對前來致意者亦將事先蒐集的情報與其所述對照,逐一指出其中差異。
また挨拶に赴いた者にも、事前に収集していた情報と本人が述べた情報を照らし合わせ、その差異を次々に指摘して見せた。
並告知若有隱瞞不利於人之事或領地治理無改善跡象,將予以褫奪其職。
次いで隠し事をすれば為にならぬこと、領地運営に改善の兆しが見られぬ場合、その地位をはく奪する旨を伝えた。
大和那些充滿反骨精神的豪族本不可能對信長發誓絕對服從,然現狀下反抗無望,為政者們畏懼信長之怒,遂爭先恐後前來朝見。
反骨精神溢れる大和の豪族たちが、信長に絶対服従を誓うはずがないが、現状逆らっても勝ち目が見えない以上、為政者たちは信長の勘気を恐れて、我先にと参上することとなる。
最先前來致意的正是松永久秀。其他有力者多在信長紮營後才至,而松永自信長出京之時便已整頓準備,在近處待命,俯伏迎接信長的到來。
真っ先に挨拶に赴いたのは、他ならぬ松永久秀であった。他の有力者たちは、信長が陣を敷いて以降に訪れたのに対し、松永は信長が京を出た頃から準備を整え、付近で待機しており、信長の到着を平伏して出迎えた。
「迎接多費周章。久違了,松永,看似無異狀,是否安然無恙?」
「出迎え大儀であった。久しいな松永、変わり無きようだが、息災であったか?」
「哪、承不敢當之言。與領民共皆安好無恙。」
「は、勿体なきお言葉。領民ともども健やかに過ごしておりまする」
「雖然城已被收去,但若不墮志、盡忠職守,終有顯耀之日。話又及此,你應知朝廷委託我等作為藝事保護的一環正記錄名物吧?聽聞閣下所持之平蜘蛛亦為天下著名之逸品,若願意協力,何時開口皆可,絕不為難。」
「城こそ召し上げたものの、腐らず忠勤すれば、いずれ日の目も見よう。さて、話は変わるが朝廷より任された芸事保護の一環で、名物の記録を取っているのは知っておろう? 其の方の持つ平蜘蛛(ひらぐも)も天下に名高き逸品と聞く、協力する気になればいつでも申せ、決して悪いようにはせぬ」
「哈、哈哈!」
「は、ははっ!」
「嗯,實在很勤勉踏實。唯一的憂慮是與筒井的關係,務必慎防輕舉妄動,你可退下了。」
「ふむ、実に堅実に励んでおるようじゃ。唯一の懸念は筒井との仲か、くれぐれも軽挙妄動を慎むように、下がって良いぞ」
松永平伏至額貼地。信長了解松永之性情,雖不專強逼,仍屢次暗示要他獻出平蜘蛛。
松永は地面に額が着くほどに平伏していた。信長は松永の気性を知るが故に、無理強いはしないものの、折に触れて平蜘蛛を差し出すよう暗に要求していた。
然而把平蜘蛛獻上後能平安歸還並無保障。信長以名物狩取之物不計其數,從未聽聞那等物歸還於原主。
とは言え、平蜘蛛を差し出して、無事に返される保証はない。信長が名物狩りで召し上げた名物は数知れず、それが持ち主に返されたという話はとんと耳にしない。
若當面拒絕,必被視為朝敵而受處罰;諷刺的是,平蜘蛛的存在反而在某種程度保護了松永的地位。
面と向かって拒絶を口にすれば、朝敵として処罰されるのは確実であり、皮肉にも平蜘蛛の存在が松永の地位を守っているという側面もあった。
此事非僅限松永,若成朝敵,則等待的是被根切──一族郎黨皆遭屠戮。就松永個人而言,絕不願放棄平蜘蛛。
これは松永に限った話ではないが、朝敵となれば一族郎党皆殺しの根切りが待っている。松永個人としては平蜘蛛を手放したくなどない。
然而,在這個時代,不可能以個人的感情做出會使一族滅亡的選擇。對松永而言,必須在最有效的時機放棄平蜘蛛,這是一項艱難的掌舵之舉。
しかし、この時代に於いて個人の感情で、一族を破滅に追いやる選択など出来ようはずもなかった。松永としては最も効果的なタイミングで平蜘蛛を手放さねばならないという、難しいかじ取りを迫られることとなる。
「嗚哇――!!」
「ひぃぃっ!!」
「一見到人就發出悲鳴,難道不懂得禮節嗎?」
「人の顔を見るなり悲鳴を上げるとは、礼がなっておらぬのではないか?」
松永在參見信長之後,本打算直接前往靜子處,卻在轉過建物角落的那一刻,遇到了他最不想見到的人。
信長に拝謁したのち、その足で静子の許へも向かおうとした松永だったが、建物の角を曲がったその先で彼が最も会いたくなかった人物と直面した。
被一雙毫無生氣的陰沈目光注視,松永有如被刀刃抵在項後,感到渾身不自在、命在旦夕般的寒意。
生気を感じさせぬ昏(くら)い視線を受け、松永は首筋に刃を押し当てられたような、生きた心地のしない状況にあった。
「也打算去向靜子問候嗎?」
「静子へも挨拶に向かう気か?」
「……深受織田大人的信任,還被朝廷委以保護藝能之任。若能得見,作為同一主君之下的臣子,想請見也是理所當然的。」
「……織田様の信任篤く、朝廷より芸事保護を任される御仁。叶うならばお目通りを願いたいと思うのは、同じ主君を仰ぐ臣下としては当然かと」
「哦哦,這是難能可貴的心意。我剛才似乎聽到『畢竟是個不諳世事的小娘,任人擺布』這話,不過應該只是我的幻聽吧?」
「ほほう、それは殊勝な心掛けよ。『所詮は世間知らずの小娘よ、如何様にも手玉に取れる』という言葉が聞こえた気がしたのだが、わしの気のせいだったのであろうな?」
聽了足滿的話,松永的表情頓時僵住。雖然冷汗直流,他仍拼命在腦中盤算。剛才那些話也不是大聲喃喃自語,就算侍從近在咫尺也未必能聽清。
足満の言葉に松永の表情が凍り付く。脂汗を垂らしながらも松永は必死に考えを巡らせる。先の言葉も決して大きな声で呟いていた訳ではない、すぐ隣に侍(はべ)っていたところで聞き取れたかすら怪しい。
然而那人竟還細緻地重複示範,令人背脊發涼,彷彿真從黃泉返生,得了惡鬼羅刹之力。
それだというにも関わらず、目の前の男は仔細に繰り返して見せた。本当にあの世から蘇(よみがえ)り、悪鬼羅刹(らせつ)の力を得ているのではないかと、背筋が寒くなった。
「喂,松永。我想你或許有些誤解。你可別以為你至今還活著是靠你的才幹吧?」
「のう、松永。わしは、貴様が何か思い違いをしているのではないかと考えておるのだ。貴様が今も命を繋いでおられるのは、貴様の才覚によるものと思ってはおるまいな?」
「不、不……絕不是那樣的……」
「い、いえ……決してそのようなことは……」
「……也罷。人心難以束縛。然而,松永。若對靜子,乃至對織田大人反抗,當心吧。到那時,你將會真正體會地獄。別以為可以輕易死去逃避──就像我曾(……)那般,我會一次又一次把你從黃泉拉回來,就算你懇求我殺了你,我也會繼續責難你。」
「……まあ良い。人の心までは縛れぬもの。しかしな、松永。静子に、ひいては織田殿に弓引くときは心せよ。その時、貴様は本当の地獄を思い知ることになろう。簡単に死んで逃げられるなどと思うなよ? わしがそうした(・・・・)ように、何度でもあの世から引き戻し、殺してくれと懇願しても尚、責め続けてくれよう」
「嗚!? 嗚嗚嗚――!!」
「ひ!? ひぃぃぃっ!!」
足滿簡直是從地獄返生的惡鬼。雖曾懷疑他非比尋常,但終於現出本性。落在他手中,縱使死去也不得安寧。
正に足満は地獄から黄泉返った悪鬼であった。尋常ではないと疑ってはいたが、遂に本性を現した。こいつの手に掛かれば、死して尚、安寧は得られぬという。
松永如此領會足滿的話後,面色頓變蒼白,匍匐似地拼命往前跑去。足滿以冷峻的目光目送他遠去,轉身回到靜子的陣中。
足満の言葉をそう受け取った松永は、顔面を蒼白に染め上げ、這うようにして一目散に駆けだしていった。冷ややかな目で松永の背を見送った足満は、踵(きびす)を返すと静子の陣へと戻った。
對松永的不幸在於,他已經將要面見靜子的先期消息傳了出去。如今他不得不前往一個等待逃亡者的地方赴會。
松永にとっての不運は、既に静子へ面会の先触れを出してしまった事にあった。逃げ出した相手が待ち構える場所へ、のこのこと赴かねばならない。
更糟的是,莫名其妙地由才蔵負責外圍警戒,致使靜子陣內由足滿的手下士兵嚴密把守。
更に悪運は重なり、何故か(・・・)才蔵が外回りの警戒を受け持ったため、静子の陣内には足満の配下の兵が警護を固めていた。
「能得見被譽為尾張名君的靜子大人,實在令人喜悅。與尾張相比,鄉野的大和雖然樸素,我等本地人卻有土地鑑(對該地區之地理、建築配置與生活習俗等熟悉。此處將『勘』視為誤用)。請儘管吩咐。」
「尾張の名君と名高き静子様にお目通りが叶い、大変喜ばしく思っておりまする。尾張と比べて鄙(ひな)びた大和ではございますが、我ら地の者には土地鑑(とちかん)(その地域に対する地理や、建物の配置、生活習慣などが身についている様。『勘』は誤用)が御座います。何なりと御用を申し付け下さい」
松永承受著四面射來、字面上如箭一般的視線,小心翼翼地以過分謙遜的問候不失禮地向靜子致意。
松永は四方から投げ掛けられる、文字通り矢のような視線に耐えつつ、静子に失礼のないよう必要以上に遜(へりくだ)った挨拶を述べた。
「感謝您對我這等年輕人的關照。因為我們對大和並不熟悉,或須借助諸位之力,屆時還望多多關照。」
「私のような若輩者にお気遣い感謝致します。我ら大和には不案内ゆえ、お力をお借りするときもありましょう。その折にはよろしくお頼み申します」
「是!雖微力,仍當盡全力相助。」
「はっ! 微力ながら全力を尽くす所存でございます」
松永按著從剛才開始劇烈疼痛的腹部,拖著腳步從靜子的陣中離開。
松永は、先ほどから激しく痛み始めた腹を手で押さえ、足を引きずるようにして静子の陣から遠ざかっていた。
這是他與傳聞中的靜子首次見面,但負有內外眾多敵人的松永一眼便看出其異質。兵力越多,眾人心思越發紛亂,難以齊心朝同一目標邁進。
噂に聞こえた静子との初の目通りであったが、内外に多くの敵を抱える松永は一目でその異質さに気が付いた。多くの兵を抱える程に、皆の思惑は千々に乱れ、一つの目標へと邁進することは難しい。
然而守護靜子的士兵們卻個個由衷崇拜靜子,若為靜子之事,顯然有捨命決心。
しかしながら、静子の陣を守っている兵たちは、皆一様に心から静子に心酔し、静子のためとあらば、その命を投げ出す覚悟が窺えた。
感覺到近乎宗教狂信的氛圍,與足滿相比,松永對靜子感到極度畏懼。
宗教的な狂信にも通じる気配を感じ取り、松永は足満と並んで静子が恐ろしくて堪らなくなった。
(天已拋棄我……殺掉自我,唯願松永家延續)
(天はわしを見放した……。己を殺し、只管(ひたすら)に松永家存続だけを願おう)
他曾刺殺的主君竟從地獄化為惡鬼復甦,且那惡鬼所護之女竟是能惑亂天下男子的傾國惡女。
かつて暗殺した主君は地獄より悪鬼となって蘇った。更にその悪鬼が守る女は、あろうことか国中の男を惑わす傾国の悪女であった。
唯一的收穫是他明白:若扼殺野心、扼殺自我,單純愚直地勤於治理,松永家或許能被饒恕。
野心を殺し、己を殺し、ただただ愚直に統治に励めば、松永家は見逃されるということが分かった事だけが収穫であった。
一時心灰意冷,他甚至想帶著織田垂涎不已的平蜘蛛一同逃至他世以報復,但依足滿之言,連那也不可能如願。
捨て鉢になって、織田が欲して止まぬ平蜘蛛もろともあの世に逃げ果(おお)せ、意趣返しをしてやろうかとも考えたが、足満の言葉によれば、それすら叶わぬことらしい。
松永嘆息自己的不幸,懊悔生錯了時代。
松永は己の不運を嘆き、生まれてくる時代を間違ったと後悔した。
親眼見到徹底憔悴的松永後,大和的豪族們對向來以較溫和治理著稱的他遭此責難,驚懼不已,戰戰兢兢地前來覲見,惶恐不安,不知將有何種遭遇。
すっかり憔悴しきった松永の姿を目の当たりにした大和の豪族たちは、比較的穏当な統治をしていると評判の松永をしてあの責められよう、どのような仕打ちが待っているのかと戦々恐々として謁見に臨むことになる。
結果上,信長不費力便使大和的有力者屈服,對此成果甚感滿意。
結果的に信長は、意図せずして労せず大和の有力者を屈服させることができ、その成果に大いに満足していた。
隔日再訪東大寺時,在大僧正的立會下削取了蘭奢待的兩處。一處為己所用,另一處則獻予正親町天皇。
日を改めて再び訪れた東大寺では、大僧正の立会の許、蘭奢待を二か所削りとった。一つは自分の物とし、もう一つは正親町天皇へと贈ることとなる。
其時信長向大僧正說明朝廷託付他保護藝事的任務,並請求為靜子提供便利,以自身名義起誓不容無法,並保證靜子的品行足以讓朝廷親自委任。
その折に信長は大僧正に朝廷より請け負った芸事保護の任を説明し、静子に便宜を図ってくれるよう願い出た。自分の名に懸けて無法はさせぬと誓い、静子の人柄についても朝廷直々に任を与えるほどであると請け負った。
因涉及政治判斷,故不在現場強求回覆,信長滿心歡喜地離開東大寺;接著在拜訪春日大社時亦保持同樣姿態,致力於爭取對靜子的理解。
政治的な判断を要する事だけに、その場での返答は求めず、信長は終始上機嫌で東大寺を後にした。続いて訪れた春日大社でも、同様の姿勢を貫き、静子に関する理解を求めることに腐心していた。